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8話【仮の番】
しおりを挟む「ビジネス·····ですか?」
「ああ、怜なら信用出来るし俺は怜がいい。勿論、ビジネスだからお礼も出す。話しだけでも聞いてくれないか?」
「······························。」
俺を信用してくれて俺がいい、と初恋の人に言われると·····話しを聞かずに断るというのは流石に出来ない。
(それに、高校の頃お世話になったし)
「分かりました。聞きます」
「ありがとう。実は··········前々から俺の番候補の話が一族の中で出ていたんだ。でも、俺はある理由でそれを断り続けていた。しかし、分家が沢山の番候補を毎度連れて来る。
酷い時はヒート中のΩにラット誘発剤を持たせて俺に襲わせようとしたり、部屋に番候補を忍び込ませたりと、、、まぁ·····色々、」
思い出しているのか先輩は疲れた表情をしている。
「·························うわぁ"ぁ」
まだ聞き始めたばかりなのに既に小崎先輩の苦労が想像出来てしまう。。。
(分家の人えげつない······)
「そこで、父とも話して分家を黙らせる為に仮の番を設ける事にした。分家の方には既に俺の番候補は決まったと連絡がいってる。奴らを騙す為に番を紹介するパーティーが半年後·····来年の三月に開く事が決まって·····怜には当分の間俺の番候補として過ごして貰い、そのパーティーにも参加して欲しい」
「·····理由は分かりました。でも、先輩の家のパーティーって言ったら盛大じゃないですか?」
「盛大と言っても、500人位しか来ない筈だ」
(え"····、位って········500人ってかなり盛大だと思いますが)
「俺みたいな出来損ないΩが先輩の番候補やって大丈夫なのか·····かなり心配です、」
正直、思っていた事よりも事態は深刻で·····俺では力にはなれないと思った。
これは、俺以外のもっとこぅ·····気が利いたり、頭の回転が早かったり、可愛い顔立ちをしたΩが適任だ。
(先輩には申し訳ないけど、、、)
断ろうと口を開けた時、先輩が俺の両手を握り「怜!断らないでくれッ!!怜に俺の番をやって欲しいッ」と懇願される。
「··········でも、俺は取り柄が無いです。家も普通の家庭で、、」
「大丈夫だ、取り柄も家柄も関係ないッ!分家が何か言ったら黙らせる」
「可愛いΩじゃないですし··········」
「余裕で大丈夫だ。俺にとって怜が一番可愛いッ!それに、怜はどっちかというと綺麗だからな。Ωとかそーいうのは関係無い、俺は怜が良いッ!」
(お、俺が一番可愛いとか·····綺麗とか、俺が良いとか·····何か、、熱烈な告白を受けてるみたいだ)
何故か先輩の言葉に胸がそわそわして落ち着かない。
何故だ?
「~~~~ッ、、、ぁっ、食事のマナーとかよく分かりませんし·····」
「大丈夫だ、そこは俺が教える」
断る理由を必死に思いつこうとするが、先輩がこと如く「大丈夫だっ!」と言って全て潰される。
(··········ぅぅ"、これ以上は思い付かない)
「怜の心配事はもう無いか?」
目を輝かせて先輩が尋ねてくる。言っても無駄なのは流石に分かった。これ、絶対···わざとだ·········。
「俺なんかで··········本当にいいんですか?」
「ああ。怜じゃないと俺は嫌だ」
(こんな言葉で拒否出来ない俺はチョロ過ぎる)
自分自身に呆れつつ、
「····はぁ··········分かりました」と、俺は折れて先輩の仮の番候補を引き受ける事にした。
先輩は嬉しそうに微笑むと「ありがとうッ怜」と言って強く抱き締めてくる。
(こーいう所は全然変わらない)
まぁ、やるならしっかり先輩の番をやりきろう。
過去に自分の都合だけで一方的に逃げて心配させてしまったせめてもの償いだ。
それに·····大事な約束の事も知りたい。
「あ、そうだ!お礼の話してないな」
先輩は抱き締めるのをやめて携帯で何かを計算し始める。
(お礼なんて別に求めてないのに)
「····························。」
少しして、、、
「お礼はこれ位でどーだろう?」と、画面を見せてくるが·······その値段を見て俺は血の気が引き、動きが停止した。
何度見ても0の数がオカシイ·····エグい。エグすぎるッッ!!!
「先輩、0の数がおかしいです」
何とか言葉が出した、偉いぞ自分。
「え?ごめんな、少なかった?」
(はあ??何言ってんだ·····この人、、、)
「逆です、多過ぎます!俺はお礼は要りません。お金の為にやる訳じゃないので、」
金持ちの発言は恐ろしい··········。
「いや、これが妥当だよ。これ以上は上げる事は可能だが下げる事は出来ない。小崎家···本家も関わってくる事態だからな」
「ゔ、、」
家の名前まで言われるとこれ以上何も言えない。
「··········分かりました。その金額でお願いします」
諦めて先輩の提示した金額で了承した。
「ありがとう。じゃあ、契約書は後日また会う時に交わそう」
「はい」
俺は頷き、この契約の話しは終わる。
「怜」
「はい」
「俺の事は今後、[先輩]じゃ無くて名前で呼んで」
「名前·····ですか?」
「何処に分家のスパイがいるか分からないからな」
(あ·····確かに、、それは先輩の言う通りだ)
さっきの話しだとそれ位は平気でやりそうだ、、、、
「分かりました。じゃあ··········けーさん、けー君、健、けーちゃん、、、今の所これ位しか思い付きませんが、どれがいーです?それか何か希望の呼び名ありますか?」
取り敢えず、思い付いた呼び名を提案してみる。
先輩は一瞬·····硬直して頬や耳が真っ赤に染まってしまったが、少しして「··········け、、けーさん、がいぃ」と、もごもごしながら答えた。
「けーさんですねっ!けーさん♪、けーさんっ♪」
俺は練習も兼ねて先輩の名前を何度か呼ぶ。
先輩の名前を呼ぶのは初めてで新鮮だ。
すると··········、、、
顎を掴まれて、先輩の顔が近付いたと思うと自身の唇に先輩の唇が軽く触れる。
「 ·····んっ、」
それは直ぐに離れたが·····宝石の様なルビーの目は熱を孕み、今まで見たことも無い破顔した先輩の顔が俺の目に映った··········その表情に俺の心臓は大きく音を立てると脈を打つ速さが一気に増す。
「~~~~~~~~~ッぅ」
(か、顔が熱い····心臓がバクバクするっ、、先輩を直視出来ないッ)
混乱しながら先輩から顔を逸らした。
「なっ、何で·····、、再開してから何度もキス···してくるんですか?」
「嫌だった?」
俺の外ハネしている金色の髪を指に絡ませながら先輩は尋ねてくる。
「い、イヤとかじゃ無くて·····ッ、、そのっ·····他の人にもそーいう事···平気でするんですか?」
なんか·····自分が勝手に傷付いてるみたいで嫌だ。
付き合ってた訳でも無いのに、、、
「良かった。·····キスは怜以外とした事ないよ」
「ッ、、」
「嬉しい?」
悪戯な笑みを浮かべて先輩が聞く。
「 ぁっ 、 ····················ぅ 嬉し···い····です··········」
自分にしては珍しく素直になってしまったと思う。
初恋の相手のキスが自分だけっていうのが馬鹿みたいに嬉しかったから。
「はぁ··········、怜って無自覚な所があるから困る」
髪に絡ませた指を解くと先輩は耳元で、
「あまり煽られると、襲いたくなるから気を付けて」と、色気を帯び掠れたバリトンボイスが囁く。
「~~~~ッ?!??おっ、俺で遊ばないでくださいっ!!」
慌てて先輩から距離をとった。
(くそっ!また揶揄われたッ)
俺のあたふたした行動が面白いのか先輩は声を出して笑う。
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