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スライム技師
第1話 Fランクのスライム技師
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「興国歴361年。
この世界にとって、魔道具開発の礎となる発見がありました。
シュリさん、何だか分かりますか?」
「はい。スライムの死骸から定着液と溶解液を分離できた事です。」
「よく知っていましたね。厳密にはブルースライムから溶解液を分離して、オレンジスライムから定着液を分離できました。」
このスライム溶液は、ここジャバ国とは別の国によって発見されたものであったが、各国が研究に関する情報と技術を交換し、発展させた事で3年後には世界初の魔道具である魔導灯が開発された
よって、これを記念して興国歴361年を通称でスライム元年と呼んでいる。
スライム643年となる今年。念願のスライム技師養成学校卒業を果たした私シュリは、今年15才になったスライム技師のタマゴである。
私の住む町は、大陸の東端に位置するジャパ国の首都で、トリオという町の外れで魔道具店を営む父母を親に持つ黒髪の銀縁メガネ女子である。
ただ、目が悪いわけではなく、魔道具が起動するときのスライム光に対して過敏であるため、父さんが開発してくれたスライム光を軽減してくれる私だけのメガネなのだ。
「ただいま。」
「おかえり。卒業式はどうだった?」
「別にぃ。卒業証書をもらっただけだから。」
「これで、シュリも一人前のスライム技師ね。」
「一人前じゃないよ。まだ、魔道具登録は3件しか出してないしさ。」
「うふふっ、そんなに焦らなくても大丈夫よ。」
店番をしているのはお姉ちゃんのアカリだ。
私と同じ黒髪だけど、お姉ちゃんはセミロングの髪を赤いリボンで結んでポニテにしている。
ちなみに、私はショートボブだ。
溶液を頻繁に使うスライム技師に長い髪の女性はいない。
母譲りの瞳は、私と同じ緑色で、同じく過敏症なために黒いフレームのメガネをかけている。
「魔道具の修理を頼みたいんだが。」
「あっ、いらっしゃいませ。」
「この身体強化の腕輪なんだが、作動しなくなってしまってね。」
「拝見いたします。」
お姉ちゃんはお客さんから腕輪を受け取ってメガネを外した。
私たち姉妹はスライム光に対する過敏症なのだが、その代わり魔力の流れから魔法式を読み取れるのだ。
「うーん、起動式の2小節目で止まっていますね。外見に傷などはありませんから、腐食によるものかもしれませんね。」
「腐食?」
「普通は3層目に腐食防止のコーティングをするんですけど、それをやらないで安く提供する魔道具店もあるんですよ。」
「た、確かに格安だった……。」
「一番外側の、プロテクトコートをすると、内側のコートは見えませんからね。外観では判別できないんですよ。」
「お客さん、買った時に説明はなかったんですか?」
「いや、3か月も前の事だし、覚えていないんだ……。」
「色からするとクヌギでしょうか。これが下処理をした黒檀なんかだと、値段は跳ね上がりますけど何年も使えるんですよ。」
「しゅ、修理はできないのかよ?」
「不可能ではないですけど、定着液までのコートを剥がして、浸食部分を削って核込み。それから3層のコーティングをするので、お高くなりますよ。」
「新品を買った方が安いですよ、お客さん。」
「そ、そうか……」
「ねえ、もしかして、明日からのミドロ沼遠征に参加するつもり?」
「ああ、そのつもりだ。」
「やめときなって。その装備じゃ辛いよ。」
「くっ……、だが先月子供が産まれて、金が要るんだ。」
「おじさんは、沼でスライムにやられて終わりかもしてないけど、残された奥さんと子供はどうなるのよ。」
「それでも、前払い金で子供のミルクは買えるんだ。」
「……しょうがないなあ……。」
「シュリ、またお金にならない事を……」
「仕方ないでしょ。依頼元としては、余計な見舞金は控えたいもの。」
「あなた、まだギルド職員じゃないでしょ。」
「ザンネーン!さっき、誓約書にサインしちゃったモン。」
「モン!じゃないでしょ!ギルド職員になったら、副業禁止なのよ!」
「さすが、元職員!」
「何言ってんのよ!ギルド以外で仕事したらクビよ、クビ!」
「ノンノンノン、禁止されwているのはお金を受け取る事で、仕事は禁止されてないわよ。」
「あ、あんた、まさか……」
「い、いったい何を言ってるんだね、君たちは……」
「まあまあ、任せてよおじさん。」
私は、おじさんの片手剣にスライム溶解液を塗って、腐食防止と耐久性上昇。
ブーツに身体強化を付与した。
「定着液を使ってないから、効果は約100時間よ。ブーツに身体強化。剣に腐食防止と耐久性向上を付与してあるから遠征中は大丈夫だと思うわ。」
「き、君は……」
「えへへ。本日付で魔道具ギルドのスライム技師に採用となった、シュリ・マジェスタです。ギルドへお越しの際は、是非ご指名ください。」
その翌日、私はギルドの工房で魔道具制作に携わる事になった。
今年のギルド採用は5人で、その中の2人が魔道具師だった。
ギルドの職員は、およそ50人で、その中の20人が技師。他の30人は受付・仕入れ・販売・在庫管理等の仕事をしている。
「さて、お前たち二人は、適性が分かるまで、量産品の制作にあたってくれ。」
「何だよ。またそこからかよ……」
「処遇の良い仕事に就きたいのなら、それだけの腕を見せる事だな。」
「ちぇっ、どっちにしてもやらなくちゃいけねえのかよ。」
「あれっ?」
「何だ?」
「ここに掘られている魔法式ですけど、起動式が2世代くらい前のものですよね。」
「ほう、見ただけでそれが分かるのか。」
「これだと、効果で2割ほどの違いが出ます。」
「まあ、上級技師は、今更身体強化なんぞ興味を持たんからな。」
「5文字書き換えるだけなので直していいですか?」
「作り変えるのではなく?」
「ええ。この程度なら糊で木の粉を練って埋めれば大丈夫ですよ。」
「ほう。できるのならやってみろ。」
「はい。」
ここで必要なのは、掘られた魔法式に注入されたスライム溶解液を完全に削り取る事。
そして、木の削りカスをすり潰して、目の細かい粉を作り、それを少量の木工ボンドで練って、該当部分を痕跡の残らないように埋めてやる。
修復部分を十分に乾燥させてから、新しい魔法式を掘って、スライム溶解液を流し込む。
50分程で修正版のサンプルボードが完成した。
目的である魔道具の腕輪を作るには、腕輪にスライム溶解液を塗る作業から始める。
そして溶解液が乾かないうちに、サンプルボードに魔力を流してアクティブ状態にし、その魔法式を腕輪に転写してやる。
溶解液が乾いた後に、定着液、腐食防止液、保護液を塗って完成である。
当然だが、完成品は動作確認を行うのだが、今回はチーフであるジョイさんがチェックしてくれた。
「ふむ、動作は正常だな。これまでの製品と比べると……、ああ、確かに跳躍でも10%程度の違いが出るな。」
「ば、バカな!そんな魔法式の修正バージョンは学校で教わっていないぞ。」
「ええ、半年前に見つけて先生に検証してもらっていたんです。使用の許可が降りたのは半月前なので、授業で教えるのは来年度からですね。」
「ほう。君が開発者なのかい。」
「はい。魔道具局に出願中です。」
この国では、魔道具認可に対する報奨金は非常に高額である。
その代わり、誰でも模倣する事が可能なのだ。
どれだけの魔道具を開発したかによって、スライム技師にはランクが付与される。
出願は3件してあるが、まだ認可の降りていない私は、現在”F”ランクのスライム技師である。
【あとがき】
クビと腰の痛み悪化により、気晴らしで短編を書いています。
1万文字程度にはおさえたいですね。
9/28 八幡ヒビキ様からいただいたアドバイスにより、表現を一部修正いたしました。ありがとうfございます。
この世界にとって、魔道具開発の礎となる発見がありました。
シュリさん、何だか分かりますか?」
「はい。スライムの死骸から定着液と溶解液を分離できた事です。」
「よく知っていましたね。厳密にはブルースライムから溶解液を分離して、オレンジスライムから定着液を分離できました。」
このスライム溶液は、ここジャバ国とは別の国によって発見されたものであったが、各国が研究に関する情報と技術を交換し、発展させた事で3年後には世界初の魔道具である魔導灯が開発された
よって、これを記念して興国歴361年を通称でスライム元年と呼んでいる。
スライム643年となる今年。念願のスライム技師養成学校卒業を果たした私シュリは、今年15才になったスライム技師のタマゴである。
私の住む町は、大陸の東端に位置するジャパ国の首都で、トリオという町の外れで魔道具店を営む父母を親に持つ黒髪の銀縁メガネ女子である。
ただ、目が悪いわけではなく、魔道具が起動するときのスライム光に対して過敏であるため、父さんが開発してくれたスライム光を軽減してくれる私だけのメガネなのだ。
「ただいま。」
「おかえり。卒業式はどうだった?」
「別にぃ。卒業証書をもらっただけだから。」
「これで、シュリも一人前のスライム技師ね。」
「一人前じゃないよ。まだ、魔道具登録は3件しか出してないしさ。」
「うふふっ、そんなに焦らなくても大丈夫よ。」
店番をしているのはお姉ちゃんのアカリだ。
私と同じ黒髪だけど、お姉ちゃんはセミロングの髪を赤いリボンで結んでポニテにしている。
ちなみに、私はショートボブだ。
溶液を頻繁に使うスライム技師に長い髪の女性はいない。
母譲りの瞳は、私と同じ緑色で、同じく過敏症なために黒いフレームのメガネをかけている。
「魔道具の修理を頼みたいんだが。」
「あっ、いらっしゃいませ。」
「この身体強化の腕輪なんだが、作動しなくなってしまってね。」
「拝見いたします。」
お姉ちゃんはお客さんから腕輪を受け取ってメガネを外した。
私たち姉妹はスライム光に対する過敏症なのだが、その代わり魔力の流れから魔法式を読み取れるのだ。
「うーん、起動式の2小節目で止まっていますね。外見に傷などはありませんから、腐食によるものかもしれませんね。」
「腐食?」
「普通は3層目に腐食防止のコーティングをするんですけど、それをやらないで安く提供する魔道具店もあるんですよ。」
「た、確かに格安だった……。」
「一番外側の、プロテクトコートをすると、内側のコートは見えませんからね。外観では判別できないんですよ。」
「お客さん、買った時に説明はなかったんですか?」
「いや、3か月も前の事だし、覚えていないんだ……。」
「色からするとクヌギでしょうか。これが下処理をした黒檀なんかだと、値段は跳ね上がりますけど何年も使えるんですよ。」
「しゅ、修理はできないのかよ?」
「不可能ではないですけど、定着液までのコートを剥がして、浸食部分を削って核込み。それから3層のコーティングをするので、お高くなりますよ。」
「新品を買った方が安いですよ、お客さん。」
「そ、そうか……」
「ねえ、もしかして、明日からのミドロ沼遠征に参加するつもり?」
「ああ、そのつもりだ。」
「やめときなって。その装備じゃ辛いよ。」
「くっ……、だが先月子供が産まれて、金が要るんだ。」
「おじさんは、沼でスライムにやられて終わりかもしてないけど、残された奥さんと子供はどうなるのよ。」
「それでも、前払い金で子供のミルクは買えるんだ。」
「……しょうがないなあ……。」
「シュリ、またお金にならない事を……」
「仕方ないでしょ。依頼元としては、余計な見舞金は控えたいもの。」
「あなた、まだギルド職員じゃないでしょ。」
「ザンネーン!さっき、誓約書にサインしちゃったモン。」
「モン!じゃないでしょ!ギルド職員になったら、副業禁止なのよ!」
「さすが、元職員!」
「何言ってんのよ!ギルド以外で仕事したらクビよ、クビ!」
「ノンノンノン、禁止されwているのはお金を受け取る事で、仕事は禁止されてないわよ。」
「あ、あんた、まさか……」
「い、いったい何を言ってるんだね、君たちは……」
「まあまあ、任せてよおじさん。」
私は、おじさんの片手剣にスライム溶解液を塗って、腐食防止と耐久性上昇。
ブーツに身体強化を付与した。
「定着液を使ってないから、効果は約100時間よ。ブーツに身体強化。剣に腐食防止と耐久性向上を付与してあるから遠征中は大丈夫だと思うわ。」
「き、君は……」
「えへへ。本日付で魔道具ギルドのスライム技師に採用となった、シュリ・マジェスタです。ギルドへお越しの際は、是非ご指名ください。」
その翌日、私はギルドの工房で魔道具制作に携わる事になった。
今年のギルド採用は5人で、その中の2人が魔道具師だった。
ギルドの職員は、およそ50人で、その中の20人が技師。他の30人は受付・仕入れ・販売・在庫管理等の仕事をしている。
「さて、お前たち二人は、適性が分かるまで、量産品の制作にあたってくれ。」
「何だよ。またそこからかよ……」
「処遇の良い仕事に就きたいのなら、それだけの腕を見せる事だな。」
「ちぇっ、どっちにしてもやらなくちゃいけねえのかよ。」
「あれっ?」
「何だ?」
「ここに掘られている魔法式ですけど、起動式が2世代くらい前のものですよね。」
「ほう、見ただけでそれが分かるのか。」
「これだと、効果で2割ほどの違いが出ます。」
「まあ、上級技師は、今更身体強化なんぞ興味を持たんからな。」
「5文字書き換えるだけなので直していいですか?」
「作り変えるのではなく?」
「ええ。この程度なら糊で木の粉を練って埋めれば大丈夫ですよ。」
「ほう。できるのならやってみろ。」
「はい。」
ここで必要なのは、掘られた魔法式に注入されたスライム溶解液を完全に削り取る事。
そして、木の削りカスをすり潰して、目の細かい粉を作り、それを少量の木工ボンドで練って、該当部分を痕跡の残らないように埋めてやる。
修復部分を十分に乾燥させてから、新しい魔法式を掘って、スライム溶解液を流し込む。
50分程で修正版のサンプルボードが完成した。
目的である魔道具の腕輪を作るには、腕輪にスライム溶解液を塗る作業から始める。
そして溶解液が乾かないうちに、サンプルボードに魔力を流してアクティブ状態にし、その魔法式を腕輪に転写してやる。
溶解液が乾いた後に、定着液、腐食防止液、保護液を塗って完成である。
当然だが、完成品は動作確認を行うのだが、今回はチーフであるジョイさんがチェックしてくれた。
「ふむ、動作は正常だな。これまでの製品と比べると……、ああ、確かに跳躍でも10%程度の違いが出るな。」
「ば、バカな!そんな魔法式の修正バージョンは学校で教わっていないぞ。」
「ええ、半年前に見つけて先生に検証してもらっていたんです。使用の許可が降りたのは半月前なので、授業で教えるのは来年度からですね。」
「ほう。君が開発者なのかい。」
「はい。魔道具局に出願中です。」
この国では、魔道具認可に対する報奨金は非常に高額である。
その代わり、誰でも模倣する事が可能なのだ。
どれだけの魔道具を開発したかによって、スライム技師にはランクが付与される。
出願は3件してあるが、まだ認可の降りていない私は、現在”F”ランクのスライム技師である。
【あとがき】
クビと腰の痛み悪化により、気晴らしで短編を書いています。
1万文字程度にはおさえたいですね。
9/28 八幡ヒビキ様からいただいたアドバイスにより、表現を一部修正いたしました。ありがとうfございます。
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