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第一章
第10話 超スパルタコーチがやってきた
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俺は生まれて初めて、自分の部屋というものをもらった。
それと、部屋は板張りの洋間というやつで、木で組まれた台が置いてある。
これは、ベッドというのだそうで、この上に布団を敷くのだと聞いた。
まあ、俺には布団しか荷物がないので、随分と広々とした部屋に感じた。
朝一番で神社に行くと、タケミ様に声をかけられた。
タツキさんと二人で本殿に来てくれと言われたので、タツキさんに声をかけた。
「何でしょう。二人だけで本殿に呼ばれるなんて。」
「さ、さあ……何でしょうね。」
イヤな予感はあった。
本殿の戸を開けた瞬間にタケミ様が入ってきて、神力を使って本殿の戸を開け放った。
「な、何が……。」
「タツキ、目を閉じよ。」
「は、はい。」
タケミ様は、この時、俺から離れていった。
俺の目には、本殿の中央に鎮座する人の姿をした神様が映っていた。
眩い光を発するその人……いや神様は、圧倒的でありながら、慈愛に満ちた声で言った。
『タツキ、目を開けるがよい。』
「はい。」
『わらわが見えるな。』
「はい。アマテラス様でございますね。」
『うむ。主役となるお前に見えぬ神祭など、意味がないからな。この時だけわらわの力を授けたのじゃ。』
「ありがとうございます。」
アマテラス様の言葉と共に、人の姿をした神様が次々と現れた。
『弥七』
「はい。」
『此度の婚儀は、倭国の将来をも左右する重要な事。よって誓約(うけい)により、お前の真実を証明するがよい。』
言葉の意味は理解できた。
タツキさんへの想いを言の葉で明らかにしろという事だ。
俺の気持ちは、夕べ布団の中で決めている。
「俺は、タツキさんを……、生涯を愛しみます。」
俺の言葉が光をなしてタツキさんの左手首を覆った。
『タツキ、お前の真実を証明せよ。』
「はい。私は弥七さんに生涯尽くす事をお約束いたします。」
タツキさんの言葉は、同じように光って俺の右手首にまとわりついた。
『うむ。お前たち二人の言葉に、嘘偽りのない事を、アマテラスの名において証明しようぞ。』
その瞬間、ピシッという音と共に、二人の腕の光が形になった。
俺の右手首とタツキさんの左手首に金色の細い腕輪が現れたのだ。
『では、祝言を執り行う。』
ここでいう祝言とは、神様による祝いの言葉だった。
参列した全ての神様が祝いの言葉を発し、その全てが俺たち二人の加護となる。
続いてウズメ様による祝いの舞が始まり、神様の手にお神酒の注がれた杯があらわれる。
時間にして30分ほどだろうか。
俺たちが我にかえると、戸が閉められ静まり返った本殿に二人だけが残っていた。
「タツキさん。」
「弥七さん。」
お互いの名を呼び交わし、俺たちは初めて口づけをした。
社務所に戻ると、俺の仕える神様達が待機していた。
「じゃ、行ってきます。」
「はい、お気をつけて。」
村を拠点とした初めての仕事だ。
初の獲物はシカだった。
木剣で一閃、頭を落として、その場で解体して肉と毛皮を持ち帰る。
シカ1頭で30kgほどの肉を得られるため、今日の獲物としては十分だし、これ以上持てない。
これまでとは違い、社務所へ帰る。
「ただいま戻りました。」
「おお、ご苦労さん。狩りはどうだった?」
「今日はシカ肉です。調理場に置いときますね。」
タツキさんの母親は、数年前に他界したらしい。
そのため、食事の支度は修行中の若い神職さんとタツキさんが交代でやっているのだが、このシカ肉は一日寝かせて、明日の食事になる。
神社の4人と我が家で3人。
1kgもあれば十分だろうと思っていたら、神職さんの家の分とか生地屋のお針子さんの分とか希望されて、結局5kgを確保し、残りを肉屋さんに持って行った。
それでも25kgで700円の稼ぎになった。
神社からは月3000円の給金がもらえるが、それらを含めて将来の貯えにする事になり、全部タツキさんに預ける事になった。
……というか、うちの家族も毎食神社で食べる事になっており、風呂も神社で入って家に帰って寝るだけという事に決まったそうだ。
ちなみに、俺たちは神前で祝言をあげたため、もう夫婦とされていて、タツキさんと一緒に寝る事になっている。
初めて一緒に寝たタツキさんの身体からは、甘い香りがした。
そして、神様たちにも変化があった。
今まで”キュキュ”と聞こえていた声が、言葉で聞こえるようになり、タツキさんにも聞こえるようになった。
当然、姿も見えている。
ちなみに、母ちゃんは4人目のお針子さんとして働いている。
とっくの昔に、針神様の加護を授かっていたらしい。
季節は秋から冬へと変わり、殆どの獲物はカモになった。
これまでと同じ供給をするのなら、一日でカモ10羽が必要だ。
そのため、午前中に5羽、午後5羽という2度に分けての狩りが必要になった。
「無理、しないでくださいね。」
「うん、大丈夫。」
そして、俺には課題が出された。
なるべく多くの時間、神様を纏い続ける事。
それが6人の神様からの課題であり、更に複数の神様を使った技を編み出す事を求められた。
例えば、針神様と水環様の力を使った水針。
流風様とお釜様の力を使った円月斬。
樹神様と月音様の力を使った蔦捕縛などの技だ。
二つの力は、まだ創造しやすいのだが、三つの力となると極端に難しくなってくる。
今のところ実現できているのは、針神様と月音様と流風様の力をあわせた影縫いだけだ。
更に、肉体的な鍛錬も欠かす事はできない。
より速く、より高く、より強くだ。
そして、時々不意打ちでタケミ様の幻影との戦いが襲ってくる。
正直に言って、身体も精神もボロボロだった。
毎晩のように、身体が痙攣を起こし、タツキさんに介抱してもらっている有様だ。
「おりゃー!」
ザン!
「くそ、クマなんか出てくんなよ……。」
”まだ、踏み込みが足りないな”
”剣の振り下ろしもまだまだですわね”
「勝手なこと言うなよ。こんなのを持って帰るんだぞ!」
”当然ですな”
”獲物の破棄など許されませんもの”
神様の監視付きってのは、常に全力の対応を求められる。
手を抜く事ができないのだ。
”まあ、そろそろ頃合いだな”
「何がだよ。」
”魔窟ですわね”
「何だよそれ?」
”問題は往復の足ですね”
「月音さーん、何言ってるのかな?」
”俊足を持っているのは誰だったかな”
”韋駄天ですわね”
「水環さーん、俺を無視しないでよ。」
”韋駄天はどこに?”
”アマちゃんに呼んでもらいましょう”
「月音さーん、最高神を”ちゃん”呼びはどうなのかな?」
そして2日後、足だけが異様に長い神様が現れた。
”俺の修行は厳しいぞ”
「いや、別に頼んでないから。」
”うんうん、手加減は無用です”
「勝手に交渉すんなよ!」
”境内では憑依できるが、外はどうする?”
”大丈夫だ、俺たちが補佐する”
”では、基礎鍛錬からだな”
「えっ……。」
”境内をカエル飛びで30周!”
「ムリムリ!死んじゃうって!」
憑依されてしまうと、身体の制御が神様に支配されてしまう。
俺の身体は、更に酷使される事となった。
そして、これは基礎鍛錬なのだ。
俊足を会得するまでの一か月、俺の足は徹底的に鍛え上げられた。
【あとがき】
韋駄天は本来仏教神なのですが、まあ、祭られている神社もありますのでOK。
Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
それと、部屋は板張りの洋間というやつで、木で組まれた台が置いてある。
これは、ベッドというのだそうで、この上に布団を敷くのだと聞いた。
まあ、俺には布団しか荷物がないので、随分と広々とした部屋に感じた。
朝一番で神社に行くと、タケミ様に声をかけられた。
タツキさんと二人で本殿に来てくれと言われたので、タツキさんに声をかけた。
「何でしょう。二人だけで本殿に呼ばれるなんて。」
「さ、さあ……何でしょうね。」
イヤな予感はあった。
本殿の戸を開けた瞬間にタケミ様が入ってきて、神力を使って本殿の戸を開け放った。
「な、何が……。」
「タツキ、目を閉じよ。」
「は、はい。」
タケミ様は、この時、俺から離れていった。
俺の目には、本殿の中央に鎮座する人の姿をした神様が映っていた。
眩い光を発するその人……いや神様は、圧倒的でありながら、慈愛に満ちた声で言った。
『タツキ、目を開けるがよい。』
「はい。」
『わらわが見えるな。』
「はい。アマテラス様でございますね。」
『うむ。主役となるお前に見えぬ神祭など、意味がないからな。この時だけわらわの力を授けたのじゃ。』
「ありがとうございます。」
アマテラス様の言葉と共に、人の姿をした神様が次々と現れた。
『弥七』
「はい。」
『此度の婚儀は、倭国の将来をも左右する重要な事。よって誓約(うけい)により、お前の真実を証明するがよい。』
言葉の意味は理解できた。
タツキさんへの想いを言の葉で明らかにしろという事だ。
俺の気持ちは、夕べ布団の中で決めている。
「俺は、タツキさんを……、生涯を愛しみます。」
俺の言葉が光をなしてタツキさんの左手首を覆った。
『タツキ、お前の真実を証明せよ。』
「はい。私は弥七さんに生涯尽くす事をお約束いたします。」
タツキさんの言葉は、同じように光って俺の右手首にまとわりついた。
『うむ。お前たち二人の言葉に、嘘偽りのない事を、アマテラスの名において証明しようぞ。』
その瞬間、ピシッという音と共に、二人の腕の光が形になった。
俺の右手首とタツキさんの左手首に金色の細い腕輪が現れたのだ。
『では、祝言を執り行う。』
ここでいう祝言とは、神様による祝いの言葉だった。
参列した全ての神様が祝いの言葉を発し、その全てが俺たち二人の加護となる。
続いてウズメ様による祝いの舞が始まり、神様の手にお神酒の注がれた杯があらわれる。
時間にして30分ほどだろうか。
俺たちが我にかえると、戸が閉められ静まり返った本殿に二人だけが残っていた。
「タツキさん。」
「弥七さん。」
お互いの名を呼び交わし、俺たちは初めて口づけをした。
社務所に戻ると、俺の仕える神様達が待機していた。
「じゃ、行ってきます。」
「はい、お気をつけて。」
村を拠点とした初めての仕事だ。
初の獲物はシカだった。
木剣で一閃、頭を落として、その場で解体して肉と毛皮を持ち帰る。
シカ1頭で30kgほどの肉を得られるため、今日の獲物としては十分だし、これ以上持てない。
これまでとは違い、社務所へ帰る。
「ただいま戻りました。」
「おお、ご苦労さん。狩りはどうだった?」
「今日はシカ肉です。調理場に置いときますね。」
タツキさんの母親は、数年前に他界したらしい。
そのため、食事の支度は修行中の若い神職さんとタツキさんが交代でやっているのだが、このシカ肉は一日寝かせて、明日の食事になる。
神社の4人と我が家で3人。
1kgもあれば十分だろうと思っていたら、神職さんの家の分とか生地屋のお針子さんの分とか希望されて、結局5kgを確保し、残りを肉屋さんに持って行った。
それでも25kgで700円の稼ぎになった。
神社からは月3000円の給金がもらえるが、それらを含めて将来の貯えにする事になり、全部タツキさんに預ける事になった。
……というか、うちの家族も毎食神社で食べる事になっており、風呂も神社で入って家に帰って寝るだけという事に決まったそうだ。
ちなみに、俺たちは神前で祝言をあげたため、もう夫婦とされていて、タツキさんと一緒に寝る事になっている。
初めて一緒に寝たタツキさんの身体からは、甘い香りがした。
そして、神様たちにも変化があった。
今まで”キュキュ”と聞こえていた声が、言葉で聞こえるようになり、タツキさんにも聞こえるようになった。
当然、姿も見えている。
ちなみに、母ちゃんは4人目のお針子さんとして働いている。
とっくの昔に、針神様の加護を授かっていたらしい。
季節は秋から冬へと変わり、殆どの獲物はカモになった。
これまでと同じ供給をするのなら、一日でカモ10羽が必要だ。
そのため、午前中に5羽、午後5羽という2度に分けての狩りが必要になった。
「無理、しないでくださいね。」
「うん、大丈夫。」
そして、俺には課題が出された。
なるべく多くの時間、神様を纏い続ける事。
それが6人の神様からの課題であり、更に複数の神様を使った技を編み出す事を求められた。
例えば、針神様と水環様の力を使った水針。
流風様とお釜様の力を使った円月斬。
樹神様と月音様の力を使った蔦捕縛などの技だ。
二つの力は、まだ創造しやすいのだが、三つの力となると極端に難しくなってくる。
今のところ実現できているのは、針神様と月音様と流風様の力をあわせた影縫いだけだ。
更に、肉体的な鍛錬も欠かす事はできない。
より速く、より高く、より強くだ。
そして、時々不意打ちでタケミ様の幻影との戦いが襲ってくる。
正直に言って、身体も精神もボロボロだった。
毎晩のように、身体が痙攣を起こし、タツキさんに介抱してもらっている有様だ。
「おりゃー!」
ザン!
「くそ、クマなんか出てくんなよ……。」
”まだ、踏み込みが足りないな”
”剣の振り下ろしもまだまだですわね”
「勝手なこと言うなよ。こんなのを持って帰るんだぞ!」
”当然ですな”
”獲物の破棄など許されませんもの”
神様の監視付きってのは、常に全力の対応を求められる。
手を抜く事ができないのだ。
”まあ、そろそろ頃合いだな”
「何がだよ。」
”魔窟ですわね”
「何だよそれ?」
”問題は往復の足ですね”
「月音さーん、何言ってるのかな?」
”俊足を持っているのは誰だったかな”
”韋駄天ですわね”
「水環さーん、俺を無視しないでよ。」
”韋駄天はどこに?”
”アマちゃんに呼んでもらいましょう”
「月音さーん、最高神を”ちゃん”呼びはどうなのかな?」
そして2日後、足だけが異様に長い神様が現れた。
”俺の修行は厳しいぞ”
「いや、別に頼んでないから。」
”うんうん、手加減は無用です”
「勝手に交渉すんなよ!」
”境内では憑依できるが、外はどうする?”
”大丈夫だ、俺たちが補佐する”
”では、基礎鍛錬からだな”
「えっ……。」
”境内をカエル飛びで30周!”
「ムリムリ!死んじゃうって!」
憑依されてしまうと、身体の制御が神様に支配されてしまう。
俺の身体は、更に酷使される事となった。
そして、これは基礎鍛錬なのだ。
俊足を会得するまでの一か月、俺の足は徹底的に鍛え上げられた。
【あとがき】
韋駄天は本来仏教神なのですが、まあ、祭られている神社もありますのでOK。
Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
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