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3章 それぞれの道
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「何言ってんですか。ギルバート様ほどの方が振られたって言うのに、オレなんかがプロポーズできるわけがないでしょう」
「何故だ」
「何故って……。だいたい、なんでオレがプロポーズする話になってんですか……」
「だっておまえ、シャーロットのことが好きだろう?」
はあっ。
大きなため息と共に、フレッドはどっかりとソファに踏ん反り返った。
「だったらなんだってんですか」
「だからやさぐれるなって」
「……いいんですよ。オレは。このままで」
「そうか。残念だ」
「なんでギルバート様が残念がるんですか」
「娘の婿にはいい男が来てくれる方がいいだろう」
「シャーロットちゃんのお婿さんになる人は、真面目な人がいいですね」
「なんだ。フレッドは真面目にシャーロットを想っているわけではないのか」
「オレはねー。これまでの行いがねー」
「ランバラルドでの醜聞を知る者はここにはおらんだろ。知らない顔をして、押し通せ」
「そーですねー。そんなタイミングがあればねー」
他人事のように言うフレッドに、ギルバートは苦笑を浮かべる。
「おまえの気持ちはわかった。もう部屋に戻っていいぞ」
シャツに紅茶の染みを作ったフレッドは、疲れたように立ち上がり、ドアの前まで歩いて行った。
ドアノブに手を掛けたところで、動きを止める。
「ギルバート様は、本当はシャーロットちゃんのこと……」
振り返らずに言うフレッドに、ギルバートも顔を上げずに答える。
「わたしも考えてみたが、どう考えても娘だな。ぐりぐりと頭を撫でて可愛がりたいとは思う。そんな愛しさだ」
「……そうですか」
そのまま、フレッドは振り向きもせずに、部屋を出て行った。
翌朝、目の下に隈を作ったシャーロットが、満面の笑みと両手いっぱいのお菓子を抱えてギルバートの部屋を訪れた。
「~~~シャーロット!!」
「なっ、なんですか? ギルバート様」
ギルバートはこんっとシャーロットのおでこを軽く叩く。
「おまえという奴はっ! この菓子を作るのに、寝ないで作ったのだろう?」
「だって、ギルバート様が若いから徹夜くらい平気って言ったじゃないですか」
「本気にするヤツがあるか!」
ギロリとギルバートがシャーロットを睨むと、横からジュディが顔を出す。
「そおですよ! ギルバート様。姫様ってば、張り切って無理しちゃって! 叱ってやってくださいよ」
次第に、しゅーんと小さくなって行くシャーロット。
「だってぇ、ギルバートにお菓子を食べていただくの、久しぶりだったのですもの。たくさん食べていただきたかったのです……」
ふう。
ギルバートはくるりと振り返り、後ろで様子を見ていたフレッドに言う。
「このバカ娘をしっかり頼むぞ」
フレッドもくすりと笑い、ギルバートにひらひらと手を振る。
「はいはーい。お任せくださーい」
「フレッド様まで! ひどいですわ」
みんなで笑って、ギルバートを送り出した。
ギルバートはランバラルドとの間にある温泉施設に滞在してから帰国することになっており、シャーロットもアーサーと共に、施設までギルバートを送りに馬車でついて行った。
施設に入ると、シャーロットはあちこちギルバートに案内して回る。
「ギルバート様、これがジルベール陛下お気に入りの温泉まんじゅうですわ!!」
「ほほお。これが」
艶々とした茶色の薄皮に包まれた餡子を、ギルバートは興味深げに眺めてから口に入れた。
「うーむ。まったりとしてコクがあり、なんとも言えぬうまさだな」
ギルバートは満足そうに頷いた。
「ギルバート様、こちらに来てくださいませ。これはランバラルドにはございませんでしょう? 湯もみと申しまして、これをするとお湯が柔らかくなるのですわ」
シャーロットは改革をしたボナールの施設をギルバートに見てもらうのが嬉しくて、はしゃいでいた。
「こら。走るでない。転ぶぞ」
走り回っているシャーロットを微笑ましく後ろから見ている。
やっぱり、頭をぐりぐりと撫でたいような可愛さだな。
結局、わたしはシャーロットをそんな風に思っていくのだ。
「シャーロット」
ギルバートがシャーロットを呼び止める。
くるりと振り返るシャーロット。
「なんですの?」
「……前を向け。後ろには楽しかった思い出も、愛おしい思い出もあるが、来た道を帰ることはできない。前を向いて幸せになれ」
シャーロットは黙ってギルバートを見つめた。
「……はい。ギルバート様」
素直に返事をして、シャーロットは花が綻ぶように笑った。
シャーロットが一通り施設を案内し、時間も遅くなった頃、ギルバートはそろそろ温泉に入って今日は施設に泊まると言うことになり、シャーロットはそこでギルバートと別れた。
「次に会うのはライリー陛下の結婚式ですわね」
すっきりとした笑顔でシャーロットが言うと、ギルバートはからかい半分でシャーロットに言った。
「どうだかな。あいつらは王族同士だから婚約から婚姻まで一年かかるが、シャーロットが相手を見つければライリーよりも早くに結婚するかもしれないぞ」
「ふふ。おかしなギルバート様。私に相手などすぐに見つかるはずございませんわ」
「どうだかな」
ギルバートはポンポンとシャーロットの頭を撫でた。
「じゃ、シャーロット元気でな」
「はい。ギルバート様も」
そして、二人は笑顔で手を振り合った。
「何故だ」
「何故って……。だいたい、なんでオレがプロポーズする話になってんですか……」
「だっておまえ、シャーロットのことが好きだろう?」
はあっ。
大きなため息と共に、フレッドはどっかりとソファに踏ん反り返った。
「だったらなんだってんですか」
「だからやさぐれるなって」
「……いいんですよ。オレは。このままで」
「そうか。残念だ」
「なんでギルバート様が残念がるんですか」
「娘の婿にはいい男が来てくれる方がいいだろう」
「シャーロットちゃんのお婿さんになる人は、真面目な人がいいですね」
「なんだ。フレッドは真面目にシャーロットを想っているわけではないのか」
「オレはねー。これまでの行いがねー」
「ランバラルドでの醜聞を知る者はここにはおらんだろ。知らない顔をして、押し通せ」
「そーですねー。そんなタイミングがあればねー」
他人事のように言うフレッドに、ギルバートは苦笑を浮かべる。
「おまえの気持ちはわかった。もう部屋に戻っていいぞ」
シャツに紅茶の染みを作ったフレッドは、疲れたように立ち上がり、ドアの前まで歩いて行った。
ドアノブに手を掛けたところで、動きを止める。
「ギルバート様は、本当はシャーロットちゃんのこと……」
振り返らずに言うフレッドに、ギルバートも顔を上げずに答える。
「わたしも考えてみたが、どう考えても娘だな。ぐりぐりと頭を撫でて可愛がりたいとは思う。そんな愛しさだ」
「……そうですか」
そのまま、フレッドは振り向きもせずに、部屋を出て行った。
翌朝、目の下に隈を作ったシャーロットが、満面の笑みと両手いっぱいのお菓子を抱えてギルバートの部屋を訪れた。
「~~~シャーロット!!」
「なっ、なんですか? ギルバート様」
ギルバートはこんっとシャーロットのおでこを軽く叩く。
「おまえという奴はっ! この菓子を作るのに、寝ないで作ったのだろう?」
「だって、ギルバート様が若いから徹夜くらい平気って言ったじゃないですか」
「本気にするヤツがあるか!」
ギロリとギルバートがシャーロットを睨むと、横からジュディが顔を出す。
「そおですよ! ギルバート様。姫様ってば、張り切って無理しちゃって! 叱ってやってくださいよ」
次第に、しゅーんと小さくなって行くシャーロット。
「だってぇ、ギルバートにお菓子を食べていただくの、久しぶりだったのですもの。たくさん食べていただきたかったのです……」
ふう。
ギルバートはくるりと振り返り、後ろで様子を見ていたフレッドに言う。
「このバカ娘をしっかり頼むぞ」
フレッドもくすりと笑い、ギルバートにひらひらと手を振る。
「はいはーい。お任せくださーい」
「フレッド様まで! ひどいですわ」
みんなで笑って、ギルバートを送り出した。
ギルバートはランバラルドとの間にある温泉施設に滞在してから帰国することになっており、シャーロットもアーサーと共に、施設までギルバートを送りに馬車でついて行った。
施設に入ると、シャーロットはあちこちギルバートに案内して回る。
「ギルバート様、これがジルベール陛下お気に入りの温泉まんじゅうですわ!!」
「ほほお。これが」
艶々とした茶色の薄皮に包まれた餡子を、ギルバートは興味深げに眺めてから口に入れた。
「うーむ。まったりとしてコクがあり、なんとも言えぬうまさだな」
ギルバートは満足そうに頷いた。
「ギルバート様、こちらに来てくださいませ。これはランバラルドにはございませんでしょう? 湯もみと申しまして、これをするとお湯が柔らかくなるのですわ」
シャーロットは改革をしたボナールの施設をギルバートに見てもらうのが嬉しくて、はしゃいでいた。
「こら。走るでない。転ぶぞ」
走り回っているシャーロットを微笑ましく後ろから見ている。
やっぱり、頭をぐりぐりと撫でたいような可愛さだな。
結局、わたしはシャーロットをそんな風に思っていくのだ。
「シャーロット」
ギルバートがシャーロットを呼び止める。
くるりと振り返るシャーロット。
「なんですの?」
「……前を向け。後ろには楽しかった思い出も、愛おしい思い出もあるが、来た道を帰ることはできない。前を向いて幸せになれ」
シャーロットは黙ってギルバートを見つめた。
「……はい。ギルバート様」
素直に返事をして、シャーロットは花が綻ぶように笑った。
シャーロットが一通り施設を案内し、時間も遅くなった頃、ギルバートはそろそろ温泉に入って今日は施設に泊まると言うことになり、シャーロットはそこでギルバートと別れた。
「次に会うのはライリー陛下の結婚式ですわね」
すっきりとした笑顔でシャーロットが言うと、ギルバートはからかい半分でシャーロットに言った。
「どうだかな。あいつらは王族同士だから婚約から婚姻まで一年かかるが、シャーロットが相手を見つければライリーよりも早くに結婚するかもしれないぞ」
「ふふ。おかしなギルバート様。私に相手などすぐに見つかるはずございませんわ」
「どうだかな」
ギルバートはポンポンとシャーロットの頭を撫でた。
「じゃ、シャーロット元気でな」
「はい。ギルバート様も」
そして、二人は笑顔で手を振り合った。
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