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2章 ちょこまかする王子
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「王子。王子、起きてください」
農村地まで行ったオレは、どうやら疲れて眠ってしまっていたようだ。
「悪い。ディリオン。みんなもご苦労であった。あちらの対応はどんな感じだったか?」
ベッドから身を起こし、近くの椅子に座り直す。
「まあ、なんというか…」
フレッドの歯切れの悪い返事。
「それよりも見てくれよ~。汗をかいて染め粉が肩に落ちてきて焦ったぜ。ディリオンが早く切り上げるようにしてくれたからよかったが。もう金輪際、お前の影武者なんかやらないからな!」
髪を黒く染めていた染料が、汗で落ちてしまったのか…
文句タラタラなコンラッドに着替えを持たせて、同じく鎧で汗をかいていたジェイミーと共に宿屋の共同浴場に行かせた。
「で、フレッド、調印できたのか?」
フレッドは頭に手をやり、げんなりとした表情で話し始めた。
「一旦、保留にしてきた。財政状況がいくらなんでも酷すぎる。なんなんだ、あそこの王は。いくら自分がいる場所から遠いところでやっている戦争だからって、戦争中にパーティ三昧とかありえないだろう!うちは元々、ボナールに攻め込む気がなかったから、戦地は国境付近が多かったけど、普通に考えたら兵士達の働きを思って自粛するもんだろうが!」
「そんなにひどいのか?」
「ひどいな。城の金庫はほぼ空だ。おそらく、うちに勝ったらうちから支援させるつもりでいたんだろう。戦争やるには金がかかるもんだが、元手はほぼディデアから搾り取って出させている。安易に戦争するわけだよ。ボナールの腹は痛くないもんな」
ボナールから自治権を取り上げるべきだろうか。
属国としてしまうには、ランバラルドの情勢もあまりよくはない。
微妙なバランスの上に成り立っている世界情勢だ。
ランバラルドの国力が上がれば、他国から不満の声が上がり、共闘してランバラルドの国力を削ごうとする国も出てくるだろう。
くそっ。ボナール国王め。なんて面倒なことをしてくれてんだ!
「仕方ない。ボナール国外の領地を全て取り上げるのは動かせないから、金貨での支払いを減らすか…」
「あそこの王様、娘を溺愛し過ぎなんだよ。七色の乙女だかなんだか知らないけど、ドレスや宝石を与え過ぎ。税金をなんだと思ってるんだ」
フレッドはイライラと椅子を揺らした。
貧乏ゆすりすると貧乏になるぞ。
と、それまで黙って腕を組んでいるだけだったディリオンが口を開く。
「どこが七色の乙女なのか、さっぱりわからん娘だったがな。第一王女の方が七色の乙女と言われた方がまだ納得がいく。まあ、第一王女も綺麗な娘ではあったが、何を考えているかわからない人形のような娘だったな」
「ん?七色の乙女は第一王女の方だろう?」
「いや、第二王女だと言っていたぞ。煌びやかだが、明らかにサイズの合っていないドレスを着ていた。胸元がガバガバだった。あれは、あれくらいのバストサイズがあって欲しいという、あの王女の願望なのだろうか…」
ディリオンが顎に手をあてると、フレッドもそれに同意した。
「髪もドレスに合ってなかったよな~。お姉ちゃんの第一王女の方は、バストぼんっのウエストキュッのボンキュッボンナイスバディだったけど」
「ワガママを言っているからああなのだろう。他人の忠告を聞かない女は好かん」
「そうか。おそらく、国民から税を巻き上げるためのスケープゴートなんだろうな。オレには関係ないけど」
オレが次の話に移ろうと、七色の乙女の話を切ろうとすると、フレッドから待ったがかかる。
「関係ないと思うだろう?ところが、あの国王、第二王女をランバラルドへ寄越すから、賠償金を減額してくれと申し出てきた」
「…は?なんだって?」
「自分の娘だろうに、何考えてるのか、オレにもさっぱりわからないね。コンラッドが乗り気を装って話を聞き出したけど、うちには何の得もない。そもそも、七色の乙女って言ったって、たまたま生まれた日に虹がかかっただけだろう」
葡萄園で聞いた話を思い出す。
「そうだな。オレが聞いた話も、特に七色の乙女がいるからといって、特別なことがあったわけではないらしい」
オレは今日葡萄園で聞いたことを二人に話す。
「あ、そうだディリオン。葡萄、マジで美味かったから、帰る前に買い付けの契約を結んどいてくれ」
ディリオンはぴくりと眉を動かす。
「葡萄の買い付けだと?貴様、大事なボナールとの交渉をコンラッドに任せ何をしてきたかと思えば、のんきに葡萄を食いに行っていたのか!?」
「や、違うって。話をきくためにさー。それがマジにうまかったんで、また食いたい」
腕を組み、眉を寄せたままディリオンはため息をつく。
「…仕方ない。明日の調印が終わったら行ってくる」
なんだかんだでディリオンはオレに甘い。
「で、調印なんだけど、どうするのさ」
フレッドがオレ達を底なし沼へと引き戻す。
「…自治権を取り上げるしかないだろう。確かに、賠償金を支払えば国民は苦しい思いをするだろう。かと言って野放しにはできないくらい、愚かな王だ。賠償金をなしにすれば、何か仕掛けてくる気がする」
ランバラルドが少し勢力が増すだけだ。
はっきり言って、いらない権力だが仕方ない。
オレがうまく立ち回れば、なんとかなる。と思う。思いたい。
ふと、ディリオンが顔を上げる。
「第二王女を差し出すという話があったな。それを受けるというのはどうだろうか」
オレとフレッドが顔を見合わせる。
「はあ?ディリオンっては何言っちゃってんの?王子みたいに頭おかしくなっちゃったの?」
「フレッド!オレはおかしくない!おかしいのはディリオンだ」
「オレだっておかしくはない!向こうから差し出してくるくらい、いらない王女でも、王位継承権を持っているだろう。しばらく様子を見て、ボナール国王が何か仕掛けてくるようであれば、退任いただく。第一王女の王位継承権はなんらかの方法で放棄してもらい、第二王女に継承させ、実質ランバラルドで舵を切るんだ」
それは、第二王女を人質に取るということだ。
さも名案のようにいう幼馴染みの顔が、悪魔のように見えた瞬間だった。
農村地まで行ったオレは、どうやら疲れて眠ってしまっていたようだ。
「悪い。ディリオン。みんなもご苦労であった。あちらの対応はどんな感じだったか?」
ベッドから身を起こし、近くの椅子に座り直す。
「まあ、なんというか…」
フレッドの歯切れの悪い返事。
「それよりも見てくれよ~。汗をかいて染め粉が肩に落ちてきて焦ったぜ。ディリオンが早く切り上げるようにしてくれたからよかったが。もう金輪際、お前の影武者なんかやらないからな!」
髪を黒く染めていた染料が、汗で落ちてしまったのか…
文句タラタラなコンラッドに着替えを持たせて、同じく鎧で汗をかいていたジェイミーと共に宿屋の共同浴場に行かせた。
「で、フレッド、調印できたのか?」
フレッドは頭に手をやり、げんなりとした表情で話し始めた。
「一旦、保留にしてきた。財政状況がいくらなんでも酷すぎる。なんなんだ、あそこの王は。いくら自分がいる場所から遠いところでやっている戦争だからって、戦争中にパーティ三昧とかありえないだろう!うちは元々、ボナールに攻め込む気がなかったから、戦地は国境付近が多かったけど、普通に考えたら兵士達の働きを思って自粛するもんだろうが!」
「そんなにひどいのか?」
「ひどいな。城の金庫はほぼ空だ。おそらく、うちに勝ったらうちから支援させるつもりでいたんだろう。戦争やるには金がかかるもんだが、元手はほぼディデアから搾り取って出させている。安易に戦争するわけだよ。ボナールの腹は痛くないもんな」
ボナールから自治権を取り上げるべきだろうか。
属国としてしまうには、ランバラルドの情勢もあまりよくはない。
微妙なバランスの上に成り立っている世界情勢だ。
ランバラルドの国力が上がれば、他国から不満の声が上がり、共闘してランバラルドの国力を削ごうとする国も出てくるだろう。
くそっ。ボナール国王め。なんて面倒なことをしてくれてんだ!
「仕方ない。ボナール国外の領地を全て取り上げるのは動かせないから、金貨での支払いを減らすか…」
「あそこの王様、娘を溺愛し過ぎなんだよ。七色の乙女だかなんだか知らないけど、ドレスや宝石を与え過ぎ。税金をなんだと思ってるんだ」
フレッドはイライラと椅子を揺らした。
貧乏ゆすりすると貧乏になるぞ。
と、それまで黙って腕を組んでいるだけだったディリオンが口を開く。
「どこが七色の乙女なのか、さっぱりわからん娘だったがな。第一王女の方が七色の乙女と言われた方がまだ納得がいく。まあ、第一王女も綺麗な娘ではあったが、何を考えているかわからない人形のような娘だったな」
「ん?七色の乙女は第一王女の方だろう?」
「いや、第二王女だと言っていたぞ。煌びやかだが、明らかにサイズの合っていないドレスを着ていた。胸元がガバガバだった。あれは、あれくらいのバストサイズがあって欲しいという、あの王女の願望なのだろうか…」
ディリオンが顎に手をあてると、フレッドもそれに同意した。
「髪もドレスに合ってなかったよな~。お姉ちゃんの第一王女の方は、バストぼんっのウエストキュッのボンキュッボンナイスバディだったけど」
「ワガママを言っているからああなのだろう。他人の忠告を聞かない女は好かん」
「そうか。おそらく、国民から税を巻き上げるためのスケープゴートなんだろうな。オレには関係ないけど」
オレが次の話に移ろうと、七色の乙女の話を切ろうとすると、フレッドから待ったがかかる。
「関係ないと思うだろう?ところが、あの国王、第二王女をランバラルドへ寄越すから、賠償金を減額してくれと申し出てきた」
「…は?なんだって?」
「自分の娘だろうに、何考えてるのか、オレにもさっぱりわからないね。コンラッドが乗り気を装って話を聞き出したけど、うちには何の得もない。そもそも、七色の乙女って言ったって、たまたま生まれた日に虹がかかっただけだろう」
葡萄園で聞いた話を思い出す。
「そうだな。オレが聞いた話も、特に七色の乙女がいるからといって、特別なことがあったわけではないらしい」
オレは今日葡萄園で聞いたことを二人に話す。
「あ、そうだディリオン。葡萄、マジで美味かったから、帰る前に買い付けの契約を結んどいてくれ」
ディリオンはぴくりと眉を動かす。
「葡萄の買い付けだと?貴様、大事なボナールとの交渉をコンラッドに任せ何をしてきたかと思えば、のんきに葡萄を食いに行っていたのか!?」
「や、違うって。話をきくためにさー。それがマジにうまかったんで、また食いたい」
腕を組み、眉を寄せたままディリオンはため息をつく。
「…仕方ない。明日の調印が終わったら行ってくる」
なんだかんだでディリオンはオレに甘い。
「で、調印なんだけど、どうするのさ」
フレッドがオレ達を底なし沼へと引き戻す。
「…自治権を取り上げるしかないだろう。確かに、賠償金を支払えば国民は苦しい思いをするだろう。かと言って野放しにはできないくらい、愚かな王だ。賠償金をなしにすれば、何か仕掛けてくる気がする」
ランバラルドが少し勢力が増すだけだ。
はっきり言って、いらない権力だが仕方ない。
オレがうまく立ち回れば、なんとかなる。と思う。思いたい。
ふと、ディリオンが顔を上げる。
「第二王女を差し出すという話があったな。それを受けるというのはどうだろうか」
オレとフレッドが顔を見合わせる。
「はあ?ディリオンっては何言っちゃってんの?王子みたいに頭おかしくなっちゃったの?」
「フレッド!オレはおかしくない!おかしいのはディリオンだ」
「オレだっておかしくはない!向こうから差し出してくるくらい、いらない王女でも、王位継承権を持っているだろう。しばらく様子を見て、ボナール国王が何か仕掛けてくるようであれば、退任いただく。第一王女の王位継承権はなんらかの方法で放棄してもらい、第二王女に継承させ、実質ランバラルドで舵を切るんだ」
それは、第二王女を人質に取るということだ。
さも名案のようにいう幼馴染みの顔が、悪魔のように見えた瞬間だった。
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