魔導師の記憶

モモん

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第一章

第4話 魔剣なんて使えるのか?

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「リコ様、魔導照明と共に、魔導コンロも凄い売れ行きですよ。」
「あはは、シルビアさんの販売戦略が効果的だからですよ。」
「そんなことを言って。エルフを口説いても何も出ませんよ。」
「3才児に何を言ってるんですか。」

 俺が魔導具に書き込んだ魔法式には、プロテクトがかけてある。
 昔の魔導具が複製されなかったのも、そこに要因があるのだ。
 つまり、俺の作った魔導具は、材料があっても複製できないし、ましてや純度の高いミスリル銀でないと効率のよい効果は得られない。

 現在、俺が取り組んでいるのは、龍の次元に魔法で固定した空間を作って、そこに物を保存することができないかの検証である。
 疑似空間の作成には何度も成功し、固定化も問題ない。
 問題は、こちらの出し入れ口を閉じた時と、場所を移動した時に、座標がずれてしまい、出し入れ口のリンクが切れてしまうのだ。
 何十回も修正しながら繰り返しているが、決定的な解決方法が見つからない。

「くそう。これがうまく行けば、荷物を運ぶのが楽になるし、持ち歩けないようなものでも移動できるんだけどなぁ……。」

 そんな問題解決の糸口が見つかったのは、王都に向かって飛んでいる最中だった。

 辺境の町セザルから王都までは600kmほどになる。
 仮に、飛行中の現在地を特定するには、世界の座標を取得するのだが、これは意外と誤差が大きいのだ。
 それならば、王都の特定ポイントからの相対的な距離を出してはどうだろうか。
 特定ポイントから西に17km、北に509km、高さプラス6.8mとかで現在地を特定できるだろう。
 正確を期するため、セザルからの相対的な距離も出して、データを保有する。
 うん、このやり方で、バッグの出し入れ口2箇所を、龍の次元に設置した倉庫の出し入れ口とシンクロさせてやれば……。

 王都の自宅に特定ポイントにする魔道具を埋設し、バッグの側は特定ポイントからの距離を自動的に取得するよう魔法式を構築した。
 自宅の敷地には、結界用の用の魔道具を埋め込んであるため、それを特定ポイントにして魔法式に追加して起動すいる。

「あはは、王都内ではどこからでも龍の倉庫にアクセスできるぞ。じゃあ、こっちで買い込んだものを龍の倉庫に入れて、セザルで出せるか試してみよう。」

 王都の家には、二人のメイドを住み込みで雇っている。
 メリーとアンの二人は、実質家で生活してもらい、俺が来たときだけ世話をしてもらうのだ。
 二人とも、王都の商業ギルドが採用してくれただけあって、有能なメイドだった。
 それに、この家には商業ギルドの窓口になってくれた女性も住み込んでいる。
 シルビアと知り合いのライムというエルフさんだ。

「ねえライムさん。」
「はい。」
「魔剣とかって需要あるのかな?」
「魔剣ですか?」
「うん。」
「ひょっとすると、それも魔道具なのでしょうか?」
「そうだよ。軍で使っている剣に魔法を付与するんだ。」
「どのような魔法を?」
「いろいろできるんだけど、使う人の身体能力を倍にしたり、剣の強度をあげたりするのが一般かな。」
「そのような魔道具は聞いたことがありませんけど。」
「ライムさんは、軍にコネとかあります?」
「ええ。軍の物資をご用意したりしていますから。」

 俺は王都の部屋にこもって魔道具制作をしている。
 魔剣を作るのに必要なのは、鉄とミスリル銀を混ぜた合金だ。
 この合金は、混ぜる比率が重要になる。
 ミスリル銀の割合が多いと、柔らかい金属になってしまう。
 俺の知る限り、最適な割合はミスリル銀が4%だ。

 錬金術に似た土魔法で鉄とミスリル銀を混ぜていき、そのまま素手で剣の形に成形していく。
 鍔と柄を作り、エッジを研いでいくと鈍い輝きを放つ剣が出来上がった。
 この柄に魔法石を埋め込んで、魔法式を書き込んでいく。
 今回はオーソドックスな身体強化と刀身保護にしておく。

 俺はライムさんに伴われて城に向かった。

「城には、どれくらいの兵士がいるんですか?」
「3000人くらいだと聞いています。」

 王都の人口が8万人と聞いている。
 兵士の数が多いのか少ないのかは判断できない。
 ライムさんの対応をしてくれたのは、軍の中の庶務を担当するダリアという女性だった。

「ダリアさんありがとうございます。」
「いえいえ、ハンドランプを普及させているライムさんの依頼ですからね。こうしてラングーン副隊長も同席してくださったんですよ。」
「まあ、副隊長さんなんですか!」
「いや、貴族の息子だって、無理やり持ち上げられただけですよ。」

 茶色の短髪で、細身ながら筋肉質のたくましい人だ。身長は180cmくらいだろうか。

「こちら、ハンドランプの開発者であるリコ・フォン・キング様です。」
「リコです。よろしくお願いします。」
「ハンドランプの開発者が、こんな……お若い人だとは思いませんでした。」
「あはは、驚いだでしょ。私も初めてお会いした時は、こんな子供が!って叫んじゃいましたから。」
「いや、それ、本音出すぎでしょ。」
「まあ、それはいいとして、本題に移りましょう。これなんですけど。」

 俺はバッグから携帯型の魔導コンロを取り出した。

「これって……。」
「まさか……、考えたこともなかったが……。」
「火起こし不要で、洞窟でも使えます。僕のような子供でも持ち歩ける軽さです。」
「野営地で、簡単に食事の準備が始められますよ。」
「それは……そうなのだろうが……。」
「軍用なので、儲けは考えていません。とりあえず、サンプルで5台持ってきましたので使ってみてください。」
「それはありがたい。遠慮なく使わせてもらおう。」
「それで、本命の要件はこっちです。」

 俺は魔剣をテーブルの上に置いた。

「これは……、魔道具なのか?」
「はい。商売は抜きで、僕の趣味で作りました。」
「どんな魔法が働くんだ?」
「使用者の身体能力を2倍に引き上げて、剣自体の強度をあげてあります。」
「あまり派手な効果じゃないんだな。」
「派手なのも作れるんですけど、剣が炎に包まれたり、刀身が凍ったりしてもあんまり意味ないですからね。」
「剣の先から、氷の矢が飛ぶのはどうだ?」
「そういうのは魔術師に任せておけばいいでしょ。」
「それもそうか。外で振ってみてもいいかな?」
「ぜひ、お願いします。」

 俺たちは外に出た。
 兵士たちが、体力づくりや木刀で打ち合いをしている。
 ラングーン副隊長は、剣を握り鞘から引き抜いた。

「こ、これは……。」
「効果がわかりますか?」
「十分すぎる程に……。」

 副隊長は上段に構えた剣を勢いよくふり下ろし、そのまま奇声をあげて林に突っ込んでいった。

 いつの間にか、兵士が訓練をやめて集まっている。

「どうしちまったんだ、副隊長……。」
「あれじゃあ、まるでバーサーカー(狂戦士)じゃないか……」
「10センチから15センチの枝や幹を一撃だぞ!」
「剣もあれじゃあ壊れちまうぜ。」

「なあ、もう10分くらい続けているのに、勢いが衰えねえ……。」
「何で、切れ味が落ちないんだよ……。」

 15分くらいして、副隊長が戻ってきた。
 ゼーゼーと肩で息をしている。

「くそっ!剣より先に、……俺の体力が尽きちまったぜ……。」
「体を強化した分、疲労は半端じゃないですから、十分に休養してくださいね。」
「あ、あ、わか……るさ……。」

 ラングーン副隊長はその場に倒れてしまった。
 意識を失ったのだ。


【あとがき】
 身体強化の反動ですね。
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