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第1章~平和な日常が戻ってきました~
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セイラはアルバの用意した抜け道を駆使して庭師のおじいさんと合流して街へ送り届けてもらった。
そこから目的地までひた走る。
お見合いの会場が会員制のお店や相手の別荘でなかった事がせめてもの救いだ。
これで会員証がないと入れないとか限られた人間しか出入りしないような場所なら潜り込むのに苦労する。
こればかりは現在進行形でセイラたちを掌の上で転がして遊んでいる意地悪オヤジに感謝するしかない。
リヒトたちがいるのは最近できたばかりの人の出入りが多いホテル。
流石にお見合いしている部屋は貸し切りでその周囲も邪魔にならないように関係者以外立ち入り禁止にはしてあるだろうけどそのくらいならどうにでもする。
「お願い、間に合って……!」
アルバとステラが仕入れてきた事前情報を頭の中で展開しながらセイラは人気のないルートを瞬時に選びとって足を進める。
途中、曲がり角の向こう側にジオの背中を見つけた瞬間は本気で背中を冷たいものが伝った。
こんなところで見つかって捕まるわけにはいかない。
慎重に慎重を重ねて辿りついた扉の前でセイラはゴクリと唾を呑みこんだ。
本当はここで踏みとどまった方がいいことは理解している。
自分のためにも兄様のためにも、パパのためにも。
それが侯爵令嬢として、パパの娘として正解なのはわかってる。
だけど、だけど。
迷いを断ち切るようにぎゅうっとセイラが唇を噛みしめた瞬間、タイミングを見計らったように耳にお見合い相手であろう令嬢の声が飛び込んできた。
「ダリアはあなたさまを、リヒト様をお慕いしております」
「待って!!お願いだから待って!兄様ッ!!」
バンと勢いよく扉を開いて転がるように飛びこんできたセイラにリヒトは目を見開く。
「セイラ!?どうしてここに!?」
「兄様お願い。あと3年!3年でいいから待って!!
あと3年で私、絶対にその人よりいい女になるわ!だから、だから、」
リヒトは混乱する頭を持てあましながら自分のスーツをぎゅうっと握りしめて泣きそうな顔で必死に訴えるセイラを呆然と見ていた。
大きな瞳に透明な膜が薄らと張る。
「お願い、兄様、まだ結婚なんてしないで……」
縋るように紡がれた言葉の意味をいまいち理解できないままリヒトは兄の習性でポタリと零れ落ちたセイラの涙を優しく拭って抱きしめてやる。
そのまま困り果てた表情で、自分と同じように困り顔で一連の様子を見ていたダリアに向き直った。
「申し訳ありませんダリア嬢」
「い、いえ。あの、そちらは……?」
「えぇっと、妹のセイラです」
「はぁ、妹君、ですか……」
何か言いたそうにしたダリアだったが、どうすればいいのかサッパリお手上げ状態のリヒトとその腕の中から涙目で自分を睨みつける妹君に微苦笑を浮かべた。
「……リヒト様、ワガママを聞いてくださりありがとうございました。
これで心おきなくお嫁に行けますわ」
「俺は何もしていませんよ。
―――――――貴女の幸せを祈ってます。どうかお元気で」
「ありがとうございます。リヒト様も」
どことなくスッキリした顔をするダリアを見送ってリヒトは状況に付いていけずにパチパチと目を瞬くセイラをひょいと担ぎあげた。
「きゃあ!に、兄様!?」
「話はジオと一緒に聞いてあげる」
それっきり黙ってしまったリヒトにセイラはしおらしく頷いて大人しくジオのもとへと連行された。
そこから目的地までひた走る。
お見合いの会場が会員制のお店や相手の別荘でなかった事がせめてもの救いだ。
これで会員証がないと入れないとか限られた人間しか出入りしないような場所なら潜り込むのに苦労する。
こればかりは現在進行形でセイラたちを掌の上で転がして遊んでいる意地悪オヤジに感謝するしかない。
リヒトたちがいるのは最近できたばかりの人の出入りが多いホテル。
流石にお見合いしている部屋は貸し切りでその周囲も邪魔にならないように関係者以外立ち入り禁止にはしてあるだろうけどそのくらいならどうにでもする。
「お願い、間に合って……!」
アルバとステラが仕入れてきた事前情報を頭の中で展開しながらセイラは人気のないルートを瞬時に選びとって足を進める。
途中、曲がり角の向こう側にジオの背中を見つけた瞬間は本気で背中を冷たいものが伝った。
こんなところで見つかって捕まるわけにはいかない。
慎重に慎重を重ねて辿りついた扉の前でセイラはゴクリと唾を呑みこんだ。
本当はここで踏みとどまった方がいいことは理解している。
自分のためにも兄様のためにも、パパのためにも。
それが侯爵令嬢として、パパの娘として正解なのはわかってる。
だけど、だけど。
迷いを断ち切るようにぎゅうっとセイラが唇を噛みしめた瞬間、タイミングを見計らったように耳にお見合い相手であろう令嬢の声が飛び込んできた。
「ダリアはあなたさまを、リヒト様をお慕いしております」
「待って!!お願いだから待って!兄様ッ!!」
バンと勢いよく扉を開いて転がるように飛びこんできたセイラにリヒトは目を見開く。
「セイラ!?どうしてここに!?」
「兄様お願い。あと3年!3年でいいから待って!!
あと3年で私、絶対にその人よりいい女になるわ!だから、だから、」
リヒトは混乱する頭を持てあましながら自分のスーツをぎゅうっと握りしめて泣きそうな顔で必死に訴えるセイラを呆然と見ていた。
大きな瞳に透明な膜が薄らと張る。
「お願い、兄様、まだ結婚なんてしないで……」
縋るように紡がれた言葉の意味をいまいち理解できないままリヒトは兄の習性でポタリと零れ落ちたセイラの涙を優しく拭って抱きしめてやる。
そのまま困り果てた表情で、自分と同じように困り顔で一連の様子を見ていたダリアに向き直った。
「申し訳ありませんダリア嬢」
「い、いえ。あの、そちらは……?」
「えぇっと、妹のセイラです」
「はぁ、妹君、ですか……」
何か言いたそうにしたダリアだったが、どうすればいいのかサッパリお手上げ状態のリヒトとその腕の中から涙目で自分を睨みつける妹君に微苦笑を浮かべた。
「……リヒト様、ワガママを聞いてくださりありがとうございました。
これで心おきなくお嫁に行けますわ」
「俺は何もしていませんよ。
―――――――貴女の幸せを祈ってます。どうかお元気で」
「ありがとうございます。リヒト様も」
どことなくスッキリした顔をするダリアを見送ってリヒトは状況に付いていけずにパチパチと目を瞬くセイラをひょいと担ぎあげた。
「きゃあ!に、兄様!?」
「話はジオと一緒に聞いてあげる」
それっきり黙ってしまったリヒトにセイラはしおらしく頷いて大人しくジオのもとへと連行された。
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