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第二章

第34話 クリンクリン

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「お前は、何故こんなひどいことができるんだ。」

 メイドさんの通訳で、王族の一人がそう問いかけているのが分かった。

「勘違いするなよ。お前たちが侵略するから反撃しただけだろ。」
「我々は宗主国だ。属国が我々に従うのは当然だろう!」
「宗主国だと?」
「世界はこの国から始まったのだから当然であろう!」
「何を言ってるんだ?」
「ローラン王国は世界の中心であり、お前たちはローラン王国に付き従うだけの従者なのだ。なぜ従者が主人に歯向かうのだ!」

「ススム様、私には彼らの言葉を正しく翻訳できているのか自信がありません。」
「いや、多分正しく翻訳できてると思うよ。中華思想って聞いたことがある。」
「中華思想……。」

 城跡に転送されてきたのは、金属を奪われて衣類を手で抑えた王族50名くらいと、殆どの装備を奪われた兵士が多数立ち尽くしている。

「この国はヤマトに敗れたんだよ。」
「我々は敗れてなどいない!今頃お前の国は我が国の制圧下にあるはずだ!」
「半島からの報告が届いてないのか?ローランの船はすべて解体し、港も造船施設も壊滅させた。」
「ば、馬鹿な……。」
「南北の戦線も、ここと同じように全ての金属を消してやったら、全軍が降伏したそうだ。」
「ふざけるな!最強のローラン王国が敗れることなどありえんわ。」
「なあ、この状況を前にしても現実が理解できないのか?」

 俺の横にはティターンが直立しており、兵士の気力を完全に萎えさせている。
 
「俺はこの国の資源や国民には興味ないから、後始末を終えたら国に戻るつもりだ。」
「後始末だと?」
「ああ、戦争の責任をとってもらわないと、また同じことを繰り返されても迷惑だからな。」
「な、何をするつもりだ……。」
「国王と主要な王族、それと軍の責任者は国外へ追放する。まあ、武器のなくなったこの町は、武器の残っている町に滅ぼされるだろうがな。」
「この国が辿ってきた歴史を見ると、敗れた都市は殆どの男を殺して、女は奴隷ですね。」
「まあ、どうなろうが俺には関係ない。」

 こうして、俺は国王と軍の責任者3名を転送させた。
 転送先は北に3500キロの地点。向こうがどうなっていようが関係ない。運がよければ、生き残れるだろう。


 ローラン王国から戻った俺は、今後のことを考えてみた。
 イナゴさんの有用性が確認できたのは大きい。
 万一の侵略に対しても、効果的に反撃できるだろう。
 穀物の収穫量も順調に増えており、肉や魚の量も十分である。
 まだ数は少ないが、やっと玉子も提供できるようになり、食べ物の豊富さは世界一だと思う。
 絹をはじめとする布の生産も増えており、ドワーフや鬼人による刺繍や縫製も高い評価を得ている。

「唯一の悩みは、人口を増やすことなんだけど、こればかりはどうしようのもないね。」
「そうですね、やっと5000人を超えたところですけど、一万人までまだまだですね。」
「まあ、変なところから移民を受けたくないし、ゆっくりやっていくよ。」

 南北のアメリカ大陸から、10人・20人タイプで移民してくれる人は続いているのだが、やはり言葉の壁が大きい。
 そんな中で、南米アマゾン川の奥地で新たなダンジョンが発見された。
 人の往来が増える中で、新たな亜人族有尾人族と小人族が発見された。
 周辺国から人間狩りを目的としたハンターが出没し、彼らの奴隷化が始まった。
 これに対し、俺もレンジャーさん30人を新設して亜人の保護に取り組み、新ダンジョン攻略にも取り組んだ。

 新ダンジョンでは地下1階からオーガが出現している。
 邪気が相当濃いようだ。
 地下2階でハープドラゴン・サイクロプスが出現し、地下3階では上級悪魔ポリペイド。地下4階でダークアイ・オプトドラゴン、地下5階でツインヘッドドラゴンと遂にSクラスの魔物が登場していた。
 このクラスになると、スピードもパワーも俺と同クラスの強さになってきており、シールドアクセがあるとはいえ、気を抜けない状況になっている。

「ススム様、重力魔法でサポートいたしますか?」
「いや、大丈夫だよ。」

 メイドさんが死骸の回収をしてくれるので助かっている。
 そういえば、”効果的なダンジョン運営”という本に、人を呼びたいのならレアアイテムを入れた宝箱を設置しろと書いてあったのを思い出した。
 今回のダンジョン攻略で、わが国にはドラゴン系の肉が大量に出回っている。
 ドラゴンの肉が美味いのは、ドラゴンの血に多く含まれる魔力が影響しており、血抜きをしないで常温で一日放置しておくことで柔らかさとうま味が増すとこが分かってきている。
 それを適切に処理できるよう、肉屋のゲンさんを30体導入したことも影響しているのだろう。

「ねえねえ、最近出回っているツインヘッドドラゴンのお肉食べた?」
「うんうん、あれヤバいよね。昨日はシャブシャブにしてゴマダレで食べたんだけど、最高だったよ。」
「チッチッチッ、分かってねえなぁ。あれはやっぱ厚切りのステーキだぜ。ワサビ醤油が最高なんだ!」
「イヤイヤイヤ、ドラゴンといったら、やっぱ塩釜焼きっしょ。あの凝縮された美味しさをしらないなんてかわいそうで涙が出てくるわ。」

 こんな会話が国民の間で交わされているという。
 ああ、もっとドラゴン肉を国民に提供できればいいな……。
 あれっ?
 もしかして……。

 翌朝、俺は何冊かの本が入った木箱を掘り出した。
 メインは”ドラゴン系専門のダンジョンを造る”だ。これが出てきたということは、実現可能ということになる。

 本によると、構造的には他の人工ダンジョンとそれほど変わらない。
 ただ、この本にはより具体的な構造例が記載されているということだ。
 俺は、日本でいえば大島に相当する島に”竜島”と命名し、モグラさんを投入して造成工事に入った。

 ドラゴン系ダンジョン造成で重要なポイントは、天井を30m以上の高さにして、最低でも5km四方のエリアを確保することだ。
 そして、十分な明るさと、それぞれのドラゴン系の好む地形を用意すること。
 重要なのは草原やジャングルなど、餌場も必要ということだ。
 とりあえず、今回は本を参考としたレイアウトで配置していく。
 ドラゴン系というのは、邪気で発生するタイプもいるのだが、基本は卵胎生で繁殖させる必要がある。
 したがって、巣にするエリアは適正温度と湿度も重要であり、成長を加速させる魔法陣も設置しておく。

「ドラゴン系は結構面倒なんだな。」
「そうだな。魔物とドラゴンは別物だからこれだけの環境が必要なのだろう。」
「えっと、これで自然発生を待つと数百年かかるので、ドラゴンの種を撒くことで3日に短縮できるっと。」
「なんだそれは?」
「巻末の付録で、袋に入ってたんですよ。」
「こ、こんな1mm程度の種からドラゴンが生まれるというのか?」
「普通の卵は、30cmくらいあるみたいなんだけど、種でもいけるみたいなんだ。」
「だが、その程度では足りないだろ。」
「そう思って、でかい木箱にして掘り出してある。」
「何のドラゴンが生まれるんだ?」
「地形や邪気の濃度、温度や湿度で変化するみたい。」

 こうして、地下1階荒野フィールドに種を撒いて完成だ。
 ちなみに、邪気発生装置には、アークドラゴンの内臓をセットしてある。

 種の孵化が楽しみだ。


【あとがき】
 ド、ドラゴンの種……。某恐竜テーマパークの映画を思い出します。
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