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20章 虹の国の後継者
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「マリー、どういうことなの?」
お母様が入れ替わった証拠があると、お母様が生きていた証拠があると、そういうことなの?
マリーは私に優しく微笑む。
「姫様、今まで黙っていて申し訳ありませんでした。姫様の母上のご遺体は、こちらの大神殿にてお眠りいただいております。それが、わたくしが秘せねばならなかった真実にございます」
お母様のご遺体がここに?
ディリオン様が腕を組み、納得したような口調で言う。
「おかしいと思ったのだ。いくら大きな火事だったとはいえ、骨も見つからないくらい焼き尽くすのは無理がある。どんなに高温で焼いても、通常の炎であれば骨は焼けずに残るはずだからな」
「遺体を引き取って、秘密裏にここに隠したんだね……」
フレッド様もディリオン様に続き、声を出す。
ライリー殿下が神官長に問う。
「何故、遺体がここにあることが血の誓約をせねばならないほどの秘密なのだ?」
「それは、ご遺体についている、ある物が王位継承の証だからです。これから、確認をしていただきましょう」
神官長様はそういうと、もう1人の神官様に合図を送った。
神官様は立ち上がり、私たちの後ろにあった本棚へと近付き、何冊か本を取り出すとその奥に隠してあったレバーを押した。
すると、本棚が移動し、地下へと続く階段が現れた。
「こちらは王族の方々の安置所です。墓が暴かれることのないように、大神殿の最奥に安置所が作られています」
燭台を持った神官長様に先導され、地下へと歩みを進める。
ひんやりとした空気に、身が引き締まる。
階段の一番下まで来ると、神官長様は安置所にある燭台に火を灯した。
室内が明るくなり、部屋の全貌が見える。
赤い絨毯が敷かれたその部屋には、いくつもの棺が置かれており、棺の上にはその王が使っていたであろう王冠が置かれていた。
その中で、2つだけ王冠の置かれていない棺があった。
「こちらがコルビー陛下と王妃エレノア様の棺でございます。今までコルビー陛下の王冠は弟のコルビー様がお使いになられていたので、こちらにお納めすることができなかったのです。もう退位をされて、ちょうどこの大神殿に王冠が戻ってきたところでした。お納めいたしましょう」
神官長様が神官様に目配せをすると、神官様は抱えていた箱の中から王冠を取り出して神官長様に渡した。
神官長様は棺に王冠を納め、祈りを捧げた。
神官様が、もう一つの箱を開けようとしたけれど、神官長様は「こちらの棺は開けなければならないので、その後で」と言って、もう一つの方は受け取らなかった。
「16年前、離れに火を放たれ、すべてを焼き尽くした時に、マリー殿はシャーロット殿下を抱いて、この大神殿に駆け込んだのです。マリー殿とシャーロット様は安全が確認できるまで、この大神殿に居ていただきました。そして、わたしとそこの神官と、もう1人、今はもう病気で逝ってしまった神官の3人で焼け跡の離れに行き、誰にも見つからないうちに、秘密裏にご遺体をここにお運びしたのです」
王冠のない、もう一つの棺の前に来て、神官長様は祈りを捧げた。
「眠りを妨げること、お許しください」
そう言って、棺に手をかける。
「手伝おう」
ライリー殿下が年老いた神官長様を手伝い、2人で棺の蓋を開けた。
「これは……!」
棺の中を見た2人が、驚いたような声を上げる。
私たちも急いで近寄り、棺の中を確かめた。
棺の中で眠っていたお母様は、16年前の遺体であるならば、骨だけが残っているという状態のはずだった。
私も、初めてお見かけするお母様はそんな状態だと思っていたのに、棺の中のお母様は、美しい金髪はそのまま艶々としており、お顔にも生前の美しさが窺えるようなお姿だった。
まだ生きていて、ただ目をつぶっているだけと言われても信じてしまいそうな、そんなお姿だった。
「神官長殿っ、これは16年前にご逝去された人間の遺体ではなかろう。焼け爛れたあともない。棺を間違えたのではないか?」
ディリオン様が神官長様に詰め寄る。
「いえ、こちらの棺で間違いありません。この、16年の間にお亡くなりになられたのはこのお二人だけです。ここは、16年間、一度も扉を開けられていない部屋です」
「では、一体……」
みんなで茫然と棺を見ていると、マリーが一歩棺に近寄った。
「お妃様は、初めて愛娘に会うのに、お骨の姿ではお嫌だったのですよ。それでいいじゃありませんか。エレノア様、あなた様の娘のシャーロット様がいらしてますよ。こんなに立派にお育ちになられました。国のことをお考えくださる、とてもいい国王様におなりですよ」
マリーはポロポロと涙を流しながら、お母様のご遺体に話しかけた。
その様子を見て、神官長様が口を開く。
「おそらく、これは虹の力だと思います。真実を白日の元に晒すために、虹がエレノア様をシャーロット様に合わせるために、このようにしたのではないかと思います。この肉体が、エレノア様のものだと示すために」
その姿を見て、私の瞳からも、後から後から涙が溢れてきて止まらなかった。
私も棺の中のお母様の側に寄る。
「お母様、お母様がお亡くなりになられたこと、知らずにいてごめんなさい。お母様、私を産んでくれてありがとう。私を最期まで大事に守ってくれて、本当にありがとう」
私は初めて、本当のお母様に声を掛けることができた。
私が声を掛けたその瞬間、お母様の指につけられていた指輪が、眩いばかりの光を放った。
それは、虹のように七色に光り輝いて見えた。
お母様が入れ替わった証拠があると、お母様が生きていた証拠があると、そういうことなの?
マリーは私に優しく微笑む。
「姫様、今まで黙っていて申し訳ありませんでした。姫様の母上のご遺体は、こちらの大神殿にてお眠りいただいております。それが、わたくしが秘せねばならなかった真実にございます」
お母様のご遺体がここに?
ディリオン様が腕を組み、納得したような口調で言う。
「おかしいと思ったのだ。いくら大きな火事だったとはいえ、骨も見つからないくらい焼き尽くすのは無理がある。どんなに高温で焼いても、通常の炎であれば骨は焼けずに残るはずだからな」
「遺体を引き取って、秘密裏にここに隠したんだね……」
フレッド様もディリオン様に続き、声を出す。
ライリー殿下が神官長に問う。
「何故、遺体がここにあることが血の誓約をせねばならないほどの秘密なのだ?」
「それは、ご遺体についている、ある物が王位継承の証だからです。これから、確認をしていただきましょう」
神官長様はそういうと、もう1人の神官様に合図を送った。
神官様は立ち上がり、私たちの後ろにあった本棚へと近付き、何冊か本を取り出すとその奥に隠してあったレバーを押した。
すると、本棚が移動し、地下へと続く階段が現れた。
「こちらは王族の方々の安置所です。墓が暴かれることのないように、大神殿の最奥に安置所が作られています」
燭台を持った神官長様に先導され、地下へと歩みを進める。
ひんやりとした空気に、身が引き締まる。
階段の一番下まで来ると、神官長様は安置所にある燭台に火を灯した。
室内が明るくなり、部屋の全貌が見える。
赤い絨毯が敷かれたその部屋には、いくつもの棺が置かれており、棺の上にはその王が使っていたであろう王冠が置かれていた。
その中で、2つだけ王冠の置かれていない棺があった。
「こちらがコルビー陛下と王妃エレノア様の棺でございます。今までコルビー陛下の王冠は弟のコルビー様がお使いになられていたので、こちらにお納めすることができなかったのです。もう退位をされて、ちょうどこの大神殿に王冠が戻ってきたところでした。お納めいたしましょう」
神官長様が神官様に目配せをすると、神官様は抱えていた箱の中から王冠を取り出して神官長様に渡した。
神官長様は棺に王冠を納め、祈りを捧げた。
神官様が、もう一つの箱を開けようとしたけれど、神官長様は「こちらの棺は開けなければならないので、その後で」と言って、もう一つの方は受け取らなかった。
「16年前、離れに火を放たれ、すべてを焼き尽くした時に、マリー殿はシャーロット殿下を抱いて、この大神殿に駆け込んだのです。マリー殿とシャーロット様は安全が確認できるまで、この大神殿に居ていただきました。そして、わたしとそこの神官と、もう1人、今はもう病気で逝ってしまった神官の3人で焼け跡の離れに行き、誰にも見つからないうちに、秘密裏にご遺体をここにお運びしたのです」
王冠のない、もう一つの棺の前に来て、神官長様は祈りを捧げた。
「眠りを妨げること、お許しください」
そう言って、棺に手をかける。
「手伝おう」
ライリー殿下が年老いた神官長様を手伝い、2人で棺の蓋を開けた。
「これは……!」
棺の中を見た2人が、驚いたような声を上げる。
私たちも急いで近寄り、棺の中を確かめた。
棺の中で眠っていたお母様は、16年前の遺体であるならば、骨だけが残っているという状態のはずだった。
私も、初めてお見かけするお母様はそんな状態だと思っていたのに、棺の中のお母様は、美しい金髪はそのまま艶々としており、お顔にも生前の美しさが窺えるようなお姿だった。
まだ生きていて、ただ目をつぶっているだけと言われても信じてしまいそうな、そんなお姿だった。
「神官長殿っ、これは16年前にご逝去された人間の遺体ではなかろう。焼け爛れたあともない。棺を間違えたのではないか?」
ディリオン様が神官長様に詰め寄る。
「いえ、こちらの棺で間違いありません。この、16年の間にお亡くなりになられたのはこのお二人だけです。ここは、16年間、一度も扉を開けられていない部屋です」
「では、一体……」
みんなで茫然と棺を見ていると、マリーが一歩棺に近寄った。
「お妃様は、初めて愛娘に会うのに、お骨の姿ではお嫌だったのですよ。それでいいじゃありませんか。エレノア様、あなた様の娘のシャーロット様がいらしてますよ。こんなに立派にお育ちになられました。国のことをお考えくださる、とてもいい国王様におなりですよ」
マリーはポロポロと涙を流しながら、お母様のご遺体に話しかけた。
その様子を見て、神官長様が口を開く。
「おそらく、これは虹の力だと思います。真実を白日の元に晒すために、虹がエレノア様をシャーロット様に合わせるために、このようにしたのではないかと思います。この肉体が、エレノア様のものだと示すために」
その姿を見て、私の瞳からも、後から後から涙が溢れてきて止まらなかった。
私も棺の中のお母様の側に寄る。
「お母様、お母様がお亡くなりになられたこと、知らずにいてごめんなさい。お母様、私を産んでくれてありがとう。私を最期まで大事に守ってくれて、本当にありがとう」
私は初めて、本当のお母様に声を掛けることができた。
私が声を掛けたその瞬間、お母様の指につけられていた指輪が、眩いばかりの光を放った。
それは、虹のように七色に光り輝いて見えた。
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