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3章 旅立ち
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私、シャーロットは突然のことに、全てを理解できずにいた。
敗戦が決まり、賠償金の話し合いをしにランバラルドの王太子が城を訪れた。
そこまではわかる。
捕虜として捕まっているアーサーや他の国民を解放するためには、代償を払わねばならない。
そもそも、戦争を仕掛けたのはボナール王国だ。
ランバラルドが賠償金を提示した後、お父様は私をランバラルドに賠償金代わりに支払うと言ったのだ。
人身御供に差し出される私に、ランバラルドの王太子一行の方が同情的だった。
私の味方のはずの、ボナールの宰相やお母様お姉様は何も言わず、お父様に至っては厄介者が始末できて、その上賠償金も減額してもらえることに、喜びを隠しきれないご様子だった。
また、私は売られたのだ。
60歳のおじいちゃんや変態に売られるよりは、ランバラルドの王太子に売られる方がマシかもしれないけど。
これで、塔の上の生活ともお別れだ。
お父様お母様にも構われず、寂しい思いもしたけれど、マリーやジュディと共に生活してこられたことは、とても幸せだった。
アーサーを取り戻すためにも、私はランバラルドへ行かなければならない。
この身がランバラルドに譲渡されるのが決まった時、王太子達の前で泣いてしまったが、大丈夫。もう涙は乾いた。
ジュディが待っているから、急いで戻らねば。
すでに王太子達は応接室を退室している。
私も早くジュディと共に塔の上に戻りたい。
お母様、お姉様と3人並んでソファに座っていたけれど、お母様は調印が済むとさっさと自分の部屋へと帰ってしまった。
人身御供にされる娘にかける言葉すらないらしい。
お父様も今後のことを宰相と打ち合わせるべく執務室へ移動し、残るは私とお姉様だけ。
「シャーロット、元気でね。会えなくなるのは悲しいけれど、どちらにせよ嫁ぐ予定だったのだから、あまり変わらないわよ」
ニコニコと私の両手を自分の両手で覆い、握り締めた。
この人は…。
諦めたはずなのに。
お姉様に限らず、お父様お母様にも家族の愛情を求めることは諦めたはずなのに、胸が痛い。
「そうですわね。きっと、どこに嫁いでも同じですわ」
私はどこに行っても愛されない。
「お姉様、ジュディが待っているので失礼します。…どうぞ、お元気で」
お姉様の手をほどき、ソファから立ち上がる。少しフラフラするけれど、泣いてしまったせいだろう。
控え室で待つ、ジュディを従えて塔の上に戻った。
部屋に入ると、マリーがぼんやりとした様子で隅にある椅子に座って窓の外を眺めていた。
私に気付くと慌てた様子で立ち上がろうとするから、「私も疲れているからしばらく休みましょう」と、マリーを椅子に押し留める。
マリー、アーサーは必ず助けるからね。
そのために、ランバラルドへ行くのだと思えば、元気も出てくる。
「マリー、ジュディ、私、ランバラルドへ行くことになったの」
疲れて自分の部屋のソファに腰掛けて、アームににもたれ掛かりながら二人に告げた。
ジュディは用意してくれた紅茶を私の前に置きながら、マリーは椅子に座ったままで私を見た。
「視察、とかですか?」
「いいえ。人質よ」
血色の良かった頬が青ざめる。
「姫様っ!どういうことですか!?」
マリーは立ち上がり私に駆け寄り、ジュディもお盆を両腕に抱えて、私の目の前に膝をついた。
そこで、私は昼間の出来事を二人に話した。
七色の乙女と偽られ、他国へ人身御供として差し出されるのだと。
王太子は最初は七色の乙女についてご興味がありそうだったが、最終的に私がランバラルドに行くことは不本意なようだった。
まあ、結局、偽物なわけだし。
「そんなっ!今まで表に出さなかったくせに、こんな時だけシャーロット様を頼るなんて!」
はらはらと、さっきの私に負けないくらい涙を流すジュディを抱きしめ、背中をトントンと叩く。
「大丈夫よ、ジュディ。ここでもほとんどいないものとして扱われてきたのだから。どこに行っても変わらないわ」
そう。
お姉様の言うように、あまり変わらないわよ。
マリーは真剣な目で私を見つめ、私の手を握った。
「姫様、手配はわたしがします。ランバラルドに連れて行かれる前に、ここから逃げ出しましょう」
敗戦が決まり、賠償金の話し合いをしにランバラルドの王太子が城を訪れた。
そこまではわかる。
捕虜として捕まっているアーサーや他の国民を解放するためには、代償を払わねばならない。
そもそも、戦争を仕掛けたのはボナール王国だ。
ランバラルドが賠償金を提示した後、お父様は私をランバラルドに賠償金代わりに支払うと言ったのだ。
人身御供に差し出される私に、ランバラルドの王太子一行の方が同情的だった。
私の味方のはずの、ボナールの宰相やお母様お姉様は何も言わず、お父様に至っては厄介者が始末できて、その上賠償金も減額してもらえることに、喜びを隠しきれないご様子だった。
また、私は売られたのだ。
60歳のおじいちゃんや変態に売られるよりは、ランバラルドの王太子に売られる方がマシかもしれないけど。
これで、塔の上の生活ともお別れだ。
お父様お母様にも構われず、寂しい思いもしたけれど、マリーやジュディと共に生活してこられたことは、とても幸せだった。
アーサーを取り戻すためにも、私はランバラルドへ行かなければならない。
この身がランバラルドに譲渡されるのが決まった時、王太子達の前で泣いてしまったが、大丈夫。もう涙は乾いた。
ジュディが待っているから、急いで戻らねば。
すでに王太子達は応接室を退室している。
私も早くジュディと共に塔の上に戻りたい。
お母様、お姉様と3人並んでソファに座っていたけれど、お母様は調印が済むとさっさと自分の部屋へと帰ってしまった。
人身御供にされる娘にかける言葉すらないらしい。
お父様も今後のことを宰相と打ち合わせるべく執務室へ移動し、残るは私とお姉様だけ。
「シャーロット、元気でね。会えなくなるのは悲しいけれど、どちらにせよ嫁ぐ予定だったのだから、あまり変わらないわよ」
ニコニコと私の両手を自分の両手で覆い、握り締めた。
この人は…。
諦めたはずなのに。
お姉様に限らず、お父様お母様にも家族の愛情を求めることは諦めたはずなのに、胸が痛い。
「そうですわね。きっと、どこに嫁いでも同じですわ」
私はどこに行っても愛されない。
「お姉様、ジュディが待っているので失礼します。…どうぞ、お元気で」
お姉様の手をほどき、ソファから立ち上がる。少しフラフラするけれど、泣いてしまったせいだろう。
控え室で待つ、ジュディを従えて塔の上に戻った。
部屋に入ると、マリーがぼんやりとした様子で隅にある椅子に座って窓の外を眺めていた。
私に気付くと慌てた様子で立ち上がろうとするから、「私も疲れているからしばらく休みましょう」と、マリーを椅子に押し留める。
マリー、アーサーは必ず助けるからね。
そのために、ランバラルドへ行くのだと思えば、元気も出てくる。
「マリー、ジュディ、私、ランバラルドへ行くことになったの」
疲れて自分の部屋のソファに腰掛けて、アームににもたれ掛かりながら二人に告げた。
ジュディは用意してくれた紅茶を私の前に置きながら、マリーは椅子に座ったままで私を見た。
「視察、とかですか?」
「いいえ。人質よ」
血色の良かった頬が青ざめる。
「姫様っ!どういうことですか!?」
マリーは立ち上がり私に駆け寄り、ジュディもお盆を両腕に抱えて、私の目の前に膝をついた。
そこで、私は昼間の出来事を二人に話した。
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「大丈夫よ、ジュディ。ここでもほとんどいないものとして扱われてきたのだから。どこに行っても変わらないわ」
そう。
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