上 下
5 / 9
第一章 底辺からの脱却編

第5話 ノルクは過去を消し去る

しおりを挟む
 勝負の日、俺はいつも通り冒険者ギルドへと向かう。今日で全てが終わるはずだ。

 俺の過去、全てを消し去る。あの男と共に……。
 それに、フロストさんも何か考えているみたいだった。俺から言うことはないので、好きにしてもらう。

 フロスト・フルバーンという男。噂では滅茶苦茶Sらしい。人をいたぶるのが好きと聞いた。
 冒険者ランクと性格が共にSだなんて笑える話だ。

 通りを歩いていると、レスティアが話しかけてきた。

『遂にこの時が来たね……』

『いや、だからなんでそんなに楽しそうなんだよ……』

『だってさあ……ムカつくじゃん、ああいうやつ……。いるんだよね、他の神にもああいうのが』

 レスティアの話し方から相当嫌っているやつなんだなと分かる。まあ、それも会ってみれば分かることだ。その時を楽しみにしておこう。

 ギルド前までやって来た俺は、扉を開き中へと入っていく。いつもより人は少なく感じるな。
 カウンターにいたガルムは、固まったまま動いていない。そして、汗を大量に流しながら俺に言う。

「な、ななんでお前が……い、生きて……」

「俺が生きているのが不思議ですかね? ガルムさん」

 これではっきりした、昨日の刺客はガルム指示のものだ。もういい、徹底的に追い詰めて終わらせてやる。

「ガルムさん、俺に謝ることがあるんじゃないですか?」

「は、はああ?! なぜ俺がお前なんかに……」

「心当たりありますよね……? あのパーティーから俺に死亡原因はなんて聞いたんですか?」

「そ、それは……お前が囮になってくれた、と」

 ガルムは焦りながらも会話を続けている。俺はガルムを終始睨みつけながら、問い詰めていく。

「馬鹿ですか? 誰が好き好んでミノタウロスの囮になるんですか。そんな奴は、よっぽど英雄願望が強いやつか、自殺志願者くらいですよ。それに、パーティーメンバーの中に土魔法が使える人がいました。ミノタウロスはスピードがあるタイプじゃないので、土魔法で壁を作りながら逃げることもできたと思うんですよね。けど、そうしなかった。あなたが、万が一の時は俺を囮にするように言ってたんじゃないですか?」

「ば、バカを言うな! そんなことがあるわけないだろ! ギルドは冒険者を守るのも仕事なのだ」

 俺は呆れてため息を吐く。冒険者を守るのも仕事なら、なぜ俺は守られなかったんだ? パーティーメンバーの人達は躊躇なく俺を囮に決め、行動に移したのだ。

「まだ、言い訳するんですか? なら証拠を見せてあげますよ。すいませーーん! お願いします!」

 俺は、外に向かって大きく声を上げる。これが合図だ、徹底的な証拠を見せるための。

「おーおー、やっと出番かよ……。待たせたな、ノルく」

「き、貴様……何をしに来た! フロスト、貴様ぁ!」

 ガルムは怒って、フロストさんを問いただすが、フロストさんは気にも留めていない様子だ。
 フロストさんはニヤリと笑い、空間から何かを引っ張り出す。

 あれは……フロストさんのスキルか……。初めてみた、空間系のスキルとは。道理で強いわけだ。

 藁でくるまれたものが数十体床に放り投げられる。
 フロストさんは頭部の藁を外し、全員の顔を見せつける。

「こいつらは昨日、ノルクを襲撃して殺そうとした奴らだ。とっ捕まえて、尋問したやペラペラと話してくれたぜ。誰が命令したのかを……」

 ガルムは顔を確認したようで、青ざめている。若干腰も引けているのか、変な体勢だ。

 まさか、フロストさんが参加してくるとは思ってなかったんだろうな。
 さっきの反応を見るに、この二人は互いに嫌っているようだったし。

 フロストさんはしゃがみこみ、襲撃者たちの頬をペチペチと叩き、起こす。

「……ん? もう、朝か……ひぃ!」

「よーお。悪いけど、全部話してくれないかなぁ? 頼むよ、話してくれたら解放してやるから」

 解放という一言を聞いて、全員が喉をゴクリと鳴らす。
 フロストさん……何をしたらここまでの反応を得られるんだよ。

 対するガルムはっと声には出していないが、表情と口パクで止めようとしている。首もぶんぶん振ってるし。

 だが、襲撃者達は所詮金で雇われた身、ガルムに対しての主従精神など持ち合わせていない。
 目を閉じ、覚悟を決めた様子で全てを語り出した。

「……ガルムに、そこのノルクってガキを殺せと頼まれた。参加してくれたら、10万エル。殺した奴には、さらに10万エルやると言われた……」

 その言葉をギルド一帯を氷づかせた。様子を見に来ていたフィナも愕然としている。
 そりゃそうだ、俺も動揺してる。
 俺にそんな価値があるとは思えないけど。

 一般人4人世帯が1ヶ月生活するのに、必要なお金は約20万エルとされている。
 冒険者だと、上級者ともなれば20万エル以上稼げてしまう。

 しかし、それは上級者の話しだ。Dランクあたりでも、10万エルは大金だ。
 それを1人の少年を殺すために懸けるとは……。

 ガルムにそんな金があるとも思えない……。まだ、何かありそうだな。

 怒りに満ちた表情でフィナはガルムに詰め寄る。

「ガルムさん……どういうことですか? 説明してください!」

「いや、ち、違う……。俺は何も知らない! こんな奴ら知らないぞ! それに、俺にそんな大金出せるわけないだろ!」

 必死に弁解するガルムにフロストさんが追い討ちをかける。

「おいおい、まだ認めねえのか……。あんたはもう終わってんだよ。なんなら、もっと追い詰めてやろうか……」

 そう言って、フロストさんはまた空間に手を突っ込み人を登場させる。
 こいつらは……俺を囮にした冒険者パーティーだ。

 まさか、フロストさん。こんな人達まで準備させてたのか。
 とことん、ガルムを追い詰めるつもりだな。

「おい、話せよ。今になって後悔してんだろ?」

「……迷宮探索前に、ガルムさんから言われたんだ……」

「や、やめろ! それ以上何も言うな!」

 ガルムは叫ぶが、パーティーリーダーの開いた口は止まらない。

「迷宮では何が起こるか分からないから、万が一の時は荷物持ちのやつを犠牲にして構わないと……。怖かったんだ、相手はミノタウロスだった。だから―――」

「やめろーーー!!」

「ガルムさん! あなた……!」

 ガルムが担当する冒険者パーティーが白状した。ガルムは叫ぶが、もう何を言っても届かない。
 周囲もざわざわし始めた。
 ガルムは、尻餅をついてへたり込んでしまった。

「ガルムさん、まだ言い訳しますか? 潔くギルドをやめて下さい。後は警備隊に引き渡しますから」

「……ノ、ルク。貴様……ノルく……! 貴様ーーー!!」

 ガルムは手元に一振りの剣を登場させた。剣を握り、俺を憎しみの目で睨みつける。
 こいつ……! 召喚魔法か……。こんなスキルを持っていたのか。

 ガルムはそのまま立ち上がり、剣を振り上げて俺に襲い掛かってきた。

「うらあああああ!!」

「危ない! ノルク君」

 俺は一歩も退かずに、右手に神気を纏わせる。そして、手のひらでガルムの剣を受け止めた。

 ガキイイイイン、と衝突音が鳴り響いた。ガルムの驚きの声を上げる。

「なっ……」

 俺は力を入れ、剣を握り潰した。パラパラと金属の破片が床に落ちる。

「もう昔の俺じゃないんですよ。今までの報いをしっかりと受けて下さい」

 俺にそう言われたガルムは、今度こそ終わりだと思ったのか顔を俯かせ黙り込んだ。
 だが、ここで思いもよらぬ人物がギルドに入ってきた。

「何を騒いでいる? また揉め事か……」

 その人物に気付いた者たちがそろって声をあげる。

「ギルドマスター?!」

 ギルドマスターが入ってきたことで希望を見出したのか、ガルムは縋り付くようにしてギルドマスターに乞う。

「ギルマス! 助けて下さい、俺ははめられたんです。万年無能のやつにはめられたんです!」

「そうだな、大体の話は聞いている。ギルドの金を横領していたガルムよ」

「……は?」

「証拠は出そろっている。大人しくするんだな、まあ殺人未遂にギルド職員としてあってはならない扱い……罪はさらに重くなりそうだな」

 ギルドマスターは力ないガルムを引き剥がし、カウンター奥へと入っていった。

 え、まさかガルムの奴。横領までしてたのかよ。道理で高額な報酬を用意できるわけだ。
 ああーーーにしても疲れた。でもこれで、俺の過去は消え去った。

 その後、ガルムは全ての罪を洗いざらい話し、警備隊に連行されていった。強制労働の刑になるだろうな。

 ◇

「え、と……このお金は?」

「君がこれまで働いた分の正常な額だ。受けとりなさい。これからも、としての活躍を期待しているよ」

 ギルドマスターが小包を俺に差し出し、そんな言葉をくれたのだった。

 こうして、雑用・無能・最弱・万年Fランクと呼ばれた俺は、冒険者ノルクとして生まれ変わったのだ。





ーーーあとがきーーー

お気に入り登録して頂けると、大変嬉しいです!
感想もお待ちしています!
ぜひ、よろしくお願いします。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...