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【69】マッキニー男爵邸 〜男爵夫人の歓迎〜

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「こんな辺鄙へんぴな場所に、ようこそいらっしゃいました。何もありませんが、どうぞ寛いでいってください」

マッキニー男爵夫人ことミランダ・マッキニーは両方の目尻を下げ、嬉々として客人を歓迎した。

最初、ポーラから客人を招きたいと言われた時は面倒としか思わなかった夫人だが、やってきたのが礼儀正しくユニークな軍人のエドだったので、彼の友達というアグロン伯爵にも期待していたのだ。


「急な訪問、誠に申し訳ありません。ポーラ君とはセーラスでもよくお酒を飲む仲なんです。彼からご実家が雪深い素敵な場所だと聞いていたので、いつか訪ねてみたいと常々思ってたんです」

現れたアグロン伯爵は絵画から抜き出てきたのかと思うほどの美丈夫で、白い歯を覗かせた笑顔がとても素敵で、ミランダ夫人はひと目で気に入った。


おまけに軍で鍛えた逞しい肉体は彫像のように立派で、伯爵家の次男坊というのがネックだが、もしも長男が亡くなったら家督を継ぐ事になっており、準嫡子として伯爵の称号を与えられているそうなので、悪くはない。

ポーラやワトソン少尉から聞く限り、伯爵は軍人として立派に身を立て、羽振りもいいようだ。


末娘キャサリンは絶対に貴族に嫁がせると決めていたが、自身が貧乏貴族に嫁いで苦労したので、準貴族の軍人も悪くない。

これほど男ぶりも良ければ、キャサリンもすぐに彼に夢中になるだろう。



「まぁまぁ、そうだったんですね」

「母上、伯爵は移動で疲れてますから。今夜はこの辺で」

ポーラは興奮する母をやんわり制し、サニーとユージンに目配せした。


「そ、そうね。私ったら、お客様がいらっしゃるのが久しぶりだから、はしゃいでしまったわ。伯爵、ゆっくりお休みください」

「では伯爵、こちらへどうぞ」

ポーラは話し足りないという母を応接ホールに残し、館の西側の急遽用意した客間へとサニーを案内した。

館西側は元々使用人達が使っていた一帯で、床や壁が軋み、おまけに天井は低く、窓も少ない陰気な場所だった。


「こんな部屋ですみません」

「構わないよ、軍で野営もするしね」

ポーラは申し訳なくて恐縮したが、サニーもユージンも全く気にしなかった。


「さて、と」

サニー、ユージン、カイル、エドの四人は素早く目を合わせたと思うと、全員が各々の部屋ヘ行き、人が潜んでないか探し始めた。

特にサニーとユージンの部屋はより念入りで、隠し扉がないか床壁天井を叩き反響音を確かめるほど。

これは館に来たばかりのエドやカイルも同じ行動をし、ポーラは驚かされたものだ。


「隠し通路はないようです」

「こっちもだ」

「私達の部屋にもありませんでした」


「よし、応接室で話そう」

サニーの部屋には簡易の執務室、けん応接室を用意してある。

これはユージンからのオーダーだった。



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