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第二章 『ギルセル王国第三都市セルビス』
第二十八冊 『凡人風情』
しおりを挟む再生と自由の神。
死記神の弟。
継輝神。
聞きたくもない言葉の数々が、ヨウの中で激しく反響する。その意味全てを理解しているとは言い難いが、今取るべき行動だけはしっかりと分かっている。それ以外することが無い、神を目の前にして、ヨウがすることは一つだ。
「────信じられない人間はそんな表情をする」
底冷えする様な低い声は、地面を向き動かないヨウに対し向けられている。声に力を宿す『言霊』というものが本当にあるのだとすれば、正にそれを体現しているかに思えた。本当は力などないのだろう。唯の音の反響、けれど、そう信じ込ませるだけの圧が確かに存在していた。
見上げ、映る顔は酷く気だるげだ。まるでこの世の物事全てを億劫と思って居るかの様で、実際それを体現するかの如く目などは半開きであるし、深々と被ったフードは太陽を遮断しているようにも見える。一体その瞳には何を浮かべているのか。
「人間、本当に予想外の事が起こると案外冷静だよな。お前がヴァリアントレリオンに、好いている人間を殺された時も、無意識に正解を導いたように。」
「……!」
─────こいつ、知っている……?
その内容は、あの場に居たヨウと、ティアと、そしてヴァリアントレリオンの強化残留思念しか知るよしの無い情報。だが、それを知っていたという事は、何かしらの力によるものだろうか。神というのだから、天界なんて物から地上を監視する事も出来るのかもしれない。神人種は龍神族に対する絶対殺害権なんて物も持っているのだから、それを応用すれば簡単、と言う可能性もあるだろう。
けれど、そんな事はどうでもいい。味方だろうが、味方でなかろうが、敵だろうがそうでなかろうが、神で在るのなら殺すしかない。死記神でなかろうが神なら死ね。何が目的だろうが、此処がどこだろうが、状況がどうだろうが関係ない。
懐に入れていた手を抜き、中の魔導書を開く。
「『……たい………やどり……』」
「うわ言を呟くと幸せが逃げるらしい。よかったな、これでお前はまた一つ不幸になった」
詠唱と言う物は、声が小さいと認められない可能性がある。言の葉を繋いでもそれが魔法を魔法たらしめる『何か』に認知さず、発動しないのだ。けれど、今回の場合はそうも言ってられない。というより、小さい声で詠唱したのは殆ど本能だ。相手に感づかれてはいけないと思ったヨウの奥底が、自然と行動を取らせた。
実際、相手は気づいていない。
と、思って居た。
「─────抵抗はそれだけか」
「ッ! 『龍神の吐息』ッ!!」
ダンッ!
だがもう遅い。魔法が完成した瞬間、ヨウの背後に何十二も重なった魔法陣が姿を現した。前回よりもより紅く発光しており、それは術者本人の焦燥を表しているかのようだ。同時に、あまりの衝撃にヨウの体が浮き、少し後退した。
「おぁあおおおおおおおおおッ!」
極太の光が魔法陣からうねる様に飛び出し、線となって継輝神を襲う。最早、それがどんな影響を及ぼしたかヨウに理解できなかった。とにかく我武者羅で魔力を込め続けた。オークを殺した一撃でも、目の前の存在には足りないと思ったから。
「あぁああああああああッ! ッッッゥ!」
叫ぶ。
叫んで込めて放ち続けて。漸く体内の魔力が半分を着いたところで、限界が来た。体力と同じ感じである。本当はまだ残っているのに、体が無意識にセーブしてしまう。緊急事態などでは『火事場の馬鹿力』が発生するが、その魔法を信頼しているヨウが確かに存在したのだろう。無意識に信じたせいで、其処が限界であると、そして限界で殺せると、過信した。
酷い倦怠感が襲ってきて、思わず尻餅をついた。無我夢中で込めていたせいか、いつの間にか閉じていた眼を開く。
飛び込んできた光景は、更地だった。
「……」
感想は無い。ただ、はぁはぁと荒い息をつくだけ。目の前に存在するのは、瓦礫や地面、何もかも吹き飛ばした結果だ。高温の吐息によって焼かれた地面は、何も残っていなかった。目視できる直線状の地面には何もない。範囲外の地面や瓦礫は無事だが、少なからずその影響を受けている。
吐息なのに息吹? なんて考えてしまうのは、益体の無いことを考えて現実を直視したくないヨウのくだらない考えだろう。
けれど、
「─────再生と、自由の神」
「っぁ……!」
気が付けば目の前に継輝神がいた。
さらりさらり、と、砂が集まる様に再生している。血が出てなければ傷一つない。まるで『消えて出てきた』様な回復の仕方。
「一応これでもダメージは受けているんだ。ただ、『再生』っていう概念はお前が思って居る以上に強い。君の持つ回復の常識は通用しないと思った方がいいぜ」
継輝神は言う。
「俺の概念は、龍神の逆行魔法……そう、『生命逆行』の数百倍は上だ」
「ッ!」
異空間を展開して、剣を取り出す。そして右手で構えれば、魔力を込めて臨戦態勢を取った。でも、直ぐには動けない。継輝神が『全て見えているぞ』という意思を表す様に、ヨウの腕の動きを目線で追っていたからだ。それが無ければ今すぐにでも切りかかり、殺している。
けどそれは叶わないだろう。力量が違いすぎる。それ故に剣を構えたまま動けない。全てが絶望だ。それを理解したうえで、ヨウはそこに立っている。
何の理由で、ヨウがここに居るのかは分からない。ただ、神である以上龍神を殺す事が目的だろう。ティアの危惧していた可能性が早くも実現した。
そうだ、
「そうだ! 俺を殺してみろ! 再生の限界を迎えても尚殺し続けて凡人の底を表し続けろ。それが龍神を受け継ぎ俺の友人を殺し好きな人間の為にその力を使い姉貴を殺そうとしているお前にふさわしい行動だッ! 生命にとっていつでも生きていることを感じられる『戦闘』と言う行為! これ以上美しく愉しく儚く切なく麗しい概念があるだろうか! いや、ない!」
継輝神は笑い、哂い、嗤う。
言っている意味が分からない。単語自体は理解出来るのに、紡がれた文はこの世のありとあらゆる言語より理解不能だ。一瞬、ヨウが持つ唯一の権能、『言語理解《最上》』の翻訳が失敗したのかと錯覚してしまう。
そして、悟る。ヴァリアントレリオンも、目の前の継輝神も、等しく神は異常だ。先ほどまで多少マシかと思ったが、タカが外れたように言葉を紡いでいる。もしかしたら、普通の面があるのかもしれない。けど異常だ。どうしようもなく、狂っている。
さぁ、
「そんな素敵な行為に感謝して、殺してやる。動けば殺す。動かなくても殺す」
「────あぁ、本当に最悪だ」
龍神と継輝神が激突した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「『回復』─────変換:『死連星』!」
絶景の天に死が舞った。
魔法名を言うだけで完成した魔法は、変換され死の塊となってヨウへ飛んでくる。速度は高速、威力は必殺。当たれば文字通り死に絶える一撃に対して、ヨウは大きく横へ跳ぶことで回避する。
瞬間、今までいた場所が爆ぜる様に吹き飛び、火でもないのに爆発したような錯覚を受ける。衝撃波と砂煙が発生し、前者は回避したヨウの所まで届いた。
「ッ」
だが、逆にその風圧を利用し地面に手をついて跳ね、相手に斬りかかる。勢いもつき、今までとは比べ物に成らない破壊力を持つ一撃。そんな一撃は相手の曖昧な武器、その槍の部分によって防がれてしまった。
「知ってるかこれ。この世界独特の武器で、槍弓鎖っていうんだぜ?」
「……」
「槍のけら首から石突き、要するに持つ部分が特殊な素材で出来るんだ。いいよなぁ、武器ってのは人を殺すために作られた道具だ。詰り戦闘のための道具。俺以上にうまく扱える人間とかいないんじゃないか?」
と、話している間にも攻防は続いている。突き出された槍を剣でいなし、左手に持つ本で殴ろうとするが、頭突きで相殺され、代わりに足払いを掛けようとすれば、先手とばかりに足を踏まれる。
こちらの行動が全て見透かされている。その上、べらべらと武器の情報を喋る程余裕が有るという事だ。
「『絶望の枝』」
「ぅ……ッ!」
継輝神の手が魔力で迸り、次の瞬間には木の枝の様な何かが発射されている。外見は文字通り木の枝ではあるが、その大きさは何倍以上で、伸びてくる勢いは尋常ではない。
声は出せない。理由がある。
最大限呻きを抑え『絶望の枝』に対して斜めに二十メートル以上回避を取る。それでも射程範囲から逃れることは出来ず、伸びてくる木の枝を踏み台にしながらも回避を続けけた。
「この武器のいいところは」
と、
「拘束にも使える所だよ」
継輝神が持つ曖昧な武器、槍とは逆端の部分がジャラララララッ! という金属音と共に伸びる。経験から言えば鎖の音。それにも射出音。おそらく、弓槍鎖と言う武器は、槍と弓と鎖を兼ねた武器だ。今回使われているのは鎖の部分だろう。だがそれを認識した時にはすでに鎖はヨウまで届いていた。
「ッ! ……!」
「そんなに声を出したくないなら、無理やりにでも叫ばせてやるよ」
鎖が腕を縛り付ける。ヨウはもがくが、思った以上にその拘束力は強く抜け出せない。次の瞬間、浮遊感を感じていた。遠心力によってヨウの体が継輝神を中心に何回転もする。振り回されているのだ、そしてその体は地面に叩きつけられる。
凄まじい衝撃と共に地面がひび割れを起こし、恐ろしい規模の粉塵が巻き上がった。クレーターの様に破壊され地面、当然その原因であるヨウのダメージは絶大だ。
腹を直撃し、諦めたくなる様な痛みが全身を通り抜ける。しかし、それに怯んでいては殺されるというのを、ヨウはよく理解している。実際、殺意を感じた瞬間少し離れた地面へ飛び込んでいた。そしてすぐ近くに手放してしまった本があるのを確認し、拾う。
砂煙から離脱すれば、それを追う様に継輝神が飛び出してくる。鋭い槍の一突きが心臓を襲おうとするが、咄嗟に剣をぶつけ合う。その衝撃で周囲の瓦礫が巻き上がり、そして返す刀で行われた二撃目で吹き飛んだ。そのままつばぜり合いが始まる。
「いいね、いいな、いいよね、いいよな、いいじゃないか。なかなかに戦えている。凡人にしてはそれなりに龍神を扱えているじゃないか」
「ッ!」
「おっと、そんなに口を開きたくないんだったら、逆に二度と開けなくしてやるよ」
ヨウは槍を弾く。そしてお返しとばかりに心臓を穿とうとするが、継輝神は右手の肉を使ってそれを止めた。血が飛び散り、いくらかヨウの顔にもかかる。目にかからなかったことが幸いか。
彼は回復するのをいいことに掌で剣の進みを止めたのだ。痛みはあるはずだが、何度も再生すると慣れる、なんて理由からだろうか。継輝神は再度槍で刺してくるが、ヨウは掌から剣を抜きすぐさま距離を取った。
「『反回復』!」
またもや詠唱無しで魔法を発動させた。再三記すが、普通魔法というのは決められた語句を詠唱することによって発動する。断じて魔法名を言うだけで発動する魔法などないし、あったとしてもこんな威力は出ないはずだ。
今回は緑色の球が三球、継輝神の頭上に浮かんでいる─────大方、触れた物体の再生能力を爆発させて逆にダメージを与えるといった所だろうか。
「ご名答! そしてご明察ゥ! 俺は再生系魔法しか使えない。だからこそ使える手札は限られてくる。こうやってダメージを強引に発生させる事しか能がないんだよォ!」
ナチュラルに心を読んでくるが、それはもう無視だ。彼は腕を大きく振う。その動きに比例する様に、弾はその形を大きく歪めてヨウに迫った。
一発目、回避。二発目、回避。撹乱するためか不安定な軌道の三発目は剣で真っ二つにした。一発目と二発目の痕跡を見れば、地面が抉れている。『再生』というのは無機物にも有効らしい。
と、そんな事を考えている間に継輝神は真っすぐ突っ込んでくる。
ただの突き、ただの突進。しかしその一発一発はヨウを確実に死に至らしめる一撃だ。生命逆行は死亡しては意味がない。ダメージを受けるにしても致命傷を避けなければいけない。
何より、今ヨウは別の魔法を詠唱できない理由がある。
《……なっ!?》
ヨウは剣で迎え撃つが、異様に軽いことに気づく。感触が、感覚が、今までとは違う。
継輝神の顔は嗤っていた。どうやらフェイントらしい─────と、気づいた時には懐に潜られている。
相手の狙いは心臓と、予想し守ったがそれすらも読まれていた。彼が狙ったのは足。腿の部分に鋭い槍が突き刺さる。そのままグルンッ、と、鍵を開ける様に槍を回され、足の肉がブチブチと悲鳴を上げる。
「─────足っていうのは、何事をする上でも大切だ。痛みっていうのは戦闘相手を殺すうえで一番大事なスパイスだよな」
目の前の神はそう言って、遊園地のアトラクションを愉しむ様な顔で言った。もしかしたら本当にアトラクションを愉しんでいるのかもしれない。
しかし、これはこれで、
《……十分、だ》
距離よし、油断よし。
継輝神が油断している今だからこそ、それを放つ意味がある。最後の合図を送った。
本を掲げ、
「────『龍神の吐息』」
「……!」
「罠にはまったな、生命神!」
何もかも溶けていく。足に刺さった槍も、彼の表情も、鼓動も、肉体も、何もかも。
ヨウは最初からこれを狙っていた、再度相手が油断する瞬間を。黙っていたのは魔法の詠唱を中断させないためである。
吐息が継輝神を貫通し、周囲の地面を根こそぎ殺していく。瓦礫を巻き込んだ爆発が起きて、ヨウが降ってくる破片を防ぐために手で顔を覆った。
《……さて》
あと何回殺せば死ぬのだろう。神と言うのだし、それも再生を司る神だ。そう考えると百回以上だろうか。正直心は折れている。けれど、心はもう折れ慣れている。
その上で、そんなヨウを支えてくれると信じられる存在が居るから戦える。折れた心には接着剤でも付けておけ、治してくれる人の元へ帰るまでは。
依存と言われたっていい。どうだっていい。今は生き残ることを最優先する。
「『万象を癒す鼓動よ、それは龍神の恩恵なり。無垢なる癒し手へ加護を与え、流れを逆転させよ。生は死に、死は生に。救える力は救える者へ』─────『生命逆行』」
ヨウはページをめくり、詠唱して自らの状態を戦闘開始時に戻す。といっても、戻るのは魔力を除く肉体の状態のみ。
この魔法を使わなかった理由は魔力が勿体ないからだ。ある程度の傷は完治させることができるだろうが、その後の戦闘に支障が出る可能性がある。
では、なぜ今回は使ったのか。
簡単な話だ。もう一度『龍神の吐息』を放っても効かないと判断したからである。今回の様な作戦はもう二度と通用しないだろうし、目の前で詠唱して普通に撃っても回避されるだろう。それを判断した上で使った。
もう少し傷を負ってからでも────と考えたが、これ以上傷を負って殺されてしまったら元も子もない。戦闘の上で需要な部分である足を使えなくされた今だからこそ、使う場面だと思ったのである。
「ヒュー!」
と、継輝神は全くの無傷で歩いてくる。上辺だけを見れば全く同じ状態。しかしその実態は、片方が魔力切れで片方は万全。笑いたくなる様な戦況だ。
「ってのは、少しカッコつけだったか? いい感じに小賢しいじゃねえか。といっても、まだまだまだまだだな」
「何度再生すれば気が済むんだよ……」
「何度でも、さ。お前が俺を殺し続ける限り、俺は再生をし続ける──────『反回復』」
緑球は燦燦と輝き、素早く地面を滑ってヨウに迫る。
用済みとなった龍神の魔導書を邪魔に成らないよう仕舞い、ヨウは両手で剣を構え、その全てを切断した。背後の地面が朽ちていく。
「魔導書を閉じたってことは、魔力がもうないのか?」
「……」
「凄まじい書物だよな。強化種の、それも世界最強に成りゆる力を、劣化種に宿すことができるなんて」
「……」
「龍の言語を理解できるジルドニラでなければ継承できないとはいえ、その条件さえクリアすればだれでも龍神を継げる」
お前は反則だ、と吐き捨てて継輝神は『絶望の枝』を発動させる。
お前も反則だ、と吐き捨てて、ヨウは剣で枝を切り捨てていく。
視界を埋め尽くすほどの枝は、正に恐怖そのものだ。
右から来るそれを切断し、左から来るそれを断たっ切り、目の前から来るそれを縦に分解する。だが相手の枝が尽きる事は無い。どうせ魔力が尽きない限りは永遠に枝が伸びる。
大きく動いて射程から離脱しようとしても、まるで全てに目があるかの様にホーミングしてくる────だったら、
「────ラッ!」
「おぉ?」
ヨウは一瞬速く動き枝から離れると、剣を思い切り投げた。回転しながら迫る其れは真っすぐ継輝神へ向かうが、魔力によって作られた枝の数々がそれを弾き飛ばす……その動きは酷く慎重に見えたのは、もっというのなら、何としても継輝神へ剣が届かないように大袈裟に守っているように見えたのは、気のせいだろうか。
「────龍神の剣を飛ばして何をッ!」
「死ねッ」
と、彼が気づいた時にはもう遅い。その頃にはヨウが継輝神の首を切断している。
何故剣を投げたのか。それは当然だが、相手を騙す為である。最初に剣を投げて相手を怯ませ、その間に接近、勢いを利用して異空間から出した剣で首を切断する。
おぞましい量の血がそこかしこに降る。さらっと、人間|《みたいなもの》に対しグロイ殺したかをしたが、ヨウは神を『人型の怪物』ぐらいにしか認識してないので、『人を殺しちゃった! 罪悪感を感じざる負えない!』、何て事は起きない。
異空間に剣を仕舞い、地面に突き刺さっている龍神の剣を拾う。神の肉体が故に龍神の剣の様な切れ味が無ければ切断は難しいかもしれない、と考えたが、心配は杞憂だったようだ。
「何度も」
何度でも、
「俺は蘇る─────いやぁ、失念していた。『龍殺し殺し』があったな。ヴァリアントレリオンも厄介なモン残したよ。普通の剣だと思って油断してた」
「……? なんだそれは」
「言わねえよ。お前が知っても意味のねぇ情報だ。それはある意味での最終兵器だからな」
さて、と、彼は前置きして何かを言おうとした。
ヨウはそれを無視して斬りかかる。純粋に聞こえなかったのだが、
「────話は最後まで聞けよ」
「ァガッ!?」
鳩尾に拳が入り、そのまま吹き飛ばされる。痛みに悶えすぐさま剣を構えるが、相手は元の位置からゆるりと歩いてくるだけだ。
どうやら、言葉通り話を聞けという事らしい。守る理由はない。無いが────
《今のスピードは……!?》
拳を入れる速度、それが今までとは段違いだった。今までを6とすれば今のは10といった所だろうか。正直いきなり加速した攻撃速度に対し、様々な憶測が脳裏を過るが……少しの間、大人しく話を聞くことにした。
「……」
「それでいい。少しさ。ほんの小さなこと」
と、彼はもう一度前置きをして。
「─────そろそろ、終わらせようと思ってな」
「ッゥ!! 何をする気だ!」
相手の殺意が、力が、魔力が爆発的に上がったのを感じて、ヨウは恐怖のままに叫んでいた。
彼は嗤うだけ。嗤って、そのまま手を広げた。まるでこの終わり征く世界を慈しむ様に。それでいて、真反対の感情─────憎しみも向ける様に。
それは始まる。
「精々回避しろよ─────『生命は終わりなく続く奔流、今もどこかで巡る物なり」
ヨウは飛び出し、継輝神に斬りかかる。しかし、焦って繰り出した攻撃など通用するわけもなく、簡単にいなされ、頭を掴まれた挙句地面に押し込まれた。
「有象無象に平等なる死を。始まりの樹と終焉は混ざり合い、二極生み出す螺旋となる。内に秘めるは始まりの終わり。外に宿すは終わりの始まり─────」
「ッ!」
このままではいけない、と、本能が訴えた。腕の力を振り絞りその拘束から弾かれるように脱出すれば、地面を転がりながらも体勢を直す。
今までノータイムで発動されていた回復魔法。だが、今回は詠唱付きで、しかも長い。其処から繰り出される魔法はどのレベルなのか。超級、王級─────神級?
「────頂点に在るのは大いなる自由。さぁ、激しく優しい死へ導こう────」
何かが来る。
何かが始まる。
何かが終わる。
「────我が名は継輝神。生命と自由は望むがままに』」
それはヨウの命か、
それともこの世界か。
「『終焉樹』」
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