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第一章

第10話 人体修復

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 お姉さんの薬局は奥が住居になっていたので、そこで食事の準備をすすめる。
 トン汁や串焼き、パンなどのストックは十分にあったので、アークドラゴンの肉を薄く切って塩コショウして焼いていく。
「何よその肉。それにどこから出したの……それ。」
 俺はマジックバッグの中から、青いマジックバッグを取り出してお姉さんに説明した。
「この中に、お城の建物全体が入っちゃうなんて、ありえないでしょ。」
「中にいれている間は、時間経過も停止しますから、例えばポーションを入れておいても劣化しないんですよ。暖かいものや冷たいものもそのままですし。」
 青いマジックバッグで色々と試してもらうとお姉さんは理解してくれた。
「なんでそんな貴重品を、今日あったばかりの私にくれるわけ?」
「俺たちはいずれこの国を出ます。だからその時に備えておいてください。当然、奴隷のお姉さんも一緒に連れていきます。」
「待ってよ!私にだって生活があるのよ。」
「奴隷に拒否権があると思っているんですか?」
「ま、まだ結果は出てないでしょ……。」
「俺にしたら、結果はもう出ていますから。それよりも食事にしましょう。」

「こ、この味は……。」
「俺の国の、味噌という調味料を使ったスープというかシチューですね。」
「アークドラゴンのお肉美味しい!」
「うん、牛肉のようなしつこさがなくて、柔らかい。肉汁もうま味があって最高だね。」
「本当に二人で狩ってきたの、アークドラゴンを……。」
「うん。ほかにもサイクロプスとかアトラスとか、マジックバッグにいっぱい入ってるんだ。」
「ススムが非常識な存在だっていうのは、なんとなく理解したが……。」
「そういえば、お姉さんは薬師のほかにできることは何ですか?足が戻った前提ですけど。」
「そうね。性的なことには一通り対応できると思うけど……。」
「姉さん!何言ってるんですか!」
「冒険者としての実績は治癒魔法師として祝福も使えるし、剣だって普通に使えるわね。魔物の解体だってできるし、針仕事も平気。そうそう、魔道具の開発だってできるわよ。魔法石があればだけど。」
「料理とかどうですか?」
「自分が食べるくらいは作るけど、料理人の経験はないわ。」
「この薬屋の売上って、どれくらいなんですか?」
「作った薬は、ほとんど冒険者ギルドにおさめているわ。店においてあるのは、近くの人が急に発熱した時とか、けがをした時のために置いているだけよ。」
「自分で薬草の採取とかしているんですか?」
「この足じゃ無理よ。ギルドの採集依頼で集めたものや、裏の畑で育てた素材を使っているのよ。」
「じゃあ、急にいなくなってもそれほど問題ないですね。」
「まあね……。でも、そういわれるとちょっと寂しいかな。」

「ところで、さっき言ってた何でも切れるナイフなんだけど、どんな感じがいいかな。」
「どんなって、普通のナイフでいいと思うけど。」
「俺は、折り畳みのナイフにしようかと思ってるんだ。」
「折り畳み?」
「聞いたことないわよ、そんなの。」
「えっとね……、そうだ、多分リュックの中に入っているはず。」
 俺はマジックバッグの中からリュックを取り出した。
 更にリュックの中を探って目的のものを見つけた俺が取り出したのは、刃渡り12cmほどの折り畳みナイフだ。
 本来であれば、こういうものを持ち歩くのは違法なのだが、キャンプに出かけた時に使ったのを出し忘れていたのだ。
「それがナイフなの?」
「ああ。こうやってロックを外して刃を引き出していっぱいまで広げるとここでもロックされて使えるようになる。」
「わあ、本当にナイフになったわ。」
「手の込んだ仕組みだな。」
「使い終わったらこうやってロックを解除して刃を格納するんだ。」
「すごい!」
「ただのナイフに、こんな仕組みは要らないと思うが。」
「欠点としては、構造的に弱いってことで、壊れやすくなる。まあ、破壊不能属性を付与しておけばいいんだけどね。」
「うんうん。確かに構造的には弱そうよね。」
「メリットは、鞘が不要で、半分の大きさになり、こうやってポケットに入れておけるっていうところかな。」
「だが、そんな貧弱なナイフで、何でも切れると言われてもな……。」
「そこは、ナイフ自体に特性を与えるから問題ないと思うよ。」
「まあ、そんなものが存在するはずないからな。」

 もう一つの、空飛ぶ靴については、遊び以外の使いどころが思いつかない。
 かといって、魔女のほうきはお尻に食い込みそうだし、キックボードやスケボは転倒が怖い。
 よくあんなものに乗ろうと思えるものだ。
 自分で乗ることを考えるなら、翼をつけた三輪車か自動車タイプだろう。
 三輪車タイプの場合、身体の保護や風をどうにかする必要があり、制御を考えるなら四輪車一択となる。
 ただ、速度制限をして、お手軽に使えるキックボードも魅力的ではある。

 翌朝のことだった。
「ちょっと!右足のひざ下が伸びてきてるんですけど!」
 確かに、昨日見た時には、膝までしかなかった右足が、脛のあたりまで伸びてきていた。
「順調みたいですね。」
「うんうん。」
「なに”当然だ”みたいな顔をしてるのよ。50年前にひざ下を食いちぎられてから……。」
「お姉ちゃん、その悪夢はもう忘れようよ。終わったのよ、もう。」
「いやいやいや、私の足は、トカゲの尻尾じゃないのよ!」
「トカゲの尻尾だって生えてくるんだから、足が生えてきても不思議じゃないわ。」
「あなたたち二人は異常よ……。神の教えに反してるわ!」
「そんなことないわよ。そのシートだって、台地から生まれたんだから、肯定していいんだって神様がいったのよ……ねぇ?」
「なんでそこ疑問形なのよ!」
「ああ、確かにそう言ったぞ。神なのかは知らんけど。」

「よし、これが”何でも切れる折り畳みナイフ”だ。」
「やった!私の夢が!」
「”夢が”じゃないでしょ。確かに、夕べそれについて話したけど……。」
「うん、石が簡単に切れるな。刃こぼれもしてない。」
「すごい!力を入れてないのに、鉄の包丁が簡単に切れちゃう!」
「なんでうちの包丁を切ってるのよ!」
「じゃあ、二人にも10丁ずつ渡しておくから、足りなくなったら言ってね。」
「はーい。」
「ちょっと待ちなさいよ。何でそんなチートアイテムを平然と受け入れてるのよ。しかも二人に10丁って、そんな非常識なものがいくつもあるっておかしいでしょ!」
「えーっと、これを入れて22本出したから、残りは978本?」
「いいこと!夕べ会話した時点では、これはまだ存在してなかった。そうよね!」
「確かに。」
「そうでーす。」
「それで、今朝、ススムが裏の畑にいって……これを収穫してきたとでもいうつもり?」
「おしい!」

 疑問符が顔に残るイライザをなだめて食事をし、俺は冒険者ギルドへ出かけた。
 裏の解体所で解体してもらった肉の半分を受け取り、カウンターで清算してもらう。
「買取は金貨5162枚になります。もうギルドの金庫はカラッポみたいですよ。」
「あははっ。早く売りさばいてくださいね。」
「ええ。噂を聞きつけて、肉の卸売り業者や貴金属のお店、革の加工業者が押しかけてきて大変な騒ぎになっているんですよ。」
「あんまり出しすぎると値崩れがおきそうですね。じゃあ、追加は少し時間をあけますよ。」
「それがいいですね。それで、シン様のランクなんですが、ギルマスと相談した結果、Aランクにあがっていただくことになりました。」
「えっ、もうAランクに?」
「はい。アークドラゴンやアトラス。上級悪魔のアギラスをこれだけ狩ってくるって、例えば誰か代行を依頼するなんて考えられません。」
「まあ、そうでしょうね。」
「ということは、Aクラスの魔物を一日で複数ソロ討伐できるだけの実力があると、誰でも分かりますよね。実際にはSランク以上の実力があるのでしょうが、Sランクになると認定にいろいろと制約がありますので、とりあえずギルマス権限でいけるAランクにしてしまおうということです。」
「はあ、ありがとうございます。こういう時って、振る舞い酒とかするんですよね。」
「そういう方もおられますね。」
「じゃあ、これでお願いします。」
「俺は、革袋から無造作に金貨をつかみ取ってカウンターに置いた。」
「こ、こんなに良いんですか?」
「ええ。それからお姉さんにはこれを。アークドラゴンの肉です。」
 お姉さんはレアルのお姉さんと同じような歓喜に満ちた表情をした。


【あとがき】
 使いこなせないうちに、続々登場するチートアイテム。どうすんだこれ……。

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