アイビー

葉叶

文字の大きさ
上 下
11 / 18
1

11

しおりを挟む
どうして彼は今にも泣きそうな顔をしてるんだろう?
別に着せ替え人形ぐらい彼ならどんな子でもやってくれると思うけど。
一瞬その光景を想像した瞬間チクリと胸が痛んだ。…なんだろ?

「なんでなん?僕の事嫌いやないんやろ?ほんならえぇやん。帰ろうや」

私はもう一度フルフルと首を振った。

「アイスも蜜樹が好きなの買ったるし、蜜樹が欲しいもん全部僕が買ったる。僕があげられるもんなら全部蜜樹にやる。
せやから……お願いやから僕と一緒に帰ろうや…お願いや、蜜樹…」

私にすがりつく様に私の胸に顔を埋めるつーくん。
どうして私なんだろう。
私じゃなきゃいけない理由なんてないのに。
そこまでする程の価値が私にあるとは到底思えない。

なんて答えればいいかわからなくて黙るしかなかった。
此処まで求められた事なんて今まで無かったし、縋りつかれたことだって勿論なかった。

「蜜樹……」

今にも泣きそうな顔で私を抱きしめるつーくん。
人生勝ち組の人が、負け組の私に縋り付く。異様な光景すぎる。

「……戻ったら私殺されるかもしれないから戻れない。
つーくんには沢山お世話になったし有り難いとは思ってる。
だけど、つーくんは人生勝ち組だからすぐに代わりの私が見つかるよ」

スッとつーくんから離れた。
私の代わりなんて何処にでもいる。
寧ろ、私という存在はいらない部類に入る。
特技がある訳でも美人な訳でもない。下の下の生物。
身も心も綺麗な頃にはもう戻れない。…夢を見るにはもう遅すぎる。

「人生勝ち組とかよくわからんけど、蜜樹の代わりなんて居らへん…居る訳無い。
それに、居ったとしても僕は蜜樹がいいんや、他は要らんよ。
てか殺されるって何?僕蜜樹に酷い事なんてせぇへんよ?」

「つーくんじゃなくて女の人に殺されるから。
つーくんはイケメンさんのモテモテさんだから私みたいな珍味?がそばに居るのを好まない人が居るんだよ。
大丈夫。つーくんはイケメンさんだから選び放題だよ。自信持って!」

大丈夫っ!と励ましていると、何故かポカンとした顔をするつーくん。

「……それじゃあ、殺されへんかったら蜜樹は僕の傍にずっとおってくれる?」

「んー……捨てられない限りは?」

特に私が出ていく理由はないし…
殴られる事もなく温かいご飯を食べて温かい布団で眠る生活。
今まで生きてきて初めてした生活。これが平和というものかと初めて知った。

「それじゃあ、僕が蜜樹を殺そうとする奴を殺すから一緒に帰ろ?
僕、今日蜜樹の為に美味しいアイス買ってきたんよ。
だから今日帰りがちょっと遅くなってん。」

今にも蕩けそうな笑顔で私を抱っこしようとするつーくんの手を思わず止めた。

「やっぱり僕とはおりたくないん?」

「ち、違くて…私汚いからつーくんの綺麗な服汚れちゃう」

足から血も出てるし道中コケたから泥とかついてるし、なんならまだあの男たちが出したモノが体に纏わりついてる気がする

「えぇよ。蜜樹の為ならどんなに汚れても全然えぇよ。
早く僕らの家に帰ろうや。足の怪我も早く処置せなかんしな。」

ヒョイッと私を抱き上げてとても嬉しそうに微笑むつーくん。
何でそんなに嬉しそうなんだろ。
でも、つーくんが嬉しそうだと少し胸があったかくなる気がする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ヒロインになりたい!!

江上蒼羽
恋愛
少女漫画やドラマのヒロインに憧れる、夢見る25歳。 ヒロインみたいな恋をして、素敵な人と結婚したい。 一度きりの人生だからこそ、ドラマチックな人生を謳歌したい。 普通じゃ嫌。 これって、ダメな事? ※作中で人名に対して失礼な物言いをする描写がありますが、あくまでも主人公のヒロイン志向キャラ由来のものです。 どうか、お気を悪くされないようお願い申し上げます。 H29.7/11~作成 H29.11/7本編完結 H29.12/17番外編完結 H30.10/29 全て終了(^^ゞ H31.4/28~アルファポリスにて公開開始

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...