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第1章~平和な日常が戻ってきました~
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ついに明日に迫ったお見合いの最終チェックのためにジオの部屋にやってきたリヒトは思わず眉を寄せた。
ついこの間まで一緒に面倒だのサボりたいだのもういっそ手紙で断わっちまえばいいんじゃねぇかだのと一緒になって愚痴っていたジオがなんだかものすごくやる気を出している。
どうしたの?という視線を向けられたニナは呆れた顔でジオを見て溜息混じりに事の次第を説明した。
曰く、普段の仕事にこの迷惑な見合い話の準備まで追加されて多忙を極めていたジオに、溺愛する天使が「父様、お仕事お疲れ様です」とコーヒーをさしいれたらしい。
その上ちょっぴり寂しそうな顔で「邪魔しないから一緒にいてもいいですか」なんて言われてトドメを刺されたらしい。
そしてそれがここ数日続いているらしい。
ちょっぴり不満そうな顔と棘が混じった声でそう教えてくれたニナにリヒトは苦笑いする。
「それでニナは拗ねてるの?」
「す、拗ねてません!どうして私がステラにヤキモチ妬かなきゃならないんですか!」
「……俺、そこまで言ってないよ」
ジオをステラにとられたっていうよりステラをジオにとられたことにヤキモチ妬いてるのかと思ってたし。
苦笑混じりに零された言葉にニナは目を見開いて慌てて口を覆う。
しかし飛びだした言葉は戻らない。
案の定その言葉にパチリと目を瞬いたジオがニヤニヤしながらニナを見つめる。
「ほぉう?ステラにヤキモチ妬いて拗ねてんのか?」
「っニヤニヤするな!拗ねてないって言ってるでしょ!!」
ビュンビュン飛んでくるペンやらクッションやらを避けるために部屋の隅っこに移動したリヒトは真っ赤になって近くのものを手当たり次第に投げるニナとニヤニヤがおさまらないジオを生温かい目で見守っていた。
ふたりの過激な照れ隠し――愛情表現――は恋人時代から変わっていないらしい。
この姿を見てステラがどうしてあんなにおしとやかで女の子らしい子に育ったんだろう…?
双子という幼馴染もいるのに……。不思議だ。
「悪かったなぁ。俺がステラを可愛がるのはお前によく似てるっつーのもあるんだぜ?」
「……知ってます。そんなの」
いつの間にかジオの腕の中に閉じ込められて大人しくなったニナのツンとした声にリヒトははぁと溜息を吐いた。
俺がいること忘れてるな。
というかジオに至っては俺が空気を読んで出ていくこと前提でこの甘ったるい空気を出し始めたな。
はいはい。お邪魔虫はさっさと退散しますよ。
ちらりと向けられた視線に微苦笑を浮かべながらリヒトはお世話になっている兄貴分と姉貴分のために気配を殺して静かに部屋を出た。
この件が終わったらステラとニナへのお詫びにボスにジオの休暇を申請してみるのもいいかもしれない。
リヒトはにこにこと嬉しそうに笑うステラと照れた隠しにそっぽを向くニナを思いながら自室に戻った。
ついこの間まで一緒に面倒だのサボりたいだのもういっそ手紙で断わっちまえばいいんじゃねぇかだのと一緒になって愚痴っていたジオがなんだかものすごくやる気を出している。
どうしたの?という視線を向けられたニナは呆れた顔でジオを見て溜息混じりに事の次第を説明した。
曰く、普段の仕事にこの迷惑な見合い話の準備まで追加されて多忙を極めていたジオに、溺愛する天使が「父様、お仕事お疲れ様です」とコーヒーをさしいれたらしい。
その上ちょっぴり寂しそうな顔で「邪魔しないから一緒にいてもいいですか」なんて言われてトドメを刺されたらしい。
そしてそれがここ数日続いているらしい。
ちょっぴり不満そうな顔と棘が混じった声でそう教えてくれたニナにリヒトは苦笑いする。
「それでニナは拗ねてるの?」
「す、拗ねてません!どうして私がステラにヤキモチ妬かなきゃならないんですか!」
「……俺、そこまで言ってないよ」
ジオをステラにとられたっていうよりステラをジオにとられたことにヤキモチ妬いてるのかと思ってたし。
苦笑混じりに零された言葉にニナは目を見開いて慌てて口を覆う。
しかし飛びだした言葉は戻らない。
案の定その言葉にパチリと目を瞬いたジオがニヤニヤしながらニナを見つめる。
「ほぉう?ステラにヤキモチ妬いて拗ねてんのか?」
「っニヤニヤするな!拗ねてないって言ってるでしょ!!」
ビュンビュン飛んでくるペンやらクッションやらを避けるために部屋の隅っこに移動したリヒトは真っ赤になって近くのものを手当たり次第に投げるニナとニヤニヤがおさまらないジオを生温かい目で見守っていた。
ふたりの過激な照れ隠し――愛情表現――は恋人時代から変わっていないらしい。
この姿を見てステラがどうしてあんなにおしとやかで女の子らしい子に育ったんだろう…?
双子という幼馴染もいるのに……。不思議だ。
「悪かったなぁ。俺がステラを可愛がるのはお前によく似てるっつーのもあるんだぜ?」
「……知ってます。そんなの」
いつの間にかジオの腕の中に閉じ込められて大人しくなったニナのツンとした声にリヒトははぁと溜息を吐いた。
俺がいること忘れてるな。
というかジオに至っては俺が空気を読んで出ていくこと前提でこの甘ったるい空気を出し始めたな。
はいはい。お邪魔虫はさっさと退散しますよ。
ちらりと向けられた視線に微苦笑を浮かべながらリヒトはお世話になっている兄貴分と姉貴分のために気配を殺して静かに部屋を出た。
この件が終わったらステラとニナへのお詫びにボスにジオの休暇を申請してみるのもいいかもしれない。
リヒトはにこにこと嬉しそうに笑うステラと照れた隠しにそっぽを向くニナを思いながら自室に戻った。
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