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第2章~守るために強くなると誓いました~
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珍しく沈んだ顔でやってきたリヒトに彼女は読んでいた本を机に伏せてパチリと目を瞬いた。
「これはまた女性との逢瀬には似合わない表情だね。リヒト君」
「逢瀬って……。からかわないでくださいよ。
俺、ちょっと本気で落ち込んでるのに。」
唇を尖らせて拗ねた仕草をするリヒトに彼女はクスリと笑って話の続きを聞きだした。
そして心の底から呆れた顔をした。
「君も重度シスコン、ブラコンだと思っていたけど本当に相思相愛なんだねぇ。
いやーもう、あれだけうだうだ悩んでたのが嘘みたいだ。」
「それを言わないでくださいよ。
俺だって一応踏ん切りがついたからあの家に戻ったんです。
それに、無条件に俺を信用して俺のために自分の願いを呑みこんで泣きそうな顔で送り出してくれる可愛い可愛い(中略)可愛い弟と妹たちをどうやって疎めっていうんですか!!」
「わかったわかった。要するに家に残してきた捨てられたような目をする仔犬3匹に君のほんの少し残された良心がチクチク痛むっていうんだろう?」
「ほんの少しってなんですか!?
俺はいい人………とは言えませんけど、いい人に見える努力はしてますよ!!」
「それ、あまり弁明になってないよ。」
いつの間にか運ばれてきたコーヒーを啜りながらリヒトはなんだかすごく負けた気分で彼女を見た。
彼女もまた勝ち誇ったように口角を釣り上げて紅茶に口を付けているのだろうと思っていたのにリヒトの予想とは反して彼女はとても柔らかな微笑を浮かべてリヒトを見ていた。
「センパイ……?」
「ねぇ、リヒト君。君は私の名前を知っているかい?」
そう言われてリヒトはギュッと眉を寄せた。
何度聞いても彼女は自分から名前を名乗らなかった。
いつもいつも飄々とした態度であててごらん?とサラリとかわされたおかげでリヒトは同じ敷地内に立っているとはいえフェンスで仕切られている女子棟と男子棟の間を行き来して彼女のことを探るのは本当に手間だった。
嫌な記憶まで掘り起こしそうになったリヒトはそこで思考を止めて彼女が望む答えを紡ぐ。
「ニンフィア。ニンフィア・ルミエールさん」
「正解。……ご褒美に1ついいことを教えてあげよう。
ノエルと偽りのラヴァンシーに気を付けなさい」
「!?センパイ、俺、」
「うん。行っておいで。
あ、それと私しばらく今度の夜会の用意で忙しくて来れなくなるから」
「夜会……?あぁ、ジェロの誕生のですか?」
「お父様が招待されていてね。私も同伴することになっているんだ」
「じゃあ、次は夜会でお会いしましょう」
「うん。バイバイ、リヒト君」
笑顔で手を振ってくれる彼女にリヒトは嬉しそうに頷くと大急ぎで屋敷へと戻った。
喉に何かが引っかかったかのような違和感をずっと呑みこめないままに。
「これはまた女性との逢瀬には似合わない表情だね。リヒト君」
「逢瀬って……。からかわないでくださいよ。
俺、ちょっと本気で落ち込んでるのに。」
唇を尖らせて拗ねた仕草をするリヒトに彼女はクスリと笑って話の続きを聞きだした。
そして心の底から呆れた顔をした。
「君も重度シスコン、ブラコンだと思っていたけど本当に相思相愛なんだねぇ。
いやーもう、あれだけうだうだ悩んでたのが嘘みたいだ。」
「それを言わないでくださいよ。
俺だって一応踏ん切りがついたからあの家に戻ったんです。
それに、無条件に俺を信用して俺のために自分の願いを呑みこんで泣きそうな顔で送り出してくれる可愛い可愛い(中略)可愛い弟と妹たちをどうやって疎めっていうんですか!!」
「わかったわかった。要するに家に残してきた捨てられたような目をする仔犬3匹に君のほんの少し残された良心がチクチク痛むっていうんだろう?」
「ほんの少しってなんですか!?
俺はいい人………とは言えませんけど、いい人に見える努力はしてますよ!!」
「それ、あまり弁明になってないよ。」
いつの間にか運ばれてきたコーヒーを啜りながらリヒトはなんだかすごく負けた気分で彼女を見た。
彼女もまた勝ち誇ったように口角を釣り上げて紅茶に口を付けているのだろうと思っていたのにリヒトの予想とは反して彼女はとても柔らかな微笑を浮かべてリヒトを見ていた。
「センパイ……?」
「ねぇ、リヒト君。君は私の名前を知っているかい?」
そう言われてリヒトはギュッと眉を寄せた。
何度聞いても彼女は自分から名前を名乗らなかった。
いつもいつも飄々とした態度であててごらん?とサラリとかわされたおかげでリヒトは同じ敷地内に立っているとはいえフェンスで仕切られている女子棟と男子棟の間を行き来して彼女のことを探るのは本当に手間だった。
嫌な記憶まで掘り起こしそうになったリヒトはそこで思考を止めて彼女が望む答えを紡ぐ。
「ニンフィア。ニンフィア・ルミエールさん」
「正解。……ご褒美に1ついいことを教えてあげよう。
ノエルと偽りのラヴァンシーに気を付けなさい」
「!?センパイ、俺、」
「うん。行っておいで。
あ、それと私しばらく今度の夜会の用意で忙しくて来れなくなるから」
「夜会……?あぁ、ジェロの誕生のですか?」
「お父様が招待されていてね。私も同伴することになっているんだ」
「じゃあ、次は夜会でお会いしましょう」
「うん。バイバイ、リヒト君」
笑顔で手を振ってくれる彼女にリヒトは嬉しそうに頷くと大急ぎで屋敷へと戻った。
喉に何かが引っかかったかのような違和感をずっと呑みこめないままに。
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