フレッド様の人質姫

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
7 / 31
1章 人質姫が人質でなくなってから

6

しおりを挟む
「どうぞ、お口に合えばいいのですが、お召し上がりになって」

シャーロットがエドワードに勧めると、エドワードは微笑んだ。
「ありがとうございます。ところで、少しお話が聞こえてしまったのですが、シャーロット陛下のケーキというのは、シャーロット陛下に取ってあった特別なケーキではないのですか? わたしなどがいただいてもよいのですか?」
エドワードは遠慮をして、ケーキには手をつけなかった。

「いえ、そういうものではなくて……。申し訳ありません。実は、私が作ったケーキなのです。プロが作ったものではないので、無理に召し上がっていただかなくても……。あ、そうだわ、ちゃんとした料理長のケーキとお取り替えいたしますわね。私ってば、気が利かなくて失礼しました!」
シャーロットが慌てて席を立とうとすると、エドワードがシャーロットの手を掴んで、それを止めた。
「そういうことでしたら、遠慮なくいただきます」
「あの……、素人の作ったものでもよろしいのですか?」
「あなたが作ったものなら、例えお腹を壊しても本望ですよ」
「まあっ! 失礼ですわ。お腹なんて壊しませんわよ?」

シャーロットが大袈裟に頬を膨らますと、二人は一緒に笑い出した。
「ははっ、女王様だというので、遠い存在だと思っていましたが、あなたは可愛らしい人だ」
「ふふっ、お世辞を言ってもケーキしか出ませんわよ? どうぞ、お召し上がりになってくださいませ」

エドワードはシフォンケーキをフォークで切り、一切れ口へ運んだ。
「これは……! 美味しいですね。ふんわりと紅茶の香りがしてクリームも甘過ぎず、とても合う」
「お褒めいただき光栄ですわ。シフォンケーキの生地に紅茶の葉を練り込んでありますの。男性でも食べられるように、クリームは甘さ控え目にしてありますのよ」

エドワードは満足そうにケーキを飲み込み、紅茶も口にする。
「こんなケーキを毎日食べられるフレッド殿が羨ましい」
「お上手ですこと。フレッド様は甘いものはあまり得意ではないのですが、お疲れになった時はお菓子を欲するようで。私の拙いお菓子を食べてくださるのです」

紅茶をもう一口飲み下し、エドワードはシャーロットに笑みを向けた。
「実は、女王様だから、遠い存在だと思っていたんですよ。講義をするにしてもどうやって聴いていただこうかと。でも、こんなに身近に感じられて、こんなに親しみ易い女王様でよかったと思っています」
「あら、私、親しみ易いですか?」
「ええ。普通の女王様は、自らケーキなんて焼きません。侍女が失敗したら怒ります。わたしがこの国の貴族なら、あなたのようや女王になら、どこまででもついて行こうと思いますね」
「ふふ。ありがとうございます」

二人がのんびりとお茶を飲んでいるところに、フレッドがやってきた。
「あれ? なんでドアが開けっ放しで……。これはエドワード殿、どうされましたか?」
フレッドはドアを大きく開けてエドワードの存在を認めると、作り笑いを浮かべた。
「このようなところでお茶など飲まなくても、お部屋に運ばせますよ」

エドワードは残った紅茶をくいっと飲み干す。
「いえ、もう充分にいただきました。シャーロット陛下、ごちそうさまでした。では、これで部屋に戻ります」
フレッドにそう言った後、立ち上がりシャーロットの側まで行くと跪き、手の甲にキスを落とす。

顔を上げてシャーロットを熱を帯びた瞳で見つめるエドワードは、囚われの姫を命がけで護る騎士が絵本から飛び出してきたかのようだった。
名残惜しそうに手を離し、エドワードは執務室を出て行く。

フレッドはエドワードが執務室を出て行ってすぐに、執務室のドアを閉めた。
エドワードが戻ってきても入れないように、ぴっちりと。



*****************



週末2回更新します。
よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメンの偽彼氏

詩織
恋愛
先輩たちに目をつけられ、我慢の日々そしてとうとう私は…

我が家の会話を全て厨二病全開にしてみた結果

海林檎
恋愛
父親の一言で負けじと厨二病全開で会話してみた。 内容は本編で ジャンルが謎なので目がついたものにしてます

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...