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32話【遊園地デート:1】

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「広いですね」


園内を見渡しながら俺が先輩に言うと、
「そうだな。怜、離れるなよ」と言いつつ先輩は俺の肩を自身の方へ抱き寄せながら話す。
「は、はい」
でも·····これじゃあ離れる事は不可能では?と思う。

ハロウィンイベント中で休日の園内は仮装した家族や恋人、友人達でかなり賑わっていた。
先程、チケットを先輩に買ってもらい(払うと言ったが拒否された)、ゲートで身体検査を受けた際·····スタッフから「申し訳ありません、テロ対策及び犯罪防止の為、被り物を一度外して下さい」と、お願いされた先輩は渋々被り物を外すが、まさか被り物の中はαの··········モデル並のイケメンだとは予想外で、お願いしたスタッフと周りの来場者は赤面し硬直してしまった。
先輩は「もういいですよね」と、再び狼の被り物を被って俺の手を握りその場から逃げる様にして走った。


「はぁ·····それにしても、硬直する事は無いのにな」
走るのをやめた先輩も先程の事を思い出したのか困った表情を浮かべて話す。
「いやいや、けーさんの顔は破壊力違いますから」と俺は間髪入れずに言う。
もし、自分が先輩と何の関わりの無い人間なら多分同じ反応をしていたに違いない·····。

「そうか?他の奴αと変わらないだろ」
「何言ってるんですか、、けーさんの場合はその中でも凄いと思いますよ」
これは本気で言ってる。
先輩以上に顔が整ってて高身長な人を俺はテレビや雑誌等でさえ見た事がない。

(高校の卒業式でボタン全て取られたの忘れたのかな、、この先輩は·····)

「じゃあ、怜は俺の顔は好きか?」
「?、好きですよ。まあ、でも俺はけーさんの笑った顔の方が好きですね」と、深く考えずに答える。
俺の言葉を聞いた先輩は「そっか、良かった」と短い言葉で返すが、声が嬉しそうだったから···きっと素直に嬉しいんだな、、

「あ、話変わりますが卒業式の時にくれたボタン、けーさんの御実家にありませんか?····次の日学校にこっそり行って探したんですけど見つから無くて諦めていたんです」
卒業式の事を思い出した時、芋づる式であの日先輩から貰った第二ボタンの事を思い出した。
倉庫やグラウンドを探してみたが見当たらず、もしかしたら先輩の家にあるのか·····とも考えて諦めた物だ。
あの時は一生会うことは無いと思っていたから·····。

「ああ、あれなら家にある」
「良かったぁ·····って事は、けーさんの御実家にあるって事ですね?」
「いや、今の家。欲しいなら帰ったら渡すけど」
「欲しいです!!」と、俺は食い気味に言う。
誰だって好きな人から貰えるのは何だって嬉しいに決まってる。
「はははっ、分かった。取り敢えず何乗るか決めようか」
ボタンの話はそこで一旦終わり、最初に乗るアトラクションを二人で決める事に。



「···············ただのボタンなのに·····探してくれたんだな、」と先輩が小声で言ったのを怜は聞いていなかった。




✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



この遊園地のアトラクションは観覧車は勿論の事、ジェットコースターやゴーカート、お化け屋敷にバイキング、メリーゴーランド、コーヒーカップ等沢山ある。
二人で話した結果、一番近いコーヒーカップから乗る事になったが待ち時間が二十分で長い列が出来ていた。

「けーさんは乗れないやつありますか?」
待ってる間、俺は先輩に質問する。
「いや特には。怜はある?」
「お化け屋敷がちょっと、、怖いの苦手で···」

幼い頃からテレビで放送される怖い系の番組は苦手だったが、それにトドメを刺したのは両親と一緒に行った遊園地のお化け屋敷だ··········。
人生初のお化け屋敷は、江戸時代のある商人がある日綺麗な日本人形を手に入れた事から始まり、その一家が住む家で背筋も凍るような恐怖体験をし·····やがて人形に殺されてしまう、というもので、当時の俺は血に見せた赤い塗料を塗られた人形や髪がボサボサで赤い糸に絡まる首だけの人形、、、竹に突き刺さった沢山の人形等を見て泣き叫んだ。


「じゃあ、お化け屋敷は無しだな」
幼少期を思い出していた俺に対して先輩が言う。
「すみません、そーして貰えると嬉しいです」
少し·····意外だった。申し訳ないけど、もしかしたら先輩の場合、怖がる俺を見て面白がって行くんでは無いかと思っていた。

「俺が面白がって行くと思ってたか?」
「!、」
図星をつかれて俺は驚いたが、
「はい。けーさんならやると思ってました」と笑いながら返す。
「酷いな、流石の俺でも傷付くぞ」
「けーさんの場合、高校の頃からの行いがそう思わせてるんですよ」
「はははっ、怜にしかしてないのにな」
先輩は俺の首輪を触り·····優しく頬に触れると、
「揶揄うのも優しくしたいのもお前だけだよ」と言う。


「~~~~~~~ッ!!こ、公共の場でやっ、、やめてくださいッ」


とんでも発言をしてきて、俺は直ぐに先輩の手から顔を逸らす。
恥ずかしいし公共の場で何言ってんだ、と思いつつ·····先輩の言葉一つで馬鹿みたいに嬉しい自分がいる、、、、

(俺だけってなんだよ。やめろよ·····先輩も俺の事好きみたいだって錯覚しそうになるから、)
思い出すだけでも顔が熱い。ほんと思わせ発言が多いんだよ·····この人はっ!!!
 


そうこうしている内に二十分は経った様で、俺と先輩はコーヒーカップに乗る。

「やっとだな」
「ですね、コーヒーカップとか小学生振りです」
「俺もそれ位乗ってないかもな」
話しているとカップが回り始め、中央のハンドルを握った。
クルクルと回ってる間「これ終わったら次は?」と先輩に尋ねられて、
「バイキングどーですか?」と俺は笑いながら答える。
「いいな、じゃあ次はそれな」
先輩も楽しそうだ。


コーヒーカップを降りて次のバイキングに向かう筈がトイレに連れて行かれ「履いてきて」と先輩に言われる。
そういえば、紐パンを園内で·····という会話をしていたのを思い出した。

「·····わ、わかりました」

俺は短く返事を返すと奥の個室に入ろうとするが、周りの男性客からは奇異の目で見られて凄く恥ずかしい。
確かに、、、赤ずきんの格好をした男が入って来たら驚くよなぁ。
··········似合ってないのは分かってるし、、


周りの反応に納得しつつ個室に入った後、俺はボクサーパンツを脱いで紐パンを鞄から取り出す。

白くてレース仕様の紐パンはスカートを捲って履いてみると予想通り透け透けだ。
先輩はこんな凄いやつをどうやって購入したんだろうか?
一人で下着屋へ?いやいやいや、無いだろ。
ネットで購入??まあ、それが一番有りそーだな。

(それにしても紐パンはやっぱり慣れない、)

後の紐がくい込んで··········変な感じだ。

紐パンを履き終えた俺はトイレから出ると外で待っている先輩の元へ向かう。

「お待たせしました」
「履いた?」
「はい、履きました。それと···けーさんが最低な変態だと再確認出来ましたよ♡」と、棘のある笑顔をして返す。
「待て。最低はよく言われたが変態は初めて言われたぞ」
「そーですかー?俺にこんな格好させてる時点でかなりの変態だと思いますが」
自身が変態では無いと何故か必死に否定しようとする先輩と、いや·····変態だろ、、、と言う俺の言い合いがバイキングの行列に並ぶまで続く。


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