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第Ⅲ章 アルトハイン
アートランド子爵という危険人物
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「おい、ゼン」
「あっ、兄さんが部屋に来るなんて珍しいですね」
「頼みがある」
「なんでしょう」
「シュートリアのアートランド卿に手紙を書いてほしい」
「手紙ですか」
「先日の謝罪と、ソイソースを大至急送ってほしいとな」
「謝罪ですか」
「ああ、先日の非礼について詫びたい」
「珍しいですね。兄さんが謝罪だなんて」
「ああ。俺からの書状だと、あまりにも……
ソイソースの依頼をするためにとってつけたようになってしまうから、その辺はお前ならうまく文字にできるだろう」
「俺が書いても同じですよ」
「あー、ホーリーライトのな」
「はい」
「お前は最初、金貨200枚で買い取ろうとしたんだってな」
「ど、どうしてそれを……」
「あれを金貨200枚とは、物の価値を知らん男だよな」
「いや、まったく情報がなかったもので……」
「民には知られたくないよな」
「……、喜んで書かせてもらいます」
「物わかりのいい弟をもって良かったよ」
「ソイソースの件は、もう聞いてますから」
「うっ、あのおん……パトリア料理長から聞いたのか」
「いえ、親父からですよ。
食いそびれたのがよほど残念だったんでしょう。
香りだけでそう思わせるとは、さすが”焼き”のパトリアですね」
「”焼き”だと?」
「ええ。もちろん、料理全般に精通しているんですが、肉を焼かせたらシーリアのメイドの中でもダントツだそうですよ」
「ということは、他にも二つ名があるんだな」
「ええ。
ダイトウのアリシアは煮物で、ほかにも卵料理やサラダ、ソースの専門家などがいるんですよ」
「ダイトウのアリシアだと?」
「あっ……。
内緒ですよ、ここだけの話にしておいてください。
本人から話があるまでですけど……」
「わかった」
「最初にホーリーライトを設置した際、カワチあにきが、シーリアのメイドの一人を嫁に選んだんだ」
「くっ……だが、その気持ちは俺にもわかるな」
「まさか兄さんが……」
「俺は今まで、女ってのは子を産むだけのもんだと思っていた。
食い物も同じだ。腹がふくれて血肉になれば味なんて関係ないとな」
「そう公言してたよね」
「だが、パトリア料理長の作るものは、次元が違っていた。
食事は喜びであり、感動との出会いだった。
それと同時に、女性の細やかな気遣いに気が付いた。
いや、気づかせてもらったんだな」
「すごいな。人生観が変わったんだね。
うん、これなら国王に相応しいね」
「まあ、これまでの俺はそういわれても仕方ないな」
「ああ。俺も全力でバックアップするぜ」
「女も子供も、一人の国民だと気づいたよ。
まったく、料理でここまで人生観が変わるとはな。
ソイソースも、一人でも多くの民に食わせてやりたいと思ってる。
本音だよ」
「そんなパトリア料理長が心酔してるんだぜ。シーリア・アートランドという小娘に」
「やめてくれ。あれは本当に申し訳なかったよ」
「ホーリーライトの生みの親にして、一万のアンデッドを二人で迎撃した英雄」
「ああ、それは俺も聞いたよ」
「シュトーリアの各町を毎日往復する定時連絡便の構築者」
「うん?それは?」
「3羽のファルコンが、朝、王都を出発して、夕方には町から戻ってくる、文字通りの連絡便だよ」
「そんなことが出来たら、王都と町の時差がほとんどなくなる。
俺も考えたことがあるが、現実には不可能だろ」
「彼女のファルコンは、ここからチルバまで1時間程度で飛行できるんだ」
「一時間だと!」
「特別な飛行術だぜ。
そして、それをほかのファルコンに教えることもできるんだ」
「考えられん……」
「それだけじゃないぜ。
その速度を生かして、獲物に突っ込んで貫通する。
そうだな……ヨロイウオの甲羅も貫通するんだぜ、ファルコンが」
「そんなことが可能なら、ヨロイをまとった人間だって……」
「シュトーリアでは、魔物使い部隊のエースは、ファルコン使いだ。
これは、俺も実際に見てきた。
降下のスピードは時速400km以上だとさ」
「上空から見つかったら避けようがなさそうだ」
「人間相手には使わせないって言ってるけどな。
馬をつぶされれば同じことだ」
「ああ、聞くだけで恐ろしいな」
「そして、料理の普及だ」
「まさか、子爵本人が?」
「ああ、率先して厨房に入る」
「で、ソイソースやマヨソースを……」
「ベーコンも、メイドに指示するんじゃなく、自分で肉に塩を練りこむんだよ。
そのための燻製室も自分で考えたんだ。
中庭に作ったあれだよ」
「だが、職人なんて連れてなかっただろ」
「彼女の指示で、従魔が作るんだよ」
「従魔?ファルコンが?」
「ファルコンは土魔法は苦手らしい。
大型のネコ系と龍と3匹のワイバーンだよ。
兄さんの部屋の天井に埋め込んだ反射板も従魔がやったし、ホーリータワーだって従魔が建てたんだぜ」
「土魔法を使う従魔など……」
「土魔法だけじゃないぜ。
6匹とも風魔法の使うんだ」
「風魔法だと!」
「驚かないで欲しいんだけど、6匹とも2種類のブレスを使うんだぜ。
火と氷だよ。しかも、ネコまで空を駆けるんだ」
「空中から、火と氷のブレスに風魔法……。
国が滅ぶな」
「そのシーリアが、パトリアに何かあったら、絶対に許さないって……本気だったぜ」
「…………
土魔法で閉じ込められて、火と氷のブレスを浴びながら風魔法で切り刻まれる……
ああ、頭痛がしてきた……
じゃ、手紙よろしく……」
「あっ、兄さんが部屋に来るなんて珍しいですね」
「頼みがある」
「なんでしょう」
「シュートリアのアートランド卿に手紙を書いてほしい」
「手紙ですか」
「先日の謝罪と、ソイソースを大至急送ってほしいとな」
「謝罪ですか」
「ああ、先日の非礼について詫びたい」
「珍しいですね。兄さんが謝罪だなんて」
「ああ。俺からの書状だと、あまりにも……
ソイソースの依頼をするためにとってつけたようになってしまうから、その辺はお前ならうまく文字にできるだろう」
「俺が書いても同じですよ」
「あー、ホーリーライトのな」
「はい」
「お前は最初、金貨200枚で買い取ろうとしたんだってな」
「ど、どうしてそれを……」
「あれを金貨200枚とは、物の価値を知らん男だよな」
「いや、まったく情報がなかったもので……」
「民には知られたくないよな」
「……、喜んで書かせてもらいます」
「物わかりのいい弟をもって良かったよ」
「ソイソースの件は、もう聞いてますから」
「うっ、あのおん……パトリア料理長から聞いたのか」
「いえ、親父からですよ。
食いそびれたのがよほど残念だったんでしょう。
香りだけでそう思わせるとは、さすが”焼き”のパトリアですね」
「”焼き”だと?」
「ええ。もちろん、料理全般に精通しているんですが、肉を焼かせたらシーリアのメイドの中でもダントツだそうですよ」
「ということは、他にも二つ名があるんだな」
「ええ。
ダイトウのアリシアは煮物で、ほかにも卵料理やサラダ、ソースの専門家などがいるんですよ」
「ダイトウのアリシアだと?」
「あっ……。
内緒ですよ、ここだけの話にしておいてください。
本人から話があるまでですけど……」
「わかった」
「最初にホーリーライトを設置した際、カワチあにきが、シーリアのメイドの一人を嫁に選んだんだ」
「くっ……だが、その気持ちは俺にもわかるな」
「まさか兄さんが……」
「俺は今まで、女ってのは子を産むだけのもんだと思っていた。
食い物も同じだ。腹がふくれて血肉になれば味なんて関係ないとな」
「そう公言してたよね」
「だが、パトリア料理長の作るものは、次元が違っていた。
食事は喜びであり、感動との出会いだった。
それと同時に、女性の細やかな気遣いに気が付いた。
いや、気づかせてもらったんだな」
「すごいな。人生観が変わったんだね。
うん、これなら国王に相応しいね」
「まあ、これまでの俺はそういわれても仕方ないな」
「ああ。俺も全力でバックアップするぜ」
「女も子供も、一人の国民だと気づいたよ。
まったく、料理でここまで人生観が変わるとはな。
ソイソースも、一人でも多くの民に食わせてやりたいと思ってる。
本音だよ」
「そんなパトリア料理長が心酔してるんだぜ。シーリア・アートランドという小娘に」
「やめてくれ。あれは本当に申し訳なかったよ」
「ホーリーライトの生みの親にして、一万のアンデッドを二人で迎撃した英雄」
「ああ、それは俺も聞いたよ」
「シュトーリアの各町を毎日往復する定時連絡便の構築者」
「うん?それは?」
「3羽のファルコンが、朝、王都を出発して、夕方には町から戻ってくる、文字通りの連絡便だよ」
「そんなことが出来たら、王都と町の時差がほとんどなくなる。
俺も考えたことがあるが、現実には不可能だろ」
「彼女のファルコンは、ここからチルバまで1時間程度で飛行できるんだ」
「一時間だと!」
「特別な飛行術だぜ。
そして、それをほかのファルコンに教えることもできるんだ」
「考えられん……」
「それだけじゃないぜ。
その速度を生かして、獲物に突っ込んで貫通する。
そうだな……ヨロイウオの甲羅も貫通するんだぜ、ファルコンが」
「そんなことが可能なら、ヨロイをまとった人間だって……」
「シュトーリアでは、魔物使い部隊のエースは、ファルコン使いだ。
これは、俺も実際に見てきた。
降下のスピードは時速400km以上だとさ」
「上空から見つかったら避けようがなさそうだ」
「人間相手には使わせないって言ってるけどな。
馬をつぶされれば同じことだ」
「ああ、聞くだけで恐ろしいな」
「そして、料理の普及だ」
「まさか、子爵本人が?」
「ああ、率先して厨房に入る」
「で、ソイソースやマヨソースを……」
「ベーコンも、メイドに指示するんじゃなく、自分で肉に塩を練りこむんだよ。
そのための燻製室も自分で考えたんだ。
中庭に作ったあれだよ」
「だが、職人なんて連れてなかっただろ」
「彼女の指示で、従魔が作るんだよ」
「従魔?ファルコンが?」
「ファルコンは土魔法は苦手らしい。
大型のネコ系と龍と3匹のワイバーンだよ。
兄さんの部屋の天井に埋め込んだ反射板も従魔がやったし、ホーリータワーだって従魔が建てたんだぜ」
「土魔法を使う従魔など……」
「土魔法だけじゃないぜ。
6匹とも風魔法の使うんだ」
「風魔法だと!」
「驚かないで欲しいんだけど、6匹とも2種類のブレスを使うんだぜ。
火と氷だよ。しかも、ネコまで空を駆けるんだ」
「空中から、火と氷のブレスに風魔法……。
国が滅ぶな」
「そのシーリアが、パトリアに何かあったら、絶対に許さないって……本気だったぜ」
「…………
土魔法で閉じ込められて、火と氷のブレスを浴びながら風魔法で切り刻まれる……
ああ、頭痛がしてきた……
じゃ、手紙よろしく……」
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