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愛らしい本屋
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甲
その日甲は、駅の構内にいた。
試合のキックオフが一八時だったので、構内の書店で時間を潰していたのだ。
「今回もあいつが来ると思うか?」
脳内で乙に話しかける。
「わからないが、来られると面倒だなぁ」
と、乙が答える。
ざっくりと、今回の依頼の内容を思い返す。
爆破するのは、サッカースタジアム。依頼主はそのサッカースタジアムの責任者だ。
大河内に依頼される依頼には大きく分けて三種類ある。
一つ目は、爆弾によって扉を破壊し、中のものを盗む依頼。
二つ目は、爆弾の予告状を出して爆破する依頼。この依頼は破壊が目的でなく、業務の遅延などが主な目的だ。
三つ目は、爆弾によって建築物を破壊する依頼。保険金の水増し請求が主な目的だが、このような依頼は、何度か依頼をした人間が多い。いきなり巨大な建築物を破壊などと言っても、信頼がないらしい。
よって、今回のように初回でこんな依頼をしてくる人間は、珍しいため失うのは、もったいない。多少の訝しみもある。
それで、入念な下見をしなければならず、わざわざ、足を運んだのだ。
「最近のトレンディングカードなんてものは高いのだと100万はくだらないらしいぞ。」
と頭の中で乙の、声が響いた。
なんの話だと思いながら、あたりを見回すと、カードの販売コーナーがあった。なるほど、それを見て思い出したらしい。
「俺らの仕事2回分ぐらいだぞ、すごくないか?」
確かにそうだなと、思っていると、
「なんでも子供しか入場できないイベントの報酬なんて、さらに高額らしいぞ」
と次から次へと知識が流れてくる。
この、乙というものは、しゃべっていないと生きていけないのかと、自分のことを棚にあげ、本気で思った。
さらに奥に進むと、視界に、並べられた本が見えた。
その、光景に甲はうっとりとする。
中でも一冊の本に目がいった。
「見ろ、新刊のミステリーだ。買うぞ?いいな?」
と考えるより先に言っていた。
「だめだ、それを買ったらお前は下見どころではなくなる」
甲が指したのは、ハードカバーのミステリーで、帯に書かれた、全てを疑え‼︎、という文句が印象的な本である。
信頼がないから仕方あるまい、今度にしよう、などと甲は思わない。
何か策を考えようと、視線を右に向けると、小さな兄弟がなにやら言い争っている様子だった。
「こっちを買うんだ!」
「やだ、こっち。そっちやだ」
どうやら、どちらの絵本を買うか揉めているようだ。
「じゃあ、じゃんけんね。僕が勝ったらこっちを買う。お前が勝ったらこの本は買わなくていい。いい?」
と兄と思われる少年が言った。
「いいよ」
と弟が答えていた。
それでは、弟君が欲しい本は買えないのではないかと思っていると、
「やったー、僕の勝ち」
と弟君が言っていた。
「わかったよ、じゃあこっちの本は買わない。その代わりこっち買う。」
と、案の定、兄にやり込められていた。
「なんで?」
「だって、そうだろ?」
弟君は、何か思案していたが、
「確かにそうじゃん!」
と何故だか納得していた。
「こらこら、だめだろう?こんなとこで喧嘩しちゃ、どっちかを、俺が買ってやるから」
と、甲が口に出しているのを見て、乙は度肝を抜かれていたであろう。
だが、そんなことなど露ほど知らず、甲は会計を済ますと子供に本を渡していた。
「ありがとう、お兄さん。これあげる、僕の宝物」
と弟君が言っているのを聞いて甲は心を和ませていた。
珍しいな、と乙が言ってくる。
「まあ、人の役に立つ機会がないからな、施したくなるもんなんだよ」
と、甲が自虐的に言った。
それよりも、と乙が続ける。
「多分もう間に合わないぞ、どうするつもりだ?」
「大丈夫だろ、途中からでも」
甲にしてはそれこそ珍しく、優しい口調で言っていた。
その日甲は、駅の構内にいた。
試合のキックオフが一八時だったので、構内の書店で時間を潰していたのだ。
「今回もあいつが来ると思うか?」
脳内で乙に話しかける。
「わからないが、来られると面倒だなぁ」
と、乙が答える。
ざっくりと、今回の依頼の内容を思い返す。
爆破するのは、サッカースタジアム。依頼主はそのサッカースタジアムの責任者だ。
大河内に依頼される依頼には大きく分けて三種類ある。
一つ目は、爆弾によって扉を破壊し、中のものを盗む依頼。
二つ目は、爆弾の予告状を出して爆破する依頼。この依頼は破壊が目的でなく、業務の遅延などが主な目的だ。
三つ目は、爆弾によって建築物を破壊する依頼。保険金の水増し請求が主な目的だが、このような依頼は、何度か依頼をした人間が多い。いきなり巨大な建築物を破壊などと言っても、信頼がないらしい。
よって、今回のように初回でこんな依頼をしてくる人間は、珍しいため失うのは、もったいない。多少の訝しみもある。
それで、入念な下見をしなければならず、わざわざ、足を運んだのだ。
「最近のトレンディングカードなんてものは高いのだと100万はくだらないらしいぞ。」
と頭の中で乙の、声が響いた。
なんの話だと思いながら、あたりを見回すと、カードの販売コーナーがあった。なるほど、それを見て思い出したらしい。
「俺らの仕事2回分ぐらいだぞ、すごくないか?」
確かにそうだなと、思っていると、
「なんでも子供しか入場できないイベントの報酬なんて、さらに高額らしいぞ」
と次から次へと知識が流れてくる。
この、乙というものは、しゃべっていないと生きていけないのかと、自分のことを棚にあげ、本気で思った。
さらに奥に進むと、視界に、並べられた本が見えた。
その、光景に甲はうっとりとする。
中でも一冊の本に目がいった。
「見ろ、新刊のミステリーだ。買うぞ?いいな?」
と考えるより先に言っていた。
「だめだ、それを買ったらお前は下見どころではなくなる」
甲が指したのは、ハードカバーのミステリーで、帯に書かれた、全てを疑え‼︎、という文句が印象的な本である。
信頼がないから仕方あるまい、今度にしよう、などと甲は思わない。
何か策を考えようと、視線を右に向けると、小さな兄弟がなにやら言い争っている様子だった。
「こっちを買うんだ!」
「やだ、こっち。そっちやだ」
どうやら、どちらの絵本を買うか揉めているようだ。
「じゃあ、じゃんけんね。僕が勝ったらこっちを買う。お前が勝ったらこの本は買わなくていい。いい?」
と兄と思われる少年が言った。
「いいよ」
と弟が答えていた。
それでは、弟君が欲しい本は買えないのではないかと思っていると、
「やったー、僕の勝ち」
と弟君が言っていた。
「わかったよ、じゃあこっちの本は買わない。その代わりこっち買う。」
と、案の定、兄にやり込められていた。
「なんで?」
「だって、そうだろ?」
弟君は、何か思案していたが、
「確かにそうじゃん!」
と何故だか納得していた。
「こらこら、だめだろう?こんなとこで喧嘩しちゃ、どっちかを、俺が買ってやるから」
と、甲が口に出しているのを見て、乙は度肝を抜かれていたであろう。
だが、そんなことなど露ほど知らず、甲は会計を済ますと子供に本を渡していた。
「ありがとう、お兄さん。これあげる、僕の宝物」
と弟君が言っているのを聞いて甲は心を和ませていた。
珍しいな、と乙が言ってくる。
「まあ、人の役に立つ機会がないからな、施したくなるもんなんだよ」
と、甲が自虐的に言った。
それよりも、と乙が続ける。
「多分もう間に合わないぞ、どうするつもりだ?」
「大丈夫だろ、途中からでも」
甲にしてはそれこそ珍しく、優しい口調で言っていた。
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