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15章 ボナールの王女
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午前中のティータイム。
オレとギルバートは、セリーヌ王女を招いてガゼボでお茶を飲んでいた。
ガゼボには、お互いの護衛が遠巻きにオレ達を見ているが、テーブルに付いているのは3人だけ。
「ギルバート様、昨日はありがとうございました。お風呂、とても素敵でしたわ。ご用意いただいた香油も、とても上等なもので。おかげで肌がツルツルですのよ。触ってご覧になります?」
胸の開いたドレスで腕を差し出し、妖艶に微笑む。
「いや、結構。気に入ってもらえたのならそれでいい」
ギルバートは嫌悪感が隠し切れていないが、仕方あるまい。
「まあ、つまらないこと。ライリー殿下はいかがです?」
「いや、オレも結構。ところで、今後の日程ですが」
今後、と言った途端、セリーヌ王女は満面の笑みを浮かべた。
「わたくしと王太子の結婚のスケジュールですわね?」
……なんでそうなるんだ。
「いや、セリーヌ王女。オレはあなたと結婚するつもりはない」
「何故ですの? わたくしを娶れば、国の安定は約束されたものになりますのに」
「そもそも、オレは虹の乙女等というものは信じていない。現に、ここ最近のボナールの気候は、あなたが国に居るというのに、今までなく不安定だ」
実際のところ、干ばつや災害などは起こっていないが、雨量が足りなくなっていたり、日照時間が少なくなっていたりと、作物の収穫に多少なりとも影響があるようだ。
まあ、今までが恵まれすぎていたのだから、これくらいは普通であるが。
セリーヌ王女はため息をついた。
「それを置いておいても、ボナールからの人質は必要なのでございましょう? でしたら、シャーロットよりも王位継承権一位のわたくしの方がよろしいのではなくて?」
その問いをギルバートが却下する。
「本当にそうであってもシャーロットと入れ替える必要はないと思うが?」
「どういう意味ですの?」
「いえ、今のままでいいというだけのことです」
「ライリー殿下はいかがです? シャーロットのように痩せこけて胸も薄い、髪まで染めて厚く化粧をする娘より、わたくしの方がよろしいのではないかしら」
腕を寄せて胸を強調する。
思わず視線がそちらに動きそうになるが、グッと堪える。
ギルバートの様子を伺うと、ギルバートも同じようだ。
ギルバート、お前も男だったんだな。
「いえ、容姿の問題ではありません。人質を変えることに意味がないので、このままで結構です」
ふぅ、とセリーヌ王女はため息をついた。
「頑ななんですのね。ところで、ギルバート様はおいくつですの?」
急に話題を振られてギルバートは目を見開きつつも、答えた。
「16ですが」
「あら、わたくしと同じ歳ですのね。ギルバート様には婚約者はいらっしゃるの?」
オレがダメならギルバートというわけか。
セリーヌ王女の意図が透けて見えたためか、ギルバートは平然と嘘をついた。
「ええ。もちろんおりますよ。心優しい婚約者が」
「では、昨日いらしたフレッド様やディリオン様は?」
ギルバートはにっこり笑う。
「みんな18を過ぎています。高位貴族に婚約者がいないなどと、思えるのが不思議ですが?」
それを聞いてセリーヌ王女はつまらなそうに紅茶に口を付けた。
「それもそうですわね」
「それで、今後の予定ですが、」
オレの言葉にセリーヌ王女が被せてくる。
「待って、ただ帰国するのではつまらないですから、ライリー殿下から他国に繋いでくださらないかしら? せっかくボナールを出て来たのですもの。旅行をしてから帰りたいわ」
オレたちがダメだから他国の王子を引っ掛けようという腹か。
「申し訳ないが、どこの国も今はランバラルドに多かれ少なかれ王族やそれに準ずる子息子女が滞在している。侍従や侍女も来ている中で、ボナールの王女であるあなたを紹介して滞在を頼むことはできない」
「それもそうね。今、他国に行っても御子息達はそこにはいないものね。では、その方たちが帰国されるまで、ランバラルドで待たせてもらえないかしら」
あぁ言えばこう言う……。
もう、他に方法がなければ強制送還するか。
セリーヌ王女が連れて来た護衛の数を考えていると、ギルバートがセリーヌ王女に話しかけた。
「ボナールでもそうだと思いますが、国境の山の麓が温泉が湧き出ますよね。我がランバラルドではそこに王族専用の施設を作っています。王族か、王族に招待された者しか入れない特別なところです。そちらへご滞在されてからお帰りになられてはいかがですか? 国境も近いですし」
「でも、」
「いい泉質ですから、肌も綺麗になりますよ。セリーヌ王女が、一層お美しくなられるかと」
「そう? では、そうしようかしら」
やっと、セリーヌ王女が笑みを見せる。
よし、話は終わった。
後はこの場を切り上げて、とっとと城から王女を出す算段を考えて。
オレは笑顔で話を聞きながら、頭の中ではそんなことを考えていた。
「ところで、ギルバート様、ライリー殿下。シャーロットはどこにいるのかしら? わたくし、シャーロットと話をしたいと思って、昨日からランバラルドのお城の方々に、シャーロットの部屋を聞いているのですが、誰も知らないっておっしゃるの」
それはそうだろう。
オレだって昨日まで知らなかった。
「まるで、本当はシャーロットはライリー殿下の側室ではないみたいに、誰も知らなかったのよ」
オレとギルバートは、セリーヌ王女を招いてガゼボでお茶を飲んでいた。
ガゼボには、お互いの護衛が遠巻きにオレ達を見ているが、テーブルに付いているのは3人だけ。
「ギルバート様、昨日はありがとうございました。お風呂、とても素敵でしたわ。ご用意いただいた香油も、とても上等なもので。おかげで肌がツルツルですのよ。触ってご覧になります?」
胸の開いたドレスで腕を差し出し、妖艶に微笑む。
「いや、結構。気に入ってもらえたのならそれでいい」
ギルバートは嫌悪感が隠し切れていないが、仕方あるまい。
「まあ、つまらないこと。ライリー殿下はいかがです?」
「いや、オレも結構。ところで、今後の日程ですが」
今後、と言った途端、セリーヌ王女は満面の笑みを浮かべた。
「わたくしと王太子の結婚のスケジュールですわね?」
……なんでそうなるんだ。
「いや、セリーヌ王女。オレはあなたと結婚するつもりはない」
「何故ですの? わたくしを娶れば、国の安定は約束されたものになりますのに」
「そもそも、オレは虹の乙女等というものは信じていない。現に、ここ最近のボナールの気候は、あなたが国に居るというのに、今までなく不安定だ」
実際のところ、干ばつや災害などは起こっていないが、雨量が足りなくなっていたり、日照時間が少なくなっていたりと、作物の収穫に多少なりとも影響があるようだ。
まあ、今までが恵まれすぎていたのだから、これくらいは普通であるが。
セリーヌ王女はため息をついた。
「それを置いておいても、ボナールからの人質は必要なのでございましょう? でしたら、シャーロットよりも王位継承権一位のわたくしの方がよろしいのではなくて?」
その問いをギルバートが却下する。
「本当にそうであってもシャーロットと入れ替える必要はないと思うが?」
「どういう意味ですの?」
「いえ、今のままでいいというだけのことです」
「ライリー殿下はいかがです? シャーロットのように痩せこけて胸も薄い、髪まで染めて厚く化粧をする娘より、わたくしの方がよろしいのではないかしら」
腕を寄せて胸を強調する。
思わず視線がそちらに動きそうになるが、グッと堪える。
ギルバートの様子を伺うと、ギルバートも同じようだ。
ギルバート、お前も男だったんだな。
「いえ、容姿の問題ではありません。人質を変えることに意味がないので、このままで結構です」
ふぅ、とセリーヌ王女はため息をついた。
「頑ななんですのね。ところで、ギルバート様はおいくつですの?」
急に話題を振られてギルバートは目を見開きつつも、答えた。
「16ですが」
「あら、わたくしと同じ歳ですのね。ギルバート様には婚約者はいらっしゃるの?」
オレがダメならギルバートというわけか。
セリーヌ王女の意図が透けて見えたためか、ギルバートは平然と嘘をついた。
「ええ。もちろんおりますよ。心優しい婚約者が」
「では、昨日いらしたフレッド様やディリオン様は?」
ギルバートはにっこり笑う。
「みんな18を過ぎています。高位貴族に婚約者がいないなどと、思えるのが不思議ですが?」
それを聞いてセリーヌ王女はつまらなそうに紅茶に口を付けた。
「それもそうですわね」
「それで、今後の予定ですが、」
オレの言葉にセリーヌ王女が被せてくる。
「待って、ただ帰国するのではつまらないですから、ライリー殿下から他国に繋いでくださらないかしら? せっかくボナールを出て来たのですもの。旅行をしてから帰りたいわ」
オレたちがダメだから他国の王子を引っ掛けようという腹か。
「申し訳ないが、どこの国も今はランバラルドに多かれ少なかれ王族やそれに準ずる子息子女が滞在している。侍従や侍女も来ている中で、ボナールの王女であるあなたを紹介して滞在を頼むことはできない」
「それもそうね。今、他国に行っても御子息達はそこにはいないものね。では、その方たちが帰国されるまで、ランバラルドで待たせてもらえないかしら」
あぁ言えばこう言う……。
もう、他に方法がなければ強制送還するか。
セリーヌ王女が連れて来た護衛の数を考えていると、ギルバートがセリーヌ王女に話しかけた。
「ボナールでもそうだと思いますが、国境の山の麓が温泉が湧き出ますよね。我がランバラルドではそこに王族専用の施設を作っています。王族か、王族に招待された者しか入れない特別なところです。そちらへご滞在されてからお帰りになられてはいかがですか? 国境も近いですし」
「でも、」
「いい泉質ですから、肌も綺麗になりますよ。セリーヌ王女が、一層お美しくなられるかと」
「そう? では、そうしようかしら」
やっと、セリーヌ王女が笑みを見せる。
よし、話は終わった。
後はこの場を切り上げて、とっとと城から王女を出す算段を考えて。
オレは笑顔で話を聞きながら、頭の中ではそんなことを考えていた。
「ところで、ギルバート様、ライリー殿下。シャーロットはどこにいるのかしら? わたくし、シャーロットと話をしたいと思って、昨日からランバラルドのお城の方々に、シャーロットの部屋を聞いているのですが、誰も知らないっておっしゃるの」
それはそうだろう。
オレだって昨日まで知らなかった。
「まるで、本当はシャーロットはライリー殿下の側室ではないみたいに、誰も知らなかったのよ」
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