104 / 145
第3章~あなたの愛に完全幸福します~
98
しおりを挟む
ジェロージアの言葉が引っかかったリヒトはすぐに家族に向けて手紙を書いた。
普段どれだけ低レベルなじゃれあいをしていてもあのボスが大切な家族を危険にさらすはずがないと知っている。
絶対にあり得ないと身を持って知っているのにリヒトの不安は消えなかった。
それを紛らわせるように綴られた手紙の返事はすぐに届いた。
「ハハハ……」
やってくれる。
リヒトはノクトから送られてきた手紙に目を通しながら思わず乾いた笑いが漏れる。
1年という期限を決めて王女の家庭教師をするといったのは自分だが、リヒトはセイラがはじめて自分なしに夜の闇の任務に就いた時の報告書を読んで早々に後悔した。
はっきり言ってしまえば危なっかしくて生きた心地がしない。
ノクトから送られて来た手紙にはそれはそれは面白可笑しくセイラの武勇伝が書かれていてリヒトに言わせると心配の一言につきるのだ。
ただでさえセイラは女の子だというのにやることが大胆というか男前すぎる。
どうして誰も止めないんだろう。あぁ、ボスの娘だからか。
妙に納得してしまうのは誰もが恐れ敬う我らがボスに真っ向から噛みついている姿を見ているからか、それとも『その椅子寄こせ!』と大胆にも啖呵を切る姿が日常になりつつあるからか。はたまた『絶対にパパからボスの椅子を奪い取って兄様のお嫁さんにもなってみせます』という男前すぎる宣戦布告が知れわたってしまったからか。
黙っていれば文句なしに可愛いのに。いや、お転婆してても可愛いけど。
少しは心配させられる身にもなって欲しい。
いやいや違う。そうじゃない。戻って来い俺。
最近、なんだかちょっと可笑しいぞ。
ブンブンと首を振って脇道にそれた思考を手繰り寄せているとふいに頭痛持ちの上司の姿が思い浮かんでなんだか泣きたくなった。
帰ったらもっとジオに優しくしよう。
せめて自分だけは両親に、そして弟妹たちに振り回され続けているジオの味方でいよう。
「返事、どうしようかな」
ポツリと呟いたリヒトの脳裏に真っ先に浮かんだのは自分の反応を楽しみに待っているノクトの意地の悪い笑みだった。
ついで自分が書くであろう手紙の内容を思い浮かべて溜息を吐く。
セイラのことに関しては言いたいことがあり過ぎて小言で終わりそうだ。
それは離れた家族に向けた手紙には頂けないし、小言であろうと仕事に関する事を文字にするのは憚れる。
なによりもリヒトがそうだったようにリヒトからの手紙を心待ちにしているだろうセイラたちにそれは可哀相だろう。
「あ」
ふっと視線を投げかけたそこにあったものにリヒトはひらめいた。
これなら必要以上に情報を文字にしなくて済むし、頑張ったご褒美にもなる。
ノクトには普通に返事を書いてセイラたちにはこれにしよう。
「ステラがいるしなんとかなる、よね……?」
伝えたいことが伝わるかどうかは妹分の手に委ねられることになりそうだけど、きっと大丈夫だろう。
リヒトは自分からの返事が届いた時のセイラを想像して柔らかく微笑んだ。
普段どれだけ低レベルなじゃれあいをしていてもあのボスが大切な家族を危険にさらすはずがないと知っている。
絶対にあり得ないと身を持って知っているのにリヒトの不安は消えなかった。
それを紛らわせるように綴られた手紙の返事はすぐに届いた。
「ハハハ……」
やってくれる。
リヒトはノクトから送られてきた手紙に目を通しながら思わず乾いた笑いが漏れる。
1年という期限を決めて王女の家庭教師をするといったのは自分だが、リヒトはセイラがはじめて自分なしに夜の闇の任務に就いた時の報告書を読んで早々に後悔した。
はっきり言ってしまえば危なっかしくて生きた心地がしない。
ノクトから送られて来た手紙にはそれはそれは面白可笑しくセイラの武勇伝が書かれていてリヒトに言わせると心配の一言につきるのだ。
ただでさえセイラは女の子だというのにやることが大胆というか男前すぎる。
どうして誰も止めないんだろう。あぁ、ボスの娘だからか。
妙に納得してしまうのは誰もが恐れ敬う我らがボスに真っ向から噛みついている姿を見ているからか、それとも『その椅子寄こせ!』と大胆にも啖呵を切る姿が日常になりつつあるからか。はたまた『絶対にパパからボスの椅子を奪い取って兄様のお嫁さんにもなってみせます』という男前すぎる宣戦布告が知れわたってしまったからか。
黙っていれば文句なしに可愛いのに。いや、お転婆してても可愛いけど。
少しは心配させられる身にもなって欲しい。
いやいや違う。そうじゃない。戻って来い俺。
最近、なんだかちょっと可笑しいぞ。
ブンブンと首を振って脇道にそれた思考を手繰り寄せているとふいに頭痛持ちの上司の姿が思い浮かんでなんだか泣きたくなった。
帰ったらもっとジオに優しくしよう。
せめて自分だけは両親に、そして弟妹たちに振り回され続けているジオの味方でいよう。
「返事、どうしようかな」
ポツリと呟いたリヒトの脳裏に真っ先に浮かんだのは自分の反応を楽しみに待っているノクトの意地の悪い笑みだった。
ついで自分が書くであろう手紙の内容を思い浮かべて溜息を吐く。
セイラのことに関しては言いたいことがあり過ぎて小言で終わりそうだ。
それは離れた家族に向けた手紙には頂けないし、小言であろうと仕事に関する事を文字にするのは憚れる。
なによりもリヒトがそうだったようにリヒトからの手紙を心待ちにしているだろうセイラたちにそれは可哀相だろう。
「あ」
ふっと視線を投げかけたそこにあったものにリヒトはひらめいた。
これなら必要以上に情報を文字にしなくて済むし、頑張ったご褒美にもなる。
ノクトには普通に返事を書いてセイラたちにはこれにしよう。
「ステラがいるしなんとかなる、よね……?」
伝えたいことが伝わるかどうかは妹分の手に委ねられることになりそうだけど、きっと大丈夫だろう。
リヒトは自分からの返事が届いた時のセイラを想像して柔らかく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる