魔人R

モモん

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第一章

第15話 夜襲

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 ミシェルは旅立った。
 二人になったことで、一人では出歩けなくなったのは確かだ。
 そしてシェリーは大胆になってきた。

 風呂にも一緒に入るようになったし、寝床にももぐりこんでくる。
 だが、勃起することはなかった。
 それどころか、そういうシチュエーションになってもドキドキすらしなかった。
 キスもしたし抱き合うこともあったが興奮することはなかった。

「私じゃ……ダメなの?」
「そういうんじゃないんだ。ただ、今の俺は感情が死んでる感じ……。」
「試してみていい?」
「ああ。俺だって、そういう気持ちになってみたいとは思っている。」
「うん。」

 勃起はしないが、体を制御して固くすることはできる。
 そして、挿入した。
 指ではなく、肛門でもなかった……。

 お互いに初めてだったが、シェリーは大胆だった。
 そして、勃起することはなかったが、俺たちはお互いをより身近な存在と感じていた。

 外に出かける必要もなく、俺たち二人はこのエリアでの生活を楽しんだ。
 そして、とある日の深夜、森から出火し、半分が焼かれてしまった。
 沢の水では消火には不足しており、木を切り倒して炎症を防ぐしかなかった。

 その数日後、夜襲を受けた。
 充実した装備を見ると、王子配下の集団だろう。
 50人が一気に襲ってきたが、問題なく切り伏せていく。
 だが、時間がかかってしまった。
 俺が50人を相手にしている間に、もう50人が家に侵入し、シェリーを殺されてしまった。
 悲しみも怒りも感じなかった。
 ただ、奪うことでしか生きようとしないこいつらに。絶望に近いあきらめを感じていた。
 
 シェリーを埋葬し、俺の荷物だけをリュックに詰めた。
 部屋におかれていた天使の置物は破壊した。
 俺の願いは届かなかったのだ。

 家と畑はそのままにして、イノシシは解放した。
 もう、何もかも必要なかった。


 俺は王都に行き、城に入った。
 見張りがいたので、襲撃者のリーダーらしき男の首を放った。

「あっ、ガラム隊長……。」

 それだけ確認できれば十分だった。
 俺は、堀の水を吸収しながら溶解液を放っていく。
 触手の先からエコーロケーションで探りつつ、動くものに溶解液を射出していった。

 白旗を振りながら男が出てきた。
 前にあった第二王子だった。

「なぜ、こんなことをする!」
「略奪しかしない人間に、生きる資格はない。」
「いや、俺たちは狩りで生活しているだけだ。」
「ならば、なぜ西の森を焼いた。俺の仲間を殺したのはなぜだ。」

 その時、後ろから矢が飛んできた。
 右肩に刺さったので、引き抜いて修復する。

「よくやった。そいつを殺せ!」

 俺は王子の顔に溶解液を吹き付ける。
 背後の敵は対処済みだ。
 そして城の中を確認した後に王子に告げた。

「生きたいのなら地を耕して穀物を育てろ。次に来た時、変わっていなかったら殺す。」

 そう告げて俺は城をあとにした。

 次に、冒険者ギルドに入った。

「リーダーは誰だ?」
「何者だ貴様!」

 俺は男の顔に、溶解液を少量射出した。
 ぎゃあと喚いて男が転がる。

 悲鳴を聞いて、20人ほどが姿を見せた。

「リーダーは誰だ?」

 全員の視線が一人の男に集まる。

「俺がAランクのラムザだが、なんの用だ?」
「奇遇だな、俺もAランクだ。」

 男の視線が一瞬泳ぐ。
 はったりだろう。まあ、腕力だけはAランクかもしれないが。

「少し前に、西の森を襲撃して70人の損害を出したな。」
「それがどうした。」
「襲ったのは俺の家だ。」

 ザッと全員が身構える。

「それで、仕返しにでも来たのかよ。」
「2日前、王子の配下にも襲われたんで、今壊滅させてきたところだ。」
「笑わせるな。お前一人で城の軍勢を相手にしただと。」

 入口近くにいた男が、ラムザに耳打ちすると顔色が変わった。

「どうやら、俺たちの手間を省いてくれたみてえだな。感謝するぜ。」
「お前たちが心を入れ替えて、地を耕すと約束すれば見逃してやろう。」
「ガハハッ、何で今さら百姓のまねごとをしなくちゃならねえんだよ。」

 俺はラムザの顔に溶解液を撃ち込んだ。
 ギャアと叫びをあげて蹲るラムザ。
 万一に備えて、物理と魔法のシールドは展開してある。

「もう一度言う、今後心を入れ替えて、地を耕すと約束すれば見逃してやろう。」
「うるせえ!やっちまえ!」

 俺は窓を叩き切って外に飛び出す。入口をスパイダーネットで塞ぎながら用水路の水を吸収し、ギルド建屋の壁をウォーターカッターで切っていき、触手で横からの力を加えてやる。
 ギルドだった建物は簡単に倒壊した。

 そのまま他の町に行こうかとも考えたのだが、元商業ギルドの状況も知っておきたい。
 俺は、一番大きな店を訪れた。 

「この集団の代表に会いたいのだが。」
「どのようなご用件ですか?」

 少し考えてから俺は口にした。

「万能薬についてだ。」
「冗談は困りますよ。あれの製作者は、大災害の中で死亡したと言われています。今更……。」
「俺がその医師Rだ。認定証もある。」

 認定証を確認したオヤジは、待っていてくれとどこかに走って行ってしまった。
 10分ほどして戻ってきたオヤジには二人の同行者があった。
 茶髪のオヤジと、同じ髪色の娘だ。どちらも生意気そうな顔をしている。親子だろうか。

「万能薬のことでと伺いましたが。」
「お前が代表なのか?」
「いえ。ガザル様に言われて確認にまいりました。」
「……今日、城の第二王子集団と冒険者集団を壊滅させてきた。」
「壊滅?」
「ああ。これで王都はお前たちの天下だろう。」
「いえ、私共はそういう集団ではございませんので。」
「お前たちが略奪や搾取をしないのであればいいが、もしそういう非道なことをしていたら俺が壊滅させる。」
「私どもは正当な商売をしているだけでございます。」
「信じよう。確認したかったのはそれだけだ。」
「あっ、万能薬の件は?」
「具合の悪い者でもいるのか?」
「はい。」
「症状は?」
「半月ほど、微熱が続いて、倦怠感が酷いと聞いています。」
「まあ、用があるわけじゃないから、希望するのなら診察してもいいんだが。」
「お願いします。」

 二人に案内されて俺は貴族街に移動した。

「代表というのは貴族なのか?」
「いえ、代表は商人ですが、奥様が貴族の方でいらっしゃいます。」

 警備のついた一軒の屋敷に入り、二階に案内される。

「奥様、医師をお連れいたしましたが。」
「どうぞ。」
「失礼いたします。」

 室内には天蓋のついたベッドがあり、女性が横になっていた。

「微熱が半月続いていると聞いたが、動けるのか?」
「トイレにいく程度は動けますわ。でも医師局の人は全員……、えっ?」
「アンヌさんだったのか。」
「レオさん、生きて……。」
「ああ。石化虫に体中噛まれたが、薬を使いまくって何とか生き延びたよ。」
「私は体調がすぐれなくて……。」
「生きていたのならよかったじゃない。」
「でも、第二王子に売り飛ばされてこの有様よ。」
「売られた?」
「夫が貴族の娘を望んでいて、城は食料を欲していたの。」
「それで交換かよ。まあ、城の連中には天罰を下しておいたから心配はいらないけど、辛くない?」
「ええ。夫は大切にしてくれるから不満はないわ。」

 サーチで確認したが、喉に炎症がみられる程度で特に異常はなかった。

「まあ、普通の薬草でも大丈夫だと思うけど、一応飲んでおきな。」

 俺は万能薬を飲ませ、少量だが瓶ごと渡した。
 部屋には、俺の送った天使の置物が飾ってあった。


【あとがき】
 安心できる生活は手に入らない。第二章 放浪編に入ります。
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