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第4章★リョウマVS裕★

第10話☆助けて、ワタル様☆

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 コウキとヒサメに挨拶した後、菫とワタルは邪神国へ出掛けることになった。


 リョウマとカルラが何かしらの記憶操作をされた可能性を示唆したら、コウキは自分も行くと言い張ったが、ヒサメに却下をもらっていた。


 今回は、リョウマとカルラのことは天満納言に秘密にし、取り返せたらこの件は黙っていよう、と騎士団長たちは取り決めたようだ。


 仲良くはなさそうと聞いていたが、騎士団長たちの団結力はあるんだな、と菫は感心していた。



「至るところに占いがあるんだな」


 城下町は占いの館がたくさんあり、観光客で賑わっていた。


 菫は早く2人を救うことと、裕のことを考えていて眉間に皺が寄っていた。


「聞いてるか、女中?」


「聞いてますよ、白騎士様。至るところに占いの館があるんでしょ」


「その呼び方やめろ。夫婦なんだから、ワタルって呼ぼうぜ、菫」


「わかりました、ワタル」


「ちょっと、やってみよう」


 ワタルがフラフラと占いの館に入ろうとしていたので、菫が慌てて腕を掴んで引っ張る。


「カルラ様とリョウマ様を助けてからにしましょうよ」


「え? 助けた後なんて、占いなんかやる意味ないじゃん」


 あれ、確かに……と菫は思った。


「どうせリョウマとカルラは俺たちのこと覚えてないんだろ? 敵陣がどんな国か調べるのも立派な偵察だぜ」


 ワタルは鼻歌を歌いながら占いの館に入って行った。随分マイペースだな、と菫はため息をついた。


「菫、こいよ」


「いらっしゃいませ。ご夫婦ですか?」


 店主か、ジャラジャラときらびやかな宝石を着け、露出の激しい洋服を着た女性が声をかけてきた。



「そう、新婚旅行でな、邪神国の占いがいいって聞いて。おねーさん、おれと妻の相性でも占ってよ」


 店主に笑顔を見せると、店主はワタルを見て顔を赤らめていた。


「かっこいい旦那様で羨ましいです……」


 店主が菫を見ると、目を丸くされた。


「お、奥様もとても綺麗な方ですね。美男美女で、羨ましいご夫婦だわ」


「ああ、綺麗だろ? おれの妻は」


 ワタルは菫の腰を抱き寄せる。


「はい……あなたも……」


 店主はワタルの色っぽい仕草にうっとりしながら、椅子を勧めてきた。


「別に占いはしなくてもいいんじゃない?」


「なんで。敵を知っておいた方がいいじゃん」


 菫が小声で言ったが、ワタルは占いの施設自体に興味を持ったようで、勧められた椅子に座った。


「まず、お二人の相性を占いますね。生年月日と年齢、お名前を教えて下さい」


 2人は適当に答えると、ジャラジャラと宝石を場に出して何やらブツブツ言い始めた。


「すごく相性が良いみたい。これは天文学的な確率の相性よ!」


「ふーん、良かったな、菫。さぞ嬉しかろう」


 ワタルがニヤニヤ笑いながら菫を見た。


「うん、嬉しい、ワタル」


 菫は仕方なくワタルにしなだれかかった。


「じゃあ、次は、夫婦生活はどうですか? どのくらいの頻度でしています?」


 えー、こんなこと聞かれるのイヤだなあ、と菫がワタルを見上げると、ワタルもうんざりした表情をしていた。


「そりゃ、新婚だからな」


 ワタルが濁してこちらを見た。菫に任せる気なのだろう。菫は仕方なく口を開く。


「毎日、5~6回くらいかしら」


 菫がカルラを思い出しながら言うと、ワタルがブーッと吹き出した。


「え、なに?」


「いや多いな! お前、そんなに?」


 小さな声で囁くワタルに、あ、多いんだ、と菫は気づいた。


「多いの? あまり詳しくなくて……」


「すげーよ。そいつお前のこと余程好きなんじゃねえか」


「……そうなの?」


 でもあのときは復讐に燃えていたし、恐らく普通の精神状態ではなかったように思う。


 とにかく菫を傷付けることを重視していたのではないだろうか。


「お熱いですね、さすが新婚さん」


「まあ……妻がこの通り魅力的なんでね。おれも夜手放したくなくて」


「わかります」


 ワタルはわざとベタベタ菫に触ってきた。ゾワリと気持ち悪くなった菫は、さり気なくワタルから離れた。


「まあ、夜の方も相性抜群ですよ! これはお2人共眠りたくなくなりますよね」


「ふーん。じゃあ、今度試してみようか」


 ワタルが耳打ちしながらニヤニヤと笑う。


「いやよ、カボシ姫やルージュ様に恨まれたくないもの」


「はは。おれを奪ってくれたらありがたいんだけど。でもお前は誰とでも寝るんだろ? おれにも試してよ。さすがに1日6回は無理だけどさ」


「やめてよ、気持ち悪い」


「なあ、誰だよ、そいつ。あとで教えろよ」


 2人がこっそりと舌戦を繰り広げているとは気づかず、店主は宝石を見て呪文を唱えていた。


「今夜は、月読教の会合の日です。会合に参加すると、お二人共死ぬまで幸せに暮らせると出ていますわ」


 菫とワタルは顔を見合わせた。


「おねーさん、確か月読教の教祖はこの国の女王様って小耳に挟んだんだけど、本当?」


「ええ、本当ですわ」


 店主はうっとりと遠くを見た。


「サギリ様が女王になって、実は月読教の信者だと判明したのは、結婚してからなのです。それから邪神国のみんなは月読教を知り、教祖様亡き後女王様が教祖様になられてね。素晴らしい教えだとわかったの。それから王様も信者になられたそうよ」


 ワタルはそれを聞いて菫にアイコンタクトを送った。菫はワタルを見ると小さく頷く。


「わたしたち、結婚を期に月読教に入信しにきたんです」 


「素晴らしい! そうでしたか。では、会合はきっと素敵なものになるわ。幸せになって下さいね。月読様に愛を!」


 ワタルは最後大きくなった店主の声に驚いてビクッとなっていたが、菫はすかさず右手を上げて大きな声をあげた。


「月読様に愛を!」


「いいですね、奥様。月読様に愛を!」


「月読様に愛を!」


 次はワタルも菫を見ながら甘い声をあげた。





「異様じゃねえか。どこへ行っても月読月読、サギリサギリ、宗教宗教、占い占い」  


「うん……」


 怪しまれないようにいくつか占いの館を回った後、2人は茶屋に入り座って紅茶を注文した。


 ワタルは疲れた表情をして頬杖を付いた。


「天界国と邪神国が同盟組んでからおかしくなったのか? それとも天倭戦争の後か?」


「違うでしょ。サギリ様が国王に嫁いでからでしょ。結婚前にも月読教の信者ということは、教祖が死んだあと持ち上げられたのよ。裏で女王を操る人がいますよ、きっと」


「実月姫護衛、女王エスコートという裕は怪しくないのか?」


「裕がそんな裏工作するわけないでしょ……」


 菫はワタルに聞こえないように小さな声を出した。


「え、なんだって?」


「いえ。裕は操られていると思います。記憶喪失の人はまず操られているとみていいでしょう」


「憶測でものを言われてもな……実情を知るために内部に入りたいな。会合ってやつに出てみようぜ」


「うん……」


 考え込む菫を、不安なのかと思ったのか、ワタルは健康的な真っ白な歯を見せて笑った。


「おれだけじゃ不安か?」


「まあ……」


「かわいくねー。おれを信用しろよ」


 そうじゃなくて、と菫はワタルを見上げた。思ったより優しい目が菫を捉えた。


「邪神国騎士団長とバレていると仮定して、ワタルまで邪神国に取り込まれたらどうするの」


「そのときは……天満納言に泣きつけ。もうそれしかない」


「天満納言……」


「とりあえず偵察して情報収集だ」


 菫は紅茶を飲みながら言うワタルを見ながら頷いた。

 
 リョウマはアコヤに触れられて幸せになれたなら、それは良かったことかもしれない。


 アコヤがこのままリョウマとしばらく行動を共にすれば、アコヤはリョウマの良さに気づくはず。


 そうすれば別れずお互い尊重して生きていける。御剣は国に帰ってもらえばいい。



 それからカルラ。実月姫にかなり気に入られている様子だった。


 昨日は実月姫を慰めに行ったのだろうか。


 優しい目で実月姫を見て、壊れ物を扱うように自分以外に触れたのだろうか。
 

 きっと記憶操作された状態なら、いや、記憶操作されていなくてもカルラは実月姫を大切にしているはず。


 復讐に燃えていたときでさえ、カルラはとても優しかった。


 菫は呑気に紅茶を飲むワタルを見て、思わず深いため息をついた。


「? なんだよ。飲まないならおれにくれよ」


「どうぞ」


 ワタルに紅茶を差し出すと、それもゴクゴク飲み始める。


 世界で1番大好きだ、と言っていたカルラの笑顔が目の奥にこびり付いて離れない。


「どうした、浮かない顔して」


 首を傾げるワタルの目を菫は見つめた。


「ワタルは恋人いないの? わたしと偽装夫婦なんてやって、傷付いてしまう人はいませんか?」


 ワタルは目を丸くして菫を見た。


「別に……いないけど。なに、お前はいるの? おれと夫婦ごっこして傷つくような男が」


「……もういません」


 太一はどうかな、と思ったが、あのうるさい陰陽師は菫をどこか偶像的に見ているふしがあるから、排除した。


 今からワタルと一緒に月読教の会合に参加する。


 菫はあまり気乗りしなかったが、楽しそうに紅茶を飲むワタルを見て、少しだけ気分が上昇したような気がした。



☆終わり☆
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