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本編・FILE1
2【明治時代の笛】
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僕は指定された講習室へと向かい、教室のドアを開けた。
「あれ、菫ちゃんじゃねーじゃん」
部屋に入った瞬間、意思の強そうな、低く良く通る声が聞こえた。
ハッと顔を上げると、紺色のブレザーを着た僕より少し年上くらいの派手な男性が、部屋にある長椅子に座って頬杖を付きながら、クルクルと器用にペン回しをしていた。
金髪に耳に青いピアスをした派手な男は、僕を見定めるように目を細めながら上から下まで視線を這わせる。
第一印象は、なんだこの不躾なチャラ男は、だった。
「はじめまして! 僕は城ノ内 那由他と言います。今日から刑事部に配属されました、よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げると、チャラ男が動いた気配がした。ペンを机にコトリと置いたようだ。
「へー、随分元気な新人じゃん。俺は天一神 洸。よろしく」
低く、良く通る声に顔を上げると、洸は僕を見下ろしてニヤニヤ笑っていた。チャラいが、少し怖いと感じた。
「で、菫ちゃんは?」
「すみれ……ちゃん?」
聞いたことのない名を言われて、僕が首を傾げると、洸は肩を竦めた。関係ないけどこの男、座りながら組んだ脚がスラリと長く、スタイルが良いな、と思った。
声に張りがあるせいか、威圧的に聞こえ若干怖い。
「僕は間宮さんに言われてここに来たんですけど、菫さん……という方はまだお会いしたことがないです」
彼に圧倒されないように、僕も少し胸を張って発声をした。
「そうかよ、仕方ねーな……」
洸は携帯電話を取り出して電話をかけた。
「あ、菫ちゃん? 今どこにいるんだよ。犯罪心理学の授業は?」
しばらく菫ちゃんとやらと電話していた洸は、やがて電話を切ってため息をついた。
「まじかよ、学校の委員会で遅れるって。ったく、俺には連絡くらい入れろよな、あのバカ」
怖っ、と思った瞬間、くるりと金髪をなびかせて振り返った洸が僕を見た。
「ぼーっと突っ立ってないで座れよ。そろそろ授業だぜ、瓶底眼鏡」
「じょ、城ノ内那由他です……」
とんでもない人が刑事志望なんだな、日本の未来は大丈夫なのかと憂いているうちに、先生が入って来た。
僕と洸だけなのか、教室の中には先生含めて3人しかいない。
「犯罪心理学の授業を始めます。本日は、明治時代に盗まれ、最近発見された神笛をお見せしたいと思います」
「しんてき?」
先生は重厚な鞄の中に、厳重に包まれた純白に光る縦笛を取り出した。
洸が僕を見て、低く落ち着いた声で呟く。
「神笛、500万するらしいぜ」
「ごっ!」
洸の声に僕は硬直してしまう。そんな高価なものを訓練生に見せるなんて恐ろしいにもほどがある。
「高いけど、楽器なんてピンキリじゃん? ヴァイオリンのストラディバリウスなんて、物によっては何十億とするんだろ? それに比べたら500万と聞いても、なあ?」
「いえいえ、天一神先輩! 僕の家貧乏なんで、500万あったら狂喜乱舞ですよ……というか、お金持ちの家だって500万あれば嬉しいんじゃないですか?」
「……ふーん。じゃ、刑事になって親御さんを喜ばせなきゃな」
意外に良い人なのかな、と僕は洸を見上げる。派手な金髪に目が行きがちだけれど、表情は落ち着いて見えた。というより、わりと冷めた目をしているんだな、と感じた。
☆続く☆
「あれ、菫ちゃんじゃねーじゃん」
部屋に入った瞬間、意思の強そうな、低く良く通る声が聞こえた。
ハッと顔を上げると、紺色のブレザーを着た僕より少し年上くらいの派手な男性が、部屋にある長椅子に座って頬杖を付きながら、クルクルと器用にペン回しをしていた。
金髪に耳に青いピアスをした派手な男は、僕を見定めるように目を細めながら上から下まで視線を這わせる。
第一印象は、なんだこの不躾なチャラ男は、だった。
「はじめまして! 僕は城ノ内 那由他と言います。今日から刑事部に配属されました、よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げると、チャラ男が動いた気配がした。ペンを机にコトリと置いたようだ。
「へー、随分元気な新人じゃん。俺は天一神 洸。よろしく」
低く、良く通る声に顔を上げると、洸は僕を見下ろしてニヤニヤ笑っていた。チャラいが、少し怖いと感じた。
「で、菫ちゃんは?」
「すみれ……ちゃん?」
聞いたことのない名を言われて、僕が首を傾げると、洸は肩を竦めた。関係ないけどこの男、座りながら組んだ脚がスラリと長く、スタイルが良いな、と思った。
声に張りがあるせいか、威圧的に聞こえ若干怖い。
「僕は間宮さんに言われてここに来たんですけど、菫さん……という方はまだお会いしたことがないです」
彼に圧倒されないように、僕も少し胸を張って発声をした。
「そうかよ、仕方ねーな……」
洸は携帯電話を取り出して電話をかけた。
「あ、菫ちゃん? 今どこにいるんだよ。犯罪心理学の授業は?」
しばらく菫ちゃんとやらと電話していた洸は、やがて電話を切ってため息をついた。
「まじかよ、学校の委員会で遅れるって。ったく、俺には連絡くらい入れろよな、あのバカ」
怖っ、と思った瞬間、くるりと金髪をなびかせて振り返った洸が僕を見た。
「ぼーっと突っ立ってないで座れよ。そろそろ授業だぜ、瓶底眼鏡」
「じょ、城ノ内那由他です……」
とんでもない人が刑事志望なんだな、日本の未来は大丈夫なのかと憂いているうちに、先生が入って来た。
僕と洸だけなのか、教室の中には先生含めて3人しかいない。
「犯罪心理学の授業を始めます。本日は、明治時代に盗まれ、最近発見された神笛をお見せしたいと思います」
「しんてき?」
先生は重厚な鞄の中に、厳重に包まれた純白に光る縦笛を取り出した。
洸が僕を見て、低く落ち着いた声で呟く。
「神笛、500万するらしいぜ」
「ごっ!」
洸の声に僕は硬直してしまう。そんな高価なものを訓練生に見せるなんて恐ろしいにもほどがある。
「高いけど、楽器なんてピンキリじゃん? ヴァイオリンのストラディバリウスなんて、物によっては何十億とするんだろ? それに比べたら500万と聞いても、なあ?」
「いえいえ、天一神先輩! 僕の家貧乏なんで、500万あったら狂喜乱舞ですよ……というか、お金持ちの家だって500万あれば嬉しいんじゃないですか?」
「……ふーん。じゃ、刑事になって親御さんを喜ばせなきゃな」
意外に良い人なのかな、と僕は洸を見上げる。派手な金髪に目が行きがちだけれど、表情は落ち着いて見えた。というより、わりと冷めた目をしているんだな、と感じた。
☆続く☆
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