【完結】茜色の手紙

竹内 晴

文字の大きさ
上 下
1 / 1

手紙

しおりを挟む
 あれは、高校の窓から見える茜色の夕焼けが差し込む教室だった・・・。
 僕らの出会いは、あまりにもはかなく、とうとい秋の紅葉もみじの様だった。

 僕は藤崎ふじさき 春真はるま
北麻乃高校きたまのこうこう2年B組に通うどこにでもいるただの高校生だ。
 しかし、そんな僕の日常があの子との出会いで180度変わってしまうなんて・・・
 その時は想像も出来なかった。

 いつもの様に通学路の電車に乗り込み、程よく人が密集する満員電車の中だった・・・
 僕はいつもの様に開閉ドアの近くで小説を片手に大好きな音楽をスマホからイヤホンをつけて流していた。
「いつも通りの日常が流れるだけ・・・つまんねぇな」そう心でボヤいていた。
 しかし、その日はいつもとは少しだけ違っていた。
 僕の目の前に、同じ学校の同じとしくらいの女の子がドアの閉まる寸前すんぜんのところで駆け込んできた。
 風で少しなびく肩まで伸びた黒髪がとても綺麗で、モデルのようにスラリとした立ち振る舞いに、僕はひとみを奪われていた・・・
 そう、僕は気づいてしまったのだ。これが、初恋なのだということに・・・。そして、この恋があれほどまでに僕の心に大きく影響と深い傷を残すことになるなんて、この時はまだよしもなかったのだ・・・。

 それからというもの、僕は彼女を意識するようになり、彼女と電車で乗り合わせる度に小説を読むふりをして彼女の姿を見つめていた・・・
「こんなの変態みたいじゃん」と思いつつも彼女の魅力みりょくとりこになっていた僕は、そんなことを考えるだけの正常な思考など残しておく余力よりょくなどなかった。
 僕は次第しだいに、どうにかして彼女とのコンタクトをはかろうとしていた・・・
「ここまで来ると末期だな・・・」そう頭で考えると少し恥ずかしくなって顔を本にうずめてしまっていた・・・
 ふと我に返り頭を上げると、彼女は僕を見てクスりと口元に軽く手を当てて笑った。
 この瞬間、彼女とのコンタクトを取れていることに気づき、少し彼女の方を見つめてしまっていた。
 彼女の薄く微笑む笑顔に僕は吸い込まれていた。
 次の瞬間、僕と彼女の目が合った!通常の時間はほんの数秒の出来事なのに、僕は何分間も彼女と見つめあっていたように錯覚するほど、彼女はとても綺麗で澄んだ瞳をしていたのだ。
「この時間が終わらないで欲しい」そう思うのもつかの間、彼女は少しを赤らめて視線をらした。それに流される形で僕も読みかけの小説に目を落とした。
 あのひと時の余韻よいんかすかに残る中、再び視線を彼女の方に戻すと、彼女は自身のバックからノートを取り出しておもむろに何かを書いていた。
 僕はそれを気にしつつそれを誤魔化そうと小説を読むふりをしていると、彼女がこちらにノートを向けた。
 するとそこには「私の名前は、永野ながの あかねあなたのお名前は?」と書かれていた。
 僕はそれに返事をするために同じくノートとペンを取り出して答える「僕は、藤崎 春真です。その制服ウチのだよね?」と続けて返した。
 何故この質問をしたのかと言うと、制服は同じ学校のモノなのに、彼女を学校で見かけたことが1度もないのだ。
 だから僕は、同じ歳に見えるだけなのだと思ってこの質問を投げかけることにしたのだが・・・
 その答えを待たずして最寄りの駅に着いてしまった。
そして、いつも彼女の方が出口に近くいつも彼女を見失ってしまうのだ。
「聞きそびれてしまった」僕はそう思ったが同じ学校ならばまたいつでも会える!そう思っていた。

 そんなことはつかの間、彼女は学校中どこを探しても見つからず、誰も彼女の存在を認知していなかったのだ。
 僕も疑問ぎもんに思う点はいくつかあった・・・
 まず、電車に乗り込む時はいつも閉まる寸前すんぜんのタイミングで扉も彼女を認知していないかのように閉まること。
 そして、もうひとつは・・・
 乗客も誰一人として彼女の存在に気がついていないような振る舞いをしていることである。
 まるで存在していないかのような扱いに僕は疑念ぎねんを抱き始めていた・・・。

 僕は全てを思い出してしまった。
 僕には中学からの片思いの相手がいた事を、そしてその子の名前が「永野 茜」であるということを・・・
 そんな彼女は僕に渡したい物があると告げ、電車の事故にあってこの世を去ってしまっていたことを・・・
 そして、彼女が僕に渡そうとしていたのは・・・
 一通の手紙。
 彼女が必死で守ろうとして彼女の血で真っ赤に染まった茜色の手紙だった・・・。

 そう、僕はその事がショックで意識を失って病院のベッドでずっと眠ってしまっていたのだ。
 愛する人を目の前で失ってしまった悲しみと、彼女の口元がかすかに「す、き」とささやきながら電車の事故に巻き込まれ、そのまま亡くなってしまった・・・
 その手紙を読むことはなく、僕はその場で倒れ込んでしまい意識を失ってしまっていたのだ。

 そして、このことを思い出した時僕の意識は戻っていた
 何があったかも分からず朦朧もうろうとした目を開くと窓から吹き抜けるさわやかな風が吹き込んでいた・・

 紅葉もみじ色ずく秋の季節、僕は元の生活を取り戻していた。
 ひとつ違うことといえば、僕のそばには彼女がいるということ。
 そして、あの時の手紙は新しい封筒に入れていつも傍に身につけている。
 たった一つの彼女の形見として・・・
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

旦那様が不倫をしていますので

杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。 男女がベッドの上で乱れるような音。 耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。 私は咄嗟に両手を耳に当てた。 この世界の全ての音を拒否するように。 しかし音は一向に消えない。 私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

夫に元カノを紹介された。

ほったげな
恋愛
他人と考え方や価値観が違う、ズレた夫。そんな夫が元カノを私に紹介してきた。一体何を考えているのか。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...