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≪現在②≫
17 布団の上でセックス 後
しおりを挟むさくらはじっと、瞬き一つせずに二人を見ていた。
「っぁ、ん、んんっ! ん……っ いっ、ぁん、ふっ」
障子の隙間から必死に声を抑えようと歯を食いしばる文香が見える。
それでも激しすぎる男の欲望に翻弄され、漏れ出る嬌声を完全に抑えることはできないようだ。
「はぁ、っ、ふみか、ふみ……」
「んあっ……!?」
バックから激しく文香を突く男。
それでもその荒々しい腰の動きとは裏腹に男は愛しそうに縋り付くように文香を抱きしめている。
涎を垂らし、涙を流す文香の顔が可愛くて堪らないとばかりに見つめ、背後から無理矢理その唇に噛みつく。
「ふぅっ、んっ」
突然奪われた呼吸に、文香がいやいやと首を振ろうとするが、結局男の前では無力だ。
一瞬、男にキスされる寸前。
文香は確かにさくらの方を見た。
「ふみちゃん……」
さくらは今初めて文香が他の男とセックスする場面を見ている。
今まで数えきれないぐらい、様々な人間のセックスシーンを鑑賞してきたが、これほどさくらの魂を、その根本を揺らす光景は初めてだ。
さくらはずっとこのときを待ち焦がれていた。
文香が他の男と、唯一身体と心を許した過去の男とセックスする。
さくらのために、あれほどまでに拒絶し、憔悴する原因となった男と。
さくらの赤くなった目には文香と男の噛み合わない様がよく見えた。
男は無我夢中で文香を求め、全身から、愛を乞うている。
強烈なまでの愛欲はさくらの鼻腔をつき、煽った。
今、この場にいるだけでさくらの身体に精気が漲る。
男の濃厚すぎる精気と、文香の献身がさくらを本来の姿に導く。
「ふみちゃん…… ふみ、か」
何度、射精しただろう。
何もしなくても、さくらのペニスは文香に興奮し、勝手に欲望を放ち続けた。
文香が男を押し倒し、さくらが近くにいることを知りながらも懸命に誘惑しようとする。
健気な文香にさくらの胸と下半身が熱くならないはずがない。
熱く、そして酷く苛立った。
可笑しい。
さくら自身予想外なほど上手く行っているのに。
文香の心にもう男への未練はないと知りながら、どうしてこんなにも腹の奥が捻じれそうな苦痛を抱くのか。
あの男は、昼間の男とは違う。
さくらにとって、今文香を貪っている男は曖昧で不可思議な存在だ。
しかし、その特殊過ぎる男と文香の関係に危機感を抱いたことはない。
だが、あの眼鏡の男、渡辺恭一はさくらにとって未知の脅威だ。
恭一は文香に欲情しない。
それなのに、慕っている。
文香もまた、そんな恭一にさくらには理解できない奇妙な信頼を抱いている。
淫魔であるさくらには決して分かり合えない価値観で二人は繋がっているのだ。
だからさくらにとっての脅威は、鼻持ちならない男というのは渡辺恭一ただ一人だった。
今、文香を抱いている男はさくらの脅威にはならない。
そう思っていた。
そのはずだ。
だが、何故。
「ふみちゃん、僕…… 可笑しくなったみたい」
男が文香にキスをした瞬間。
さくらは強い衝撃を覚えた。
昂る下半身を慰めることも忘れ、ひどく、ひどく心が痛み、訳も分からず目の前が真っ赤になった。
文香はさくらが見ていることを知っている。
だから、抵抗した。
それでも、すぐに男に身を委ね、むしろ積極的に唇を合わせていくのをさくらはただ見ていた。
ショックだった。
ショックを受けたことがショックだ。
その後さくらの目の前で男は我が物顔で文香の身体を暴き、途中まで開発したアナルすらも自分のものだとばかりに愛撫するのを見てさくらは興奮と同時に吐き気を覚えた。
文香はさくらのために男に身を捧げている。
さくらにとって、文香と男から放つ精気はまさに命の源でありご馳走のはずだ。
なのに、辛い。
辛いのに、もっと文香がさくらのために男の愛撫を我慢するところを、感じて自己嫌悪に陥るところを、無意識にさくらを求めて視線を彷徨わせるところを見ていたい。
もっと、淫らに喘いで、そしてさくらを求めて他の男に抱かれる文香が見たかった。
それはさくらの淫魔としての本能だ。
だが、淫魔という特性すら届かない、さくらの原始的で純粋な魂が痛みを訴えている。
燃えるような殺意すら湧く。
これはなんだ。
この泣きたいような、今すぐにでも理不尽に文香に酷いことをしたいような。
これの感情は一体なんだろう。
初めてではなかった。
文香と出会ってから、何度も嫌な気持ちを抱いた。
けど、こんなにも激しく狂いそうなことはなかった。
「今、すごくふみちゃんに酷いことをしたい。酷いことをして泣かせて、僕だけを見て欲しい」
文香の心はさくらのものだ。
さくらのために男に抱かれている文香は何よりも美しく淫らで、これ以上ない眼福のはずなのに。
興奮する肉体と裏腹に心が切なくなり引き裂かれそうな痛みに喘ぎそうになる。
「僕は…… 嫉妬しているのか?」
ファミレスで兄弟が言ったことを思い出す。
『それはきっと、嫉妬だな』
嫉妬。
何を言っているのだと思った。
この僕が一体何に嫉妬するというのか。
誰よりも美しく、完璧な僕が。
嫉妬など、自己愛に満ちた淫魔には遠い感情だ。
愛と欲望の世界で生きる淫魔にとっては身近なものでありながら、最も理解できない感情だった。
淫魔がこの世で最も尊く愛するのは自分自身だからだ。
自分を至上とする淫魔が何を妬むというのか。
「ははは…… やっぱりふみちゃんは凄いな」
どんなに否定しようとも、きっと今さくらを支配している暗い熱は、嫉妬の炎そのものだ。
赤く、欲情したさくらの目が文香を捉える。
可哀相に、文香の丸い尻は真っ赤になっていた。
絶頂を迎えようとする男が狂ったように腰を打ち付ける音がさくらの鼓膜を揺らす。
じっと、男を嘲いながら、そして嫉妬しながら、さくらは早くと願う。
早く、文香の中に精気を吐き出せと願いながら、今すぐにでも引き離して食い殺したいという凶暴な本性が呻く。
気づけばさくらは首元のチェーンに繋がれた指輪を握りしめていた。
男と繋がった文香の左手には同じ指輪が光っている。
さくらと文香。
二人だけの誓いの証。
「ふみちゃんは、僕のものだ」
そんな当たり前のことをさくらは狂いそうな嫉妬とともに吐き出した。
さくらの目の前で、男が文香の中に射精する。
*
初めて中出しされた。
そのことに特に感慨はなく、ただ慣らされ感じやすくなった文香の身体がそれに喜びを抱いてることが分かった。
けど、文香の心は不思議と穏やかで、静かな達成感が少しずつ広がって行った。
「文香……」
汗ばみ、怖いぐらいに文香を抱いていた優が、じっと文香を見下ろしている。
ぼんやりと霞んだ文香の視界に映る優はいつもの優ではなかった。
だが、今の文香には関係のないことだ。
どろどろとしたものが、深いところから流れ出ていく。
排泄するのとはまた違う、不思議な感覚。
無意識にそれを確かめるように文香の視線が、手が下半身に伸びる。
そんな文香の行動を優は唾を飲みながら凝視していた。
文香の指が陰部を撫でる。
それだけで、どろっとした粘液の存在が分かった。
薄っすらと笑みを零しながら、腹に力を入れると、ごぽっと下品な音を立てて溢れ出て来るのが分かる。
粘ついたものがゆっくりと文香の尻を辿り、布団に染みを作るのが分かった。
「……よかった」
文香の指にかかった白濁。
汚れた手を顔の前に翳し、文香は安堵した。
笑みを浮かべる文香を優は荒い息を吐きながらじっと見ている。
優の目の前で、文香は微笑む。
「いっぱい、でた」
擦れた声と不釣り合いなほど、そのときの文香の声は無垢そのものだった。
文香の視線は優を通り越し、その背後に向けられている。
「っ、文香……!」
それに気づかず、優は衝動のまま文香を抱きしめようとした。
そして、優の意識はそこで途絶えた。
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