上 下
48 / 78

八神さんちのクリスマスその1

しおりを挟む
 結局大した事も出来ないままクリスマス当日を迎えた、不思議なもんでこんな田舎町でもクリスマスの浮かれた雰囲気は伝わって来る。会社の車で社長と得意先へ挨拶まわりに行き、五泉市に新しく出来たイベントホールでのクリスマスイベント開催の為に2人で奔走していた。
「社長、仕事量もう少し考えません? クリスマス終わったらすぐ年末年始ですよ?」
「文句言わない! 稼げる時に稼ぐ! そしたら良い事が待ってるから!」
「ボーナスとか?」
「それは働き次第かな? もっと良いことだからさ!」
「はぁ……頑張ります」

 そこからは先は地獄だった……あまりの忙しさにクリスマスなんて大っ嫌いっだ!! 本気でそう思った……多分年末年始も思うんだろうなぁ同じ事をこの会社で働く限り。イベントの後始末を終えてヘトヘトになり事務所に帰ると夜中過ぎだった、元々ヤエの仕事もクリスマスで忙しいので家のパーティーを1日ずらすと伝えていたのでそれは問題なかったが……社長と2人でソファーで倒れ込んでいると
「やっと……終わったね社長……」
「師匠……まだ……年末年始あるからね」
「頑張る……あっ!」
「どうかしたの?」
 そうだ渡すものがあったんだ! リュックの中から取り出すと。
「はい……コレ社長に……日付け変わったけどメリークリスマス……」
「んあ!?」
「あげるよ、ちゃんと茉希ちゃんにもあげるから」
「そっそんな……良いの? アタシは何も」
「良いから! 気にいるか分からないけどさ、受け取って欲しいんですよ」
 そっと社長が受け取ると小さな箱を大切そうに抱いて。
「開けてもいいよね……」
「いいですとも!」
 カサカサと包装紙を開ける音が深夜の事務所に響く中身を見た社長が呟く。
「師匠……これって」
「出来るオンナって言ってたじゃん『自分』で、だからカッコいいと思ってさ」
 彼女にプレゼントしたのは綺麗な装飾を施された万年筆だった、出来るオンナって感じから勝手に想像してプレゼントしたんだけど……どうかな?
「ありがとう……師匠……ぐすっ……大事にする」
「出来るオンナで良いオンナ、そのままでいてね」
「うん! 師匠……アタシは何も用意してなくて……」
「プレゼント大切にしてくれればそれで良いよ『茉希』ちゃん」
「アタシは伍堂愛だって……」
「だねっ! じゃ俺もう帰るよ、おやすみ」
「待って!」
「へっ……」
 社長が大人になった茉希ちゃんがキスして来た、離してくれない……体ごと押し付けられる、名残惜しそうに唇を離すと……
「師匠ありがとう……本当は……ねッ?」
「分かってるよ、また明後日ね!」
「「お疲れ!」」

 事務所を後にしてトボトボと雪が降るなか独り寒い夜道を歩いて帰る、午前2時か……そろそろ2人が仕事に行く時間だな、わざと彼女達の通勤路の方へと足を向けて見る。配達所に灯りはまだついていない……そのままアパート方面へと歩いて少し行くと暗い街灯の向こうから2人の女性が歩いて来た。
「「あっ!!」」
「師匠!」
「アンタ!」
「おはよう2人共!」
「アンタやっと帰ってきたのね! もうこんな時間なのに!」
「ヒエ、遅くなるって言ってたじゃん師匠」
「にしたって遅すぎよ! とんだブラック企業ね!」
「おいおい……後は年末年始過ぎたら落ち着くから……なっ? 悪く言わんでくれよ」
「とにかく今日は休みなんでしょう! 帰ったらパーティーなんだからね! しっかり安んで覚悟しておきなさい!」
「分かってるって、ほら遅刻するぞ2人共!」
 ぼんやりと茉希ちゃんが腕時計を見て顔色が変わると慌てた様子で。
「ヤバい急ぐよヒエ! マジで遅刻する!」
「あぁんもう! わかった!」
「いってらっしゃ~い」
 2人を見送るとアパートへとまっすぐ向かう、早く熱い風呂に入って寝よう……踏切を越えてアパートへの小道に入ると粉雪が舞い始めた、2人共安全運転で仕事して帰ってこいよな……外からアパートの部屋の灯りは消えていたヤエはもう寝ているだろう、静かに玄関を開けてアパートに入る。部屋に入ると静かに寝息を立てて眠るヤエがいた、そっと荷物を置いて着替えを持ち風呂場へと向かう。

 案の定とまでは言わないが……この時期だまぁヌルいよねお風呂、オンボロな給湯器に火を入れて追い焚きをする。その間に身体を洗うが……
「寒っ」
 本当にこのアパートは、夏は死ぬほど熱くて冬は凍えるほど冷える……ヌルくてもいいや湯船に浸かろう、そのうち温まるだろう……

「あっづっ!! あちちっ!」
 いつの間にか湯船の中でうたたねをしていたらしい、慌てて湯をかもすと熱い部分とヌルい部分が合わさり適温? になった。落ち着くと何か長い夢を見ていたような感覚に襲われるが多分疲れだろう……さぁ風呂からあがって寝ようか、風呂から出ると髪を乾かしてヤエの隣の布団に入るとそのまま意識が沈み込むように眠りに落ちていった。

 いい匂いがする……美味しそうな、そして何か騒がしい……あっ駄目だ意識を取られると目が覚める……暖かい布団の感触を感じるともう目が覚めてしまった、大きなアクビをすると。
「おっつはよー」
 バスン! ヒエの声と共に俺の顔面にトチがダイブして来た。
「うぁ? もう少し寝かせてよ……」
「朝ご飯だよ! もう昼近いけど」
 マジで!? そんなに寝てたか? 慌てて飛び起きて時計を見ると午前11時を過ぎていた、トチを抱っこして布団から出ると部屋の様子が変わっている事に初めて気が付いた。
「ヒエと茉希ちゃんがやったの?」
「良いでしょ? クリスマス1日過ぎたけど!」
「終わったら元に戻しとけよ……」
「大丈夫! 直ぐにお正月仕様に飾り付けてあげるわよ! ねッ茉希!?」
「せっかくだから楽しまなきゃね!」
「そっか……まだ眠い……」
「お待たせ! 遅くなったけど朝食よ」
「おはよヤエ」
「アナタ起きたのね、大丈夫? 何かうなされてたけど」
「そうなの?」
「見てる分には面白かったわよ?」
 ヒエのその一言でガツンと目が覚めた。
「見てたのか?」
「私は起こそうとしたんだけど……ヒエと茉希がアナタが疲れてるだけだって……」
「そっか……ヒエ、面白かったか?」
「うん!」
 コイツ……心配してくれているのか、からかっているのか本心が見えない時があるからなぁ~でも……優しんだよなコイツ
「さぁ朝食を食べましょう!」
 4人でテーブルを囲み朝食を食べ始める。
「随分軽めだね、サンドイッチかぁ……ヤエって料理のレパートリーどんだけ増やしたの?」
「職場の人から教えてもらってるから……うん! 結構増えたわね!」
「今日はパーティーよ! 朝食は軽めでって私がヤエに頼んだの!」
「そういやオードブルがどうとかケーキがどうとか?」
「ケーキはアタシが昨日買ってきたよ、今日の夕方にはオードブルを取りに行くんだ!」
「あそこのスーパー?」
「うん、結構評判良いらしいよ! 本当はヤエのお店のが食べたかったんだけどね」
「今日はお休みなのよ……お店」
「疲れたよなヤエ?」
「うん、でもお店に来るお客は皆が笑顔で買ってくれるから……」
「そっか、嬉しかったのかな?」
「うん!」
 サンドイッチを4人で食べ終えると、ヒエが後片付けを始めた。1日遅れのクリスマスパーティーか……楽しむか!!

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太
ファンタジー
安心、確実、お値段ちょっとお高め。運び屋『兎』に任せてみませんか? 兎を連れた少女が色々なものを配達するほのぼの物語です。 他にも出てくる相棒の召喚獣たちと共に配達してまわります。 兎をもふりたい。 カバで爆走したい。 梟とおしゃべりしたい。 亀と日向ぼっこしたい。 そんな方は是非ご一読を。 転生もチートもロマンスもないお仕事ファンタジーです。 ーーーーーーーーーーー とある街の商業ギルド。 その一室にユウヒという名の少女が住んでいる。 彼女は召喚士であり、運び屋だ。 彼女がこなす運びは、普通の運び屋とはちょっと違う。 時には、魔物の中に取り残された人を運びにいき。 時には、誰にも見つからないようにこっそりと手紙を届けにいく。 様々な能力を持つ召喚獣を相棒として、通常の運び屋では受けられないような特殊な配送を仕事として請け負っているのだ。 彼女がいつも身につけている前かけ鞄には、プスプスと鼻息をたてる兎が一匹。 運び屋の仕事を受けるときも、仕事で何かを運んでいる時も。 いつでも兎と一緒に仕事をする様から、彼女はこう呼ばれていた。 運び屋『兎』 彼女に仕事を頼みたい時は、商業ギルドの受付で 「『兎』に荷物を届けてほしい」 と声をかければ兎と一緒に彼女が仕事を受けてくれる。 召喚した相棒と共に、運べるものなら、手紙でも、荷物でも、何でも。 仕事は確実にこなすが少し手荒め、お値段はかなりお高め。 ある時はカバで街道から山の中へと爆走。 ある時は梟と夜に紛れて貴族の屋敷に潜入。 ある時は亀にまたがり深海へと潜航。 仕事の依頼を通して色々なものを配送するユウヒ。 様々な出会いや、出来事に遭遇して成長していく異世界ファンタジー。 カバに轢かれたくなければ道を開けてください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

俺のモテない学園生活を妹と変えていく!? ―妹との二人三脚で俺はリア充になる!―

小春かぜね
恋愛
俺ではフツメンだと感じているが、スクールカースト底辺の生活を過ごしている。 俺の学園は恋愛行為に厳しい縛りは無いので、陽キャラたちは楽しい学園生活を過ごしているが、俺には女性の親友すらいない…… 異性との関係を強く望む学園(高校生)生活。 俺は彼女を作る為に、学年の女子生徒たちに好意の声掛けをするが、全く相手にされない上、余りにも声掛けをし過ぎたので、俺は要注意人物扱いされてしまう。 当然、幼なじみなんて俺には居ない…… 俺の身近な女性と言えば妹(虹心)はいるが、その妹からも俺は毛嫌いされている! 妹が俺を毛嫌いし始めたのは、有る日突然からで有ったが、俺にはその理由がとある出来事まで分からなかった……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...