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不思議なお客様

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 私はとあるショッピングモールにあるジュエリーショップの店員、今日は平日な事もあり客足は疎らだ、同僚と何気ない会話を交わしながら。
「今日はもうお店良いんじゃないかな?」
「馬鹿な事言わないの、オーナーが聞いたら……」
「そうだね、でも暇なんだよね」
 客の居ない店内を見て回り、ショーケースを綺麗に拭き少しでも商品がより良く見えるように磨く。この努力少しは報われないかなぁ? 時間は過ぎていき、お昼になり。
「先に休憩行って良いわよ、どうせ暇だし」
「わかった先に休憩もらうわね」
 同僚がお昼休憩に向かうと、レジカウンターで営業スマイルを浮かべながら行き交う人を眺めていると。
「このお店だよ師匠!」
 師匠? 何だろう若い女性3人と中年? 何歳だろう男性1人のグループが入店して来た。
「このお店にこの間ネットで見つけた物があるの?」
「もっちろん! 同級生にもこのお店がオススメだって言われたし」
 ふむ……目的があって来店したのか、他に客はいない……それなら私の普段よりもとびっきりの営業スマイルで御迎えした。
「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」
 1番若そうなポニーテールが似合う女性、それより少し年上っぽいショートヘアーの綺麗な双子みたいに似た? 女性、そして落ち着かなそうに店内をキョロキョロしてる年齢不詳の男性、ポニーテールの女性がスマホの画面を見せながら。
「このリング何ですけど有りますか?」
「画面を拝見致しますね」
 表示された画面を見て確認すると、うん今私の働くショップで取り扱いがある商品だ。
「少々お待ち下さい、今お持ちします」
 でもこれ結婚指輪何だけどな……どういう事だろう? ショーケースからご指定の指輪を持ち出し見せると。
「綺麗ね……」
「良いわね……」
「事前に調べてて良かったっしょ?」
「高そう……」
 男性はあまり乗り気じゃないのだろうか? って言うか今この女性達なんて言った? 
「只今当店にてオススメの品物で御座います」
 お決まりの営業文句を言っておくと。
「ちょっとじっくり見てもいいですか?」
「どうぞご覧下さい」
 女性3人でじっくりリングを見ながら相談を始めた。
「どうよ?」
「いけるわよね?」
「大丈夫!」
 今彼女達が見ているリングは確かにオススメだ、シンプルながら主張しすぎないデザインに宝石が施してある。ただ不思議なのはこれが結婚指輪に間違いないという事だ……分かってないのかな?
「この装飾、実物を見ると……」
「そうだね!」
「どう思う?」
「俺、こう言うのよく分からないんだよ」
 男性の次の言葉に耳を疑った
「だから3人が決めたならそれを『買おう』」
 はい!? 結婚指輪を3つ? 意味が分からず変な声が出かかったがどうにか抑えることができたのだが……
「じゃあ全員一致で決定ね」
「ヤッたね」
「ちゃんと選んだのか? 後悔しないか?」
「うん!」
『アナタ』
「ふぇっ!?」
 ついに変な声が出た、お客様に対して失礼極まりない事だが、我慢にも限度がある。今若い女性がこのおじさん? に『アナタ』って言った、まさか……まさか、そんなはず……
「店員さん! このペアリング人数分下さい!」
「お客様失礼ですが……こちら結婚指輪になりますが……」
「えっ!? 買えないの?」
 違うそうじゃ無い……
「ですから結婚指輪ですので……」
 値段も結構する……
「あ~ごめんね店員さん、困惑するのも分かるけどちょっと訳ありでね」
 年齢不詳の男性が言うと胡散臭さが増してくる、このグループ大丈夫かしら? 新手のひやかし? だが1番落ち着いていそうな女性が
「店員さんお願いできるかしら? ちゃんとお支払いはしますから、良いわよねアナタ?」
「勿論」
 ヤッパリ男性を『アナタ』って呼んでる、それに普通結婚指輪って2人ペアよね? どう見ても4人分買おうとしている、本気なの? これを最後の確認にしよう、落ち着いて聞くんだ。
「お客様こちらの『結婚指輪』を4人分で宜しいのですね?」
 さぁどう出る!
「じゃあそれで」
 コンビニで買い物する様なノリで返事しないで! 返答に困るでしょうが! どうしよう、どうする? こんな事なら先に昼休憩に行けば良かった。
「かっかしこまりました! こちら4人分ですね」
 もうどうにでもなれ! どうせお客様の事情何て知った事か、余計な詮索はかえって良くない。プロの販売員として応対しきってみせる!
「それではお客様、こちらの指輪ですが……お手元に届くのは1ヶ月程掛かりますが宜しいですか?」
 ポニーテールの女性が
「そういうもんなの?」
「多分ね」
 そりゃそうよ、サイズを測って必要ならメッセージを彫ることも考えないと……おまけに4つだもの。
「そっそれでは、お客様の指のサイズを……」
「はい」
「お願いね」
「ほい」
「何かすみません」
 最後に男性に謝られたが気にせずサイズを測った、それにしても双子の様な女性の指がとても綺麗だった。この仕事をしていて初めて見る程に……何か手入れをしているのだろうか? 不思議だ……じっと見つめていると。
「あの……もう良いですか?」
「えっ! はい大丈夫です!」
 サイズを測り終わると
「こちらサービスとしてメッセージを刻むこともできますがいかが致します?」
「これで」
 用紙を渡された、そこには
『 T&Y&H&M』
 流石に4人分……暗号みたいになってる。
「かしこまりました、こちらでお受けさせて頂きます」
 ひとまず受付は終わった、女性達は楽しそうにしている。料金を少しサービスしてあげようかな……
「それでは御会計ですが45万円になります」
 千円単位は切り落とした、こっそり1万円値引した。特別なお客様の場合に出来る値引きだった、特別と言うならある意味ピッタリだ。それでも高いけどね、まっカード払いでしょう。
「じゃあこれでお願いします」
 げっ現金!? この女性当たり前のように札束の入った封筒を出した! って事は持ち歩いていたの?
「確認させて頂きますね」
 震える声で指でお札を数える……キッチリ45枚の万札だ、多い分はちゃんとお返しした、封筒には50万入っていたのだった。
「確かに頂戴いたしました、こちら多かった分お返し致しますね」
「ありがとう」
「こちら注文書で御座います、受け取り可能日以降に御来店ください」
「それじゃお願いしますね」
「楽しみだね師匠!」
「これからがスタートよ」
「アナタ、受け取る時も4人で来ましょうね」
「本日は御来店、お買上げ誠にありがとう御座いました!」
 不思議な4人はこうして帰って行った、ってもう休憩時間過ぎてるんだけど……
「ごめんね~ちょっと訳ありそうだったから」
「見てたなら手伝ってよ!」
「他にお客さん居なかったし……」
「ホントにもう!」
「でもさ、今日の売上で平日3日分は行ったね」
「そうね、ホントに不思議なお客様だったわ」
 そう言って注文書の控えを見ると注文者の名前を確認する。

『八神健』
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