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ベネツィ大食い列伝
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ーーーーガンガンガンガンガン!
「ーーーーふぇんっ⁉︎」
突然、部屋中に鳴り響く激しい金属音に目を覚ます。
もちろん意識も即、覚醒。
条件反射のように跳ね起きた上半身は考えるより先に自身の聴覚を保護する行動に出た。
己が両手で両耳に蓋をして、爆音が直接耳に入って来ないように防御壁を作り上げた。これで爆音による鼓膜への攻撃を軽減した。
何を隠そう、これこそが長年の勇者人生で身に付けた防音防御術。
その名も静寂の無音世界!
とか、考えている場合ではなかった。
ちなみに、冒頭でびっくりして飛び起きたような感じだったけれど、あれは場を盛り上げる為の演出なので、勘違いしないで欲しい。
素の俺は、寝起きでいきなり目の前にラスボスがいたとしても余裕で先制攻撃を食らわせる事が出来るくらいに神経を研ぎ澄ませている。
とか、見栄を張っている場合でもなかった。
ゴワンゴワンゴワンゴワンゴワン!
今なお続く爆音の発生源特定を試みる。
もともと容易であると思ってはいたが、部屋の中をぐるりと一周見回すまでもなく爆音の発生源は特定出来た。
部屋に一つしかない出入り口前、そこには数時間前に受付をしてくれたあのお爺さんがいて、右手に金属で出来た調理用のオタマ、左手によく使い込まれた黒光りしている鉄鍋を持っている。
お爺さんは不機嫌そうなしかめっ面で両手の金属を激しく打ち鳴らしていて、だんだんとその爆音の大きさとテンポが強く、速くなっている気がした。
「ちょっ、もう起きたって! 分かったって!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!
いつまで叩いてんだ、このお爺さん。
すると、お爺さんはゆっくりとこちらに向かって歩いてきてベッドで眠るパティのすぐ隣まで来ると、パティの顔を覗き込むような前傾姿勢で更に激しく叩き続け、
「迷惑ジジイの騒音問題!」
そう、ぼんやりと聞こえた気がした。
幻聴じゃないのなら、自覚があるのなら今すぐやめて欲しい。
だが、うちの若手も負けてはいなかった。
「ーーーーなっ⁉︎」
もはや、ほぼほぼ目の前で鳴らされている爆音を気にも止めず、もしかしたら気付いておらず、あるいは負けじとただひたすらにパティ達は眠っている。
「ぐぐ……ぐわ……あ……」
正直、ここまで接近されてあんな爆音を出されたんじゃ静寂の無音世界をもってしても相当のダメージを負わざるを得ない。
無音と言ってはいるがその実、技の効果はあくまで軽減させるものであって、完全に音を遮断できる訳じゃない。
つまり、限界があるのだ。
技を使って爆音をかなり軽減している俺がこんなにも苦しんでいるのにもかかわらず、何でパティ達はこの状況下でも平気で寝ていられるんだ。
俺と同じく何かしらの方法で音を軽減している?
いや、違う。
これは軽減ではないーーーー遮断だ。
パティ達はこの爆音を遮断し、完全なる無音の世界にいる。
もし本当にそうだとするならば、このバカげた爆音による目覚まし方法では、パティ達を起こす事は絶対に出来ない。
聴覚では無く、触覚を刺激し意識を覚醒させなくてはいけない。
たとえば身体を強く揺さぶったり、文字通り叩き起こすようにしなければ……だが、しかし。それをやるには俺の静寂の無音世界を一旦解除してからでないと実行は無理だ。
しかし……。
聞き間違いでなければ、迷惑ジジイの騒音問題? の爆音鳴り響く今の状況下で静寂の無音世界を解除してしまえば、最悪の結果たる即死はせずとも鼓膜を激しく振動させられて耐えかねた鼓膜が破裂してしまう恐れがある。
攻めに転じるべきか、守りに徹するべきか。
そう考えている間にも、HPなのかKPなのかは確実に削られているので、一刻も早い決断が求められた。
「ぐあぁ……あ……」
やばい、まずい。
何の確証も無いけれど、かなり漠然とした感覚的な話なんだけれど、何か耳から血が出そう……。
そこそこの出血を伴いそうな気配がしてやまない。
あいも変わらずお爺さんはパティの目の前で爆音を奏でていて、数十秒おきに俺の方をちらりと確認している。
いったい、何の確認なんだ。
どうして欲しいのだ。
この状況で二度寝なんて絶対無理だからそんな確認行動はとらなくてもいい筈だ!
と、思いはするが、まさに目の前で二度寝ならぬ一度寝? 初寝の状態から一切起きる事なく寝続けている子供がいるのだから、その確認も必要といえば必要なのかもしれなかった。
それはさておき。
くそう……どうすれば、いったいどうすれば俺は自身の身を守りつつパティを起こす事が出来るのだろう。
その時、
「ん……んんぅ……」
「ふにゃ……あ……」
あいも変わらずシンクロしたまま寝返りをうちつつ、若干意識が現実世界の方へと傾きだした。
チャンス到来である。
「ーーーーふぇんっ⁉︎」
突然、部屋中に鳴り響く激しい金属音に目を覚ます。
もちろん意識も即、覚醒。
条件反射のように跳ね起きた上半身は考えるより先に自身の聴覚を保護する行動に出た。
己が両手で両耳に蓋をして、爆音が直接耳に入って来ないように防御壁を作り上げた。これで爆音による鼓膜への攻撃を軽減した。
何を隠そう、これこそが長年の勇者人生で身に付けた防音防御術。
その名も静寂の無音世界!
とか、考えている場合ではなかった。
ちなみに、冒頭でびっくりして飛び起きたような感じだったけれど、あれは場を盛り上げる為の演出なので、勘違いしないで欲しい。
素の俺は、寝起きでいきなり目の前にラスボスがいたとしても余裕で先制攻撃を食らわせる事が出来るくらいに神経を研ぎ澄ませている。
とか、見栄を張っている場合でもなかった。
ゴワンゴワンゴワンゴワンゴワン!
今なお続く爆音の発生源特定を試みる。
もともと容易であると思ってはいたが、部屋の中をぐるりと一周見回すまでもなく爆音の発生源は特定出来た。
部屋に一つしかない出入り口前、そこには数時間前に受付をしてくれたあのお爺さんがいて、右手に金属で出来た調理用のオタマ、左手によく使い込まれた黒光りしている鉄鍋を持っている。
お爺さんは不機嫌そうなしかめっ面で両手の金属を激しく打ち鳴らしていて、だんだんとその爆音の大きさとテンポが強く、速くなっている気がした。
「ちょっ、もう起きたって! 分かったって!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!
いつまで叩いてんだ、このお爺さん。
すると、お爺さんはゆっくりとこちらに向かって歩いてきてベッドで眠るパティのすぐ隣まで来ると、パティの顔を覗き込むような前傾姿勢で更に激しく叩き続け、
「迷惑ジジイの騒音問題!」
そう、ぼんやりと聞こえた気がした。
幻聴じゃないのなら、自覚があるのなら今すぐやめて欲しい。
だが、うちの若手も負けてはいなかった。
「ーーーーなっ⁉︎」
もはや、ほぼほぼ目の前で鳴らされている爆音を気にも止めず、もしかしたら気付いておらず、あるいは負けじとただひたすらにパティ達は眠っている。
「ぐぐ……ぐわ……あ……」
正直、ここまで接近されてあんな爆音を出されたんじゃ静寂の無音世界をもってしても相当のダメージを負わざるを得ない。
無音と言ってはいるがその実、技の効果はあくまで軽減させるものであって、完全に音を遮断できる訳じゃない。
つまり、限界があるのだ。
技を使って爆音をかなり軽減している俺がこんなにも苦しんでいるのにもかかわらず、何でパティ達はこの状況下でも平気で寝ていられるんだ。
俺と同じく何かしらの方法で音を軽減している?
いや、違う。
これは軽減ではないーーーー遮断だ。
パティ達はこの爆音を遮断し、完全なる無音の世界にいる。
もし本当にそうだとするならば、このバカげた爆音による目覚まし方法では、パティ達を起こす事は絶対に出来ない。
聴覚では無く、触覚を刺激し意識を覚醒させなくてはいけない。
たとえば身体を強く揺さぶったり、文字通り叩き起こすようにしなければ……だが、しかし。それをやるには俺の静寂の無音世界を一旦解除してからでないと実行は無理だ。
しかし……。
聞き間違いでなければ、迷惑ジジイの騒音問題? の爆音鳴り響く今の状況下で静寂の無音世界を解除してしまえば、最悪の結果たる即死はせずとも鼓膜を激しく振動させられて耐えかねた鼓膜が破裂してしまう恐れがある。
攻めに転じるべきか、守りに徹するべきか。
そう考えている間にも、HPなのかKPなのかは確実に削られているので、一刻も早い決断が求められた。
「ぐあぁ……あ……」
やばい、まずい。
何の確証も無いけれど、かなり漠然とした感覚的な話なんだけれど、何か耳から血が出そう……。
そこそこの出血を伴いそうな気配がしてやまない。
あいも変わらずお爺さんはパティの目の前で爆音を奏でていて、数十秒おきに俺の方をちらりと確認している。
いったい、何の確認なんだ。
どうして欲しいのだ。
この状況で二度寝なんて絶対無理だからそんな確認行動はとらなくてもいい筈だ!
と、思いはするが、まさに目の前で二度寝ならぬ一度寝? 初寝の状態から一切起きる事なく寝続けている子供がいるのだから、その確認も必要といえば必要なのかもしれなかった。
それはさておき。
くそう……どうすれば、いったいどうすれば俺は自身の身を守りつつパティを起こす事が出来るのだろう。
その時、
「ん……んんぅ……」
「ふにゃ……あ……」
あいも変わらずシンクロしたまま寝返りをうちつつ、若干意識が現実世界の方へと傾きだした。
チャンス到来である。
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