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第二章 学校の怪談

5 一級フラグ建築士

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 結局、事件の対応に追われ、今日の定例会議は延期になってしまった。

 しかし、工事を止めるわけにはいかないので仕方なくプレハブの現場事務所で『分科会』をすることにした。分科会とは、定例会議とは違い、建築主を抜いた専門的な打ち合わせをする場だ。

「早速出鼻を挫かれましたね」
「お前がフラグを建てるから」

 匠が準備してくれていた質疑書や工程表をチェックする。逆に東屋が準備した仮設計画図を匠が目を通す。

「校舎の見廻りもそうですが、仮設の周辺の飛散物にも気をつけてください。釘や金属片がグラウンドに飛んでいないか、毎朝確認を宜しくお願い致します」
「見廻りばっかりだな」

 匠が不満を漏らす。

「仕方ありません。今回は旧校舎を使いながら、グラウンドに新しく校舎を作る計画なんです。子供たちは普通に工事現場の近くを生活しているから、特別気をつけないと」
「そうですね」

 今回の工事中、学校を休みにする訳にはいかないので、旧校舎を使いながら、グラウンドの一角に新しい校舎を建てる計画とした。新しい校舎が完成したら児童に引っ越してもらい、それから初めて旧校舎を解体する。そして、最後にグラウンドを再整備するという工程だ。

「それと、工事範囲を囲う『仮囲い』にも気をつけてください。子供たちが万が一触っても倒れないように、地面にしっかり固定しておいて下さい」
「わかってるよ」

 私達に出来るのはこれ以上問題を起こさないように気をつけることだ。

「しかし、今回の事件一体犯人は何が目的なんでしょうか」

 ふと、匠は何かを思い出したように作業着の内ポケットを探る。取り出したのは封筒に入っておらず、ぞんざいに折りたたまれた一枚の紙をだった。

「・・・ひょっとして、関係あるかもしれない。」
「?」

 東屋は匠から紙を受け取って中を開いた。便箋サイズの紙には明朝体で文字が印刷されていた。


『山吹小学校の建替えに反対
 工事を中止しろ  6-3』


「……これは?」東屋は用紙から目を離して匠を見た。彼は眉間に皺を寄せ、足と腕を組んでを首を振った。

「わからない。昨日、俺の会社の郵便受けに入っていたそうだ。事務のやつが担当の俺に渡してきた」

 匠が先程話があると言ってきたのはこの事だろう。東屋は疑問に思う。

「一緒に住民説明会しましたよね?」
「そうだよな。近隣の住宅にも説明して回ったし、騒音や工事車両が通学路を通るとき気をつけるように言われただけで、特に建替え自体には反対されなかった」

 東屋は不思議に思う。

「例えばこれが、今回の窃盗事件と関係があるとして、どうして犯人は旧校舎の鍵が必要だったのでしょうか。旧校舎の鍵があれば工事を妨害もしくは中止出来ると思ったのでしょうか?」
「……関連性があるようで、無いな。」

 匠が機嫌悪そうに話す。

「こいつのせいで、昨日は上司に『ちゃんと説明したのか!』って延々説教されたんだよ。しかも、その後、日付変わるまで飲みに連れ回されて……ほんと最悪」

 それで、寝不足なのか。
 彼を少し気の毒に思う。

「じゃあ、今日夜11時にここで待ち合わせして、一緒に校内を見廻りしましょう」
「ねえ、話聞いてた?」


◇◇◇



「本当に今から出かけるわけ?」
「夜は危険ですよ?」

 そして現在時刻PM10:30。
 東屋は匠との約束のため、高梁建築事務所を出る準備をしていた。ここから、山吹小学校まで車で30分。昼間ほど車は多くないと思うが、それでもそろそろ会社を出なくては。

「大丈夫です。見廻りは匠さんと一緒にしますから」
「そこが問題なんだよなぁ~」

 高梁と楢村は既にルームウェアに着替えて就寝の支度を済ませ、そして東屋の出かける支度を眺めていた。匠と約束してしまった手前、今更匠一人に任せるのは申し訳ない。そう先生に説明したが、なかなか首を縦には振らなかった。

「いいよいいよ、別にあいつに任せておけば。あいつタフだから、刺されたくらいじゃ死なないよ。多分」
「ありかちゃんの代わりに私が行きましょうか?」

 楢村まで東屋を引き止める。
 私が一番年下だからか、二人は些か過保護すぎる。

「もぅ!二人とも子供扱いしないでください!私は、そんなにか弱くありませんから!」
「階段登るだけで息切らすやつが何言ってんだか」
「子供扱いしてるわけじゃありませんよ?」

 東屋が予想していたよりも二人はしつこかった。半ば強引に話をつけて事務所の出入り口まで移動したが、二人もわざわざ一階まで東屋に付いてきた。

「兎に角、出掛けてきます。お二人は先に寝てて下さいね。おやすみなさい」
「匠になんかされたら気にせず殴れよ?」
「彼に脅されているならちゃんと相談してくださいね?」
「?」

 私は一体何と戦っているのだろうか。
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