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第二章 学校の怪談
13 学校の亡霊
しおりを挟む「山吹小学校ではいつも最後に“佐藤さん”が校内を戸締りしてるんだ。で、その後は俺が鍵を預かって見廻りしてるんだ。」
「そ、そうなんですね。……大変失礼しました。」
東屋は管理人の佐藤さんに何回目か分からない謝罪を述べた。
「こちらこそ、驚かせてしまってごめんなさいね。」
佐藤さんは申し訳無さそうな顔をする。
「でも、あの事件以来いつも見廻りして下さって有難うございます。私の管理が甘かったばっかりに……。」
「いえ、そんな。」
「そんなことあるわ。真夜中の見廻りだって本当は私がしなくてはならないのに。」
気にしたこと無かったが、佐藤はその事がずっと気掛かりだったらしい。でも、お年寄りの女性に犯人を追いかけることも、捕まえることも難しいだろうし、そうなるとやっぱり自分達が適任だったと思う。
「先生や児童達は数年でこの学校を去ってしまうけれど、私は学校の管理人になってからずっとこの学校に居るの。」
ある意味学校に住み着いた亡霊ね、と佐藤さんは言った。
「でも、あと1年でこの校舎ともお別れだと思うと寂しいわ。」
佐藤さんはそういうと東屋に付箋のメモを渡した。
「これは金庫の暗証番号よ。……終わったら……鍵は校長室にある金庫にしまって帰って頂戴ね。」
「かしこまりました。お疲れ様です。」
佐藤は「おやすみなさい」と言うと校舎を後にした。東屋と匠で貰った付箋を見た。
暗証番号は恐らくデフォルトであろう『0000』だった。もしかしたら暗証番号の変え方が分からないのか。
「どんだけノーガードなんだよ、この学校。」
新築の校舎を受け渡す時には、マニュアルを持ってしっかり説明してあげなくては。
◇◇◇
もっと早く気がついていれば。
自分の卒業した学校が無くなるなんて、誰が想像しただろう。
数年県外に出ているうちに物事はかなり進んでいた。
人からの聞き伝えでその情報を得て、工事を施工する会社に紙を入れた。流石にそれで工事が中止になるとは思っていない。でも、一言文句を言ってやらなければ気が済まなかった。
自分も小学校の記憶がきちんと残っているかと言われれば、全てがぼんやりしていて曖昧だ。
ただ、2つだけ確信がある。
『あの校舎を壊されてしまっては困るんだ。』
『あの場所に建物を建てて貰っては困るんだ。』
その前に見つけなくては。
だから、鍵を盗んだ。
◇◇◇
鍵を手に入れるまでは良かった。
用事が済んだらさっさと返すつもりだった。しかし、自分の想定外のことが3つ起こって予想以上の時間が掛かっている。
まず1つ、教室の配置が変わっていた。三階にまず4年生がいる時点でおかしいことに気がついた。3組まであったはずのクラスが2組までしかない。教室の中を見たがどれも同じ内装の上、記憶が曖昧でどこが自分のクラスか分からなくなった。
次に2つ、校舎に入れたのは良いが窓の外が暗く、残した目印が分からなかった。焦った自分は人が居ないのを確認して工事現場に進入し、記憶だけを頼りにして穴を掘った。途中足に何かが引っかかったり、抜けたりしたが気にせず捜索した。しかし、当然見つけることは出来なかった。
最後に3つ、何かしら見廻りや警備を行うだろうと予想はしていた。奴らの先回りをして存在を気が付かれない様に校舎の探索を終わらせたかった。
だが、探索初日に教室の配置が変わっていることに動揺して、動き回ったのがいけなかった。
教室を確認するため音楽室に近寄ろうと男子便所の前を通った時、自分の影に反応して水が勝手に流れ出した。そういえば、昔から流れていたと今更思い出して、未だそのままにしてあることを呪い、その日の捜索は打ち切りにした。
今日も、根気よく見廻りしている奴らの気を引いて他の階を見廻っているうちに教室の捜索しよう。
校舎の外から双眼鏡を使って奴の位置を把握する。
どうやら今日も見廻りは1人だけらしい。
初日はスーツの奴が一緒に居たが、次の日はヘルメットを被った作業着が1人で見廻りしていた。今は人影が二階の廊下を歩いている。ヘルメットのライトが外からよく見えて、進入するタイミングが掴みやすい。人影が教室を入っていった隙を見計らって校舎の玄関から鍵を使って堂々と進入する。登る階段は左右どちらでも良い。音をたてないように二階へ上がると廊下に出る手前の階段の影に身を潜め、手鏡を使って廊下を間接的に写して、見廻りが教室を出てくるのをじっと待つ。
ヘルメットの見廻りが廊下に出てきて階段を降りようとする。今日は運良く自分のいる階段と反対へ歩いて行ってくれた。もし、こちらに向かってきた場合は急いで反対側の階段へ回り込む。
見廻りは一階に降りたようだ。一階の教室を見廻っている間に自分は三階に上がる。
さて、今日はどの教室を探索するか。
昨日は『倉庫』と『4ー2』を見たので、今日は『5ー1』からにするか。
盗んだ鍵を使って『5ー1』の教室の後ろから進入する。
「よぉ、お前が来るのを待っていたぜ。」
「!?」
声をした方を見ると、教台に誰か立っていた。目が暗闇に慣れて、月明かりが窓から差し込み、そいつが作業着を着た男だと分かる。
一階に降りたのでは!?
はめられた、そう気がついた時には急いで入ってきた扉から廊下へと飛び出した。
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