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第一章
第1話 シャ・ノワール
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星暦512年、耐魔法物質の発見により星間戦争は大きく変動しようとしていた。
星間戦争とは星暦450年の火星による独立宣言に端を発しており、これを認めようとしない地球連邦議会と火星独立暫定政府マルスによる50年以上続く戦争である。地球側の主張は、火星の豊富な資源は地球の投資により得られたものであり、一方的な独立など承認できるものではないとし、火星側の言い分はこれ以上地球の搾取を許さないという主張である。この戦争がここまで長引いてしまったのは、地球と火星の会合周期が2年2カ月であり、その最接近する時期を逃してしまうと余計な時間と費用がかさむからで、50年以上とはいっても実質50回未満の戦闘機会しかなかったことにある。当然、戦闘部隊を派遣するのは地球側であり、火星側は待ち受けていれば良い。
地球から出発した船団は、最接近した時を過ぎると帰還するリスクが増大していく。燃料・食料・砲弾などギリギリの量しか積載していないため、おのずと交戦期間は限定されるのだ。
「カイリ少尉、次の最接近日は何日後になる。」
「はい、火星日で113日後になります。」
火星の公転周期は687日で、自転周期は24時間37分となっている。ちなみに、地球の自転周期も厳密にいえば23時間56分4秒であるのだが、太陽を正面に見るためには少し余分に回転する必要があり、その余分な回転を含めて24時間となっている。火星でもこれにあわせて火星時間を制定しようという動きもあったが、地球側の混乱を避けるため時間は地球時間を踏襲している。これに対し、日・月・年をどうするかということも議論となったが、ここは火星側の主張が強く、結果的に火星は火星だけの暦を使うことになった。これが星暦の始まりである。したがって、星暦500年といえば西暦に換算すれば倍以上の期間となる。
「イアナ中尉、これまでの耐魔法物質に関する情報収集はどのような状況だ。」
「はい。組成式は公開されていませんが、それを塗布することで魔法の効果を65%程度遮断することができるようです。まだ実験段階だといわれていますが確認はできていません。」
「そうなの。65%という具体的な数値が出ている以上、まったくのデマとは考えにくいわね。」
「分隊長、その件について宇宙軍の見解は出ていないんですか。」
「何も言ってきていないわ。あいつら、私たちのことを消耗品としか見ていないからね。」
火星暫定政府マルスは、独立宣言前に対地球対策として秘密裏に軍用の宇宙船を建造し、軍隊の編成を行ってきた。50機の宇宙船完成と同時に独立宣言を行い、公式に軍を発足している。火星防衛隊アーレスは宇宙軍のみであり、兵器も宇宙船と迎撃用ロケットしか軍備はない。しかし、アーレスには独自の部隊が存在する。それが魔法戦隊、通称シャ・ノワールである。シャ・ノワールとは、フランス語で黒猫のことであり、そこから隊員をネコと呼ぶことも多い。この火星固有の魔法とは、古典的な呪文を唱える魔法ではなく、どちらかといえば超能力の方が近い。したがって系統だったものではなく、個人の資質でどのような能力が顕現するか分からない。しかも、火星生まれの女性に限って発現するため、シャ・ノワールは女性だけの部隊となっている。シャ.ノワールは火星防衛隊アーレス長官直轄の部隊であることから宇宙軍との軋轢も存在する。
火星市民の間では、星間戦争でそのような能力が有効なのかという議論も交わされているが、別に火の玉を宇宙船にぶつけるとかではない。例えば炎系の魔法ではミサイルを発火させるとか、ミサイルの発射口を氷で塞ぐなど色々な戦い方が存在する。問題となるのはその座標をどのように認識するのかということであり、そのために隊員たちは幼い頃から訓練をしている。
魔女としての素質があるかどうかは脳波のパターンで判別することができる。そのため、火星の女性たちは誕生日毎に脳波の検査が義務付けられている。地球時間でいえば2才おきとなり、魔女の発生率はおよそ1.2%。魔女と判断される脳波パターンは5種類。魔女のパターンが検出された者はパターンごとに訓練を受けることになる。5種類のパターンとは、精神干渉系・空間認識系・物質干渉系・電子制御系・その他である。
私の名前はノラ。ノラ・フォレスト火星年で8才になる。シャ・ノワール第一大隊第6分隊の副隊長を任されている。身長176cm、体重・非公開、栗色のミディアムヘアーで目はグリーン、部隊の階級は少佐になる。部隊の制服はオレンジの全身スーツで両肩からお腹とお尻に向かって白のラインが入っている。体のラインが強調されるスーツだが、私は平均的なスタイルだし、それほど気にならない。
火星の都市はすべて地下にある。時に時速400kmの砂嵐が発生する地上には何もない。大気の薄い火星では隕石の直撃は大きな問題となる。それらを考慮して地下都市が形成されたのだ。
シャ・ノワールは二つの大隊に各10の分隊があり、各15名の編成となっている。その他に養成機関があり、そこでは2才から5才までの訓練兵がいる。10万人規模の宇宙軍と比べると極端に貧弱な部隊といえる。
「今回の搭乗員を発表する。リーダーは私ノラが務める。メンバーはサーチャーとしてケイト大尉。」
「はい!」
ケイトは年齢8才、髪はシルバーのボブ身長168cmで体系はややスレンダー。サーチャーとは空間認識能力者のことで能力評価はA。明るく、皆から好かれるいい子で私との相性も抜群だ。
「フィジクスとしてナオミ少尉。」
「はい!」
ナオミ・ヘルナンデスが勢いよく返事をする。年齢は6才で、髪は水色のショート。身長170cmの標準的な体型で美形である。フィジクスとは物質関与系の能力者のことで能力評価もA。将来が期待されている。
「ハッカーにカイリ少尉。」
「はい!」
カイリ・チャン、6才。金髪のショートで内巻のワンカール。身長172cmスレンダーだが胸はでかい。ハッカーとは相手のシステムに潜り込んで操作する電子制御系の能力者で、能力評価はBだが同じハッカーの私が同行するので問題ない。
「最後にヒプノスのアリサ中尉。」
「はい……」
消えそうな声でアリサ・カエサルが返事をする。別に嫌なのではない。7才のアリサはこういう娘なのだ。黒髪のミディアムでストレート。分隊の中では一番小柄で身長155cm、胸が少し貧しいが精神干渉系のA評価を得ている。ヒプノスという言葉は眠りの神のことらしい。
「出発は3日後の14時。集合は空港の軍用ゲートだ。以上。」
火星の軍用空港は衛星のフォボスにある。直径22kmのフォボスは、完全に軍事衛星化されており一般人の立ち入りは規制されている。したがって、宇宙船に乗り込むためには、一旦フォボスに上る必要があり、日に二回シャトル便が出ている。
【あとがき】
多分、初の宇宙を舞台とした戦隊ものです。大まかなストーリーは決まっているのですが、どう転がるか予測できません。週一投稿でのんびりやっていこうと思います。
星間戦争とは星暦450年の火星による独立宣言に端を発しており、これを認めようとしない地球連邦議会と火星独立暫定政府マルスによる50年以上続く戦争である。地球側の主張は、火星の豊富な資源は地球の投資により得られたものであり、一方的な独立など承認できるものではないとし、火星側の言い分はこれ以上地球の搾取を許さないという主張である。この戦争がここまで長引いてしまったのは、地球と火星の会合周期が2年2カ月であり、その最接近する時期を逃してしまうと余計な時間と費用がかさむからで、50年以上とはいっても実質50回未満の戦闘機会しかなかったことにある。当然、戦闘部隊を派遣するのは地球側であり、火星側は待ち受けていれば良い。
地球から出発した船団は、最接近した時を過ぎると帰還するリスクが増大していく。燃料・食料・砲弾などギリギリの量しか積載していないため、おのずと交戦期間は限定されるのだ。
「カイリ少尉、次の最接近日は何日後になる。」
「はい、火星日で113日後になります。」
火星の公転周期は687日で、自転周期は24時間37分となっている。ちなみに、地球の自転周期も厳密にいえば23時間56分4秒であるのだが、太陽を正面に見るためには少し余分に回転する必要があり、その余分な回転を含めて24時間となっている。火星でもこれにあわせて火星時間を制定しようという動きもあったが、地球側の混乱を避けるため時間は地球時間を踏襲している。これに対し、日・月・年をどうするかということも議論となったが、ここは火星側の主張が強く、結果的に火星は火星だけの暦を使うことになった。これが星暦の始まりである。したがって、星暦500年といえば西暦に換算すれば倍以上の期間となる。
「イアナ中尉、これまでの耐魔法物質に関する情報収集はどのような状況だ。」
「はい。組成式は公開されていませんが、それを塗布することで魔法の効果を65%程度遮断することができるようです。まだ実験段階だといわれていますが確認はできていません。」
「そうなの。65%という具体的な数値が出ている以上、まったくのデマとは考えにくいわね。」
「分隊長、その件について宇宙軍の見解は出ていないんですか。」
「何も言ってきていないわ。あいつら、私たちのことを消耗品としか見ていないからね。」
火星暫定政府マルスは、独立宣言前に対地球対策として秘密裏に軍用の宇宙船を建造し、軍隊の編成を行ってきた。50機の宇宙船完成と同時に独立宣言を行い、公式に軍を発足している。火星防衛隊アーレスは宇宙軍のみであり、兵器も宇宙船と迎撃用ロケットしか軍備はない。しかし、アーレスには独自の部隊が存在する。それが魔法戦隊、通称シャ・ノワールである。シャ・ノワールとは、フランス語で黒猫のことであり、そこから隊員をネコと呼ぶことも多い。この火星固有の魔法とは、古典的な呪文を唱える魔法ではなく、どちらかといえば超能力の方が近い。したがって系統だったものではなく、個人の資質でどのような能力が顕現するか分からない。しかも、火星生まれの女性に限って発現するため、シャ・ノワールは女性だけの部隊となっている。シャ.ノワールは火星防衛隊アーレス長官直轄の部隊であることから宇宙軍との軋轢も存在する。
火星市民の間では、星間戦争でそのような能力が有効なのかという議論も交わされているが、別に火の玉を宇宙船にぶつけるとかではない。例えば炎系の魔法ではミサイルを発火させるとか、ミサイルの発射口を氷で塞ぐなど色々な戦い方が存在する。問題となるのはその座標をどのように認識するのかということであり、そのために隊員たちは幼い頃から訓練をしている。
魔女としての素質があるかどうかは脳波のパターンで判別することができる。そのため、火星の女性たちは誕生日毎に脳波の検査が義務付けられている。地球時間でいえば2才おきとなり、魔女の発生率はおよそ1.2%。魔女と判断される脳波パターンは5種類。魔女のパターンが検出された者はパターンごとに訓練を受けることになる。5種類のパターンとは、精神干渉系・空間認識系・物質干渉系・電子制御系・その他である。
私の名前はノラ。ノラ・フォレスト火星年で8才になる。シャ・ノワール第一大隊第6分隊の副隊長を任されている。身長176cm、体重・非公開、栗色のミディアムヘアーで目はグリーン、部隊の階級は少佐になる。部隊の制服はオレンジの全身スーツで両肩からお腹とお尻に向かって白のラインが入っている。体のラインが強調されるスーツだが、私は平均的なスタイルだし、それほど気にならない。
火星の都市はすべて地下にある。時に時速400kmの砂嵐が発生する地上には何もない。大気の薄い火星では隕石の直撃は大きな問題となる。それらを考慮して地下都市が形成されたのだ。
シャ・ノワールは二つの大隊に各10の分隊があり、各15名の編成となっている。その他に養成機関があり、そこでは2才から5才までの訓練兵がいる。10万人規模の宇宙軍と比べると極端に貧弱な部隊といえる。
「今回の搭乗員を発表する。リーダーは私ノラが務める。メンバーはサーチャーとしてケイト大尉。」
「はい!」
ケイトは年齢8才、髪はシルバーのボブ身長168cmで体系はややスレンダー。サーチャーとは空間認識能力者のことで能力評価はA。明るく、皆から好かれるいい子で私との相性も抜群だ。
「フィジクスとしてナオミ少尉。」
「はい!」
ナオミ・ヘルナンデスが勢いよく返事をする。年齢は6才で、髪は水色のショート。身長170cmの標準的な体型で美形である。フィジクスとは物質関与系の能力者のことで能力評価もA。将来が期待されている。
「ハッカーにカイリ少尉。」
「はい!」
カイリ・チャン、6才。金髪のショートで内巻のワンカール。身長172cmスレンダーだが胸はでかい。ハッカーとは相手のシステムに潜り込んで操作する電子制御系の能力者で、能力評価はBだが同じハッカーの私が同行するので問題ない。
「最後にヒプノスのアリサ中尉。」
「はい……」
消えそうな声でアリサ・カエサルが返事をする。別に嫌なのではない。7才のアリサはこういう娘なのだ。黒髪のミディアムでストレート。分隊の中では一番小柄で身長155cm、胸が少し貧しいが精神干渉系のA評価を得ている。ヒプノスという言葉は眠りの神のことらしい。
「出発は3日後の14時。集合は空港の軍用ゲートだ。以上。」
火星の軍用空港は衛星のフォボスにある。直径22kmのフォボスは、完全に軍事衛星化されており一般人の立ち入りは規制されている。したがって、宇宙船に乗り込むためには、一旦フォボスに上る必要があり、日に二回シャトル便が出ている。
【あとがき】
多分、初の宇宙を舞台とした戦隊ものです。大まかなストーリーは決まっているのですが、どう転がるか予測できません。週一投稿でのんびりやっていこうと思います。
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