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【07】ワンナイト ② ーおあずけはナシでー

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「髭……剃ったんだ」
 グラスを持つサニーは、オシャレに整えられていた無精髭が全てなくなっている。

 サニーは顎を撫で回し、「あぁ、キミにキスする時に、”チクチクして痛い”って言われたくないからね」と、ウィンクしてみせる。
 髭がないと良家の坊ちゃんといった風で、それはそれで素敵ね。

 別人になった様でドキドキと胸が高鳴ったが、すまし顔でシャンパンを流し込む。
 しかし彼にはダニエルの胸の内はお見通しのようで、恋人に向けるような甘い笑顔で隣に立ち、身体を擦り寄せてきた。

「部屋にもどろうか」
「……いいけど」

 あれだけはしゃいでおいて今更だが、ダニエルはまたもツンとした猫のように振る舞う。
 するとサニー噛みしめるように、「クックック」と笑った。

「キミって表情がクルクル変わるから面白いね。ずっと見ていたいよ」

 も過去にダニエルをそんな風に評していたーーー。
 締め付けられるような過去の思い出が、寂寞せきばくとなって襲ってくる。
 途端に気が沈み、それを振り払うためダニエルはシャンパンを飲み干した。


「どうぞ」
 空いたグラスにはすぐに次のシャンパンが注がれる。
 エスコートされて腰掛けたソファーで二杯、三杯と酒を飲み干すと、急速に酔いが回ってきた。

「酔っ払っちゃった?」
 その様子を舌舐めずりして眺めていたサニーは、壊れ物に触れるかのような仰々しさで髪を撫でる。
 ダニエルは酔った勢いで男の肩に頭を預け、身体をもたれかからせた。

 逞しい男の腕が背中に回り、抱き寄せてくれる。
「フフフ、可愛いな。二人きりだと甘えんぼだね」

 その言葉を、ダニエルは心の中で肯定した。
 アルコールが入ると開放的になり、甘えたくなる癖があるのだ。

 エキゾチックな、でも残り香に柑橘系を感じさせる香水が鼻をつく。
 その匂いがさらにダニエルの官能に火をつけ、目の前のご馳走を食べたい気持ちにさせた。

 酔った勢いで、発情した猫のようにスリスリと身体を擦り付ける。
 薄いシャツ越しに、胸、腹に筋肉の凹凸を感じた。
 手足が長いから気づかなかったが、上半身に負けず下半身もがっしりしてる。

 ほんの僅かに残っていた理性が、「変じゃない?」と警鐘を鳴らす。

 一般人がこれほどまでに立派な体躯を持つのはおかしい。
 両手の人差し指の第一関節は硬く、銃を撃ちなれた指だ。
 男のてのひらにはダニエルがよく知る剣ダコ。
 すねは石のように硬く、蹴り技を習った形跡があった。

 間違いなく武術を修得した者の身体だったが、ダニエルはそれに気づかないふりをした。
 ここまできて、おあずけなんて嫌だ。
 後からどうなるかなんて、今は考えたくない。
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