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第5章★月読教典★
第2話☆ワタルVS裕☆
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サギリ女王は1度裕を見る。
裕はサッとサギリ女王の手を取ってエスコートをした。
「新薬の被験者になってほしいのです。その薬とは……細胞の老化を止める薬。今の年を永遠に生きる薬です」
「へー、そんな薬あるんだ」
「私はこの美しさを失うのが怖いのです。私のために実験台になって下されば、月読教典はただで差し上げます」
「考えてもいいですか?」
ワタルの声に、サギリ女王は眉毛をピクリと動かした。
「わかりました。今日は邪神城にお泊りになって。明日色々なことを説明致しますから。裕、この新婚さんに特別な部屋を用意して差し上げて」
「畏まりました、女王陛下」
素晴らしいお辞儀をすると、裕は2人を案内するためにその場を離れ、城へと足を運んだ。
菫はふと後ろを振り返る。まだ後ろに並んでいる。随分入信しにくる魔人が沢山いるな、とぼんやりと思った。
邪神城を案内されている際、ワタルがわざと挑発的に裕に言った。
「サギリ女王は年を取りたくないのかよ、おにーさん?」
裕はチラリとワタルを見たが、無視をして歩く。菫は未だにフードを取れず、躾のなってない魔人だと思われているかもしれなかった。
「ハニーも年を取りたくない?」
「わかりません。ただ周りが老いて死んで行く中、自分だけ年を取らないのは孤独だと思います」
「だよな。おれもそう思う。気が合うな、ハニー」
「そうね、ダーリン」
裕は菫の声に反応して、歩きながらジッと菫を見てきた。
「聞いたことある声だ。君は……菫かい?」
裕が歩みを止めた。菫は観念してフードを取る。
「菫! もしかして、リョウマとカルラを連れ戻しに来たのかい?」
「さあ? 月読教には入信しにきましたけれど」
裕は眉を潜めて菫を見下ろした。
「彼らは自分から実月姫とアコヤ様の護衛になりたいと名乗り出たと聞いているよ。邪神国の警備は手薄だからね、俺も助かったよ」
朗らかに笑う裕に、計算の色は含んでいないようだった。
「本当か? おにーさんは全てを把握してるんじゃないのか?」
ワタルを見た裕は、不思議そうに首を傾げる。
ふと廊下を曲がり、重厚な扉を開けて部屋に入る男が見えた。
「カルラ様!」
菫が叫ぶと、扉が閉まる瞬間、カルラは菫を見たが、すぐに扉は閉まった。
「あそこは、実月姫の寝室だよ、菫。カルラは実月姫の護衛を任されて、一時も離れず一緒にいるんだ」
「……」
裕の言葉に何も言えなくなってしまう。
「カルラもリョウマも、余計なことを考えないように、自分から記憶操作の薬を飲んだらしいよ。敵国の騎士団長だという、都合の悪いことは忘れたかったんだろうね。俺が記憶がないのも、きっと自分から薬を飲んだんだろうな」
そこまで自分でわかっているんだ、と菫は驚いた。
ワタルはそれを聞くと、突然裕の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。
「へえ、おにーさんは自分が記憶操作されてること、知ってるんだ。これは話が早い」
ニヤニヤしながら胸ぐらを掴むワタルは、ゾクリとするほど甘い声を出し、恐ろしいほど整った顔立ちをしていた。
「おれがおにーさんの記憶を取り戻してやるよ。頭突きにしようか? 解毒薬にしようか? 城の屋上から突き落とすのもいいな。どれか選べ」
菫はワタルの行動に驚いてしまい、ワタルを止めるのが遅れてしまった。
「君は……一体……」
裕がそう言った途端、突然頭を抑えてうずくまった。
「いたい……頭が……」
「へえ、いいじゃん。頭が割れたら思い出すんじゃねえか?」
倒れ込んだ裕に、ワタルはしゃがみ込むと近くにあった部屋の扉を開けた。
中には誰もいなかった。ワタルは裕を蹴って空き部屋に押し込む。
その後ニヤニヤしながら自分もそれに続いた。
「菫はカルラの方へ行け。おれは裕に解毒薬を飲ませる」
小さな声で言うワタルに、菫は「わかった」と言うと、カルラが消えた部屋へと走り出した。
「さて、おにーさん。記憶を取り戻させてやるよ。おれは天界国白騎士団長、竜使いワタルだ。お前らが手に入れたくてたまらない、永遠の命を持つ竜を召喚できる、竜使いだ。覚えておけ」
不敵に笑うと、ワタルは右手を空中にかざす。
右手から白い煙のようなものが発生し、ワタルの右腕を包み込んだ。
ビリビリとこの場に威圧されるような空気に、裕は思わず床に這いつくばった。
「なんだ、この威圧感は……」
裕が何かを召喚しようとしているワタルを見る。
ワタルは不敵に笑いながら右手を裕に向けた。
「いでよ、風竜」
甘い声でそっとワタルが囁くと、ワタルの手から純白の竜が姿を現した。風圧で部屋の中が散らかるように舞い、天蓋付きのベッドも簡単に舞っている。
「風……竜だって?」
裕が頭を押さえながら言った。
風竜は随分小さく、ワタルの肩に乗れるくらいの大きさだった。
「こいつは、竜神渓谷で大怪我して弱ってた。誰かにやられたんだろうな。おれが行ったときは、生まれ変わる最中だった。どうだ、羨ましかろう? 竜は何度も生まれ変わる。若さに執着してるサギリに言ってもいいぜ。まあ、竜を扱えるのはこの世でただ1人、おれだけだけどな」
ワタルが倒れ込んでいる裕を見下ろし、挑発的に笑う。
「違う……生まれ変わりじゃ駄目だ。今の姿の形状を保つ者でないと……」
裕の言葉にワタルは風竜を撫でながら目を合わせた。
「生まれ変わりじゃ駄目だってさ。残念だったな、風竜」
ワタルの声に、風竜が小さく呼応するように鳴いた。
「俺は記憶喪失の前、風竜の味方をするような間柄だったそうなんだ。ワタル、何か知っているかい?」
頭を押さえて言う裕に、ワタルはすぐに首を振る。
「さあな。おれは風竜と契約しに竜神渓谷に行っただけだ。まあ、凄惨な戦いが繰り広げられたであろう爪跡は随所に散りばめられてあったがな」
「そうか……」
裕が考え込むと、ワタルが口を開いた。
「お前はなぜサギリに味方をする? そんなに魅力的な女王なのか?」
裕は風が収まるのを待って、ゆっくりと立ち上がった。
「サギリ様は若い姿のまま月読様に会いたいという夢があるんだよ。永遠の命が欲しいわけじゃない。ただ君の能力をサギリ様に見せたら、サギリ様喜ぶだろうな」
裕は右腰に掛けていた刀を抜いた。
「だからそもそも何で裕はサギリを贔屓してるんだ?」
「……それは」
ワタルは裕に向かってフンと鼻を鳴らす。
「女に現を抜かしたか。俗な奴」
「そんなんじゃ……ない」
裕が頭を押さえながら言った。
「邪神国はヤバい女に蝕まれているな。サギリ、アコヤ、実月。国王の影、うっすいよな」
裕は体勢を整えると、ワタルを睨みつけて同じように不敵に笑う。
「天界国と変わりないだろ。そっちも、国王の影が見えない。竜神女王を巡って、男たちが振り回されている様は滑稽でしかない」
「竜神女王を巡って、か。言い得て妙だな。夢里眼の能力に目を付けて、倭国に戦争を仕掛けたからな」
夢里眼の能力は、実際見た者は多くない。
倭国にいたときは恐ろしい能力だと判断され、使うことを禁忌としていたからだ。
天界国の捕虜になってから、目立って使うようになった。
見た夢が現実になるという特殊な能力を欲しがる国家は多かった。
「勘違いしている国もあるようだが、竜神女王の夢里眼の真骨頂は、未来を視る能力ではない。『未来を創る』能力だ。いずれ天界国の研究により、竜神女王の脳に侵入し、自在に都合の良い夢を見せることが可能になる。視させたものを本当に出来る、恐ろしい能力なんだぜ。みんな欲しがるに決まってる」
風竜がワタルを守るようにワタルの前を飛んだ。
「なるほど。君もその能力が欲しい1人というわけか」
裕が右腰に掛けてある刀に手をかける。
ワタルはそれを聞くとクスッと含み笑いをした。
「想像力が貧相だな、お前は。見通せる力、想像力、思いやり。お前はそれらが圧倒的に足りない。いくら強い魔物を倒そうが、それじゃお前はおれには勝てねえよ」
ワタルがニヤニヤ笑いながら言う。
竜は魔界で1番強いと言われる種族だ。 万物を司り、ときには自然を味方につけて戦う。
気高いが故誰の指図も受けないはずだ。
そんな竜を召喚して命令を下すとは、この白騎士には勝てないだろうと裕はふと思った。
「お前と本気で戦うのも楽しそうだが、今はこっちが優先だ。ほら、解毒薬。飲めよ、記憶が戻るんじゃねえか?」
ワタルが解毒薬の入ったボトルを裕に放り投げる。
「さあ、飲んでみて黒幕を吐けよ。誰に記憶喪失にされた?」
☆続く☆
裕はサッとサギリ女王の手を取ってエスコートをした。
「新薬の被験者になってほしいのです。その薬とは……細胞の老化を止める薬。今の年を永遠に生きる薬です」
「へー、そんな薬あるんだ」
「私はこの美しさを失うのが怖いのです。私のために実験台になって下されば、月読教典はただで差し上げます」
「考えてもいいですか?」
ワタルの声に、サギリ女王は眉毛をピクリと動かした。
「わかりました。今日は邪神城にお泊りになって。明日色々なことを説明致しますから。裕、この新婚さんに特別な部屋を用意して差し上げて」
「畏まりました、女王陛下」
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菫はふと後ろを振り返る。まだ後ろに並んでいる。随分入信しにくる魔人が沢山いるな、とぼんやりと思った。
邪神城を案内されている際、ワタルがわざと挑発的に裕に言った。
「サギリ女王は年を取りたくないのかよ、おにーさん?」
裕はチラリとワタルを見たが、無視をして歩く。菫は未だにフードを取れず、躾のなってない魔人だと思われているかもしれなかった。
「ハニーも年を取りたくない?」
「わかりません。ただ周りが老いて死んで行く中、自分だけ年を取らないのは孤独だと思います」
「だよな。おれもそう思う。気が合うな、ハニー」
「そうね、ダーリン」
裕は菫の声に反応して、歩きながらジッと菫を見てきた。
「聞いたことある声だ。君は……菫かい?」
裕が歩みを止めた。菫は観念してフードを取る。
「菫! もしかして、リョウマとカルラを連れ戻しに来たのかい?」
「さあ? 月読教には入信しにきましたけれど」
裕は眉を潜めて菫を見下ろした。
「彼らは自分から実月姫とアコヤ様の護衛になりたいと名乗り出たと聞いているよ。邪神国の警備は手薄だからね、俺も助かったよ」
朗らかに笑う裕に、計算の色は含んでいないようだった。
「本当か? おにーさんは全てを把握してるんじゃないのか?」
ワタルを見た裕は、不思議そうに首を傾げる。
ふと廊下を曲がり、重厚な扉を開けて部屋に入る男が見えた。
「カルラ様!」
菫が叫ぶと、扉が閉まる瞬間、カルラは菫を見たが、すぐに扉は閉まった。
「あそこは、実月姫の寝室だよ、菫。カルラは実月姫の護衛を任されて、一時も離れず一緒にいるんだ」
「……」
裕の言葉に何も言えなくなってしまう。
「カルラもリョウマも、余計なことを考えないように、自分から記憶操作の薬を飲んだらしいよ。敵国の騎士団長だという、都合の悪いことは忘れたかったんだろうね。俺が記憶がないのも、きっと自分から薬を飲んだんだろうな」
そこまで自分でわかっているんだ、と菫は驚いた。
ワタルはそれを聞くと、突然裕の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。
「へえ、おにーさんは自分が記憶操作されてること、知ってるんだ。これは話が早い」
ニヤニヤしながら胸ぐらを掴むワタルは、ゾクリとするほど甘い声を出し、恐ろしいほど整った顔立ちをしていた。
「おれがおにーさんの記憶を取り戻してやるよ。頭突きにしようか? 解毒薬にしようか? 城の屋上から突き落とすのもいいな。どれか選べ」
菫はワタルの行動に驚いてしまい、ワタルを止めるのが遅れてしまった。
「君は……一体……」
裕がそう言った途端、突然頭を抑えてうずくまった。
「いたい……頭が……」
「へえ、いいじゃん。頭が割れたら思い出すんじゃねえか?」
倒れ込んだ裕に、ワタルはしゃがみ込むと近くにあった部屋の扉を開けた。
中には誰もいなかった。ワタルは裕を蹴って空き部屋に押し込む。
その後ニヤニヤしながら自分もそれに続いた。
「菫はカルラの方へ行け。おれは裕に解毒薬を飲ませる」
小さな声で言うワタルに、菫は「わかった」と言うと、カルラが消えた部屋へと走り出した。
「さて、おにーさん。記憶を取り戻させてやるよ。おれは天界国白騎士団長、竜使いワタルだ。お前らが手に入れたくてたまらない、永遠の命を持つ竜を召喚できる、竜使いだ。覚えておけ」
不敵に笑うと、ワタルは右手を空中にかざす。
右手から白い煙のようなものが発生し、ワタルの右腕を包み込んだ。
ビリビリとこの場に威圧されるような空気に、裕は思わず床に這いつくばった。
「なんだ、この威圧感は……」
裕が何かを召喚しようとしているワタルを見る。
ワタルは不敵に笑いながら右手を裕に向けた。
「いでよ、風竜」
甘い声でそっとワタルが囁くと、ワタルの手から純白の竜が姿を現した。風圧で部屋の中が散らかるように舞い、天蓋付きのベッドも簡単に舞っている。
「風……竜だって?」
裕が頭を押さえながら言った。
風竜は随分小さく、ワタルの肩に乗れるくらいの大きさだった。
「こいつは、竜神渓谷で大怪我して弱ってた。誰かにやられたんだろうな。おれが行ったときは、生まれ変わる最中だった。どうだ、羨ましかろう? 竜は何度も生まれ変わる。若さに執着してるサギリに言ってもいいぜ。まあ、竜を扱えるのはこの世でただ1人、おれだけだけどな」
ワタルが倒れ込んでいる裕を見下ろし、挑発的に笑う。
「違う……生まれ変わりじゃ駄目だ。今の姿の形状を保つ者でないと……」
裕の言葉にワタルは風竜を撫でながら目を合わせた。
「生まれ変わりじゃ駄目だってさ。残念だったな、風竜」
ワタルの声に、風竜が小さく呼応するように鳴いた。
「俺は記憶喪失の前、風竜の味方をするような間柄だったそうなんだ。ワタル、何か知っているかい?」
頭を押さえて言う裕に、ワタルはすぐに首を振る。
「さあな。おれは風竜と契約しに竜神渓谷に行っただけだ。まあ、凄惨な戦いが繰り広げられたであろう爪跡は随所に散りばめられてあったがな」
「そうか……」
裕が考え込むと、ワタルが口を開いた。
「お前はなぜサギリに味方をする? そんなに魅力的な女王なのか?」
裕は風が収まるのを待って、ゆっくりと立ち上がった。
「サギリ様は若い姿のまま月読様に会いたいという夢があるんだよ。永遠の命が欲しいわけじゃない。ただ君の能力をサギリ様に見せたら、サギリ様喜ぶだろうな」
裕は右腰に掛けていた刀を抜いた。
「だからそもそも何で裕はサギリを贔屓してるんだ?」
「……それは」
ワタルは裕に向かってフンと鼻を鳴らす。
「女に現を抜かしたか。俗な奴」
「そんなんじゃ……ない」
裕が頭を押さえながら言った。
「邪神国はヤバい女に蝕まれているな。サギリ、アコヤ、実月。国王の影、うっすいよな」
裕は体勢を整えると、ワタルを睨みつけて同じように不敵に笑う。
「天界国と変わりないだろ。そっちも、国王の影が見えない。竜神女王を巡って、男たちが振り回されている様は滑稽でしかない」
「竜神女王を巡って、か。言い得て妙だな。夢里眼の能力に目を付けて、倭国に戦争を仕掛けたからな」
夢里眼の能力は、実際見た者は多くない。
倭国にいたときは恐ろしい能力だと判断され、使うことを禁忌としていたからだ。
天界国の捕虜になってから、目立って使うようになった。
見た夢が現実になるという特殊な能力を欲しがる国家は多かった。
「勘違いしている国もあるようだが、竜神女王の夢里眼の真骨頂は、未来を視る能力ではない。『未来を創る』能力だ。いずれ天界国の研究により、竜神女王の脳に侵入し、自在に都合の良い夢を見せることが可能になる。視させたものを本当に出来る、恐ろしい能力なんだぜ。みんな欲しがるに決まってる」
風竜がワタルを守るようにワタルの前を飛んだ。
「なるほど。君もその能力が欲しい1人というわけか」
裕が右腰に掛けてある刀に手をかける。
ワタルはそれを聞くとクスッと含み笑いをした。
「想像力が貧相だな、お前は。見通せる力、想像力、思いやり。お前はそれらが圧倒的に足りない。いくら強い魔物を倒そうが、それじゃお前はおれには勝てねえよ」
ワタルがニヤニヤ笑いながら言う。
竜は魔界で1番強いと言われる種族だ。 万物を司り、ときには自然を味方につけて戦う。
気高いが故誰の指図も受けないはずだ。
そんな竜を召喚して命令を下すとは、この白騎士には勝てないだろうと裕はふと思った。
「お前と本気で戦うのも楽しそうだが、今はこっちが優先だ。ほら、解毒薬。飲めよ、記憶が戻るんじゃねえか?」
ワタルが解毒薬の入ったボトルを裕に放り投げる。
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