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第一章

初めての町

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 その夜、魔法を書き換えながら考える。
やっぱ、自力で帰るのは無理そうだな……トラブルの修復はどれくらいかかるんだろう……
そんな事を考えながら上司にメールを送る。

 トラブルに巻き込まれて、帰る事ができない。
現在地もわからない状態で、努力はするがいつ帰れるのか分からない。
できれば休職でお願いしたいが、こんな不安定な状態なので解雇されてもやむを得ない。
それから、しがかり中の案件を思いつくだけ報告しメールを送った。
神様は、フォローしてくれるんだろうか……

 うーん、社会人の異世界転移は大変だな……
こんなメールだけで済むとは思えない。
上司だって、人事課に報告しなきゃいけないんだろうし、詳細を求められるよな……

 とりあえず、自分のできることを済ませていこう。



 翌朝、朝食を済ませ身支度をする。
一番近いゴルの町にいくため、サクラに頼んで家の周りに侵入防止の結界を張ってもらった。

 ゴルの町まで、歩けば4時間以上かかるが、自転車なら半分以下で着ける。
昨夜手入れをしておいた折りたたみ自転車を出し出発。
クロウは並走し、サクラは背中のリュックの中だ。

 途中、何度も轍にハンドルを取られたが、サクラが魔法で補助してくれた。
相変わらず、魔物に襲われる馬車とか盗賊とかに出会うこともなく町に到着し、門番に話しかける。

「すみません、町に入りたいんですけど、何か必要ですか?」

「うん?初めてなのか?」

「はい」

「どこの街のでもいいから、身分証があれば問題ないぞ」

「そのぅ……神隠しにあったみたいで、突然この先の山の中に来ちゃったんです」

 神隠しという概念は、言語変換に頼ろう……

「そりゃぁ大変だったな。
知り合いとかもいないのか?」

「ええ。そもそも町の名前すらしらないものですから……
えっと、ここは何処なんですか?」

「そうか……ここはユーフラシア郡のゴルという町だ。
聞いたことはあるか?」

「いえ、まったく知らない町です」

「お前は、何という町に住んでたんだ?」

「日本国の神奈川ってところですけど……知りませんよね」

「聞いたことがないな。じゃあ、金もないのか」

「ええ、日本で使っていたお金はあるんですけどね」

 ポケットの小銭入れからコインを数枚取り出して見せる。

「確かに、見たことのないコインだな。何か売れるような品は持ってないのか?」

「収納にハイイログマや魔狼が入ってます。あと、一角うさぎの角一本と、小物が少々あります」

「おお、収納持ちなのか。
仮証の発行に預かり金として銀貨一枚5千円必要なんだが、代替えできる小物は持ってないか?」

「そうですね……この折りたたみナイフなんてどうですか?」

 腰に付けていた折りたたみナイフを見せる。

「これが……ナイフなのか?」

「ええ、こうやって開くとナイフになります」

 全長21cmで刃の部分は8.5cm。通販で買ったステンレス製だ。
値段は2000円程度の安物だが、クローム調で雰囲気はある。

「おまっ……、こんなナイフ見たことないぞ。
このロックする仕組みとか……町の鍛冶師で再現は……難しいだろうな。
俺なら、金貨1枚5万円でも買うぞ!」

「あ、じゃあ預かり金の代替えでお願いします」

「い……いや、こんな貴重なもの預かる訳には……」

「でしたら、このナイフを銀貨1枚で買い取ってくれませんか。
あとから文句はいいません。約束します」

「本当にいいのか」

「はい」

 こうして2000円のナイフと交換に、町に入る事ができた。
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