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佐々木さんは気づいてしまった
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しおりを挟む(よし…… なんとか乗り切った)
なんだ、やればできるじゃん自分と佐々木は自画自賛したい気持ちでいっぱいだ。
昨日の今日で工藤くんとどういう顔して会えばいいのかと悩みに悩んで色んなシミュレーションもした。
(にしても工藤くん…… すごいいつも通りだったな……)
佐々木のそわそわと落ち着かなかった不安はいつもの通りに温厚で柔らかな笑みを見せる工藤くんによって沈静化された。
本当にあのときのことは全て夢だったのではないかと思うほど工藤くんは普通で、だからこそ佐々木も落ち着くことができた。
いや、落ち着いたというよりも覚悟が出来たという方が近い。
(あんな若い子に、あんな態度とられたら…… 私もしっかりしなきゃ)
それと年上としての意地もある。
女としての意地も多少あるのかもしれない。
一晩寝た女を前にしてあんな風に冷静な態度を取られるとどうしてか少しだけむかっとしてしまう。
(いや、ありがたいんだけどさ…… 迷惑かけたのこっちだし)
自分でも矛盾していると思う。
そもそもこんな経験は今回が初めてで、何が正解なのかもよく分からない。
今、自分の中で燻る違和感に似たもやもやは果たして当たり前のものなのか。
それとも違うのか。
「……」
ゴミ袋を纏めながら、佐々木は釈然としないものの正体を探るべきか悩んだ。
たぶん、きっと明日明後日になれば薄れて消える。
せっかく工藤くんとのことが何事もなく解決しそうなのに、わざわざ悩んで荒らす必要もない。
ここは大人しく忘れるべきだ。
と、理性は忠告するけど。
「……なんであんなことしちゃったんだろう」
なかなか吹っ切れるものでもない。
日中は仕事に忙殺され、余計なことを考える暇もなく時間が過ぎた。
客がいなくなり、閉店作業を黙々とやっているとつい余計なことを考えてしまう。
「禁酒しようかな……」
酔っていた。
酔っている上にストレスが知らず知らずの内に溜まっていた。
いや、知らず知らずの内にストレスが溜まっていたからあんな酷い酔い方をしてしまったのかもしれない。
あとは欲求不満だったのだろう。
身も蓋も無さ過ぎて、呆れる他ない。
「……はぁー」
重苦しいというよりも非常に情けない溜息が止まらない。
げんなりしながらもゴミ袋を纏め終えた佐々木は重い腰を上げようとした。
「佐々木さん。ちょっと裏に来て」
びくっと。
自分を呼ぶ声に反射的に肩が跳ねてしまう。
後ろ暗いことがあるからではなく、それはもう佐々木の習性みたいなものだ。
「は、はい?」
「ゴミは私がやっとくから。なんか水野さんが呼んでる」
あとは自分を呼んだのが苦手なパートさんだったせいもある。
「水野さんが……? ですか?」
「そう。ほら、ぼーっとしないで早く水野さんのとこ行って」
「……はい、すみません」
声が一瞬上擦ったことを恥ずかしがる暇もなく、佐々木は慌ててバックヤードに戻った。
「……」
そんな佐々木をちらっと一瞥した工藤くんに気づく余裕もないほど。
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