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エリンジウムが見つけた光
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はじめて心から欲しいと思った。
父の友人が連れてきた年下の女の子。
瑠璃の姿を見た瞬間、冗談じゃなくて本当に見つけたと思ったんだ。
「お、おおまえ、その子どうしたんだよ!?」
珍しく本当に焦ったような父親の声に俺はひょっこりと玄関を覗いた。
そこには凍えるような瞳で父親を黙らせている龍一となんともいえない顔で龍一の足元を見つめる父親の姿があった。
「りゅー!どーしたの?」
「やぁ、由貴。君たちに紹介したい子がいてね。お邪魔するよ。」
混乱を極めているだろう父親を綺麗に無視した龍一は勝手知ったる友人の家、俺の家へとあがりこんだ。
そこでふと気がついた。龍一の足になにかちんまいものがくっついている。
「おんなのこ?」
「ちゃんと紹介してあげるから部屋に行こう」
龍一はその言葉通りに客間につくと俺にその女の子を紹介してくれた。
だが、正直俺はそれどころじゃなかった。
烏の濡れ羽のように綺麗な漆黒の髪に、大きな夜の瞳、ふわふわと柔らかそうなほっぺ。
素直に可愛いと思った。いや、今まで見てきたどんなものよりもキレイだと思った。
「瑠璃も僕にべったりじゃダメだろうからね。“オトモダチ”として仲良くしてやってくれるかい?」
“オトモダチ”という単語を強調した龍一の顔はもう完全に父親のものだったけれど、俺は知らぬふりをして瑠璃を見ていた。
不安そうに揺れる瞳を、龍一の服を握り締める小さな手を、龍一しか見ない瑠璃を俺はただじっと見つめていた。
「ちょ、ちょっと待て、拾ったって。娘にしたって。え?お前が子育て?」
いつの間にか父親が俺の隣に腰掛けていて、混乱する頭を抱えながら龍一を凝視する。
素直すぎる父親の言葉に龍一は不快そうに眉を寄せて絶対零度の瞳で父親を見た。
「なに?文句あるの?」
いつもならここでビビッて引き下がる父親は混乱のためか、それともマジメに瑠璃のことを心配しているのか口を紡がずに言葉を続けた。
「イヤイヤだってお前、子育てなんて芸当できるの?嫁さんさえもらえないお前が?
めちゃくちゃ短気なのに?たいていのガキはお前のオーラに当てられて泣き出すのに?」
「あなたの子どもは泣いてないじゃないか」
「そりゃ、由貴は俺に似て……由貴くん、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいんじゃないかな?
流石にパパ傷つくんだけど。ていうか何でお前、父親の俺より滅多に顔見せない龍一に懐いてんの?
あれ、目からしょっぱい水が……」
「「うざい」」
「!!ダメ、やっぱり絶対ダメ!瑠璃ちゃんは女の子なんだぞ。
お前みたいに短気で口が悪くてクソ生意気に育ったらどうするんだ!!」
「心配いらないよ。嫁に出す予定はないから」
「親馬鹿!?おま、もう嫁に出すときの心配してんの!?」
「るり、おとうさんとずっといっしょがいい」
「ほら、この子だってそういってるじゃないか」
「なんでそんなに嬉しそうなわけ?
つーかキャラ違いすぎてキモイんだけど。むしろキモイの通り越して怖いんだけど!!」
ギャーギャーと騒ぐ父親を鬱陶しそうにしながらも瑠璃にちゃんと紹介している龍一。
龍一の言葉を聞き逃さないようにしっかりと耳を傾ける瑠璃。
もう、このときから瑠璃の瞳には龍一しか映っていなかったんだ。
だけど、俺もまたこのときから瑠璃の世界に入り込んでその闇色の瞳に映りこめる様にと動き始めていた。
逃がさないよ。
瑠璃が気づかないように少しずつ俺の居場所を広げて、瑠璃が気づかないうちに逃げ場所を塞いであげる。
優しく優しく瑠璃の世界を壊してあげる。
俺以外なにも分からなくなるまで愛してあげる。
覚悟してて。
俺はあの日、君を見つけた瞬間から諦める気なんて更々ないんだから。
だからさ、
「ねぇ、瑠璃。目をそらさないで」
そんな瞳をしてもだめだよ。
逃がしてなんかあげないし、奪ってもあげない。
だって、光は奪うものじゃなくて堕とすものだろう?
*このお話は「エリンジウムの解放」「向日葵の羨望」「菊花のみおつくし」「ネリネのまどろみ」とリンクしています。
父の友人が連れてきた年下の女の子。
瑠璃の姿を見た瞬間、冗談じゃなくて本当に見つけたと思ったんだ。
「お、おおまえ、その子どうしたんだよ!?」
珍しく本当に焦ったような父親の声に俺はひょっこりと玄関を覗いた。
そこには凍えるような瞳で父親を黙らせている龍一となんともいえない顔で龍一の足元を見つめる父親の姿があった。
「りゅー!どーしたの?」
「やぁ、由貴。君たちに紹介したい子がいてね。お邪魔するよ。」
混乱を極めているだろう父親を綺麗に無視した龍一は勝手知ったる友人の家、俺の家へとあがりこんだ。
そこでふと気がついた。龍一の足になにかちんまいものがくっついている。
「おんなのこ?」
「ちゃんと紹介してあげるから部屋に行こう」
龍一はその言葉通りに客間につくと俺にその女の子を紹介してくれた。
だが、正直俺はそれどころじゃなかった。
烏の濡れ羽のように綺麗な漆黒の髪に、大きな夜の瞳、ふわふわと柔らかそうなほっぺ。
素直に可愛いと思った。いや、今まで見てきたどんなものよりもキレイだと思った。
「瑠璃も僕にべったりじゃダメだろうからね。“オトモダチ”として仲良くしてやってくれるかい?」
“オトモダチ”という単語を強調した龍一の顔はもう完全に父親のものだったけれど、俺は知らぬふりをして瑠璃を見ていた。
不安そうに揺れる瞳を、龍一の服を握り締める小さな手を、龍一しか見ない瑠璃を俺はただじっと見つめていた。
「ちょ、ちょっと待て、拾ったって。娘にしたって。え?お前が子育て?」
いつの間にか父親が俺の隣に腰掛けていて、混乱する頭を抱えながら龍一を凝視する。
素直すぎる父親の言葉に龍一は不快そうに眉を寄せて絶対零度の瞳で父親を見た。
「なに?文句あるの?」
いつもならここでビビッて引き下がる父親は混乱のためか、それともマジメに瑠璃のことを心配しているのか口を紡がずに言葉を続けた。
「イヤイヤだってお前、子育てなんて芸当できるの?嫁さんさえもらえないお前が?
めちゃくちゃ短気なのに?たいていのガキはお前のオーラに当てられて泣き出すのに?」
「あなたの子どもは泣いてないじゃないか」
「そりゃ、由貴は俺に似て……由貴くん、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいんじゃないかな?
流石にパパ傷つくんだけど。ていうか何でお前、父親の俺より滅多に顔見せない龍一に懐いてんの?
あれ、目からしょっぱい水が……」
「「うざい」」
「!!ダメ、やっぱり絶対ダメ!瑠璃ちゃんは女の子なんだぞ。
お前みたいに短気で口が悪くてクソ生意気に育ったらどうするんだ!!」
「心配いらないよ。嫁に出す予定はないから」
「親馬鹿!?おま、もう嫁に出すときの心配してんの!?」
「るり、おとうさんとずっといっしょがいい」
「ほら、この子だってそういってるじゃないか」
「なんでそんなに嬉しそうなわけ?
つーかキャラ違いすぎてキモイんだけど。むしろキモイの通り越して怖いんだけど!!」
ギャーギャーと騒ぐ父親を鬱陶しそうにしながらも瑠璃にちゃんと紹介している龍一。
龍一の言葉を聞き逃さないようにしっかりと耳を傾ける瑠璃。
もう、このときから瑠璃の瞳には龍一しか映っていなかったんだ。
だけど、俺もまたこのときから瑠璃の世界に入り込んでその闇色の瞳に映りこめる様にと動き始めていた。
逃がさないよ。
瑠璃が気づかないように少しずつ俺の居場所を広げて、瑠璃が気づかないうちに逃げ場所を塞いであげる。
優しく優しく瑠璃の世界を壊してあげる。
俺以外なにも分からなくなるまで愛してあげる。
覚悟してて。
俺はあの日、君を見つけた瞬間から諦める気なんて更々ないんだから。
だからさ、
「ねぇ、瑠璃。目をそらさないで」
そんな瞳をしてもだめだよ。
逃がしてなんかあげないし、奪ってもあげない。
だって、光は奪うものじゃなくて堕とすものだろう?
*このお話は「エリンジウムの解放」「向日葵の羨望」「菊花のみおつくし」「ネリネのまどろみ」とリンクしています。
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