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第2章~守るために強くなると誓いました~
37.5
しおりを挟むリヒトのお腹に顔を埋めたままピクリとも反応しなくなったセイラをアルバは溜息を吐きながら引きはがす。
「えっと?」
「大丈夫。いつものことだから気にしないで。
ほら、姉さんもいい加減戻ってきなよ」
不思議そうにセイラが引きはがされる様を見ていたリヒトにアルバはにっこりと微笑んで幸せに浸っているセイラを現実に呼び戻す。
耳まで真っ赤に染めて俯くセイラに大丈夫ですか?と声をかけていたステラも心配そうなリヒトに微苦笑混じりに大丈夫だと頷く。
しばらく心配そうにしていたリヒトも何とも言えない顔をしたルナとニナが「あらあら。随分可愛らしい反応ね」「ちぃ姫様も女の子ですからねぇ」と呟くのを聞いてハッと何かに気付いたような顔をした。
呆れ混じりに見ていたノクトとジオはその様子に「おっ!」と目を瞬いたが、リヒトの口から紡がれたのは彼らが予想から随分と遠い言葉だった。
「ごめん!そうだよね。セイラも12だもんね。
これからはもっと気を付けるよ」
「え?に、兄さん??気を付けるって……??」
「スキンシップ。
もうお年頃だもんね。
アルバとステラもごめんね、俺、気付かなくて……。
これからはちゃんと気を付けるからね。」
しゅんと眉を下げて申し訳なさそうな顔をするリヒトに誰も何も言えなかった。
ジオたちはポカーンとした顔でそれを眺め、ノクトは片手で口元を覆ってプルプル震えている。
「……俺は嫌じゃないよ。
兄さんにぎゅってしてもらうのも頭撫でてもらうのも」
必死に笑いを堪えている父親を睨みつけてアルバはちょっとだけ恥ずかしそうに呟いた。
その言葉に目を瞬くリヒトにステラもふにゃりとした笑みを浮かべて続ける。
「私もリヒト兄様にぎゅってしてもらうの大好きです!」
「そっか」
寄宿舎にいたリヒトは滅多に会えない両親やジオ、ニナに甘やかしてもらえる時間を鬱陶しいと思ったことはなかった。
年齢が上がるにつれて恥ずかしくなることはあったけれど、それでも抱きしめてもらったり、頭を撫でてもらうのは嬉しかった。
だけど学校の友人たちには親兄弟からの干渉やスキンシップを鬱陶しがる者もいた。
特に女の子には男親や男兄弟を毛嫌いしている子もいるらしいという話も聞いたことがあった。
だから照れたアルバとステラの言葉に少しだけ安心した。
そしてピシリと固まったまま動かないセイラに微苦笑を向ける。
ノクトに対しいてあれだけ噛みついていたのだから可笑しくはない。
「セイラ」
「……うの!ちがうの!嫌じゃないの!!
私も、私も、兄様にぎゅってしてもらうの好きだもん!
き、キスしてもうらのだって嬉しいわ!ただ、その、ちょっと、恥ずかしかっただけで。
だ、だから、……………やめたら、やだぁ!」
うぇえんと泣きだしたセイラにリヒトはぎょっとする。
「セ、セイラ…?」
「ヒック、やだ。すきだもん!」
「分かった。わかったから落ち着いて。」
「うわぁあん!!にーさまのばかぁ!!」
「ご、ごめん。俺が悪かったから、だから泣かないで」
珍しく本気で泣くセイラと慌てるリヒトにジオとニナはデジャヴを感じた。
セイラがわんわん泣く姿はルナに、それを必死で慰める姿はノクトに、面白いくらいに重なる。
「親子だなぁ」
「親子ですねぇ」
「親子だね」
「です」
生温かい視線を向けられたノクトはぐっと眉間に皺を刻んで右腕と息子を睨みつけ、リヒトの腹に涙でぐちゃぐちゃの顔を押し付けて泣いている娘に視線を戻して溜息を吐いた。
妻に似た可愛げを持ち合わせていたことを喜べばいいのか、子どもっぽすぎる泣き方まで遺伝したことを嘆けばいいのか。
どちらにせよ、
「いつまでサボってやがる。さっさと仕事に戻りやがれ!」
泣こうが喚こうが仕事量を減らしてやる気はない。
だから、さっさと泣きやませろよ。リヒト。
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