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2章 気持ちを育む

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わたしたちが婚約してから、三年の月日が経った。

ルーク様は、だんだんと明るくなって、部屋に閉じこもってることは少なくなった。
少なくとも、わたしが遊びに来ている時は、楽しそうにしている。

一緒に遊んで、最後に腕の治療をして、わたしが帰る時には、とても悲しそうな顔をするので、思わずルーク様を持ち帰りたくなる。

でも、ルーク様はデイヴィス侯爵家の嫡男で、将来英雄となることが決まっている。
わたしがおみやげに持ち帰ることはできない。



ルーク様が義兄上と慕う我がオリバーお兄様は10才の時に学園に入学し、わたしたち子爵家が住んでる王都のはずれから通えずに寮に入った。
今年、お兄様は12才になり、お姉様はもうじき10才になる。
お姉様もまた学園の寮に入ることが決まっている。


今日もわたしはルーク様のお屋敷で遊んでいた。
「ジーナ、義兄上は次の休みは帰ってくるのか?」
ルーク様のお部屋でチェスをしていたが、ルーク様はわたしが相手では退屈なようで、わたしが考え込んでいるのによそ見をしている。

う~。くやしい。
見てなさい! すぐに逆転するんだから。

「お兄様は学園生活が楽しいようで、この前の長期休暇も戻ってきませんでしたから、多分帰らないでしょうねぇ」
「ちぇっ。つまんないな。剣も上達したから見てもらいたかったのに」
ルーク様は両腕を頭の後ろで組み、椅子を後ろへそらせた。
「ルーク様も学園祭に一緒にいらっしゃればよろしいのに。秋にはまた学園祭がありますわよ」
「母上が外に出ることに、あんまりいい顔をしないからなぁ。ただでさえよく思われていないんだ。荒立てたくないしな」
こともなげに言うルーク様に胸が痛む。


わたしたちは何もできない5才の頃とは違い、少しずつ大きくなり、それに伴い周りを見ることもできるようになっていた。

ルーク様のお父様とお母様は、良くも悪くも貴族のご夫婦で、お父様は仕事をきちんとこなし、お母様は社交をこなす。
ルーク様に愛情がないわけではなさそうだったけど、もともと上位貴族は乳母が子どもを育てることが多いから、我が子爵家のような親子関係は築けない。
ましてや、ルーク様は国王様からその身を大事にするようにとお言葉を賜わっている。
きっと、どう扱っていいかわからなかったんだろう。
だからと言って、幼いルーク様に寂しい思いをさせていいわけではないけれど。


「ああん! もお、降参です。ルーク様、くやしいけどわたしの負けです」
わたしが、ぶすっとした顔で両手を上げると、ルーク様はふふんと不適な笑みをもらした。

「これでオレの全勝だな。ご褒美は何をもらおっかな」
「はいはい。なんでもいいですけど、わたしのおこずかいは少ないんですから、考慮してくださいね」
ルーク様は少し考えて、にっこり笑った。

「じゃあ、ハンカチにオレのイニシャルを刺繍して」
「ええー……。わたし、刺繍苦手ですけど」
「別に下手でもいいよ。ジーナがオレのためにってところがポイントだから。下手でいいから、しっかり愛情こめてくれよ」
「はいはい。愛情は思いっきり込めますよ。そして、ルーク様はわたしが刺繍をプレゼントする初めての人になってもらいます。下手でも持ち歩いてくださいね」
「もちろん! 大事にする」
ルーク様はお日様のように、キラキラと笑った。

「あ、そろそろ家庭教師が来るから本館に行かないと。ジーナ、次はいつ会える?」
「えーっと、今週末はお母様について茶話会に行く予定がありますから、来週になってからですかね。それよりルーク様、本館に行くなら早く治療しないと」
「え? あぁ」
ルーク様はブラウスのそでをまくる。

最近、腕につれるほどの火傷がなくなったため、ルーク様は治療のことを忘れる。
わたしとしては、早くお顔の治療に入って、早く跡を消してローゼリア様をギャフンと言わせてやりたいのに。

わたしはルーク様の腕に手をあて、魔法を流し込む。
早く、ルーク様の火傷跡が消えますように。

そして今日もいつもと同じくほんの少しだけ、火傷跡が消える。

「あーあ。もっと広く消えるようにならないかな」
わたしがぼやくとルーク様が笑う。
「何言ってるんだ。まだ8才なのにこれだけできるのはすごいってみんな言ってるぞ。オレだって、治らないと思っていたものがこうやって治っていって、本当に感謝してる」
チェス板を挟んで向かいに座っていたルーク様は、わたしの横にやってきた。
「ジーナ、オレと婚約してくれてありがとう。オレは絶対にジーナを幸せにするからな」
ルーク様は、まるで壊れ物でも包むかのように、そっとわたしを抱きしめた。
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