全自動の喜悲劇

藤白 圭次郎

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全自動の喜悲劇

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 ありきたりな、乾いた金属音がなり、今度は多少の面白味のある音とともに、僕の視界に光が差し全自動の物語が始まる。プロローグこそ毎度お決まりの展開だがその後の物語は見飽きることがない。
 人は僕の前に物を置きやがて取りにかえってくる。
 今日も新たなる物語が始まった。客は、中年の男だった。きれいとも汚いともつかない風貌で、わりと整った顔立ちをしていることがうかがえた。
 男は少し、辺りの様子を伺い、何かを確認すると、いきなり小さな鞄を押し込んできた。おかげで僕は鞄を思い切りぶつけられたわけだ。 他人のことを思いやれないのか、と思わず口に出し、僕の声が人に聞こえない虚しさを再認識した。
 が、そんなことよりも僕の興味は、男にかかってきた1件の電話にあった。
「あぁ、予定通り駅構内のコインロッカーに入れておいた。鍵は後日受け渡す、うるせえな、お前も大概だろ、生活のためだ」
 僕は自分の好奇心がくすぐられていることを自覚する。荷物を預けるのではないのだろうか。
 そこまで考えたところで、僕の思考が遮られた。男が乱暴に窓を閉めたからだ。
 もう一度荷物をよく観察する。もっとも、あまりに近いその荷物は、盲点そのものなので大した情報は、得られなかった。
 そこから2日間思案に勤しんだ僕に一つの仮説が浮かんだ。
 男は、会社の重役か何かで、案件で重要な情報を持っていた。しかし、なんらかの組織に狙われ危険にさらされていた。そこで男は自らの持つ情報をこのコインロッカーに預け、仲間に情報を託した。その時男は既に亡くなっている。
 我ながら、なかなか面白い仮説ができた。
 例の、多少の面白味を持つ音が鳴って扉が開けられた。
 前に来た男とは別人でこちらは若めの男で綺麗な身なりから裕福であろうことがうかがえた。
 若い男は丁寧に荷物を取り出した。
 これで今回の物語は完結だろう。
 僕の安堵を引き裂いたのは、鋭い男の声だった。
「麻薬取締法違反の疑いで逮捕する」
 僕が辛うじて聞き取れたのは、この1文だった。
「麻薬」という言葉が妙に腑に落ちた。あの時の男の警戒も言動も全てが繋がるようだった。
 同時に男の言葉が蘇る。
「生活のため」
 ならば僕は何だろう。
 ここで起こる人々の喜悲劇を眺め、なにを求めているのだろうか。
 男にとって麻薬の売買は生きるための手段だった。生きるための仕方ないこと。あの言葉が今も僕の中に残っている。
 ありきたりな、乾いた金属音が物語の終幕を告げる。その音はどこか優しく、空気へと溶けていった。
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