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エリンジウムの解放
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瑠璃は悔しげに唇を噛みしめて自分に触れる男を睨みつけた。
愛しそうに頬を包む掌から伝わる温もりと同じように男の気持ちまでもが瑠璃の中に入り込んでくるようで顔を顰める。
嫌なのに、振りほどけない。
認めたくないのに、目をそらせない。
離れたいのに、つき離せない。
これ以上踏み込まれたくなんてないのに、いっそ全てを暴かれてしまいたいとも思う。
そんなどうしようもない矛盾さえも見透かしたように男は楽しそうに、けれどどこまでも優しい瞳で瑠璃を見つめる。
「なにが、したいの?」
ずっとそうだった。
小さな頃からずっと。
捨て子だった自分を拾ったくれた養父が中心であり、全てであった瑠璃の世界にむりやり入り込んできて居座っている男。
全てを受け入れ見守るフリをしながら確実に瑠璃の世界を侵食し、やんわりと自分の望むようにと世界を広げていった男。
苛立ちと困惑をない交ぜにした瑠璃に男は微苦笑を浮かべただけで何も答えなかった。
それがまた瑠璃を苦しめる。
「私は、お父さんだけでよかった」
自分を縛るのも、振り回すのも、この世でただひとり、養父だけでよかった。
養父の為に生きていければ幸せだった。
養父が望むなら全てを差し出してもいいとさえ思う。。
それがどんなに歪な愛情でも、瑠璃にとって冷たい真っ暗な世界から連れ出してくれた養父は目に見えて触れられる神様だった。
血の繋がりのない自分を守り、慈しみ、愛してくれる養父さえいれば例えどんなに冷たく恐ろしい世界でもきっと生きていける。
「瑠璃」
なのに、この男が哀しそうな顔で、声で、自分の名前を呼ぶだけで胸が苦しくなる。
呼吸の仕方を忘れたように、苦しくて泣きたくなる。
まるで自分が間違ったことをしているみたいな気がして仕方なかった。
嫌いだ。
自分をかき乱すものなんて養父以外にいらない。
いらないのに、どうしてこの手を振りほどけないんだろう。
「好きだよ」
コツンと額を重ねて静かに囁かれた言葉に息が詰まる。
頬を包んでいた手はいつの間にか腰に回っていて、やんわりと抱きしめられる。
振りほどけば簡単に逃げ出せる力しかこめられていないのに、まるで鍵付きの鳥籠に囚われたような気がした。
「瑠璃が好きだよ。
たとえ、瑠璃があの人しか見てなくても」
何も答えられずに息を詰めて固まるしかない瑠璃に男は小さく笑うとそのまま胸を締めつけるような声で続いた。
まるで、幾ら囁いてもその声が瑠璃に届くことはないと諦めているように。
ただ、自分の想いを確認するように。
切なさの海に溺れているような静かな声で瑠璃に囁いた。
「小さな頃からずっと、瑠璃が好きだった。
本当は、もう少しガマンしてるつもりだったんだけど……。
ごめん、限界みたいだ」
囁かれた言葉に、瑠璃は目を見開く。
それではまるで、本当に瑠璃の手の届かないところに、遠くに行ってしまうみたいじゃないか。
分かりやすく表情を変えた瑠璃に男は目を瞬いて困ったように笑うとそっと瞳を閉じた。
「2番目でいい。
あの人の次でいいから、俺のことも見て?」
静かな声なのに、否を許さない声。
再び顔を出した漆黒の瞳は瑠璃がみたことのない獰猛さを秘めていて思わずピクリと肩が跳ねた。
2番目でいいなんて、嘘だ。
鋭く自分を射ぬく狩を楽しむ肉食動物の様な瞳に瑠璃ははじめて男を恐れた。
今までどれだけ男が自分を抑えていたのかを思い知った。
向けられる感情の深さを、強さを、はじめて感じた気がした。
「ねぇ、瑠璃。目をそらさないで」
そして、唇に落とされた熱に完全に逃げ場所を塞がれた。
*「エリンジウムが見つけた光」「向日葵の羨望」「菊花のみをつくし」「ネリネのまどろみ」とリンクしてます。
愛しそうに頬を包む掌から伝わる温もりと同じように男の気持ちまでもが瑠璃の中に入り込んでくるようで顔を顰める。
嫌なのに、振りほどけない。
認めたくないのに、目をそらせない。
離れたいのに、つき離せない。
これ以上踏み込まれたくなんてないのに、いっそ全てを暴かれてしまいたいとも思う。
そんなどうしようもない矛盾さえも見透かしたように男は楽しそうに、けれどどこまでも優しい瞳で瑠璃を見つめる。
「なにが、したいの?」
ずっとそうだった。
小さな頃からずっと。
捨て子だった自分を拾ったくれた養父が中心であり、全てであった瑠璃の世界にむりやり入り込んできて居座っている男。
全てを受け入れ見守るフリをしながら確実に瑠璃の世界を侵食し、やんわりと自分の望むようにと世界を広げていった男。
苛立ちと困惑をない交ぜにした瑠璃に男は微苦笑を浮かべただけで何も答えなかった。
それがまた瑠璃を苦しめる。
「私は、お父さんだけでよかった」
自分を縛るのも、振り回すのも、この世でただひとり、養父だけでよかった。
養父の為に生きていければ幸せだった。
養父が望むなら全てを差し出してもいいとさえ思う。。
それがどんなに歪な愛情でも、瑠璃にとって冷たい真っ暗な世界から連れ出してくれた養父は目に見えて触れられる神様だった。
血の繋がりのない自分を守り、慈しみ、愛してくれる養父さえいれば例えどんなに冷たく恐ろしい世界でもきっと生きていける。
「瑠璃」
なのに、この男が哀しそうな顔で、声で、自分の名前を呼ぶだけで胸が苦しくなる。
呼吸の仕方を忘れたように、苦しくて泣きたくなる。
まるで自分が間違ったことをしているみたいな気がして仕方なかった。
嫌いだ。
自分をかき乱すものなんて養父以外にいらない。
いらないのに、どうしてこの手を振りほどけないんだろう。
「好きだよ」
コツンと額を重ねて静かに囁かれた言葉に息が詰まる。
頬を包んでいた手はいつの間にか腰に回っていて、やんわりと抱きしめられる。
振りほどけば簡単に逃げ出せる力しかこめられていないのに、まるで鍵付きの鳥籠に囚われたような気がした。
「瑠璃が好きだよ。
たとえ、瑠璃があの人しか見てなくても」
何も答えられずに息を詰めて固まるしかない瑠璃に男は小さく笑うとそのまま胸を締めつけるような声で続いた。
まるで、幾ら囁いてもその声が瑠璃に届くことはないと諦めているように。
ただ、自分の想いを確認するように。
切なさの海に溺れているような静かな声で瑠璃に囁いた。
「小さな頃からずっと、瑠璃が好きだった。
本当は、もう少しガマンしてるつもりだったんだけど……。
ごめん、限界みたいだ」
囁かれた言葉に、瑠璃は目を見開く。
それではまるで、本当に瑠璃の手の届かないところに、遠くに行ってしまうみたいじゃないか。
分かりやすく表情を変えた瑠璃に男は目を瞬いて困ったように笑うとそっと瞳を閉じた。
「2番目でいい。
あの人の次でいいから、俺のことも見て?」
静かな声なのに、否を許さない声。
再び顔を出した漆黒の瞳は瑠璃がみたことのない獰猛さを秘めていて思わずピクリと肩が跳ねた。
2番目でいいなんて、嘘だ。
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今までどれだけ男が自分を抑えていたのかを思い知った。
向けられる感情の深さを、強さを、はじめて感じた気がした。
「ねぇ、瑠璃。目をそらさないで」
そして、唇に落とされた熱に完全に逃げ場所を塞がれた。
*「エリンジウムが見つけた光」「向日葵の羨望」「菊花のみをつくし」「ネリネのまどろみ」とリンクしてます。
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