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さよなら、おやすみ、ありがとう
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この世で誰よりも大切で、何よりも優先される主。
けれど、毎年、今日この日だけは主の目を盗んでこの場所を訪れる。
世界で1番恨めしくて、世界で2番目に感謝している男のもとを――――。
墓というにはあまりにも簡素なそれをじっと見つめる。
この場所を探し当てて数年、黄泉に下った者に祈りを捧げる日だと言うことは理解しているが未だに“祈る”という行為に辿り着いたことがない。
それでも風に揺れる白菊を供えるようになっただけは進歩だろう。
最初の頃なんて罵詈雑言を吐いて気が済むまで罵っていたのだから。
それに、この男の為に祈るにはひねくれ過ぎた。主に染まりすぎたともいうのかもしれない。
というかそもそも大切な主を未だに苦しめ続けている男に祈りを捧げるほど私は優しくないし、この男のことが好きでもない。むしろ最低な男だと思う。自分勝手で偽善的で高慢で。
だけど、それでも、一つだけ感謝もしている。
最低最悪のタイミングではあったけれど、主に“愛している”と囁いてくれたことに。
心からその言葉を主贈ってくれたことに。本当の意味で主を独りぼっちにしなかったことに心から感謝している。
皮肉なことに今ではその言葉が主を縛る呪いの言葉となってしまったけれど、それでも嬉しかった。
自分以外に心から大切に主を想ってくれる存在がいたことが嬉しくて、とても安心した。
「……あなたのためにまだ祈れそうもない。
だけど」
悔しくて悔しくて仕方ないけど。
本当に感謝はしているから。
「ありがとう」
掠れそうな声で囁いた声は冷たい冬の空気に溶けて消える。
今はそのくらいがちょうどいい。
「お前だったのか」
あり得ない声に振り返ると難しい顔で墓石を睨みつける主の姿があった。
思わず漏れた笑みを更に眼光が鋭くなる。
それがなんだか可愛くてまた小さく笑うと今度は舌打ちが返ってきた。
くるりと背を向けて遠ざかる姿を微苦笑混じりに眺めていれば、ピタリと主の足が止まる。
「……置いてくぞ」
「!!待ってよ、主!」
彼と同じ言葉を口にできる日は来ないかもしれない。
それでも良い。ただ叶うなら来年もまたこの場所で僅かな時を共有できればいいと思う。
私たちがあなたの死を素直に悼み、安らかな眠りを祈れる日が来るその日まで気長に待っていてほしい。
きっとそう遠い日ではないと思うから。
*「5文字の呪い」「幸福な夢」とリンクしています
けれど、毎年、今日この日だけは主の目を盗んでこの場所を訪れる。
世界で1番恨めしくて、世界で2番目に感謝している男のもとを――――。
墓というにはあまりにも簡素なそれをじっと見つめる。
この場所を探し当てて数年、黄泉に下った者に祈りを捧げる日だと言うことは理解しているが未だに“祈る”という行為に辿り着いたことがない。
それでも風に揺れる白菊を供えるようになっただけは進歩だろう。
最初の頃なんて罵詈雑言を吐いて気が済むまで罵っていたのだから。
それに、この男の為に祈るにはひねくれ過ぎた。主に染まりすぎたともいうのかもしれない。
というかそもそも大切な主を未だに苦しめ続けている男に祈りを捧げるほど私は優しくないし、この男のことが好きでもない。むしろ最低な男だと思う。自分勝手で偽善的で高慢で。
だけど、それでも、一つだけ感謝もしている。
最低最悪のタイミングではあったけれど、主に“愛している”と囁いてくれたことに。
心からその言葉を主贈ってくれたことに。本当の意味で主を独りぼっちにしなかったことに心から感謝している。
皮肉なことに今ではその言葉が主を縛る呪いの言葉となってしまったけれど、それでも嬉しかった。
自分以外に心から大切に主を想ってくれる存在がいたことが嬉しくて、とても安心した。
「……あなたのためにまだ祈れそうもない。
だけど」
悔しくて悔しくて仕方ないけど。
本当に感謝はしているから。
「ありがとう」
掠れそうな声で囁いた声は冷たい冬の空気に溶けて消える。
今はそのくらいがちょうどいい。
「お前だったのか」
あり得ない声に振り返ると難しい顔で墓石を睨みつける主の姿があった。
思わず漏れた笑みを更に眼光が鋭くなる。
それがなんだか可愛くてまた小さく笑うと今度は舌打ちが返ってきた。
くるりと背を向けて遠ざかる姿を微苦笑混じりに眺めていれば、ピタリと主の足が止まる。
「……置いてくぞ」
「!!待ってよ、主!」
彼と同じ言葉を口にできる日は来ないかもしれない。
それでも良い。ただ叶うなら来年もまたこの場所で僅かな時を共有できればいいと思う。
私たちがあなたの死を素直に悼み、安らかな眠りを祈れる日が来るその日まで気長に待っていてほしい。
きっとそう遠い日ではないと思うから。
*「5文字の呪い」「幸福な夢」とリンクしています
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