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第4章★リョウマVS裕★

第6話☆誕生日パーティー☆

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「……すごい顔してるぞ、カルラ。おはよう」


「……うん、おはよう……」


 目を腫らし、顔がパンパンでリョウマの前に出たカルラは、口数少なく挨拶をした。


「どうしたんだ、何か怖い夢でも見たのか」


「うん……白い大きな犬の式神が俺を潰す夢……」


 驚いたのか、リョウマがしきりにカルラを心配している。


「2人は?」


「荷物を纏めている。もうすぐ来るだろう。その前に確認なんだが、裕が倭国王子ということを、天満納言に伝えるつもりか?」


 菫にも聞かれたくない話題のため、リョウマはそっとカルラに聞いた。カルラは首を振る。


「俺は言わない。悪いけど今後菫のために動く。ただ、菫も天界国に迷惑を極力かけないように動いているからね。彼女の目的は、竜神女王様奪還、それからローゼンバッハの娘奪還の二択のみ。このことは……天満納言に秘密にしてほしいけど。まあリョウマの判断に任せるよ」


「見くびるな、カルラ」


 リョウマはカルラを見るとフンと偉そうに笑った。


「俺は家を勘当された。代々赤騎士の家系、そして天界国貴族の身だ。そんな俺が天界城に戻って、赤騎士団長の座でいられると思うか?」


「……どうかな。家柄どうこうより俺が天満納言ならリョウマの資質を重視して解任しないけど」


「フッ。そろそろ双頭院逮捕の経緯が天界城に伝わる頃だろう。そうしたら俺は赤騎士団長どころか、騎士はく奪、さらには天界国に住めないかもな。だから、菫様についていこうと思う。俺が路頭に迷わぬよう、倭国に誘ってくれたからな」


「うん……菫も喜ぶと思う。味方は多い方がいい。彼女は自分に自信がないから、周りを固めてやれば、少しは堂々とやり合えるかもしれない。裕と、弟と、竜神女王様と」


「裕? 弟? 竜神女王? 天満納言じゃなくてか?」


「うん……いいよね、リョウマ。天然って……」


「は? お前昨日から何なんだよ」


「リョウマはそのままでいて。変わらないでね……」


「むかつくな、お前」


 リョウマがカルラを睨みつけたがそれは冗談だとわかるため、カルラは笑った。


「それより心配なのは、リョウマが裕に赤騎士団長だと言っちゃったことだよ。もし裕が俺たちの正体に気付いていたら、何か仕掛けてくるかも」


「ばれたら仕方がない。そのときに考える」




 菫はそっと裕の後ろ姿を見た。少し逞しくなったかもしれない。最後に見たのは三年前、天倭戦争の最中だった。天界国と戦うと言ってきかなかった裕を、王党派の大臣たちが睡眠薬を飲ませ、大臣たちと共に逃げたということを隠密部隊から聞いていた。



 菫はその頃、隠密部隊を逃がし、侍女や城で働く仕官たちを誘導し、隠れ里に逃げた。


 弟は糸のついていない凧のような男だったため、当時は戦ったりもしたのだろうか。


 裕は何故邪神国で倒れていたのだろう。


 大臣の仕業だろうか。王党派は裕を王にしたがっていた。もしかしたら改革派の誰かかもしれない。だとしたら裕や王党派のみんなに申し訳がたたない。


「菫、おはよう~」


 目を腫らしたカルラの落ち着いた声に、菫はホッとため息をつく。


「おはようございます」


「良く眠れたか? 見ろ、菫。カルラの目! 怖い夢を見て泣いたらしいぞ」


 ククッとおかしそうに笑うリョウマを見て、再び菫はホッとため息をついた。


「やあ、みんな。おはよう」


 ニコニコと笑いながらきた裕の雰囲気は、菫に良く似ていた。


「お兄さんは邪神国に帰るんだろ? 俺たちも邪神国に行って、天下の占いをしてもらお~」


 旅人と言った気がしたため、カルラは適当に言い訳を言った。


「君たちを城に招待したい。今日は女王の誕生日パーティーがあってね、国を上げた祝日なんだ。君たちもパーティーに参加して欲しいんだけど」


「いや、俺たちはただの旅人だ。急な参加は失礼だろう」


リョウマは焦ったようにすぐ応答した。裕はニコッと微笑むとリョウマを見下ろした。


「大丈夫。俺が口添えをするから。立食だし、ただ食べて踊って、楽しいよ」


 裕は女王のパーティーに口添えをするだけで、少し前に知り合った得体の知れない旅人も参加できるようにする権限を持っているの? と菫は衝撃を受けた。


「俺は参加しようかなあ」


 カルラが呟いた。


「美味しい料理、出るかなぁ。楽しみだなあ」


「ああ、沢山食べられるよ。芸能関係でお忍びの魔人も多いから、抵抗あるなら仮面着ける人も多いよ」


 仮面と聞いて、菫もリョウマも頷いた。


「仮面か……それなら参加するか」


「わたしも参加します」


 カルラは慌ててリョウマに囁いた。


「女王の誕生日ってことは、妹のアコヤ様も呼ばれてるんじゃないの? さすがに仮面着けても自分の夫だとばれるんじゃ……」


「大丈夫だろ。アコヤは俺に興味がない。仮面着けていればバレないだろう」


 3人は顔を見合わせ頷きあうと、参加の意思を裕に伝えた。




 
 リョウマは漆黒に真紅の刺繍が入ったスーツを纏い、黒い薔薇の模様の入った仮面を着けた。カルラは白にオレンジの刺繍を入れたスーツを着て、いつもの眼鏡をしている。


 菫は黒のフレアスカートに青の刺繍が施してあるドレスに、青い蝶の仮面を着けた。


「菫様、女神のように美しいです」


 リョウマがすかさず言うと、菫の手を取ってエスコートをする。


「ありがとうございます」


「うわあ、リョウマ、これアコヤ様が見たら修羅場だよ~、ヒヒっ」


 カルラも独特に笑ってから、菫に向き合う。


「でも仮面も着けたから大丈夫かな。リョウマは髪が長いから、目立つなあ」


「カルラは相変わらずだな……シルエットは良いのに……お前パーティーに出るのはいつぶりだ? コウキの凱旋パーティーには出ていなかったものな」


「うん、親戚のパーティーに出た以来だから、もう3年前かな?」


「お前、賑やかなの苦手だから、いつもどう断るか考えているだろう」


「まあね。籠もって1人で研究してるのが1番いいや」


「菫様は慣れているでしょう?」


 リョウマの問いに菫は首を振った。


「慣れないですね……わたしも苦手です。ただ立場上自分の役割はこなしていましたけれど……」




 パーティー会場は邪神城の一室だった。


 色々な人がいるらしく、仮面の魔人が多かった。警備はいるようだが、意外と簡単に入れるものだな、と菫は思った。


「裕は? どこかなあ?」


 カルラが言った途端、会場が暗くなり、スポットライトが当たった。そこから1人の華やかな女性が、純白のドレスを纏って、誇らしげに現れた。


 女王だ、と3人は一瞬にして悟った。


「女王様!」


「おめでとうございます、サギリ様!」


「素敵ね、相変わらず」


「美しい……!」


 拍手に混ざり、すすり泣く人の声も聞こえる。


 なんとなく異様な雰囲気だった。


 サギリ女王を持ち上げるような、誰も批判的な意見が出ないような、一種の異質な団結力をその場に感じる。


「あっ、裕だ」


 カルラが驚きの声を上げる。


 女王の隣で、茶色のスーツに身を包んだ裕が、女王に肘を差し出し、エスコートをしながら壇上を歩いていた。


「え、女王のエスコート?」


「王様の立場は……?」


「あれではまるで……間男ではないか」


「ま、まおとこ!」


 驚きすぎた3人は、思わず大きな声を上げてしまい、すぐに顔を見合わせ、唇に人差し指をあてた。

☆続く☆
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