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第3章★心を操る秘薬開発★
第9話☆屍体愛好癖☆
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「死体しか愛せない、屍体愛好家なんだ」
「死体?」
菫が反芻する。性癖だとは思っていたが、菫が思っていたよりも特殊ではあった。
「コウキは結構死の監獄に遊びに来ることが多い。ここは要人の死体安置所として、死体を綺麗に保存しておくための研究もしているし、実際国王様や……その、八雲の死体もあっただろ」
「はい」
「コウキは気に入った女……男もなのかな。その辺は知らないけど、一番その魔人が美しい時期に殺して、ホルマリン漬けにして永遠に保存させる。保存させた死体を、冷たいまま愛するんだ」
変態というより、もはや狂人ではと思ったが、菫は話の腰を折るのも何なので黙っていた。
「……菫? わかる? 愛するっていうのは……ほら、俺たちがその、何度もやったみたいな……その、感じで……」
「わかります、わかりますよ」
黙っていたので変に思ったのか、カルラが詳しく説明しようとしていたようなので、菫は慌てて頷いた。
「ほんとにわかってる?」
え、と思った瞬間、ベッドに押し倒されていた。
「こういう、感じで……」
驚いた菫の大きな目と、カルラの迷うような視線が交錯した。しばらく二人はそのまま硬直したように時が止まっていた。
「……ダメだ。なんか今まで普通にアンタに触れてたけど、もう違うな。ちょっと、今までがハードル下がってたけど、もう、こんなこと出来ないな。身分違いだし」
「カルラ様……」
「カオスから菫の話を聞いて、俺はずっとアンタのこと好きな気でいたけど、アンタは違うもんな……」
カオスから聞く兄の話を、菫も楽しみにしていた。
カオスが落ち込んでいたら、道化を演じて敢えて明るく振る舞ってくれたこと。
飼っていた白い烏が死んだとき、泣き過ぎて目をはらし、その後30日程家出して悲しみに暮れる旅に出ていたこと。
女の人に興味はあるくせに声をかけるのが苦手で、せっかく背が高いのにたちまち猫背になって挙動不審になってしまうこと。
割と顔が整っているから一目惚れされやすいけど、告白されるとき挙動不審になるため、告白はなかったことにされ、気味悪がられること。
やがて告白されないように、目を隠すような野暮ったい髪型にし、眼鏡を掛けて素顔を隠し始めたこと。
気が優しいから、兄妹喧嘩をしてもお兄ちゃんが必ず先に折れて謝ること。
家族を大切にしてくれること。
月光浴が好きなこと。
一人が好きで、休日は家で静かに本を読んだり、昼寝するのが趣味なこと。
情に厚く、泣き虫なこと。
学問が好きで、将来は倭国王室で魔術研究をしたいという夢があったこと。
宮廷陰陽師がその役割を担うと聞いて、何故か夢を勝手に諦めたこと。
不器用で誤解されやすいけど、優しくて大好きなお兄ちゃんだと嬉しそうにカオスが笑っていたのを思い出し、菫は何故か泣きそうな気持ちになった。
「菫様? ごめん、もうしないよ」
カルラは菫の背中に優しく手を入れて起き上がらせた。
「1つ教えてくれないか。カオスが生きていることをすぐに言えばよかったのに、何故俺の言いなりになったの? 自分を傷つけてまで」
「あなたはずっと孤独に耐え、復讐を誓ってきたのでしょう。成し遂げるために費やした時間を無駄にしてほしくなかったの」
「でも、真実を知って俺が後悔するとは思わなかったの? 自己欺瞞とも取れるやり方だと思うよ」
「そう、ですね……ごめんなさい」
「うん。多分、アンタは少し……いやかなり間違った。俺の感情を大切にしすぎた」
カルラは菫の目線に合わせて身を屈めると、ゆっくり落ち着いた口調で静かに続けた。
「菫。何でもかんでも倭国民のために自己犠牲で奉仕するのが良いとは限らないんだよ。戦争を仕掛けてきたのは天界国だろう。アンタが罪悪感に苛まれて、自国民の言うことを何でも聞くのは為政者としてかなり危険な思想だと思うよ」
「カルラ様……」
「アンタは倭国民の考えをそのまま聞くんじゃなくて、自分の思うように動いて大丈夫。カオスの話をずっと聞いてきた俺が保証する。それでも間違うようなら、俺が言うから。だから自分の考えを突き進め」
「……は、い……」
菫は目に涙を溜めながら頷いた。そんな菫を見てカルラはそっと指で涙を拭う。
「まあ気持ちはわかるけどな……俺もきっとアンタの立場だったら、そうしてたかもしれない……」
しんみりした空気を吹き飛ばすかのように、カルラがコウキの話をした。
「まあ、そういうわけでコウキに目を付けられたらご愁傷様なわけだ。菫もあれだけ執着されていたら、気を付けないとあと2年くらいで殺されてしまう」
菫は肩を竦めてカルラを見る。
「そっか、あと2年も経たないと、一番美しい時期になれないのね。それまでに倭国再建しておかないと」
「お嬢さん、冗談言ってる場合じゃ……」
「もし、わたしが殺されてホルマリン漬けになりそうなら、わたしの遺体を海にでも放り投げて下さいませんか」
「やめて……そんなこと言わないで」
カルラの懇願とも取れる声に、菫は安心させるように微笑んだ。
「コウキ様の言う美しさって、何でしょうね」
「そうですね……多分痩せている方が好みだろうな。顔は甘く、ベビーフェイス……お嬢さんみたいな」
「それなら今から頑張って沢山美味しいもの食べて、20キロくらい太ろうかな。体型が丸くなれば、大丈夫じゃないかな」
「あはは。お嬢さんらしいや」
カルラが笑ったところで、慌てた様子で橙騎士団が外からノックし、声をかけてきた。
「団長! 氷の魔物を討伐したリョウマ様とコウキ様が戻ってきました!」
「ああ、そうなんだ。結構時間かかったなぁ」
たちまち猫背になり、手櫛で長い前髪を梳き目を隠すようにしたカルラが、ゆっくりした仕草で眼鏡を掛けながら言った。
「それが、魔物は倒せたそうなのですが、コウキ様が重傷を負い、今治療しています!」
「え?」
カルラと菫は驚いてベッドから立ち上がった。
「その、団長……仲良しですね」
少し赤くなりながら団員が言う。カルラは同じベッドに並んで座っていた菫を見下ろすと、「ああ……」と頷いた。
そして吹っ切ったように笑顔を見せた。
「仲良しだったけど、もう終わり。コウキに見つかる前に返さないと、あいつ怖いから。ヒヒっ」
「……」
気まずそうに出て行った団員に、満足そうにため息をついたカルラは、「行こう」と小さく呟いて菫の背中をそっと押した。
「コウキ、大丈夫?」
首を傾げながら治療を受けているコウキをのぞき込む。
「カルラ! あの氷の魔物、名前が付いてないじゃないか! 未知の魔物を討伐するときは、まず下見と観察が必要なんだぞ……その上で軍議して名前つけて……急に俺たちを退治に行かせるなよ……」
思ったより元気なコウキの声が帰ってきた。右手と右足の付け根が、厚い氷の膜で覆われていた。
「ヒヒっ。助かったよコウキ。この氷、頂くよぉ」
「ど、どういうことだよ」
左足は切り傷があり、そこを治療してもらいながらコウキが言った。傍で腕を組みながら立っていたリョウマが、カルラを見て言った。
「カルラ、もしやその氷の成分が秘薬に必要だったのか」
「そうそう、最後にこの氷を1滴、入れるだけで心を操れる薬の完成だよぉ。ヒヒヒ」
おかしな研究員を装っているんだ。菫はカルラを見て、思わずクスッと笑ってしまった。堂に入った演技をするものだ、と感心してしまう。
「俺の手足、氷漬けのままかよ……何か寒いんだけど」
コウキが震えながら言ったが、この特殊な溶けない氷は聖なる力を持った者でないと治せないらしかった。
「今ヒサメを呼んだ。急いでこちらに向かっているはずだ」
「ヒヒヒ、早くこないかなぁ。氷を抽出したいんだよな」
カルラはそわそわと体を動かしながら、うろうろしてヒサメを待っているようだった。
あれだけ落ち着いた行動がとれるカルラなのに、きっと今は無理して演技をしているんだろうな、と菫は温かく見守ることにした。
「菫、これじゃ普段の生活もままならない。治るまで俺の手足になってくれない?」
コウキが甘えるように菫に言ったが、リョウマがすぐ却下を出した。
「左手で出来るだろう。ご飯も左、着替えも左」
「出来ないって。俺そんなに器用じゃないんだから」
「じゃあコウキ、これを貸してあげるよぉ。ヒヒっ」
ぬっと菫の前に姿を出したカルラが、怪しげな薬品を持ってきた。ドクドクと泡立つその薬の色は、紫と緑があわさった、気持ちの悪い色をしていた。
「な、なんだよそれ」
「これを飲むと、痛みを忘れて今以上に動けるようになるんだ。ただ、痛みの感覚がないだけで、実際は傷ついているわけだから、体は悲鳴を上げている。上手く使えば最強の魔物も討伐出来るかもぉ」
「こ、怖いんだけど……菫、今だけでいいから、俺に紅茶を飲ませてよ。喉かわいちゃって」
コウキの寝ている傍に置いてあったカップを見て言った。思わず菫はカルラと口移しのやりとりを思い出し、そっとカルラを見上げると、カルラも菫の視線に気付いたのか目を合わせてすぐフイと視線を反らした。
「菫の手を煩わせるまでもない。俺が飲ませてやる」
リョウマがそう言うと、乱暴にカップをコウキの口元へ持っていってグイッと傾けた。
「あちちち!」
コウキは零れた紅茶を拭きながら、リョウマに向かって叫ぶ。
「何だよリョウマ。いつもは下女がやれって言うくせに」
リョウマはコウキを見ておかしくなったのか「クッ」と笑う。
「お前、ガキだな」
「えっ、なんかお前たち怪我人に辛辣じゃない……?」
思ったより元気なので、菫はほっと溜息をついた。
「失礼します! 青騎士団長、ヒサメ様が到着なさいました!」
ザワッとその場が騒がしくなり、颯爽と長い髪を靡かせ、青い鎧を纏った女性が入ってきた。
☆続く☆
「死体?」
菫が反芻する。性癖だとは思っていたが、菫が思っていたよりも特殊ではあった。
「コウキは結構死の監獄に遊びに来ることが多い。ここは要人の死体安置所として、死体を綺麗に保存しておくための研究もしているし、実際国王様や……その、八雲の死体もあっただろ」
「はい」
「コウキは気に入った女……男もなのかな。その辺は知らないけど、一番その魔人が美しい時期に殺して、ホルマリン漬けにして永遠に保存させる。保存させた死体を、冷たいまま愛するんだ」
変態というより、もはや狂人ではと思ったが、菫は話の腰を折るのも何なので黙っていた。
「……菫? わかる? 愛するっていうのは……ほら、俺たちがその、何度もやったみたいな……その、感じで……」
「わかります、わかりますよ」
黙っていたので変に思ったのか、カルラが詳しく説明しようとしていたようなので、菫は慌てて頷いた。
「ほんとにわかってる?」
え、と思った瞬間、ベッドに押し倒されていた。
「こういう、感じで……」
驚いた菫の大きな目と、カルラの迷うような視線が交錯した。しばらく二人はそのまま硬直したように時が止まっていた。
「……ダメだ。なんか今まで普通にアンタに触れてたけど、もう違うな。ちょっと、今までがハードル下がってたけど、もう、こんなこと出来ないな。身分違いだし」
「カルラ様……」
「カオスから菫の話を聞いて、俺はずっとアンタのこと好きな気でいたけど、アンタは違うもんな……」
カオスから聞く兄の話を、菫も楽しみにしていた。
カオスが落ち込んでいたら、道化を演じて敢えて明るく振る舞ってくれたこと。
飼っていた白い烏が死んだとき、泣き過ぎて目をはらし、その後30日程家出して悲しみに暮れる旅に出ていたこと。
女の人に興味はあるくせに声をかけるのが苦手で、せっかく背が高いのにたちまち猫背になって挙動不審になってしまうこと。
割と顔が整っているから一目惚れされやすいけど、告白されるとき挙動不審になるため、告白はなかったことにされ、気味悪がられること。
やがて告白されないように、目を隠すような野暮ったい髪型にし、眼鏡を掛けて素顔を隠し始めたこと。
気が優しいから、兄妹喧嘩をしてもお兄ちゃんが必ず先に折れて謝ること。
家族を大切にしてくれること。
月光浴が好きなこと。
一人が好きで、休日は家で静かに本を読んだり、昼寝するのが趣味なこと。
情に厚く、泣き虫なこと。
学問が好きで、将来は倭国王室で魔術研究をしたいという夢があったこと。
宮廷陰陽師がその役割を担うと聞いて、何故か夢を勝手に諦めたこと。
不器用で誤解されやすいけど、優しくて大好きなお兄ちゃんだと嬉しそうにカオスが笑っていたのを思い出し、菫は何故か泣きそうな気持ちになった。
「菫様? ごめん、もうしないよ」
カルラは菫の背中に優しく手を入れて起き上がらせた。
「1つ教えてくれないか。カオスが生きていることをすぐに言えばよかったのに、何故俺の言いなりになったの? 自分を傷つけてまで」
「あなたはずっと孤独に耐え、復讐を誓ってきたのでしょう。成し遂げるために費やした時間を無駄にしてほしくなかったの」
「でも、真実を知って俺が後悔するとは思わなかったの? 自己欺瞞とも取れるやり方だと思うよ」
「そう、ですね……ごめんなさい」
「うん。多分、アンタは少し……いやかなり間違った。俺の感情を大切にしすぎた」
カルラは菫の目線に合わせて身を屈めると、ゆっくり落ち着いた口調で静かに続けた。
「菫。何でもかんでも倭国民のために自己犠牲で奉仕するのが良いとは限らないんだよ。戦争を仕掛けてきたのは天界国だろう。アンタが罪悪感に苛まれて、自国民の言うことを何でも聞くのは為政者としてかなり危険な思想だと思うよ」
「カルラ様……」
「アンタは倭国民の考えをそのまま聞くんじゃなくて、自分の思うように動いて大丈夫。カオスの話をずっと聞いてきた俺が保証する。それでも間違うようなら、俺が言うから。だから自分の考えを突き進め」
「……は、い……」
菫は目に涙を溜めながら頷いた。そんな菫を見てカルラはそっと指で涙を拭う。
「まあ気持ちはわかるけどな……俺もきっとアンタの立場だったら、そうしてたかもしれない……」
しんみりした空気を吹き飛ばすかのように、カルラがコウキの話をした。
「まあ、そういうわけでコウキに目を付けられたらご愁傷様なわけだ。菫もあれだけ執着されていたら、気を付けないとあと2年くらいで殺されてしまう」
菫は肩を竦めてカルラを見る。
「そっか、あと2年も経たないと、一番美しい時期になれないのね。それまでに倭国再建しておかないと」
「お嬢さん、冗談言ってる場合じゃ……」
「もし、わたしが殺されてホルマリン漬けになりそうなら、わたしの遺体を海にでも放り投げて下さいませんか」
「やめて……そんなこと言わないで」
カルラの懇願とも取れる声に、菫は安心させるように微笑んだ。
「コウキ様の言う美しさって、何でしょうね」
「そうですね……多分痩せている方が好みだろうな。顔は甘く、ベビーフェイス……お嬢さんみたいな」
「それなら今から頑張って沢山美味しいもの食べて、20キロくらい太ろうかな。体型が丸くなれば、大丈夫じゃないかな」
「あはは。お嬢さんらしいや」
カルラが笑ったところで、慌てた様子で橙騎士団が外からノックし、声をかけてきた。
「団長! 氷の魔物を討伐したリョウマ様とコウキ様が戻ってきました!」
「ああ、そうなんだ。結構時間かかったなぁ」
たちまち猫背になり、手櫛で長い前髪を梳き目を隠すようにしたカルラが、ゆっくりした仕草で眼鏡を掛けながら言った。
「それが、魔物は倒せたそうなのですが、コウキ様が重傷を負い、今治療しています!」
「え?」
カルラと菫は驚いてベッドから立ち上がった。
「その、団長……仲良しですね」
少し赤くなりながら団員が言う。カルラは同じベッドに並んで座っていた菫を見下ろすと、「ああ……」と頷いた。
そして吹っ切ったように笑顔を見せた。
「仲良しだったけど、もう終わり。コウキに見つかる前に返さないと、あいつ怖いから。ヒヒっ」
「……」
気まずそうに出て行った団員に、満足そうにため息をついたカルラは、「行こう」と小さく呟いて菫の背中をそっと押した。
「コウキ、大丈夫?」
首を傾げながら治療を受けているコウキをのぞき込む。
「カルラ! あの氷の魔物、名前が付いてないじゃないか! 未知の魔物を討伐するときは、まず下見と観察が必要なんだぞ……その上で軍議して名前つけて……急に俺たちを退治に行かせるなよ……」
思ったより元気なコウキの声が帰ってきた。右手と右足の付け根が、厚い氷の膜で覆われていた。
「ヒヒっ。助かったよコウキ。この氷、頂くよぉ」
「ど、どういうことだよ」
左足は切り傷があり、そこを治療してもらいながらコウキが言った。傍で腕を組みながら立っていたリョウマが、カルラを見て言った。
「カルラ、もしやその氷の成分が秘薬に必要だったのか」
「そうそう、最後にこの氷を1滴、入れるだけで心を操れる薬の完成だよぉ。ヒヒヒ」
おかしな研究員を装っているんだ。菫はカルラを見て、思わずクスッと笑ってしまった。堂に入った演技をするものだ、と感心してしまう。
「俺の手足、氷漬けのままかよ……何か寒いんだけど」
コウキが震えながら言ったが、この特殊な溶けない氷は聖なる力を持った者でないと治せないらしかった。
「今ヒサメを呼んだ。急いでこちらに向かっているはずだ」
「ヒヒヒ、早くこないかなぁ。氷を抽出したいんだよな」
カルラはそわそわと体を動かしながら、うろうろしてヒサメを待っているようだった。
あれだけ落ち着いた行動がとれるカルラなのに、きっと今は無理して演技をしているんだろうな、と菫は温かく見守ることにした。
「菫、これじゃ普段の生活もままならない。治るまで俺の手足になってくれない?」
コウキが甘えるように菫に言ったが、リョウマがすぐ却下を出した。
「左手で出来るだろう。ご飯も左、着替えも左」
「出来ないって。俺そんなに器用じゃないんだから」
「じゃあコウキ、これを貸してあげるよぉ。ヒヒっ」
ぬっと菫の前に姿を出したカルラが、怪しげな薬品を持ってきた。ドクドクと泡立つその薬の色は、紫と緑があわさった、気持ちの悪い色をしていた。
「な、なんだよそれ」
「これを飲むと、痛みを忘れて今以上に動けるようになるんだ。ただ、痛みの感覚がないだけで、実際は傷ついているわけだから、体は悲鳴を上げている。上手く使えば最強の魔物も討伐出来るかもぉ」
「こ、怖いんだけど……菫、今だけでいいから、俺に紅茶を飲ませてよ。喉かわいちゃって」
コウキの寝ている傍に置いてあったカップを見て言った。思わず菫はカルラと口移しのやりとりを思い出し、そっとカルラを見上げると、カルラも菫の視線に気付いたのか目を合わせてすぐフイと視線を反らした。
「菫の手を煩わせるまでもない。俺が飲ませてやる」
リョウマがそう言うと、乱暴にカップをコウキの口元へ持っていってグイッと傾けた。
「あちちち!」
コウキは零れた紅茶を拭きながら、リョウマに向かって叫ぶ。
「何だよリョウマ。いつもは下女がやれって言うくせに」
リョウマはコウキを見ておかしくなったのか「クッ」と笑う。
「お前、ガキだな」
「えっ、なんかお前たち怪我人に辛辣じゃない……?」
思ったより元気なので、菫はほっと溜息をついた。
「失礼します! 青騎士団長、ヒサメ様が到着なさいました!」
ザワッとその場が騒がしくなり、颯爽と長い髪を靡かせ、青い鎧を纏った女性が入ってきた。
☆続く☆
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