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第2章★呪詛返し★
第1話☆愛人の子☆
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「期間は10日間。これは裕様が待てる最大の期間です。これ以上は隠れ里の結界が崩壊してしまうとのことで、待てません」
マユラが全員を見回して言う。菫は結界のことが心配だった。
「マユラ様。八雲様の遺言状ですが、10日で終わらせられる簡単な課題ではなさそうです。結界を張り直してから、課題に取り掛かることはできませんか?」
マユラは菫を見て少し考える素振りをする。
「隠れ里の結界を新当主が張ることで、国民にアピールする狙いもあるのですよ、菫様」
「はい、裕から聞きました。ですがその前に結界が破れてしまったら、国民の命が脅かされ、例えば天界国にみつかり、亡くなる方がでてしまえば、それは稲田一族の批判にも繋がりかねません」
「……」
マユラは考えるように菫を見てから下を向いた。
「どうか考え直して下さいませんか。新当主の方には、王族がアピールする場を必ず提供するとお約束します」
菫の言葉に、マユラもとうとう頷いた。
「……わかりました。菫様がそうおっしゃるなら、そうしましょう。結界を張りに行きます」
「ありがとうマユラ様!」
菫が隣りにいるマユラに抱きつく。それを見たセンジュが舌打ちをした。
「余計なこと言うんじゃねーよ。穀潰しの分際で……」
「なんの能力もないくせにな……」
先程足を引っ掛けた男、シデンとセンジュが小声で話していた。
「太一様にお願いしますか?」
「いいえ、センジュがやりますわ。隠れ里の結界を張ってから遺言状の課題をやりなさいね、センジュ」
「お任せ下さい、マユラ様」
センジュが恭しく手をついて礼をした。
「今日はお開きにしてもうお休みになって。明日から始めましょう。愛人の子たちは離れに。菫様は別邸のセンジュの部屋にいらして。ご飯を持って行きますわ」
マユラが威圧感のある口調で言った。菫に反論をさせないように言っているようだった。
お開きになり、用意された自室へと向かうよう紙人形が1人につき1体着いてきた。
マユラに続き候補者たちが紙人形と共に応接間を出て行く。
「いきましょうか、菫様」
センジュが立ち上がり、菫に向かって手を差し出した。
菫はセンジュの手を取らずに立ち上がり、センジュに向かって笑顔を見せた。
「わたし、センジュ様の部屋には行きませんよ」
すでにこのとき、応接間にはセンジュと菫、カルラと太一しかいなかった。
「マユラ様が用意された部屋ですよ。いわば主の命令です」
センジュが菫の腕を掴みながら言った。
「センジュ兄ちゃ~ん、菫様、嫌がってますよ~。ヒヒヒ」
菫の側に行きながらカルラが眼鏡をずり上げた。
「チッ、またお前か、変人」
カルラが猫背のまま菫を自分の背に隠す。
「お兄ちゃん、菫様と同じ部屋がいいなんて、わがままだよ~。当主になるような人が嫌がる王女様を手籠めにするなんて、稲田一族の風上にも置けないな~。ヒヒっ」
「……気持ち悪いヤツ。お前みたいな変人が血を分けた弟などとは信じたくないんだが」
「俺にはカルラという名があるんだよ~、お兄ちゃん。菫様、センジュと同じ部屋、イヤなんだろ?」
菫は少し考えてからゆっくり頷く。
「イヤですね。合意なく突然キスするような人と同じ部屋なんて」
菫がセンジュを見据えながら言ったが、なぜかビクッと硬直してカルラが小さな声で呟いた。
「……だよな……」
どうやらカルラは死の監獄で初めに会ったときのことを思い出しているようだった。
太一も菫の隣りに歩いてきた。
「センジュ、菫様にひどいことをするなよ」
「……悪魔は口を挟むんじゃねえよ!」
突然声を荒らげたセンジュが、右手を振ったと思ったら紙人形の群れが袖から飛び出して太一の全身を覆った。
「太一様!」
「太一!」
2人が叫んだが、応接間にヒュッと風が吹き、太一の全身を覆っていた紙人形たちが細かく切り刻まれ、静かに地面に舞った。
その後あっという間に切り刻まれた紙人形が煙に巻かれて、どろんと消えた。
「くそ、悪魔め」
「弱いですなあ……分家なのに、陰陽師の力が」
太一が静かに声を出した。右手には和紙のお札を持っている。
「太一様」
菫が太一の前に立ち、センジュからかばう。
「菫様、あなたはこいつらみたいな愛人の子供をかばうんですか? 愛人なんて汚らわしいだけでしょう。王族のあなたに触れて良い存在ですらない」
センジュが太一を睨みつけて毒づいた。
「あら、愛人の子と蔑ろにしていますが、センジュ様の理屈で言えばあなただって、マユラ様にとったら愛人の子だわ」
「ヒヒヒっ、本当だね~。俺と同じ立場だよ、お兄ちゃん。嬉しいな~」
カルラが大仰に言いながらさり気なく菫を守れる位置に動いた。
「チッ、俺たちは愛人とは違う! 分家の子だ!」
「じゃあ、八雲様の課題をクリアして、早く当主にならないとね、センジュ様」
にこにこと笑いながら言う菫を見て、センジュは軽蔑したような目を向けた。
「王族だからと調子に乗るなよ。お前はなんの能力もない出来損ないだろうが。裕様とワタル様の影に隠れて、王族の権利だけ享受するだけの穀潰しだと、みんな言ってるぞ」
「……」
「やめろ、センジュ」
太一が低い声を出した。
「なぜ出来損ないの役立たずが立ち会いなんだ。裕様がくれば良かったのに」
カルラがセンジュから見えないよう、励ますようにそっと菫の手を握った。
菫は笑うとセンジュに向き合う。
「裕は倭国の希望ですから、拠点にいてもらいたいのと、何かあったら大変だからです。替えのきくわたしは、動きやすいんですよ、センジュ様」
「チッ、御託はいいから俺の部屋にきてくださいよ。そこで色々話は聞きますから」
センジュが再び菫の腕を掴む。
「……3ニン、トウシュコウホシャ、ハヤク。ヘヤにアンナイしマス」
突然紙人形が3体部屋に入ってきて、それぞれの荷物を持った。
顔の部分には候補者の名前が書いてある。
「待って、まだ話が終わってないから」
カルラが紙人形に声をかけたが、紙人形は無視してカルラの荷物を持ち、カルラを担ぐように包んで持ち上げた。
「待って……菫……」
カルラが菫に手を伸ばしたが、紙人形はカルラを風に乗せるようにして担ぎながら、応接間の襖を開けた。
「カルラ様、わたしは大丈夫。明日会いましょう」
「菫、鏡を……」
カルラの声が遠ざかって行った。
カルラが離れに連れて行かれてしまったようだ。太一は長い前髪をかき上げた。
青い目が鈍い光を放ち、センジュを見据える。
「お前も行けよ。悪魔」
「……菫様の嫌がることはしないでいただきたい」
太一が菫の手を取った。太一の手はとても冷たかった。
「悪魔が穢らわしい手で菫様を触るなよ」
センジュが太一を睨み返す。それを見た太一の紙人形は、カルラ同様太一を担ぐと、襖を開けた。
「おい、離せ」
「太一様、大丈夫です。何かあれば悲鳴をあげますから」
「菫様!」
太一も風のように紙人形に担がれて離れに行ってしまった。
センジュは菫をバカにしたような目で見ながら静かに呟いた。
「……愛人の子と手を繋いだり、普通に会話をしたり、王女のくせに道徳のないことはしないほうが良いですよ」
「道徳?」
「仮にも王女なら、不義の子の存在を咎めるのが筋でしょう。穢らわしい存在を排除するのが清廉な王女というものだ」
センジュの主張に、菫は笑ってしまった。
「愛人を作ることで本妻を傷つけるのは確かに言語道断ですね。ただ、八雲様には跡取りを作るという特殊な事情がありましたから。でも、愛人の子供に罪はないはずです。子は親を選べないわ」
センジュは鼻で笑うと菫を軽蔑の目で見下ろす。
「王女失格だな、お前は。最高の地位を親から与えられておいて、子は親を選べないなどと戯言を」
「そうね、わたしは王女失格だわ。ただ、こんなわたしでも応援して下さる国民の方がいるんですよ」
「いるわけないですよ、士官はみんなあなたを穀潰しと噂しています。役に立ちそうなのは、その容姿だけだと」
「あら、こんな容姿でも褒めて下されば、嬉しいものですよ」
笑顔で言うと、センジュは顔色を変えず菫を見下ろしていた。
「容姿しかないから、稲田家にいる間は俺の専属侍女として働いて下さいよ」
センジュはそう言うと、強引に菫の手を強く引っ張り、廊下へ出た。
☆続く☆
マユラが全員を見回して言う。菫は結界のことが心配だった。
「マユラ様。八雲様の遺言状ですが、10日で終わらせられる簡単な課題ではなさそうです。結界を張り直してから、課題に取り掛かることはできませんか?」
マユラは菫を見て少し考える素振りをする。
「隠れ里の結界を新当主が張ることで、国民にアピールする狙いもあるのですよ、菫様」
「はい、裕から聞きました。ですがその前に結界が破れてしまったら、国民の命が脅かされ、例えば天界国にみつかり、亡くなる方がでてしまえば、それは稲田一族の批判にも繋がりかねません」
「……」
マユラは考えるように菫を見てから下を向いた。
「どうか考え直して下さいませんか。新当主の方には、王族がアピールする場を必ず提供するとお約束します」
菫の言葉に、マユラもとうとう頷いた。
「……わかりました。菫様がそうおっしゃるなら、そうしましょう。結界を張りに行きます」
「ありがとうマユラ様!」
菫が隣りにいるマユラに抱きつく。それを見たセンジュが舌打ちをした。
「余計なこと言うんじゃねーよ。穀潰しの分際で……」
「なんの能力もないくせにな……」
先程足を引っ掛けた男、シデンとセンジュが小声で話していた。
「太一様にお願いしますか?」
「いいえ、センジュがやりますわ。隠れ里の結界を張ってから遺言状の課題をやりなさいね、センジュ」
「お任せ下さい、マユラ様」
センジュが恭しく手をついて礼をした。
「今日はお開きにしてもうお休みになって。明日から始めましょう。愛人の子たちは離れに。菫様は別邸のセンジュの部屋にいらして。ご飯を持って行きますわ」
マユラが威圧感のある口調で言った。菫に反論をさせないように言っているようだった。
お開きになり、用意された自室へと向かうよう紙人形が1人につき1体着いてきた。
マユラに続き候補者たちが紙人形と共に応接間を出て行く。
「いきましょうか、菫様」
センジュが立ち上がり、菫に向かって手を差し出した。
菫はセンジュの手を取らずに立ち上がり、センジュに向かって笑顔を見せた。
「わたし、センジュ様の部屋には行きませんよ」
すでにこのとき、応接間にはセンジュと菫、カルラと太一しかいなかった。
「マユラ様が用意された部屋ですよ。いわば主の命令です」
センジュが菫の腕を掴みながら言った。
「センジュ兄ちゃ~ん、菫様、嫌がってますよ~。ヒヒヒ」
菫の側に行きながらカルラが眼鏡をずり上げた。
「チッ、またお前か、変人」
カルラが猫背のまま菫を自分の背に隠す。
「お兄ちゃん、菫様と同じ部屋がいいなんて、わがままだよ~。当主になるような人が嫌がる王女様を手籠めにするなんて、稲田一族の風上にも置けないな~。ヒヒっ」
「……気持ち悪いヤツ。お前みたいな変人が血を分けた弟などとは信じたくないんだが」
「俺にはカルラという名があるんだよ~、お兄ちゃん。菫様、センジュと同じ部屋、イヤなんだろ?」
菫は少し考えてからゆっくり頷く。
「イヤですね。合意なく突然キスするような人と同じ部屋なんて」
菫がセンジュを見据えながら言ったが、なぜかビクッと硬直してカルラが小さな声で呟いた。
「……だよな……」
どうやらカルラは死の監獄で初めに会ったときのことを思い出しているようだった。
太一も菫の隣りに歩いてきた。
「センジュ、菫様にひどいことをするなよ」
「……悪魔は口を挟むんじゃねえよ!」
突然声を荒らげたセンジュが、右手を振ったと思ったら紙人形の群れが袖から飛び出して太一の全身を覆った。
「太一様!」
「太一!」
2人が叫んだが、応接間にヒュッと風が吹き、太一の全身を覆っていた紙人形たちが細かく切り刻まれ、静かに地面に舞った。
その後あっという間に切り刻まれた紙人形が煙に巻かれて、どろんと消えた。
「くそ、悪魔め」
「弱いですなあ……分家なのに、陰陽師の力が」
太一が静かに声を出した。右手には和紙のお札を持っている。
「太一様」
菫が太一の前に立ち、センジュからかばう。
「菫様、あなたはこいつらみたいな愛人の子供をかばうんですか? 愛人なんて汚らわしいだけでしょう。王族のあなたに触れて良い存在ですらない」
センジュが太一を睨みつけて毒づいた。
「あら、愛人の子と蔑ろにしていますが、センジュ様の理屈で言えばあなただって、マユラ様にとったら愛人の子だわ」
「ヒヒヒっ、本当だね~。俺と同じ立場だよ、お兄ちゃん。嬉しいな~」
カルラが大仰に言いながらさり気なく菫を守れる位置に動いた。
「チッ、俺たちは愛人とは違う! 分家の子だ!」
「じゃあ、八雲様の課題をクリアして、早く当主にならないとね、センジュ様」
にこにこと笑いながら言う菫を見て、センジュは軽蔑したような目を向けた。
「王族だからと調子に乗るなよ。お前はなんの能力もない出来損ないだろうが。裕様とワタル様の影に隠れて、王族の権利だけ享受するだけの穀潰しだと、みんな言ってるぞ」
「……」
「やめろ、センジュ」
太一が低い声を出した。
「なぜ出来損ないの役立たずが立ち会いなんだ。裕様がくれば良かったのに」
カルラがセンジュから見えないよう、励ますようにそっと菫の手を握った。
菫は笑うとセンジュに向き合う。
「裕は倭国の希望ですから、拠点にいてもらいたいのと、何かあったら大変だからです。替えのきくわたしは、動きやすいんですよ、センジュ様」
「チッ、御託はいいから俺の部屋にきてくださいよ。そこで色々話は聞きますから」
センジュが再び菫の腕を掴む。
「……3ニン、トウシュコウホシャ、ハヤク。ヘヤにアンナイしマス」
突然紙人形が3体部屋に入ってきて、それぞれの荷物を持った。
顔の部分には候補者の名前が書いてある。
「待って、まだ話が終わってないから」
カルラが紙人形に声をかけたが、紙人形は無視してカルラの荷物を持ち、カルラを担ぐように包んで持ち上げた。
「待って……菫……」
カルラが菫に手を伸ばしたが、紙人形はカルラを風に乗せるようにして担ぎながら、応接間の襖を開けた。
「カルラ様、わたしは大丈夫。明日会いましょう」
「菫、鏡を……」
カルラの声が遠ざかって行った。
カルラが離れに連れて行かれてしまったようだ。太一は長い前髪をかき上げた。
青い目が鈍い光を放ち、センジュを見据える。
「お前も行けよ。悪魔」
「……菫様の嫌がることはしないでいただきたい」
太一が菫の手を取った。太一の手はとても冷たかった。
「悪魔が穢らわしい手で菫様を触るなよ」
センジュが太一を睨み返す。それを見た太一の紙人形は、カルラ同様太一を担ぐと、襖を開けた。
「おい、離せ」
「太一様、大丈夫です。何かあれば悲鳴をあげますから」
「菫様!」
太一も風のように紙人形に担がれて離れに行ってしまった。
センジュは菫をバカにしたような目で見ながら静かに呟いた。
「……愛人の子と手を繋いだり、普通に会話をしたり、王女のくせに道徳のないことはしないほうが良いですよ」
「道徳?」
「仮にも王女なら、不義の子の存在を咎めるのが筋でしょう。穢らわしい存在を排除するのが清廉な王女というものだ」
センジュの主張に、菫は笑ってしまった。
「愛人を作ることで本妻を傷つけるのは確かに言語道断ですね。ただ、八雲様には跡取りを作るという特殊な事情がありましたから。でも、愛人の子供に罪はないはずです。子は親を選べないわ」
センジュは鼻で笑うと菫を軽蔑の目で見下ろす。
「王女失格だな、お前は。最高の地位を親から与えられておいて、子は親を選べないなどと戯言を」
「そうね、わたしは王女失格だわ。ただ、こんなわたしでも応援して下さる国民の方がいるんですよ」
「いるわけないですよ、士官はみんなあなたを穀潰しと噂しています。役に立ちそうなのは、その容姿だけだと」
「あら、こんな容姿でも褒めて下されば、嬉しいものですよ」
笑顔で言うと、センジュは顔色を変えず菫を見下ろしていた。
「容姿しかないから、稲田家にいる間は俺の専属侍女として働いて下さいよ」
センジュはそう言うと、強引に菫の手を強く引っ張り、廊下へ出た。
☆続く☆
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