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第3章 帝都へ

散歩をしていたら

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 朝。
 陽の光で目が覚めた私は、清浄魔法で綺麗にしてからテントの外に出た。
外にはアンナさんとロランが二人で話している。アンナさんは私と一緒に寝たのに早起きだ。

 そして昨日話をしたからか、もう嫌な気持ちが燻ることはないようだ。
朝から晴れやかな気持ちになっている。

「あ、セリーちゃん!おはよう」
「おはようございます、アンナさん」

 笑顔で挨拶する私を見て、驚いた顔をロランがしていた。
昨日アンナさんが言っていた通り、心配してくれていたのだろう。

「私、着替えてきていいかな?昨日眠くてそのまま寝ちゃったから」
「ああ、いいぞ」
「はい、もちろん」

 ありがとう!と言いながら、アンナさんは服を持ってテントに向かっていく。
私は反対に、火の番をしていたロランの元へ向かった。

「‥‥元気になったみたいだな」

 やはり気づいていたみたいだ。実は嫉妬で‥‥とは恥ずかしくて言えない。
曖昧に笑顔で返していると、ロランが私の頭の上を見ている。

「買ったリボン、使ってるんだな」

 町からずっとしていたのだが、恥ずかしくてフードを被っていたので気づかれなかったのだろう。
今は出発前でフードを被っていないので、見るのはこれが初めてなのかもしれない。

「ロランが買ってくれましたから。嬉しかったので」

 結局お金は受け取ってもらえなかった。正式にロランに初めて買ってもらったものになった。
嬉しくないはずがない。
私は照れ臭くなって下を向いていたから気づかなかったが、ロランの顔は耳まで真っ赤になっていたのだった。

 
 道なりに歩き、予定通り領の境の町に着く。町の名前はソルテール。
領境の近くだからだろうか、珍しいものが多く売っている。
野宿が多かったので今日はここで宿を取り、空いている時間は三人で屋台やお店を巡ることにする。

 何事もなく翌日の早朝に出立。
最近はロランよりもアンナさんが私に話しかけてくるようになった。
何でも、ロランは質問の答えしか言わないから話が続かないそうだ。

 二股の道を右に向かう。帝都に早く行くのなら左を選択するらしい。
だが、今回は少し寄り道をするようだ。

「村に行こうと思って」

 アンナさんが言うには、右には村が一つありアンナさんが好きな果物が取れるらしい。
その果実は親指に乗るほど小さく、皮は黒く、身も黒に近い紫色らしい。

「そのまま食べても美味しいけど、ジャムやジュースも美味しいよ」とのこと。

 近くには湖畔もあるそうで、観光がてらくる人もいるらしいが数は多くないらしい。
その村は隣の領であるセンツベリー領にあり、ルズベリー村という。

 「歩けば1日くらいで着くと思う」とアンナさんが言う通り、夜になる前に村に到着した。
観光用に宿もあったので、その日はそこで泊まって寝る。

 
 起きると日が登り始めている。
着替えを終え、朝ごはんを食べ終わると、アンナさんとは別行動になり、勧めで湖畔を歩くことにする。
折角だからと、今日はローブを着用せず、リボンで髪を一つに縛るだけにした。

 湖畔は朝日を浴びてキラキラと水面が輝いている。水が光を反射しているようで眩しい。
思わず、「綺麗‥‥」と声が出てしまった。
私は15歳になるまで屋敷と魔の森しか知らなかった。
私の知らないところには、こんなに美しいものがあるのかと、まだ見ぬ景色に思いを馳せる。

「ああ、綺麗だ。来て良かったな」

 ロランも私と同じように思ってくれたみたいだ。心が通じ合ったようで、とても嬉しい。
そう言えばあの日、アンナさんが言っていた。

「好きになったら、どんな些細な事でも嬉しくなるのよね」って笑いながら。
でもその言葉とは裏腹に、少しだけ傷ついた顔をしていた。

「セリー?」

 あ、あの日のことを考えていたら、ロランを心配させてしまったようだ。
「何でもないです」と言って私は、先を歩いているロランのところまで小走り‥‥

「きゃっ!」

 ロランを見て走ったからか、木の根っこに躓いてしまう。
危ないっ、と両手を前に出し目をつぶったが、いつまで経っても衝撃が来なかった。
不思議に思い、目を開けると、私の身体はロランの腕に支えられている。

「はぁ、セリーは強いんだが弱いんだか分からないな」
「‥‥‥」

 黙る私を立たせたロランは、私の両肩に手を置く。
顔を上げた瞬間、ロランの真剣な目に吸い込まれてしまいそうになる。

「セリー、俺は‥‥」

 ロランが言葉を発しようとした瞬間、けたたましい鐘の音が周囲の森に響き渡った。
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