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【45】心の宝箱 ② ーあの子の夢が、私の夢ー

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「えぇ、貴女も取り立ててもらいたいのですか?」

 ユージンの瞳が刃のように光る。
 ダニエルは冷水を浴びせかけられたかのように、ドキッとした。

「すみません!そんなつもりでは……」
 ダニエルは九十度に頭を下げる。
 頭上からユージンの軽やかな笑い声がした。

「ハハハ、いえいえ。私も意地悪な物言いでした。そろそろ時間ですよ」
「は、はいっ!」

 ユージンは見ていたかのように時間ぴったりに砂時計の砂が落ちたのを言い当てた。

 ダニエルは恐縮で心臓をドキドキさせながらカップの上で茶漉ちゃこしをかざし、ポットから紅茶を注ぐ。
 スモーキーながら酸っぱいマスカットのような独特の匂いがたちあがった。

「ダージリンの良い香りですね。もう一つ、カップの用意を」
「え……でもハルボーン中佐はまだ……」

 ダニエルはユージンの指示にギョッとした。
 この場にいないのにお茶の用意をするのは変では?
 カップに淹れたら冷めてしまうし。

「いいんですよ、淹れてもらえますか?」
「は、はい……」
 腑に落ちないが、ダニエルは執務官の指示に従いお茶を淹れた。

「それでは下がっても結構ですよ。美味しいお茶をありがとうございました」
「いえ、いつでもお申し付けください。失礼します」
 ダニエルは再度頭を下げて部屋を後にする。

 クライン執務官はあんなに若くして女王陛下の執務官なのか。
 下の下の下のずっと下でも、宮殿で働けるなんて羨ましい。
 未だ宮殿業務に抜擢されない自分とは大違いね。
 ダニエルはもっともっと頑張ろうと心に誓い、女子寮へと急いだ。



 待合室の扉がノックもなしに開く。
 ユージンは待ち構えていた主人を、執事が如く出迎えた。
 優雅な立ち居振る舞い、だが手にはカップとソーサーが。

「あ”っ!」
 サニーが止める間もなく、ユージンはダニエルが淹れたお茶を一口飲む。

「なに先に飲んでるんだよ!ディディが初めて淹れてくれた紅茶なのに」

 文句を言うサニーを他所に、ユージンは手をつけてないカップに銀のスプーンを一、二度くぐらせる。
 そして変化がないのを確認し、少し冷めた紅茶が入ったカップを差し出した。

「ったく、いやがらせかよ」
「違いますよ、殿下の飲み物は全て毒味する規則です」

「俺、毒には強いし」
 サニーはカップに口をつける。
 ダニエルが淹れたお茶ってだけで、マスカット百粒分くらい甘く感じた。

「あぁ、美味しいデスね。やっぱり愛情がこもってると、違うね」
「もしこもっているとすれば、私への愛情になりますよ」

「…………なんか言ったか」
「いえ、何も。しかし殿下、此処は宮殿内です。もしもの場合に備えて、御身にはお気をつけを」


 サニーが産まれる前に血で血を洗う大粛清があったというのに、歴史は繰り返される。
 今でも陰で怪しい動きをする貴族は後を絶たない。

 それをほふるのが親衛隊の役目だが、その旗頭のサニーをよく思っていない貴族は大勢いる。

 特に第二王子ミカエル派の人間には、サニーと第一王子のフィリップは邪魔だろう。
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