7人のメイド物語

モモん

文字の大きさ
上 下
141 / 142
第八章 家族

第135話 足りないのは……

しおりを挟む
 政務は数日間休ませてもらい、俺は復活した。
 これまでの俺は、どこかに地球世界から来たという感覚が残っていたのだが、ジョイの意識と一体化したことで完全にこの世界の人間なんだと実感できた。

 ソフィアに対しても、やはり孤児だという後ろめたさがあったのだが、産んでくれた母が分かったというだけでそれが消え失せた。
 また、ナギと共に生きた……、生き抜いた経験は俺の価値観を大きく変えてしまった。
 生きるという極限の目的の前では、倫理観など意味のないものだった。
 地中海沿岸やヨーロッパの国々とも、きちんと話をする必要を感じていた。

 
 俺には、先のビジョンが見えていない。
 魔道具に頼り切っていたら、科学の進歩が見込めないのではないか。
 内燃機関や火薬。その先にある自動化や電気の普及。
 だが、そこに至るには化石燃料の活用も必要だろう。
 そしてそれは、環境破壊へとつながる。

 そもそも、地球世界の発展が正常だったのかという疑問も払拭できない。

 どうする……
 どうしたらいい……
 
 答えの見えない問いかけに、俺は焦りを感じていた。

 ”魔法は環境を壊すの?”
 内面からの問いかけだった。
 ……そうか、ジョイの視点で見てみればいいのか。

 ”魔法は環境を壊すのか”
  ……NOだ。
  加熱しても炭素は発生しない。

 ”魔法には限界があるのか”
  ……これはどうだろうか?
  現状、原爆のような大規模破壊兵器は必要ない。
  いや、地球社会でも必要ないだろう。あんな、大量殺人兵器は。
  そういえば、こんな話を聞いたことがある。

   戦争とは、軍隊同士が戦うもので、国家間の争いのツールなのだ。
   これに民間人を巻き込んだ場合、それは戦争ではなく殺人になる。
   爆弾が出現したことで、この定義があっさりと破綻してしまった。
   広島と長崎に落とされた原爆は、軍事基地を狙ったものですらない。
   あきらかに民間人を狙った大量殺人なのだ。

  ……そうだよな。威力を見せつけるだけなら、東京湾にでも落とせば良かったんだ。
  威力の必要なケース。
  例えば、小惑星がぶつかりそうとかだろうか。
  俺なら、直接出かけて行って、収納に取り込んでおしまいだな。
  宇宙にいくための技術の発展は必要かもしれない。
  魔法の組み合わせで何とかなるような気もする。
  あとは、高出力の推進機で軌道を変えてやれば何とかなりそうだ。
  ……答えはNOだな。
  魔力量には限界があるが。

 ということは、魔法を発展させれば良さそうだ。
 科学もそれにあわせて進歩するだろう。 

 俺の中で方向性は決まった。
 学び舎を他の国にも広めていって、知識の底上げを行うんだ。
 国を豊かにすることで、不幸な子供たちを救うことのできる体制を構築する。
 ナギの恩に報いるには、これが最適なのだろう。


数日後、俺は本宅でくつろいでいた。

「ふっ切れたような顔をしてるな。」
「はい。」
「無茶はするなよ。」
「この国に作ってきたものを、世界に広げていくだけですよ。」
「それがお前の出した答えなら、国はお前をサポートするさ。」
「お母さんにもまだまだ頑張ってもらわないといけません。」
「そうだろうな。」
「あら、まだ引退できないのかしら。」
「世界中から、不幸な子供がいなくなるまで……。」
「……それならしょうがないわね。でもね、もう少し頻繁に燃料を与えてくれないとね……。」
「今回のは、自信作なんですけどね。」
「サクランボのゼリーね、まあ94点というところかしら。」
「足りないのは何でしょう?」
「そうね。白い砂浜とパラソル。照りつける太陽の下で出されたら満点かもね。」


【あとがき】
 ふう、もう一息。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...